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8章 不穏の足音
18話 帰ろう
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「ルカ姉ちゃん! 大丈夫?」
「フランツ……!」
司教ロゴスが立ち去った後。
フランツが笑顔で人差し指と中指を立てるポーズをしてきた。ピースサインというらしい。
「ねぇ、ねぇ、ルカ姉ちゃん。見てくれた? おれ、魔法使えちゃった! すごい!?」
「どうして……」
「ん?」
「どうして、あんなことをしたの!!」
「……姉ちゃん」
また涙が出てくる。
話が全く通じない司教ロゴスの出現、連れ去られそうになった。
そこへフランツがやってきて、ロゴスに魔法をぶつけようとした。結果的にロゴスは何もしなかったけれど、殺されると思った。
「あの人は、すごく魔力が高くて、紋章があって、強い! フランツは、弱い! あんなことをして……殺されるところだった!!」
わたしが大声を出すとフランツの目が潤み、眉毛が垂れる。
「……でも、ルカ姉ちゃんが連れて行かれるって思ったんだ。守らなきゃって。そう思ったら魔法が出たんだよ」
「……わたしは、フランツに守られるほど弱くない」
「でも、魔法使えないんでしょ。じゃあ今おれより弱いよ?」
「……」
「ルカ姉ちゃん、帰ろうよ。みんな姉ちゃんのこと探してたんだよ」
「わたし……嫌」
「あの銀髪の女の人はもういないよ。大丈夫だよ」
「あの人に……カイルさんに、時計をぶつけた。きっと怒ってる」
「カイルさん怒ってないよ。ケガ治ってるし、大丈夫だよ」
「お花……」
「花畑は……虫はちゃんと片付けたよ。枯れた花は抜いて片付けちゃったけど……でもまた植えようよ」
「植えてもそれは……もうあの子達じゃない」
「そうだけどさ……はい、これ」
「これ……」
フランツが手渡してきたのは、わたしがずっと書いていた花の絵日記。
「お花は枯れちゃったけどさ、思い出は残るよ。この絵の中だけど、生きてるよ」
「……っ」
涙が止められない。今の感情を説明するのは、わたしには難しい。
「いきなり枯らされちゃったのは悲しいけどさ……また、新しい思い出作ってこうよ」
「新しい思い出……」
「……おれさ、もうあと2週間くらいしたら、いなくなるんだぁ」
「え……?」
「あの女の人を捕まえに来た聖銀騎士様がね、おれの父上のことを知ってたんだ。……で、おれの話を聞いて、それなら自分の屋敷に来ないかって。後見人になってくださるんだ」
「……お別れなの? ジャミルと同じ」
「うん。でも、侯爵様のお屋敷に行くから……ジャミルとちがってもう会えないかも」
「会えない……」
「だからさ、ちょっとでもここのみんなとのいい思い出が欲しいんだぁ」
「……フランツ」
「ほら姉ちゃん、もう帰ろ? おなか空いてない?」
「……おなか……空いた」
「じゃあ、砦に帰ろ。……歩ける? おれがおんぶしてあげようか」
「歩ける。……フランツ、小さいのにおんぶは無理」
「そんなことないよぉ、おれ、ここに来たばっかの時よりも身長伸びたんだぜ。あと何ヶ月かしたら姉ちゃん追い越すよ!」
「わたし……わたしもまだ、成長株」
「え~~~」
「レディだからエスコートしてあげる」と手を差し出すフランツの手を取り、わたしは彼と一緒に砦に帰った。
彼の手は温かく、そんなに小さくなかった。
◇
「ルカ! ルカぁっ……無事だったのね! うう、よかったよぉ……」
砦に帰ると、レイチェルがわたしに抱きついてきた。
……温かい。あの司教とは違う。
見たことのない服。……学校という所の服?
