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4話
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染谷くんの使い魔として働いていた頃、私は小鳥の姿をしていた。
もちろん喋ることもできないし、できることと言えば小さな羽を羽ばたかせて空を飛ぶくらい。そんな私に対して、染谷くんはスパルタ訓練という名の酷い意地悪を私にしてきたの。
できもしない魔法を無理やり習得させようとしてきたり、私より何倍もの大きさがある野良の動物と戦わせようとしたり。
ほんとに酷い人ね、あなたって。
だから私はあなたに復讐をしなくちゃいけないの。
散々「弱虫」と罵ってきたあなたを見返して、私を手放したことを後悔させてやるんだから。
4時間目の授業が終わった。
「モモカちゃん、お昼ご飯食べよう」
「うん」
「わーい!あたしモモカちゃんのお弁当が大好きなんだ」
「もー。私はミコトにあげるためにお弁当を使ってるのじゃないのよ」
「でも、あたしに譲ってくれるんでしょ?」
目をキラキラと輝かせて言うから、私はついミコトを甘やかしてしまう。
ミコトも、私に接するみたいに他の人にも接すればもっと男の子にモテると思うのに。ちょっと男の子にツンツンしちゃうみたい。
たとえば、あんなふうに。
「都築モモカ!」
勢いよくドアを開けて、染谷くんとユキノが教室に突入する。
染谷くんは私に近づくと、私の手を強く握りしめる。
「な、何なの。急に教室に入ってきたと思えば女の子の手を掴むなんて、あなたって乱暴な人ね」
私は目をうるうると潤ませる。私の得意技、泣き落としよ。私が泣けばたとえどんな男だって言うことを聞いちゃうんだから。
「……俺にその泣き真似がきくと思ったか?」
とは言え、何度も乱用すると効き目が薄くなるみたい。流石にやりすぎたか。
「あんたモモカちゃんになんの用なのよ」
「お前には関係ない」
「関係あります!だってモモカちゃんはあたしのお嫁さんなんだから。モモカちゃんを虐めるようなことがあったら許さないからね!」
私、ミコトちゃんのお嫁さんになったつもりはないんだけどなあ。
それにお嫁さんっていうよりは娘の結婚を許さないお父さんみたいね。
「染谷くん。私に何か用があるの?」
染谷くんは胡乱げな表情で私を見つめ、鼻を鳴らす。
「……都築。お前に決闘を申し込む」
教室中が騒ついた。なんたって彼は学校で最高の魔法能力者である「王子」の称号を持つ人だから。
それにミコトに聞いた話だけど、染谷くんは学祭の時以外は、いかなる決闘も拒否してきたらしい。
そんな染谷くんが私に自ら勝負を申し込んでくるなんて……どうやら私のことをちょっとは認めてくれたみたいね。
ここであなたのことを打ち負かしてやってもいいのだけど、残念ながら私には問題がある。
本当は私自身が使い魔だから、戦いに出すような使い魔なんていないの。
「決闘だって?」
「嘘でしょ、あの染谷クリスが決闘を申し込むなんて」
「でも都築さんって今まで魔法の授業を全て休んでたじゃない」
「魔力を使いすぎるとすぐに倒れちゃうんでしょ」
「クリスくんと戦って大丈夫なの?」
大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない。
染谷くんの隣でぼんやりとしているユキノくんと目が合う。
「都築サン。ご主人様が決闘を申し込んでイル。あなたの使い魔をだしてくだサイ」
だから、使い魔なんていないのよ。
モモカちゃん、またまたピンチって感じ……!
