君は少女をみたか!

一陽吉

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四章 JKゲーム

第6話 魔女と口と接触と

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 四階をひと通り見て回った魔女。

 この階は一年生の教室が並んでいるから、二年生である私の顔があるとそれなりに視線を受けるけど、声をかけられることはない。

 まあ、本当は人見知りしない子がいるかもしれないけど、私はそういう後輩を知らないからね。

 学校でなんとなく見かけた後輩たちが、昼休みはこんなかんじで過ごしているんだろうと、私の記憶と重ねているだけ。

 魔女はいちおう、トイレがまで行ったようだけど、私を見つけることができず、三階へ下りていった。

 トイレといっても女子だけで、男子の方へは行ってない。

 これでもし入っていったら大騒ぎになるし、私の姿でそれをされると、作った空間内のことだとしても私が困る。

 ──三階。

 ここは二年生の教室が並ぶ階。

 私の学年だし、私を知る生徒がたくさんいる。

 声をかけられる可能性が高いし、その場合、うまく切り返さないと貴士くんや佐知子ちゃんのときみたいに追及され、拘束の対象となる。

 どうするつもりなのかな?

 む。

 開いた引き戸から教室の中を見たりするのは、四階でやっていたけど、めっちゃ早い。

 声をかけられる前に探そうってことみたい。

 私のクラスである二年B組も簡単に覗いていった。

 ここでほむらちゃんや聖名夜みなよちゃんが現われたりすると、おもしろいんだけど、二人はここの生徒じゃないどころか、学生でもないからね。

 魔女の魔法を利用して私の記憶から直接、現わしているから、差し入れて登場させることができない。

 そして、テキパキ作戦が功を奏して、多少は顔を向けられたけど、魔女は声をかけられることなく三階クリアね。

 ──二階。

 三年生の教室が並んでいる。

 一部、私を知っている先輩がいるから、一年生よりは声をかけられる可能性は高い。

 でも、魔女。

 ここでもテキパキ作戦ね。

 とにかくボロが出る前に済ませようとしてる。

 ふむ。

 私がいなかったから、二階クリア。

 魔女は階段を下りていったわね。

 ──一階。

 ここは生徒会室や、会議室、倉庫とか、授業とは別の用途に使われる部屋が並んでいる。

 学年にかかわらず生徒が行きかうから、誰と会うか分からないところでもある。

 それに、いまは昼休みの設定になっているから基本的に部屋は閉まっている。

 鍵がかけられていたりもしてるから、全部を見て回ることは難しい。

「あら、優子じゃない」

 そう言って声をかけてきたのは、同じクラスの鐘上伶子かねじょうれいこちゃんだった。

 胡桃色の髪を背中まで伸ばしてワッフルパーマにしている、上品な顔だちの伶子ちゃん。

 身長は百六十五センチくらいで私とほぼ同じなんだけど、もう一つ目を引く特徴がある。

 それは美人でグラマーだということ。

 すでにモデルの仕事をしていて、将来は芸能人になるつもりみたい。

 この学校へ通っているのは生まれ持った能力を活かすためだって、本人が言ってた。

「え、ええ」

 とりあえず笑いながら答える魔女。

 伶子ちゃんの名前や素性が分からないと思うけど、どうするつもりだろう。

「? なんか貴女らしくないわね。具合でも悪いの?」

 そう言うと、伶子ちゃんは自分のおでこを左手にあてて、右手を私の顔をした魔女のおでこにあてて調べた。

 いつもなら元気に答えているからね。

 心配になったみたい。

「……」

「とくに、問題ないわね」

 異常がなかったから伶子ちゃんは手を戻すけど、魔女の顔が赤いわね。

 ていうか、この状態だと私が顔を赤くしているみたいだわ。

「熱はないのにね。まさか私に惚れた?」

 !?

 な、何を言い出すの伶子ちゃん。

 いやこれは私の記憶からの伶子ちゃんだけど、こういう状況だと確かに言いそうなのよね。

「なーんてね」

 言いながらすれ違おうとする伶子ちゃんの右手を魔女が掴んだ。

「どうしたの優子」

「……ふふ。あまりの美人に見惚れてしまったけど、そういうことなのね、優子」

 そう呟いて、魔女は伶子ちゃんを抱き寄せると唇を重ねた。

 た。

 た。

 た。

 て、それ……、キスじゃない!?

 あ、え?

 なんで?

 しかもそれじゃあ、私が伶子ちゃんにキスしてるみたいじゃない!

 いや、私はここにいるけど。

 な、ど、どういうこと?

「ん……」

 最初はびっくりしてた伶子ちゃんも、なんかトローンとした表情になってる。

 身体の力も抜けて、魔女に委ねているかんじ。

「ふふ」

 魔女はそのまま二人で身体を寄せると、伶子ちゃんの背中にまわしていた左手で、壁をドンと叩いた。

 すると叩いたところから壁をつたうように光が走って、魔女の魔力が侵入していくのを示した。

 は。

 そうか。

 おでこを触られたときに、伶子ちゃんが記憶から現れたものだと気づいたんだ。

 全てが自分の魔法に基づいているから、私を動揺させれば糸口が見える。

 そう考えた魔女は、どこかで監視しているであろう私に衝撃映像を見せてドキッとさせ、その隙に魔法へ介入したのね。

 そうなると、まずい。

 魔法構成を組み替えられて、魔女が優位な状況が作られてしまう。

 いくらげんの力が強くても、裏道的な方法でやられれると対処が難しい。

 せめて権限を維持できるようにしないと。

「んん……」

 私の顔とキスしたままの伶子ちゃん。

 集中が……。

 体勢が変わらない魔女だけど、熟練者で、もともとの使用者だから魔法処理が早い。

 とにかくこうなったら、やれるだけのことをするしかない。

 ……。

 だんだん、私の視界が白くなっていく。

 でも諦めないんだから。

 ……。

 ……。

 ……。

 だんだん見えてきた。

 やっぱり、空間が変化している。

 ここは……。

 学校じゃないわね。

 学校じゃないけど、学校の要素は残っている。

 簡単にいえば円筒形の廊下。

 直径十五メートルくらいの床にあわせて、窓がある壁と天井がある。

 窓から見える景色は夕陽に染まった空。

 だけどそれは本物ではないから、太陽が動くことはない。

 なんか、精神世界ってこういう感じなのかなって思う。

 伶子ちゃんはいなくなってる。

 それに、私の身体も戻っているわね。

 制服を着てる。

 ある程度は元に戻されたんだ。

「ふふ。いろいろやってくれたわね、優子」

 そして私の前に、目元を隠すマスクをつけて紫のスーツを着た、魔女が現れた。
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