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第一章

門出③

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『皆さんおはようございます。今日から新学期が始まります——』

大抵長い校長の話は、源校長には当てはまらず、非常にコンパクトに必要な内容をまとめていた。
これも要領のいい源校長だから出来ることかもしれないな。

『次は、着任の挨拶です。新しくこの学校へやって来た先生達をご紹介します。どうぞ壇上へ』

僕たち三人は壇上に登り、一列に並んだ。

全校生徒に目をやる。
新入生から最上級生まで。乱れなく男女二列に並んだ生徒達。

視線は話す人をしっかり見据え、時折り頷いている。

ちらっと横見する生徒は新入生のみで、おそらく、教師の評価を気にしているのだろう。

私立先帝高校は、全国でも有数の進学校だ。
文武両道を校訓にしているこの学校では、在籍する生徒達の殆どが、全国模試では常に上位の成績を収めており、数ある部活動でも全国に名を轟かせている。
この学校に入れば、将来はエリート街道を約束されると評判になっている。

皆が少しでも優秀な成績で卒業する事を目標にしており、ライバル意識が高い。
成績下位の生徒には補習が義務付けられており、その成績が続くと落第もあり得る。

下位付近にいる生徒達のグループは一見仲がいいように見えるが、実は互いの腹を探っていたりする。この学校で友人を作りたければ、相当の余裕がなければいけない。
と、ここまでは僕がここに在籍していた時の話だ。
今は変わっている事を少し期待していたのだが‥

左端にいる教師達を見る。
その中の一人。
眼鏡で少し頭皮が薄い男性教諭が目を光らせ時折りペンを走らせている。
他にも同じような教師が四方に散らばっており、二階の観覧席までいる。

全く変わっていない。
四方から態度が悪い生徒をチェックするのだ。
実際はそんな事で成績を落としたりはしないらしいが。
いつでも見ているぞ、というプレッシャーを感じさせるには効果的だった。

全く。
着任早々溜息が出ることばかりだ。

クスクス、と笑いが聞こえた所でハッとする。「あ、あの」と木本先生がマイクを持って困り果てていた。

すみません、と謝罪し僕はマイクを受け取り挨拶をした。

「こんにちわ。今日からこちらでお世話になります。大門入人だいもんいりひとと言います。教科は数学を担当します」

生徒全員の顔を見て話をする。

ゆっくり、はっきり、端的に。

父の言葉が蘇る。父は今でも確かに僕の中にいる。
ズキンと頭が痛んだ。

体育館の空気が少し変わるのを感じて再び笑顔を意識する。

「‥この名誉ある先帝高校に入学した皆さんは、全員が優秀で素晴らしい人材なのだと思います。かくいう僕も以前はこの学校の生徒でした。もう14年も前のことになりますが」

その言葉に生徒達が少しざわついた。

「自分で言うのも何ですが、優秀な生徒だったと思います。ですが影で少しのやんちゃもしてました。多分、当時の先生達が聞いたら驚くでしょうが。そんな僕から君たちへ一言だけ」

この言葉だけは、伝えたい。

「一度きりの高校生活。楽しんでください。少しのやんちゃもいいと思います。失敗から学ぶことも大いにある。もし怒られたら僕も一緒に怒られます。よろしく」

挨拶を終えると統一した拍手が体育館に響く。少し反応に困る生徒が大半でクスクスと笑う生徒が少々。
先程の木本先生の時の馬鹿にしたような感じではない。
教師陣、中でも校長は苦笑していたが。

一つ、刺すような冷たい視線を感じる。

その方向にいたのは、生徒会長の一ノ瀬。彼女は不信感と嫌悪感を隠さずに僕を見ていた。
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