【完結】カラスとすずらん ~意識低い系冒険者パーティの台所を預かっています~平凡なわたしと、闇を抱えた彼の恋の話~

天草こなつ

文字の大きさ
63 / 385
5章 兄弟

23話 お別れ食事会

しおりを挟む

「――そういえば、バイト初日くらいにグレンさんが読み上げてた依頼リストって」
「あれもオレが書いてたぞ」
「だから依頼読み上げてたの聞いてなかったんだ……」
「書いてたら憶えるしな」

 ――カイルが出かけていったあと、わたし達は再び食堂に戻りジャミルの業務の説明を受けている。

「す、すごいね。……え、じゃあ逆にグレンさんって何やってるの?」
「依頼を取ってくるのとタイムスケジュール組むのと、あと掃除だな」
「掃除??」

 そういえば最初に掃除は必要ないって言ってたけど、グレンさんが掃除してるってことかな?

「朝六時に必ず起きて掃除してんだよ。厨房と食堂はオレらがやるって言ったからそれ以外んとこ。だから砦ん中めっちゃキレイだろ?」
「へえ、知らなかった……真面目……」
「オマエいっつも寝てるもんな」
「う……眠いから。でも確かに砦はピカピカかも。隊長室も綺麗だし」
「まあアイツだって一日で砦ピッカピカにしてるわけじゃなくて、日によって掃除するとこ分けて完璧にキレイにしてんだ。つーわけで二人だって仕事一気に憶えなくても、ちっとずつやっていきゃいいんだよ。グレンだって完璧求めてねーだろうし」
「せ、先輩……!」

 リーダーのありがたいお言葉に涙が出そうになる……わたし達は彼の大好きなカニを食べ尽くしてしまったというのに。

「――グレンと言えば。オレの一連の業務を引き継いでもらうわけだから、二人の給料は上げといてくれって頼んであるからな」
「え、ちょ……ホント?」
「……オレにはその権限がある。えれぇんだ、オレは」

 そう言うとジャミルは得意げに親指でビシッと自分を指差す。自信の塊……!

「か、神……!」
「ジャ、ジャミル……うう、やっぱり寂しいよお、いなくならないでよお……」
「何だよ急に……泣くなよ」
「だって、だってええぇ……」

 泣きべそかきながらわたしはジャミルを見る。

「ジャミルったら、いなくなる気満々なんだもん……!」

 完璧に書かれた引き継ぎマニュアルに、後輩(?)の給与面の交渉。
 ――立つ鳥跡を濁さず。
 スッキリサッパリ後腐れなく、これから戻るコックさんの仕事のことを考えてる。寂しいー!

「別に……たまには来るしな? それに店に食べに来りゃあいいじゃねーか。ここから近いし」

 ジャミルはうろたえることもなく淡々と返す。ひょっとしたら泣きつかれるのには慣れてるのかもしれない。やっぱりお兄ちゃんだからかな……?

「泣くなよ、ほれ。アメちゃんやろうか」

 ジャミルがわたしの頭をワシャワシャしつつ、ポケットからアメを取り出して渡そうとしてくる。

「いりませんから~! もう! 子供扱いしないでよ」
「ハハッ! まあみんなには世話になったし、なんかうまいもん作ってやろーか」
「えっ? いいの――」
「ハイ! ハイ! あたしはピザがいいです!!」

 ベルが食い気味にビシッと挙手した。

「はえーな、オイ。まあいいけど……」
「わたしはカルボナーラかなぁ。あ、それならルカとフランツも呼んできていい?」
「ああ、そうだな。いいぞ」
 
 
 ◇
 
 
「ほらよ、フランツ」
「うわー すげ――! これが『お子様ランチ』かーっ!」

 フランツはキラキラした目で目の前に出されたお子様ランチを見る。
 旗の立ったケチャップライスとハンバーグとエビフライ、ポテトやからあげの乗った極めてオーソドックスない一品だ。
 ちなみに一緒にのっているデザートのみかんゼリーはこれまたジャミルの手作り。おいしそう……。

「こんなんで良かったのか?」
「うん! おれ、お子様ランチ食べるの夢だったんだぁ!」
「そうね。あたしも初めて見た。貴族の屋敷じゃまず出ないかも……」

 ベルが横から物珍しそうにお子様ランチを見つめる。

「あ、そういうこと。それなら納得……」
「ありがとうジャミル兄ちゃん! ……って、また……! ご、ごめん」
「ああ、いいんだよもう。好きに呼んでくれ」
「えっ いいの?」
「ああ。――フランツ。悪かったな」
「え? なになに?」
「オマエがいなくなった弟に似てるって思ってオレ、勝手に気まずくなって当たりがきつくなってた。それに怒鳴り散らかしてビビらせたし……だせえよな。ごめんな」
「あ……、そんなの、大丈夫だよ! ジャミルの料理はおいしかったし、おれジャミルが好きだよ!」
「ホントかよ。照れるな」
「ホントだよ!! また来てくれるよね!? 来てよね! ぜったいだよ!!」
「分かった、約束する。――泣くなよ。ホラ、冷めるから食えよ」
「ゔん!!」

 べそをかくフランツの頭をジャミルがやっぱりワシワシと撫でる。 
 その後フランツは、ジャミルお手製の特別お子様ランチを「うめー!」「すげー!」と言いながら幸せそうに頬張っていた。

「フランツ、ジャミル……よかった」
「そうね。このところビクビクしてたもんね。ジャミル君の前で萎縮しきってて――って、あれっ、ルカ? 食べないの?」
「……」
「ル、ルカ……? どうしたの……」

 ルカが大量のパンケーキの塔を前に、一つ向こうのテーブルにいるジャミルとフランツを無言で見ている。
 何か、ただならぬ空気を醸し出している……。
 
(な、何かが、起こる……?)
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

処理中です...