愛を知らない空っぽ屍霊術師は、泥の人形に泡沫の恋をする

天草こなつ

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2章 ロランと泥の人形

12話 倫理:ただ、なんでもない話を

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「そういや、飲みもんないな。そこに自販機あるし、買ってくるわ。……何がいい?」
「あったかいのやったら何でもイイです」
「ん。ちょっと待ってな」
 
「外でこっそり食べる」という田中君に付き合うため、近くの公園に場所を移した。
 ベンチに田中君を座らせ、自販機で飲み物を2つ買う。
 
「お待たせ~。ほいっ」
 
 買った飲み物を田中君に投げてよこす。
 モノを確認すると、田中君は戸惑うような表情で眼鏡を上げた。
 
「……おしるこ?」
「あれっ? 嫌い?」
「や、嫌いじゃないですけど……」
「うまいよな」
「おいしいですけど、ハンバーガーには合わんでしょ」
「なんでよ、イケるて」
「ええ……」
「ほんで、何食う? パイの他はな~、海老カツバーガーと~、あと、とろたまチーズバーガーがあるで~」
 
 言いながら紙袋からハンバーガーとパイを出して次々と並べる。実はもう1個あるのだが、これは内緒だ。
 
「あれ? ……そっちは?」
 
 田中君が袋の中に潜むもう1つのバーガーを指さしてきた。隠蔽工作は失敗だ――だがこれは譲れない。
 
「……あ~、見つかったかー。ゴメンやけど、これは先生が食うヤツな。期間限定の"ゆず胡椒ギョウザバーガー"やで」
「へえ……」
「アカンで!?」
「なんも言うてませんよ。……っていうか、ギョウザバーガーにおしるこて……」
「イケるって。知らんな~?」
「知りませんよ。おしるこ好きなだけでしょ」
「好きやで。昔ばあちゃんがよう作ってくれてんよな~」
「自分で作ったりとかするんスか」
「ハハッ! 作るわけないやんそんなん、めんどくさい」
「ええ……」
「ほんで、何食う? って、2回目やなこれ」
「……ほな、アップルパイで」
「オッケー。ほいっ」
「ありがとうございます」
「他のヤツは一旦直しとこかな~。また食べたなったら言ってな」
 
 言いながら紙袋にバーガーとパイを突っ込み、ゆず胡椒ギョウザバーガーの箱を取り出した。
 箱を開けると、餃子の香ばしい匂いのする湯気がもわりと立つ。
 
「うまそう~。ほな、食べよか。いただきま~す」
「いただきます」
 
 田中君がアップルパイを口に入れるのと同時に、自分もハンバーガーにかぶりつく。
 千切りレタスの上に焼きギョウザを3つ乗せ、ゆず胡椒を溶いたポン酢を振りかけてバンズで挟んだ悪魔的な一品だ。
 
「う~ん、めひゃめひゃうまい……ホフホフ」
「熱いんですか」
「あふい……おふぃるこふぃかない……」
「『おしるこしかない』……。……あっ! あっちに水飲めるやつありますよ?」
「ふぉっ!?」
 
 田中君の指さす方向に水飲み台があった。天の助けとばかりに、ホフホフ言いながらそこへ駆け寄って水を飲み、火傷しそうな口を冷やす。
 
「いや~、危なかった。一気にかぶりついたのがアカンかった、な……」
「………………っ」
「田中君……?」
 
 ベンチに戻ると、田中君が食べかけのアップルパイの箱を膝に置いて涙を流していた。
 隣に座って背中をさすってやると、田中君は眼鏡を外して嗚咽し始める。
 
「……どないした? 大丈夫?」
「すいません、……すいません……」
「謝らんでええよ」
「こんな風に人と話すの、久しぶりで、笑ったりとかも全然してなくて……」
「うん」
「ずっと誰かと、なんでもいいから話したいって、思って……」
「…………」
 
 それから、田中君が夏から今までにあったことを話してくれた。
 あの日彼が母親に「お前の言動のせいで誰もいなくなった」と言っていた通り、彼の調子がどんどん落ち込んでいったのは、ほとんどが母親の言動と行動によるものだった。
 聞くことしかできないことを詫びると田中君は少し笑って、「いいんです。それだけで十分です」と言ってくれた。
 
 その後、田中君がアップルパイを、倫理がハンバーガーを食べきったところで話を切り上げて解散した。
 
「今日はホンマ、ありがとうございました。いっぱいおごってもろて」
「気にせんでええよ。田中君……元気でな。オレはその……田中君がいっぱい頑張ってたこと、ちゃんと知ってるから」
 
 そう言うと田中君は顔をくしゃくしゃにして笑って、「ありがとうございました」と言って頭をガバッと下げた。
 
 
 倫理ともみちが田中君の顔を見たのはそれが最後だった。
 結局連絡先も交換しないままだった。
 今彼はどうしているのだろう? 元気でいるだろうか?
 行きたい高校にちゃんと行けただろうか、親との関係は修復できただろうか。
 
 ――あれから、どれくらいの月日が流れただろうか……。
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