「レイチェル……学校じゃ、ない?」
「学校帰りにいつも寄ってくれてたんだ。……君が帰ってきてるか心配して」
少し後ろの方でカイルさんがそう言って笑う。フランツの言う通り、腫れていた顔は元に戻っていた。
「……時計ぶつけた、ごめんなさい」
「いいよ。俺も叩いたし……後からもっと痛い思いしたしね」
「……?」
彼がそう言うと、みんな何か不思議な顔で笑っている。
「あたしがバッチリ治したし大丈夫よ。ねえルカ、ずっとどこに行ってたの?」
「街、歩いてた」
「えー、5日間も? どこで寝てたの?」
「森」
「も、森……危ないよ、よく無事だったね……」
「……光の塾の、司教に会った。戻って来なさいって」
「え!?」
わたしがそう言うと、レイチェルにベルにカイルさん、3人共とても驚いた顔をしている。
「魔法も戻してあげる、感情という穢れを全部洗い流して、赦してあげるって。それで、」
「ル、ルカ……戻っちゃいやだよ……」
そう言って、レイチェルがポタポタと涙を流す。
「あ……」
「光の塾に戻って、嫌なこと全部忘れて、感情も全部洗い流すなんてそんなの、そんなの……」
「ん、わたし、だから」
「確かに急に辛くて悲しい事があって、ショックだったかもしれないけど……」
「あ……」
――レイチェルがどんどん言葉を繰り出すから、どこで言葉を挟めばいいのか分からない。
「でもでも、嬉しいことや楽しいこともないことになっちゃうんでしょ? それって神様が与えたものじゃなかったでしょ……ルカが、自分で体験したことでしょ……」
「!」
「お願いだよ……、ルカがせっかく見つけたルカを、捨ててしまわないでよ……」
「レイチェル……」
わたしが見つけた、わたし……。
「わたし……わたし、」
「ルカ、行かないでよぉ……ううう」
「……わたし、戻らないって言った」
「えっ……ほんと!?」
「ここにいたいから。みんなといたいから。思い出を作りたい……ここが、わたしの場所」
「ルカ、ルカ……! う、ううううう~~……!」
「泣かないで……」
「うううぅ、ごめん……変な怖い女の人は来るし、フランツはもうちょっとでお別れだし、このうえルカもいなくなったらって、もうぐちゃぐちゃで、……ごめんねええぇ……」
「あららら、レイチェル……」
「はは……俺達の兄弟喧嘩の時みたいになっちゃった」
レイチェルはその後も涙をボロボロ流しながら泣き続けた。
ベルがレイチェルの背中をさする。
レイチェルは泣いているのに、他のみんなは笑っている。
お花が枯れてわたしが泣いていた時とは違うみたい……よく分からない。
わたしの目からもまた涙が出てくる。光の塾では、涙は不完全なモノだけが出すもの。
わたしは不完全。神じゃなく、自分で喜びを見つけた"ヒト"。
神様から見れば罪深い存在。……でも、それだって全然構わない。
わたしは、もっとわたしを見つけていきたい。
「フランツ……!」
司教ロゴスが立ち去った後。
フランツが笑顔で人差し指と中指を立てるポーズをしてきた。ピースサインというらしい。
「ねぇ、ねぇ、ルカ姉ちゃん。見てくれた? おれ、魔法使えちゃった! すごい!?」
「どうして……」
「ん?」
「どうして、あんなことをしたの!!」
「……姉ちゃん」
また涙が出てくる。
話が全く通じない司教ロゴスの出現、連れ去られそうになった。
そこへフランツがやってきて、ロゴスに魔法をぶつけようとした。結果的にロゴスは何もしなかったけれど、殺されると思った。
「あの人は、すごく魔力が高くて、紋章があって、強い! フランツは、弱い! あんなことをして……殺されるところだった!!」
わたしが大声を出すとフランツの目が潤み、眉毛が垂れる。
「……でも、ルカ姉ちゃんが連れて行かれるって思ったんだ。守らなきゃって。そう思ったら魔法が出たんだよ」
「……わたしは、フランツに守られるほど弱くない」
「でも、魔法使えないんでしょ。じゃあ今おれより弱いよ?」
「……」
「ルカ姉ちゃん、帰ろうよ。みんな姉ちゃんのこと探してたんだよ」
「わたし……嫌」
「あの銀髪の女の人はもういないよ。大丈夫だよ」
「あの人に……カイルさんに、時計をぶつけた。きっと怒ってる」
「カイルさん怒ってないよ。ケガ治ってるし、大丈夫だよ」
「お花……」
「花畑は……虫はちゃんと片付けたよ。枯れた花は抜いて片付けちゃったけど……でもまた植えようよ」
「植えてもそれは……もうあの子達じゃない」
「そうだけどさ……はい、これ」
「これ……」
フランツが手渡してきたのは、わたしがずっと書いていた花の絵日記。
「お花は枯れちゃったけどさ、思い出は残るよ。この絵の中だけど、生きてるよ」
