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三章 個人探求者
第26話 文字と魔法
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緊迫した状況にあって冗談みたいなかんじ。
「……」
ほむらちゃんも言葉を失ってる。
真剣な表情の女都羅さんを閉じ込めるように、その頭部がぶ厚い氷で覆われた。
氷は整った形をしていないけど、縦・横・幅が五十センチくらいあるから、ものすごく重そうなのに、女都羅さんはそのままピクリとも動かなくなった。
低い姿勢になっているし、脱力したのなら倒れるんだろうけど、停止スイッチを押された人形みたいに固まっている。
ショートポニーの延長、五本の光髪も変わりない。
そもそも、何か飛んできたのを見たからよね。
それはいま床に落ちている。
透明なカード。
フィルムかな?
それに黒で文字が書かれてる。
[Testyuma ordered freeze]
この筆跡に見覚えがあるし、凍結といえば──聖名夜ちゃん。
見ると、倒れていた聖名夜ちゃんは真っ直ぐ立ってほむらちゃんを方を向いていた。
ダメージは残っているけど、かなり元気を取り戻したかんじ。
そして、床から少し浮いて飛ぶと、ほむらちゃんの隣りに並んだ。
「お待たせ」
「おう」
微笑みながら無事を確かめ合う二人。
すると聖名夜ちゃんはポケットから包みを取り出した。
「これが最後よ」
「分かった」
そう答えてほむらちゃんは受け取ると、包みを開いてオレンジ色のキャンディーみたいなのを口に入れた。
ほんのり甘くておいしい、聖名夜ちゃん特製の魔薬。
気力や体力、魔力なんかを回復してくれる。
即効だけど、麻の字を使う薬と違って、中毒性や害はないから安心。
聖名夜ちゃんも女都羅さんに気づかれないように飲んだみたい。
「ごめんなさい。私が持ってた球体、取られたわ」
「気にすんな。俺がまだ三個、持ってる。それで、あれはお前の魔法だな」
「ええ。鉄摩さんの指示で動いているから、ああいう風に書いてみたけど、意外と効果があったわね」
「どのくらい持つ?」
「あのパワーなら、とっくに打ち破っているんだろうけど、動かないのは書いておいた名前の影響によるものだと思う。だから、それまでの間ね」
「そうか。それじゃあ削るなり、球体を取り戻す方法を見つければいいな」
「おそらく彼女も霊体へ収納していると思う。私が魔法で弾き出すからそれをキャッチして」
「了解だ」
「よろしく」
作戦を決め、グータッチするほむらちゃんと聖名夜ちゃん。
どうやら女都羅さんが動かなくなったのって、あの透明なフィルムに鉄摩さんの名前があったからみたい。
そのため、女都羅さんは従わなきゃと思ったところに『freeze』の単語を見て、凍らせると動くな、二つの意味を受け入れたかんじになったんだ。
これは聖名夜ちゃんが伶羅ちゃんが戦っていたときに、空砲を実弾として身体が反応したのに通じていると思う。
「どうした、女都羅。なぜ動かん!」
慌てたようにして、画面の鉄摩さんは呼びかけた。
目線を下げたりしていたから、向こうの部屋に女都羅さんの状態なんかを表すモニターがあるようね。
その様子から、表示的には異常がないんだわ。
──すると、女都羅さんの頭を覆う氷の塊に大きくひびが入っていって、内側から左右半分に割れた。
ゴトンと重い音をさせて割れた氷が落ちたけど、あれ、何十キロあるんだろう。
首の力だけでなんて、半分でも私には絶対、無理だわ。
そして、表情をそのままに、低い姿勢からゆっくりと立ち上がる女都羅さん。
「申し訳ありません、父様。もう大丈夫です」
「そ、そうか。ならいいが」
並んでいる、ほむらちゃん、聖名夜ちゃんを見据えて言う女都羅さんに、鉄摩さんはとりあえず安心したみたい。
「……」
女都羅さん、聖名夜ちゃんが復活し、ほむらちゃんも回復したのを確認しながら、その中で再定義をしている。
同じことをされても効かないように。
そして、立ち上がったことから、駆けだして接近することは止めたみたい。
一対一だったら勝負しても良かったんだろうけど、もとの二対一になったから戦法を変えたんだ。
ほむらちゃんは龍の炎があるし、爆発でなければ効かなかった真紅の炎もある。
もしかすると別の炎があるかもしれない。
聖名夜ちゃんも氷結や文字の魔法があるし、居合い斬りもする。
それにいままでの戦いで使った魔法が全てとは限らない。
つまり、女都羅さんにしてみれば、最初と違って警戒事項が増えたから近づけなくなったのね。
そうなればおのずと遠距離攻撃になるわけだけど……。
「illusion」
先に聖名夜ちゃんが動いた。
ほむらちゃんの手を握りながら魔法を発動させると、薄い霧みたいなものが発生。
そこから次々と、ほむらちゃん、聖名夜ちゃんが現われていって女都羅さんを包囲した。
全部で五十人くらいかな。
一人一人、バラバラに構えながら中央の女都羅さんを見てる。
当然、これは幻。
しかもそれぞれ魔力を持って動いているから、見た目はもちろん魔力探知や体温でも、本体と区別が難しいと思う。
「……」
無言で出方をみる女都羅さん。
すると、一人のほむらちゃんが飛びかかろうとしたのに反応して、女都羅さんの手が動いた。
「……」
ほむらちゃんも言葉を失ってる。
真剣な表情の女都羅さんを閉じ込めるように、その頭部がぶ厚い氷で覆われた。
氷は整った形をしていないけど、縦・横・幅が五十センチくらいあるから、ものすごく重そうなのに、女都羅さんはそのままピクリとも動かなくなった。
低い姿勢になっているし、脱力したのなら倒れるんだろうけど、停止スイッチを押された人形みたいに固まっている。
ショートポニーの延長、五本の光髪も変わりない。
そもそも、何か飛んできたのを見たからよね。
それはいま床に落ちている。
透明なカード。
フィルムかな?