「待ちなよ。勝手に話を進めないで」
私と染谷くんの間にミコトが割って入る。
「話を聞いてれば決闘決闘って。あんた、今まで散々人から申し込まれた決闘は断ってたのに、自分からは一方的に申し込むなんて、勝手がすぎるんじゃない?」
「俺は自分の相手にならない奴と戦いたくないだけだ。使い魔を無闇に戦わせたところで互いに得はしないからな」
「あのねぇ……」
「とにかく俺は都築に話しかけているんだ。都築、お前のランクを見せてもらうぞ」
染谷くんが私の制服に手を伸ばし、胸元のポケットから生徒手帳を抜きとる。
「あんた、それはセクハラよ!最低最悪!変態野郎!」
「ユキノ。そこの女をちょっと黙らせろ」
「……ごめんナサイ、蔵満サン。ご主人様の命令だかラ」
ユキノくんがミコトの口元に人差し指を当てると、唇の上にバッテン印が浮かぶ。ミコトは喋ることができない代わりに腕をブンブンと振り回して抗議している。
「お前の実力を見せてもらうぞ」
生徒手帳をペラペラとめくる染谷くん。不意にその手が止まり、目を大きく見開いた。
かなりびっくりしたんでしょうね。だって私の生徒手帳には魔力のランクが書かれる代わりに横棒が引かれているんだから。
私が使い魔として人間につかなかった理由はこれなの。あまりに頑張って修行をしすぎたせいで、私の魔力は測定不能になり、私を扱えるような人間は誰もいなくなってしまった。
ふふ、さすが私ね。頑張ったんだもん、修行。
「測定不能?どういうことだ……」
私は乙女のように顔を赤くさせて恥じらう。仕草をする。
「ここの学校に転入することは決まっていたのだけど、魔法の実力試験を受ける日に、体調を崩してしまって……それ以来、ずっと測定不能なの。恥ずかしいからあまり見せたくなかったのに……勝手に見るなんて酷い人ね……」
ミコトがこくこくと相槌を打ちながら私を抱きしめてくれる。持つべきものは優しい友達と、愛らしい美貌ね。なんて、ちょっとうぬぼれが過ぎたかもしれない。
「あまり魔力を使いすぎるとすぐに体調を崩してしまうの。だけど家柄のせいでこの学校に通わなくちゃいけなくて……お願い、魔法のことはあまり聞かないでくれるかしら?」
「……また近いうちに訪ねる」
染谷くんは納得がいかないような顔をして教室を去る。ユキノの結界魔法を剥がし、ミコトは怒った。
「何なのよあいつ、ほんとに最悪な奴!」
「……うん。本当に酷い人ね」
生徒手帳を取るためとは言え、体に触れられた時、心臓がドキドキと強くなった。
高い身長、低い声、男らしい手。
私の知っているクリスとは何もかもが違っていて、なんだか寂しくなった。
私はあなたのためにずっと努力を続けてきたの。暗く深い山の奥で誰とも会わずに、ひたすら自分の魔力を磨くことだけを考えて。
気がつけば、変身魔法を使えるようになっていた。私はあなたに取り入るためにか弱い小鳥から1人の少女に姿を変えた。少女の振る舞いを覚え、女の子らしさを磨いた。
そのせいかしら。心までも、女の子になっちゃったみたいね……
もちろん喋ることもできないし、できることと言えば小さな羽を羽ばたかせて空を飛ぶくらい。そんな私に対して、染谷くんはスパルタ訓練という名の酷い意地悪を私にしてきたの。
できもしない魔法を無理やり習得させようとしてきたり、私より何倍もの大きさがある野良の動物と戦わせようとしたり。
ほんとに酷い人ね、あなたって。
だから私はあなたに復讐をしなくちゃいけないの。
散々「弱虫」と罵ってきたあなたを見返して、私を手放したことを後悔させてやるんだから。
4時間目の授業が終わった。
「モモカちゃん、お昼ご飯食べよう」
「うん」
「わーい!あたしモモカちゃんのお弁当が大好きなんだ」
「もー。私はミコトにあげるためにお弁当を使ってるのじゃないのよ」
「でも、あたしに譲ってくれるんでしょ?」
目をキラキラと輝かせて言うから、私はついミコトを甘やかしてしまう。
ミコトも、私に接するみたいに他の人にも接すればもっと男の子にモテると思うのに。ちょっと男の子にツンツンしちゃうみたい。
たとえば、あんなふうに。
「都築モモカ!」
勢いよくドアを開けて、染谷くんとユキノが教室に突入する。
染谷くんは私に近づくと、私の手を強く握りしめる。
「な、何なの。急に教室に入ってきたと思えば女の子の手を掴むなんて、あなたって乱暴な人ね」
私は目をうるうると潤ませる。私の得意技、泣き落としよ。私が泣けばたとえどんな男だって言うことを聞いちゃうんだから。
「……俺にその泣き真似がきくと思ったか?」
とは言え、何度も乱用すると効き目が薄くなるみたい。流石にやりすぎたか。
「あんたモモカちゃんになんの用なのよ」
「お前には関係ない」
「関係あります!だってモモカちゃんはあたしのお嫁さんなんだから。モモカちゃんを虐めるようなことがあったら許さないからね!」
私、ミコトちゃんのお嫁さんになったつもりはないんだけどなあ。
それにお嫁さんっていうよりは娘の結婚を許さないお父さんみたいね。
「染谷くん。私に何か用があるの?」
染谷くんは胡乱げな表情で私を見つめ、鼻を鳴らす。
「……都築。お前に決闘を申し込む」
教室中が騒ついた。なんたって彼は学校で最高の魔法能力者である「王子」の称号を持つ人だから。
それにミコトに聞いた話だけど、染谷くんは学祭の時以外は、いかなる決闘も拒否してきたらしい。
そんな染谷くんが私に自ら勝負を申し込んでくるなんて……どうやら私のことをちょっとは認めてくれたみたいね。
ここであなたのことを打ち負かしてやってもいいのだけど、残念ながら私には問題がある。
本当は私自身が使い魔だから、戦いに出すような使い魔なんていないの。
「決闘だって?」
「嘘でしょ、あの染谷クリスが決闘を申し込むなんて」
「でも都築さんって今まで魔法の授業を全て休んでたじゃない」
「魔力を使いすぎるとすぐに倒れちゃうんでしょ」
「クリスくんと戦って大丈夫なの?」
大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない。
染谷くんの隣でぼんやりとしているユキノくんと目が合う。
「都築サン。ご主人様が決闘を申し込んでイル。あなたの使い魔をだしてくだサイ」
だから、使い魔なんていないのよ。
モモカちゃん、またまたピンチって感じ……!
