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7話
しおりを挟む「どう?この服似合ってる?」
「うんうん!すごくかわいいよモモカちゃん!」
試着室の前で、ミコトは胸の前で手を組んできゃあと声をあげる。
「やっぱりモモカちゃんには可愛らしい服が似合うね!」
「でもこの服少し寒すぎないかしら」
「そうだね。だったらこの薄手のカーディガンを……」
買い物カゴの中にどんどん服が詰め込まれていく。お金の心配はないのだけど、こんなに持っていても着ることはないかも……
「それにしてもモモカちゃんの方からお買い物誘ってくるなんて珍しい。それも服を見てほしいだなんて」
「うん。ちょっとお出かけしようと思ってるの」
「お出かけ?それってまさか」
ミコトの目がきらりと光ったので私はすぐさま訂正した。
「家族で美術館に行くの。ああいう場所ってカジュアルすぎる服は似合わないから何を着ればいいか悩んでたのよ」
「そうなんだ。だったらこの服はやめた方がいいかな」
私の要望に合わせてミコトはすぐにコーディネートを考えてくれる。ハンガーにかけられた服を私にあてがうミコトはとても楽しそう。
あまり表情には出ないけど、私もミコトと一緒に遊ぶのは楽しかった。ここに来るまでずっと私は1人で生きていたから。
私は世間知らずだと思う。だけどミコトはそんな私とも仲よくしてくれる。他の子みたいに遠巻きにするんじゃなくて、本当に「お友達」みたいに接してくれるの。
……時々、復讐なんてしなくてもいいんじゃないかと考えることもある。大好きな友達と一緒に遊んで、眠たい目をこすりながら学校に通って、退屈な授業を受けて。
そんな穏やかな生活さえあれば他に望むものなんてないんじゃないかって。そんなふうに思うこともあるの。
「モモカちゃんのご両親ってどんな人?」
「とても優しい人よ」
「そんな感じする。モモカちゃんって『大切に育てられてきた人』って感じがするもん」
嘘よ。私には親なんていない。使い魔に家族なんていない。いるのは主人となる人間だけよ。
「モモカちゃんのお家に今度行ってみたいな」
「ふふ。来たって面白いものは何もないよ」
「なくてもいいんだよ。友達の家に行くってなんだか特別な感じがするでしょ」
「じゃあ、私もミコトのお家で遊んでみたいな」
「えー、あたしんち?別に来てもいいけどモモカちゃんにはつまらない場所だと思うよ」
みんな私のことをお金持ちのご令嬢だと思ってるみたい。だけど私にお家なんてないの。そんなこと言っても信じてくれないでしょうけど。
ミコトちゃんの選んでくれた服を着て待ち合わせ場所に行く。
待ち合わせ時間より少し早く来てしまったと思ってけれど、既に染谷くんは来ていた。
「染谷くん」
本を読んでいた染谷くんが顔を上げる。
「ご機嫌よう。お待たせしちゃったかしら」
「俺も今きたところだ」
黄金色の髪と青い目を持つ染谷くんはとてもよく目立っている。私がここに来るまでにも沢山の女の子が彼の噂をしていた。
だけど私だって負けない。私もこの日のために服装に似合う髪型を必死に練習したんだからね。
ゆるく結んだ三つ編みを前に流した髪型。ネイルの施された指先で染谷くんの腕に手を絡ませると、染谷くんは大袈裟に体を震わせる。
ふふ、かわいい。
「なぜ俺に触る」
「いいじゃない。せっかくのデートなんだから楽しみましょう?」
「デートじゃない!俺は本を買いにきただけだ!」
「そんなこと言って、染谷くんだってバッチリ決めてるじゃない」
「俺は普段からこういう服を着ているんだ」
それにしては着慣れていないみたいだけれど。服に着られるとは、こういうことを言うのね。
私がクスクス笑うと染谷くんは顔を赤くさせて視線を逸らす。
「それにこれはユキノが着れと言っただけだ」
姫咲くんが?なんだか意外。彼って性格的にも見た目的にもオシャレには疎いのかと思ってた。
でも人型の使い魔だから、それなりに見た目には気をつかっているのかも。
「さっそく行きましょ、染谷くん」
「だから腕を組むなって」
私は目に涙を浮かべた。メイクが剥がれない程度に。
「そんな目で見るな!俺が悪いことをしたみたいじゃないか」
周りの男の子達の視線が突き刺さる。勝負は私の勝ちね、染谷くん。
本屋に到着した。入り口に1番近いところにあるのが新刊や人気本の平積みコーナー。それから参考書や子供向けの本などざっくりと分類された棚を進んでいく。
「どこかしら」
女性向けの小説コーナーには所狭しと本が並べられている。染谷くんは私よりも興味津々と棚を見回している。
「あれ、もう新刊出てたのか」「この作者の名前はどこかで見覚えが」とぶつぶつ呟きながら棚に手を伸ばそうとしたところで、人が通りかかった。染谷くんは恥ずかしそうに伸ばした手を引っ込める。
咳払いをする染谷くん。
「俺べつのコーナーにも行っていいか?」
「ダメ、あなたも探すのよ。私を手伝ってちょうだい」
2人で本を探す。お目当ての作者の名前を見つけた私はサッと手を伸ばした。同時に染谷くんも手を伸ばし、私達の指が軽く触れ合う。
「っ……わ、悪い」
「ううん。気にしないで」
顔を赤らめ恥じらう私。
でもこれは演技なの。本当は私数日前にこの店をリサーチしてたから本の場所は知ってた。タイミングを合わせてわざと指先が当たるように仕向けたのよ。
染谷くんったら顔を真っ赤にさせちゃって。可愛いんだから。
私はさっと本を手に取ってカゴに入れた。染谷くんに小声で耳打ちする。
「他にも何か欲しい本があったら教えてちょうだい。まだ時間はたっぷりあるんだから、あなたの好きなようにしていいのよ」
「……好きなように」
「うん。私が見張ってるから、あなたは何も気にせずに好きな本を取ったらいいの」
私がそうささやくと、ためらいがちに伸ばされた手が、本を取った。
1冊、2冊。タイトルとあらすじを真剣な表情で見つめて、買い物カゴに入れる。
その日は10冊ほどの本を購入した。
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