【完結】カラスとすずらん ~意識低い系冒険者パーティの台所を預かっています~平凡なわたしと、闇を抱えた彼の恋の話~

天草こなつ

文字の大きさ
86 / 385
◇6-7章 幕間:番外編・小話

◆エピソード―カイル:武器屋の少年(2)

しおりを挟む
「……お、お客、さん」
「ん……?」

 武器屋をあとにしてぶらぶら街を歩いていると、後ろから声をかけられた。

「あ……武器屋の」

 振り向くとさっきの武器屋の少年だった。
 黒髪に灰色の瞳、白い肌。

(……ノルデン人だ)

 俺の故郷ではあまり見なかったが、この街はノルデンに近いからノルデン人もよく見かける。
 
 一つにまとめた長い黒髪はバサバサ。
 背丈は小さく、栄養が足りていないのか痩せぎすで手足は枝のようだった。
 ノルデン人は肌が白いのが特徴だが、白いというよりは青白く血色が悪い。
 歳はいくつくらいなんだろうか。見た所11~12歳かそこらに見えるが、もしかしたらもう少し上かもしれない。
『お客さん』の一言しか喋っていないが、声は高かった。
 顔立ちは整っていて、女の子と言っても通用しそうだった。
 
「どうしたの? 俺に用?」
「……財布」
「財布? ……さっ、財布!?」
 
 彼が差し出したのは俺の財布だった。
 バババッとポケットや道具袋を確認したら、確かになかった。店に忘れていたらしい。

「うわうわ……届けてくれたの? ありがとう!!」
「……」

 差し出した財布を受け取ると、少年は無言で踵を返し去っていく。
「あ……ま、待って、君!」
「…………何」
(う、うわぁ)

 俺が呼び止めると少年は敵意バリバリの目でギロリと睨んできた。
 
「財布届けてくれてありがとう。俺は……クライブ。クライブ・ディクソンっていうんだ。あの武器屋にはちょくちょく来てるんだ、よろしくな」
「…………」
(さ、殺気……)
「ええと、君の名前は?」
「……お前なんかに言う名前はない」
「え……」

 吐き捨てるように言うと、また俺を睨みつけて少年は走り去っていった。

「な、なんだよあいつ……腹立つな――!」
 
 ……とはいえ、彼は盗みに入った先でとっ捕まってボコボコにされた上にタダ働きさせられてるわけで。
 不本意ながらも働かされている所にくる客なんか敵でしかないだろう。

(しょうがない……次会った時も話す機会あれば話してみればいいか)
 
 
 ◇
 
 
 ある日俺はまた武器屋に行くためにカンタール市街を歩いていた。

「ふう……」
(またあいついるのかな……正直何回もガン付けられるのムカつくんだけどな)
 
 あれから何度か武器屋に訪れたが、例のノルデン人の少年は俺の顔を見るなり睨みつけてくる。
 話しかけてもほとんど一言も発さない。
 武器屋のおかみさんに聞けばやはりほとんど喋ることはなく、3ヶ月ほど経っても名前一つ聞き出せていないらしい。
 殴ってまで聞き出すのも何か違うだろうということで、そのまま『ぼうず』『お前』『あんた』と呼んでいるとか。
 そこが嫌ならそのうち出ていくのかと思いきや、出ていったりはしない。
 タダ働きと言えど食事が出るからじゃないかと親方は笑っていた。

(今日は剣を預けに行くだけだし、あいつに出会わないようパッと行ってパッと出よう。うん。そうしよう……)
 
「……おい、お前聞いてんのかよ」
「なんとか言えよ!!」

(……ん?)

 武器屋の近くに辿り着くと、何か言い争っているような声が聞こえた。

(あ……あいつ!)
 
