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【第1部】1章 花と少女

2話 図書館にて

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 わたし、レイチェル。薬師を目指す、ごくフツーの女の子。
 ギルドで見つけたアルバイトに面接に行ったら、そこにはなんと憧れの「司書のお兄さん」がいたの。
 超偶然! 運命的出会い!? と、心躍ったのも束の間……。
「お兄ちゃま」
 お兄ちゃま……
 お兄ちゃま……
 お兄ちゃま…………
 
 
「う~~~~ん、アウト!」
「アウトって言わないでえぇ~~!」
 わたしは昨日あった出来事をメイちゃんに報告する。
「だって~、シスコンじゃん。キモくな~い? 普通にぃ~」
「あのね、その、実の妹じゃないみたいな感じだった」
 わたしは必死に彼の弁護をするけど……あまり言葉が続かない。
「えー? 実の妹でないにしてもだよ? 赤の他人に『お兄ちゃま』呼びさせてる時点でないわー。ナシ! ナシナシのナシよ」
「ナシナシの…」
「ナシ」
「メイちゃ~ん!」
「憧れは所詮憧れなんだってー。早く切り替えて次行きなよー」
「うぅ……」
「あっ でも待って? ロリコンならまだ可能性がなきにしもあらず……?」
 メイちゃんは顎に手を当てて名推理する。
「ロリコンでは……ないと思う。『お兄ちゃま』はやめろって言ってたし。ていうかわたしはロリじゃないと思うの。その、18歳って一応成人だし……」
「でもさー、赤の他人がお兄ちゃま呼びとかやっぱ、怪しい関係なんじゃん?」
「あ、怪しいは、怪しい……けど」
 ぱっと見たところ、彼女は妹じゃなくて勝手にお兄ちゃまと呼んできていて、彼はその呼ばれ方を嫌がっているようだった。
「しーかーもー! あんたを泊まりがけのバイトに雇って週2で自分らのご飯を作らせて、月に20万? あーやーしーいー! 怪しいにも程があるぅー! 何者!? ……何らかの粉の売人じゃ!?」
「わ、分かんないよぉ~……。あんまり立ち入ったこと聞けないし……ほんとに危なそうだったらやめるよー」
「そう! 危なくなったらね、金的食らわしてやるのよ!」
 そう言いながらメイちゃんは上を蹴り上げる動作をする。
「き、金……。あはは、まあ適当に、がんばるよ……」
 今週末からバイトが始まる。どうなるのかなぁ……。
 
 
「あっ……」
「ああ……こんにちは」
「あ、はい、こんにちは……」
 図書館に本を返却に行くと、いつも通りに司書のお兄さん――グレン・マクロードさんがいた。
 バイトが始まるのは週末だけど、そっか。ここでも会うのか……。今日は眼鏡をかけている。
「本の返却です」
「ああ、はい」
 わたしは彼に本を手渡す。
 
「あ、あのー」
「ん?」
 図書館はわたしの他には誰もいなかったので、仕事中だけど思い切って話しかけてみた。
「ええと、あなたの呼び方はどうすればいいんでしょう? 冒険者や傭兵さんなら、『リーダー』とか『隊長』でしょうか?」
「好きにしてくれればいいけど、隊長とかは違うな……三人しかいないし。名前で呼んでくれればいい」
「じゃあ『グレンさん』でいいでしょうか?」
「ああ。君のことはなんて呼べば?」
「わたしは、えっと、普通に『レイチェル』でかまいません」
「わかった。よろしく、レイチェル」
「はい」
(名前、呼ばれちゃった……)
「お兄ちゃま」の呼称でかなりドン引きしたけど、名前を呼ばれるとやっぱり少しドキッとしちゃうな……。
 
「そういえば『三人』って、グレンさんとあの子の他にもう一人いるんですか」
「ああ。不定期に来て料理を作ってくれてるんだけど、一人じゃしんどいって言うから」
「そうなんですね」
「詳しい内容はそいつに教えてもらうことになるかな」
「なるほど……」
(……どういう人なんだろ?)
 カウンター越しにそういった話をしていると、不意に声を掛けられた。
「マクロード君、話し中すまない。ちょっといいかね」
「あ……」
 声の主はこの図書館の館長だった。小柄のおじいさんのテオさん。
 わたしも小さい頃から知っていて「テオ館長」「テオおじいさん」「テオじい」とかみんなには呼ばれている。
「はい」
 グレンさんが立ち上がる。
「あっ! ごめんなさい、仕事中に。わたし、返しに来ただけなんで帰りますね」
「ああ。それじゃ」
 わたしは図書館をあとにする。去り際に少し振り返って見ると、テオ館長がグレンさんに何かの紙を見せて本を手渡していた。
 そういえば、ここに男の人が働いてるのって珍しいな……今までは女の人しか見なかったような気がするけど、いつからあの人だったんだろ?
(ま、いっか)
 別に女性じゃなきゃいけない理由もないもんね。わたしは特に気にすることなく家路についた。
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