「待ちなよ。勝手に話を進めないで」
私と染谷くんの間にミコトが割って入る。
「話を聞いてれば決闘決闘って。あんた、今まで散々人から申し込まれた決闘は断ってたのに、自分からは一方的に申し込むなんて、勝手がすぎるんじゃない?」
「俺は自分の相手にならない奴と戦いたくないだけだ。使い魔を無闇に戦わせたところで互いに得はしないからな」
「あのねぇ……」
「とにかく俺は都築に話しかけているんだ。都築、お前のランクを見せてもらうぞ」
染谷くんが私の制服に手を伸ばし、胸元のポケットから生徒手帳を抜きとる。
「あんた、それはセクハラよ!最低最悪!変態野郎!」
「ユキノ。そこの女をちょっと黙らせろ」
「……ごめんナサイ、蔵満サン。ご主人様の命令だかラ」
ユキノくんがミコトの口元に人差し指を当てると、唇の上にバッテン印が浮かぶ。ミコトは喋ることができない代わりに腕をブンブンと振り回して抗議している。
「お前の実力を見せてもらうぞ」
生徒手帳をペラペラとめくる染谷くん。不意にその手が止まり、目を大きく見開いた。
かなりびっくりしたんでしょうね。だって私の生徒手帳には魔力のランクが書かれる代わりに横棒が引かれているんだから。
私が使い魔として人間につかなかった理由はこれなの。あまりに頑張って修行をしすぎたせいで、私の魔力は測定不能になり、私を扱えるような人間は誰もいなくなってしまった。
ふふ、さすが私ね。頑張ったんだもん、修行。
「測定不能?どういうことだ……」
私は乙女のように顔を赤くさせて恥じらう。仕草をする。
「ここの学校に転入することは決まっていたのだけど、魔法の実力試験を受ける日に、体調を崩してしまって……それ以来、ずっと測定不能なの。恥ずかしいからあまり見せたくなかったのに……勝手に見るなんて酷い人ね……」
ミコトがこくこくと相槌を打ちながら私を抱きしめてくれる。持つべきものは優しい友達と、愛らしい美貌ね。なんて、ちょっとうぬぼれが過ぎたかもしれない。
「あまり魔力を使いすぎるとすぐに体調を崩してしまうの。だけど家柄のせいでこの学校に通わなくちゃいけなくて……お願い、魔法のことはあまり聞かないでくれるかしら?」
「……また近いうちに訪ねる」
染谷くんは納得がいかないような顔をして教室を去る。ユキノの結界魔法を剥がし、ミコトは怒った。
「何なのよあいつ、ほんとに最悪な奴!」
「……うん。本当に酷い人ね」
生徒手帳を取るためとは言え、体に触れられた時、心臓がドキドキと強くなった。
高い身長、低い声、男らしい手。
私の知っているクリスとは何もかもが違っていて、なんだか寂しくなった。
私はあなたのためにずっと努力を続けてきたの。暗く深い山の奥で誰とも会わずに、ひたすら自分の魔力を磨くことだけを考えて。
気がつけば、変身魔法を使えるようになっていた。私はあなたに取り入るためにか弱い小鳥から1人の少女に姿を変えた。少女の振る舞いを覚え、女の子らしさを磨いた。
そのせいかしら。心までも、女の子になっちゃったみたいね……
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