 あの武器屋の少年が、3人の男に絡まれていた。

「ぶつかっておいて謝罪の一つもナシかぁ? きったねぇカラスの病原菌がついたらどうしてくれんだよ」
「……!」

『カラス』というのはノルデン人の子供の蔑称だ。
 戦争と災害で家を失った子供が、盗みを働く。風呂に入れないので衛生状態は良くなく、虫がたかっている子供も多いという。
 ゴミ箱を漁り光り物を集める不衛生な子供――髪が黒いことも相まって、いつの間にか『カラス』と呼ばれるようになったらしい。
 国境に近い所では特に差別が顕著と聞く。
 今もあの少年に対して聞くに堪えない罵倒の文句が飛び交っている。
 カラスが人間のふりしてうろつくな とか、そこにゴミ箱があるから漁れ とか。
 少年は、絡まれている今も、相変わらず何も言葉を発さない。
 いつも俺を睨みつけてくるのに、表情が一切消えたような顔でただ男達に罵声を浴びせられていた。

(親方はいないのか……?)
 
「おい聞いてんのか!? 耳聞こえてねえのかクソカラス!」
「つーかこいつって男? 女みてーな顔してるけど」
「あー、ほんとだな。カラスでも女だったらんじゃね? おいちょっと確かめようぜ」
 
 男のうちの一人が、少年の服に手をかけて破ろうとしていた。

「……!!」

 さすがに見過ごせない。俺は4人の間に割って入った。
 
「やめろ!! 3人がかりで子供によってたかって、恥ずかしくないのか!? 今すぐここから消えろ!」
「はぁ? 何だよこいつ……」
「おいやめとけ、こいつ赤スカーフ巻いてる……竜騎士だぜ」
「チッ……正義ぶりやがってよ……寒い寒い」
 
 3人は本気で手出しをするつもりはなかったらしく、ブツブツと管を巻きながら去っていった。
 
「……大丈夫か?」
「……」

 3人が去っていったあと少年に声をかけたが、あいも変わらず何も喋らない。
 そしてまた俺を睨みつけている。なんでだよ。その目はさっきの3人に向けろよイラつくなー。
 
「あいつらガラが悪いだけだから気にすることないけど、君も君じゃないか? 黙ってたら何も伝わらな――」
「――うるさい」
「え?」
「ムカつく。消えろ」
「……は? 何だよお前、助けてやったのにその態度は」
「助けてなんて頼んでない。消えろ、俺の前から。二度と来るな」
「……断るね。俺はあそこの客なんだからこれから先も来るよ……嫌ならお前が消えな! ……っていうか、お前何なんだよ一体? 俺のこと睨みまくってさ。俺がお前に何かしたか? 文句があるなら言えよ!!」
「お前、気持ちが悪い。ムカつく」
「はぁ? 何が――」
「偽物だ」
「え?」
「お前、偽物の名前を使ってる」
「えっ……!?」
 
 急に予想外のことを指摘され、俺は言葉を失ってしまう。
 なんで偽名を使ってる事が分かる?
 いや、それよりも……。
 
「ぎ……偽名だとして、それが何だよ? お前に何の迷惑がかかってる? 気持ち悪いとかムカつくなんて言われる筋合いないんだけど!」

 ――そうだ。俺だって名乗りたいよ。『クライブ・ディクソン』って誰なんだよ。
 制約? 魂がリンク? 何の話だよ意味分かんないんだよ。ムカつくムカつく、俺の方がよっぽど腹立ててる。
 
 次第にフツフツと怒りが湧いてくる。
 貴族の屋敷で小間使いするにあたり俺は、故郷で暮らしている時ほど自由奔放には暮らせなくなった。
 反抗期というやつもなかった。
 俺を引き取ったロジャーじいさんはいい人だし、強くて尊敬に値する人だった。
 親代わりというより師匠だったから反抗するような対象ではなかった。
 屋敷へ来たばかりの時には田舎暮らしの平民の子供ゆえに礼儀を知らずに色々やらかしたが、騎士になって少しは分別がつくようになったつもりだ。
 感情のままに振る舞っちゃいけない。イライラしても抑えないといけない。
 だからそのうち色んな感情を箱に入れて閉じ込めて、笑顔を張り付けることでごまかしてきた。
 
『偽物の名前を使ってる』――その一言で、箱の封が少し開いたような気がした。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...