乙女の復讐は恋だけにあらず!

姫乃胡桃

文字の大きさ
上 下
3 / 16

3話

しおりを挟む
「モモカちゃん、あんた、結城に気をつけなさいよ」

 学校にやってくるなり、ミコトが私に抱きついてきた。もう慣れてきた。

「結城くんがどうかしたの?」

 私が首をかしげると、ミコトが顔を赤くさせながら、悶えるように私のほっぺたをつまむ。

「あたしには分かる。あいつ、絶対モモカちゃんのことを狙ってる」
「まさか、そんなわけないじゃない」
「そんなわけあるのよ! モモカちゃんは気がつかないの? あいつの舐めるような視線に」
「舐めるようなって。ふふ、私は美味しくないよ」
「もぉ、そういうことじゃなくってぇ」

 ミコトったら、本当に優しい子なのね。そして純粋な子。
 私があの子の視線に気がついてないって本気で思ってる。だけど、あんなにジッと見つめられたらどんなに鈍感さんでも気がつくに決まってる。

「とにかく、これからはあたしのそばをはなれちゃダメだからね!」
「もう、ミコトは心配性ね」
「分かった!?」
「分かった分かった」

 結城くんはどうやら私が結界魔法を解いたことを今度こそ気がついたみたい。だけど、恩知らずな子ね。せっかく手助けしてあげたのに、私に敵意を抱いているみたい。

 気持ちは分かる。私みたいな「可愛らしい」女の子に助けてもらったのが、許せないんでしょ。プライドが許さないんでしょ。
 可愛らしくて、思わず誘惑しちゃいたくなるけど、残念ながら私の相手はあなたじゃないの。

 あなたは私の相手にはならないの。

 授業中、教科書がなくなることが増えた。

「ミコト、教科書貸してくれる?」
「いいよ。ほら、机くっつけて」

 おうちに帰ろうとすると靴がなくなっていた。

「どうしよう、私の靴が……」
「モモカちゃん、よかったらオレの上履き使ってよ! 汚れたって構わないから」
「あ、ズルいぞお前! 都築。よければ魔法でお前を家まで送ってやるぞ」
「なぁにが都築(キリッ)だ。カッコつけやがって」

 体育の授業で、ボールが突然私の頭目掛けて飛んでくる。

「あ、靴紐が溶けちゃった」

 私がしゃがむと、ボールはどこかへ飛んでいった。

 ああ、見える。とても見える。悔しげな結城くんの顔が。
 Aランクなだけあってそれなりに魔法は使えるみたいだけど、度胸はないみたい。
 染谷くんにやったみたいに、堂々と決闘を申し込んでくれば、私だってそれなりの対応はするのに。


 そんなふうに、のらりくらりと彼のささやかな意地悪を避けていると、とうとう私を虐めるのはやめちゃったみたい。つまらない。

 だけど、彼の敵意はなくなったわけじゃない。彼の心に渦巻いている悪意は留まるところを知らず、結城くんにすら手に負えないものになっている。

 魔法の暴走は下手したら魔法学校を退学になる可能性もある。校則を破り、誰かを故意に傷つけた場合だ。

 せっかくAランクまでいったのに退学になるのは可哀想ね。もうちょっと相手をしてあげれば、程よくフラストレーションを発散できたかもしれない。

……仕方ないな。助けてあげないと。でも、ただで助けるのは私に特がないよね。

 だから、ただただタイミングを待つの。
 あの子が、私の思い通りに動くまで……


「ユキノ」
「ハイ」
「……実は、前に借りた本をもう読み終わってしまったんだ。今から借りにいってくれるか」
「承知しまシタ。ご主人様」

 ユキノくんが、とたとたと駆けていく。
 人通りの少ない道に残されたのは、校門に向かった歩く染谷くんと、ステルス機能で姿を隠した私と、それから染谷くんの後をつけている彼。