「……っ」
涙が止められない。今の感情を説明するのは、わたしには難しい。
「いきなり枯らされちゃったのは悲しいけどさ……また、新しい思い出作ってこうよ」
「新しい思い出……」
「……おれさ、もうあと2週間くらいしたら、いなくなるんだぁ」
「え……?」
「あの女の人を捕まえに来た聖銀騎士様がね、おれの父上のことを知ってたんだ。……で、おれの話を聞いて、それなら自分の屋敷に来ないかって。後見人になってくださるんだ」
「……お別れなの? ジャミルと同じ」
「うん。でも、侯爵様のお屋敷に行くから……ジャミルとちがってもう会えないかも」
「会えない……」
「だからさ、ちょっとでもここのみんなとのいい思い出が欲しいんだぁ」
「……フランツ」
「ほら姉ちゃん、もう帰ろ? おなか空いてない?」
「……おなか……空いた」
「じゃあ、砦に帰ろ。……歩ける? おれがおんぶしてあげようか」
「歩ける。……フランツ、小さいのにおんぶは無理」
「そんなことないよぉ、おれ、ここに来たばっかの時よりも身長伸びたんだぜ。あと何ヶ月かしたら姉ちゃん追い越すよ!」
「わたし……わたしもまだ、成長株」
「え~~~」
「レディだからエスコートしてあげる」と手を差し出すフランツの手を取り、わたしは彼と一緒に砦に帰った。
彼の手は温かく、そんなに小さくなかった。
◇
「ルカ! ルカぁっ……無事だったのね! うう、よかったよぉ……」
砦に帰ると、レイチェルがわたしに抱きついてきた。
……温かい。あの司教とは違う。
見たことのない服。……学校という所の服?
「レイチェル……学校じゃ、ない?」
「学校帰りにいつも寄ってくれてたんだ。……君が帰ってきてるか心配して」
少し後ろの方でカイルさんがそう言って笑う。フランツの言う通り、腫れていた顔は元に戻っていた。
「……時計ぶつけた、ごめんなさい」
「いいよ。俺も叩いたし……後からもっと痛い思いしたしね」
「……?」
彼がそう言うと、みんな何か不思議な顔で笑っている。
「あたしがバッチリ治したし大丈夫よ。ねえルカ、ずっとどこに行ってたの?」
「街、歩いてた」
「えー、5日間も? どこで寝てたの?」
「森」
「も、森……危ないよ、よく無事だったね……」
「……光の塾の、司教に会った。戻って来なさいって」
「え!?」
わたしがそう言うと、レイチェルにベルにカイルさん、3人共とても驚いた顔をしている。
「魔法も戻してあげる、感情という穢れを全部洗い流して、赦してあげるって。それで、」
「ル、ルカ……戻っちゃいやだよ……」
そう言って、レイチェルがポタポタと涙を流す。
「あ……」
「光の塾に戻って、嫌なこと全部忘れて、感情も全部洗い流すなんてそんなの、そんなの……」
「ん、わたし、だから」
「確かに急に辛くて悲しい事があって、ショックだったかもしれないけど……」
「あ……」
――レイチェルがどんどん言葉を繰り出すから、どこで言葉を挟めばいいのか分からない。
「でもでも、嬉しいことや楽しいこともないことになっちゃうんでしょ? それって神様が与えたものじゃなかったでしょ……ルカが、自分で体験したことでしょ……」
「!」
「お願いだよ……、ルカがせっかく見つけたルカを、捨ててしまわないでよ……」
「レイチェル……」
わたしが見つけた、わたし……。
「わたし……わたし、」
「ルカ、行かないでよぉ……ううう」
「……わたし、戻らないって言った」
「えっ……ほんと!?」
「ここにいたいから。みんなといたいから。思い出を作りたい……ここが、わたしの場所」
「ルカ、ルカ……! う、ううううう~~……!」
「泣かないで……」
「うううぅ、ごめん……変な怖い女の人は来るし、フランツはもうちょっとでお別れだし、このうえルカもいなくなったらって、もうぐちゃぐちゃで、……ごめんねええぇ……」
「あららら、レイチェル……」
「はは……俺達の兄弟喧嘩の時みたいになっちゃった」
レイチェルはその後も涙をボロボロ流しながら泣き続けた。
ベルがレイチェルの背中をさする。
レイチェルは泣いているのに、他のみんなは笑っている。
お花が枯れてわたしが泣いていた時とは違うみたい……よく分からない。
わたしの目からもまた涙が出てくる。光の塾では、涙は不完全なモノだけが出すもの。
わたしは不完全。神じゃなく、自分で喜びを見つけた"ヒト"。
神様から見れば罪深い存在。……でも、それだって全然構わない。
わたしは、もっとわたしを見つけていきたい。
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