 彼は呪文を唱えて使い魔を出した。小さな可愛らしい双葉がぐんぐんと成長して、染谷くんの方へと猛スピードで向かう。

 染谷くんは気がついて振り返ったけれど、少し反応が遅かった。染谷くんの体は結城くんの使い魔にグルグル巻きにされる。

「っお前は!」
「ザマァないな、染谷クリス」
「どうして俺に近づけるんだ。お前はユキノの結界魔法を受けていたはず……」
「残念だけど、解いたんだよ。自力でね」

 自力、ねぇ。どこまでもプライドが高いのね、あなたって。

「あいつの魔法はそこらの魔法使いじゃ解けないはずだ」
「だから!僕は強いんだよ!お前がバカにしてきた使い魔に拘束される気分はどうだ?」
「……最悪だ」
「だったら、もっと最悪な気分にしてやるよ」

 結城くんの使い魔はするすると茎を伸ばして、染谷くんの体を雁字がんじがらめにする。
 染谷くんは痛みに顔をしかめるが、それでも余裕そうな態度は崩そうとしない。
 ユキノが来るという自信から?

 いや、きっと……あれは、強気に出ることで恐怖を隠しているのね。

「人前で散々バカにしやがって!お前のせいで僕は学校中の笑いものだ!みんなが僕をバカにする!僕は強いのに!」

 染谷くんは結城くんの言葉を鼻で笑い飛ばす。

「強い人間が相手の不意をついて襲うような真似をするか。それこそ笑いものだ」
「……うるさい!」
「俺はお前のようなやつが嫌いなんだ。実力以上に自分を見せようとして虚勢を張って、何事も周りのせいにするお前のようなやつがいるから、魔法使いはクソばかりだと言われるんだ」

 染谷くんは結城くんを睨みつけ、笑みを絶やさない。

「弱くて何が悪い。自分の弱さを認めることの何が怖いんだ?」
「違う、僕は弱くない」
「だったら、もう一度決闘を申し込んでくればいい。本当に実力で結界を解いたのなら、それくらいできるだろ」
「……うるさいっ!」

 使い魔の威力が強くなる。危ない、このままじゃ染谷くんが怪我をしてしまう!

 私は姿を見せ、2人の間に割って入った。

「やめなさい!」

 吸収魔法を使い、結城くんの使い魔から魔力を吸収する。みるみるうちに茎が細くなり、染谷くんの体からはなれる。

「都築さん……どうしてここに」
「あなたの様子が最近おかしかったから、見ていたのよ。思った通りね。結城くん。使い魔が負傷している時を覗いて、自分の魔力を使い魔に与えるのは禁止されていたはずよ」

 私の魔法は『全てを元に戻す』。少し汚れた結城くんの魔力を浄化して、彼の体内に戻してあげる。
 結城くんはハッと我に返ると顔を青くさせ、走り去っていった。

「大丈夫、染谷くん?」

 染谷くんは呆然とした表情で私を見上げている。

「……お前」

 さぁ、どう?染谷くん。私ってば強いでしょ。あなたが手に負えなかった人をあっさりと追い払ってみせたんだから。

 そう思ったのに。

「お前、誰だ」

 予想外の言葉に思わず「え?」と素の反応をしてしまう。
 もしかしてあなた、私のこと覚えてなかったの!?

 私はうるうると瞳を潤ませた。演技じゃない。普通に傷つくんだけど。

「酷い……この間もあなたに会ったのに。私のことを覚えてなかったの?」
「お前みたいな強い女に見覚えはない」
「そ、そう……」

 喜んでいいのか悲しんだ方がいいのか、気分は複雑。

「私は都築つづきモモカ。今度こそ私のこと、覚えてくださると嬉しいんだけど。な趣味を持つお兄様?」
「乙女チック……」

 染谷くんの顔が真っ赤に染まる。

「お前、それをどこで!」
「さぁ、どこでかしら?」
「他のやつには絶対に言うなよ」
「言いません。こんな面白いこと、私だけの秘密にしておいた方が絶対に楽しいもの、ふふ」

 染谷くんは怒りと恥ずかしさに顔を真っ赤にさせて叫ぶ。

「ユキノ! 早く帰ってこい、ユキノ!」

 おかげでちょっとは胸が空くような思いだ。
 だけどこれはまだ序の口。

 私の方が上手うわてなんだってところを見せつけて、そのプライドをへし折ってやるんだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...