それに黒で文字が書かれてる。
[Testyuma ordered freeze]
この筆跡に見覚えがあるし、凍結といえば──聖名夜ちゃん。
見ると、倒れていた聖名夜ちゃんは真っ直ぐ立ってほむらちゃんを方を向いていた。
ダメージは残っているけど、かなり元気を取り戻したかんじ。
そして、床から少し浮いて飛ぶと、ほむらちゃんの隣りに並んだ。
「お待たせ」
「おう」
微笑みながら無事を確かめ合う二人。
すると聖名夜ちゃんはポケットから包みを取り出した。
「これが最後よ」
「分かった」
そう答えてほむらちゃんは受け取ると、包みを開いてオレンジ色のキャンディーみたいなのを口に入れた。
ほんのり甘くておいしい、聖名夜ちゃん特製の魔薬。
気力や体力、魔力なんかを回復してくれる。
即効だけど、麻の字を使う薬と違って、中毒性や害はないから安心。
聖名夜ちゃんも女都羅さんに気づかれないように飲んだみたい。
「ごめんなさい。私が持ってた球体、取られたわ」
「気にすんな。俺がまだ三個、持ってる。それで、あれはお前の魔法だな」
「ええ。鉄摩さんの指示で動いているから、ああいう風に書いてみたけど、意外と効果があったわね」
「どのくらい持つ?」
「あのパワーなら、とっくに打ち破っているんだろうけど、動かないのは書いておいた名前の影響によるものだと思う。だから、それまでの間ね」
「そうか。それじゃあ削るなり、球体を取り戻す方法を見つければいいな」
「おそらく彼女も霊体へ収納していると思う。私が魔法で弾き出すからそれをキャッチして」
「了解だ」
「よろしく」
作戦を決め、グータッチするほむらちゃんと聖名夜ちゃん。
どうやら女都羅さんが動かなくなったのって、あの透明なフィルムに鉄摩さんの名前があったからみたい。
そのため、女都羅さんは従わなきゃと思ったところに『freeze』の単語を見て、凍らせると動くな、二つの意味を受け入れたかんじになったんだ。
これは聖名夜ちゃんが伶羅ちゃんが戦っていたときに、空砲を実弾として身体が反応したのに通じていると思う。
「どうした、女都羅。なぜ動かん!」
慌てたようにして、画面の鉄摩さんは呼びかけた。
目線を下げたりしていたから、向こうの部屋に女都羅さんの状態なんかを表すモニターがあるようね。
その様子から、表示的には異常がないんだわ。
──すると、女都羅さんの頭を覆う氷の塊に大きくひびが入っていって、内側から左右半分に割れた。
ゴトンと重い音をさせて割れた氷が落ちたけど、あれ、何十キロあるんだろう。
首の力だけでなんて、半分でも私には絶対、無理だわ。
そして、表情をそのままに、低い姿勢からゆっくりと立ち上がる女都羅さん。
「申し訳ありません、父様。もう大丈夫です」
「そ、そうか。ならいいが」
並んでいる、ほむらちゃん、聖名夜ちゃんを見据えて言う女都羅さんに、鉄摩さんはとりあえず安心したみたい。
「……」
女都羅さん、聖名夜ちゃんが復活し、ほむらちゃんも回復したのを確認しながら、その中で再定義をしている。
同じことをされても効かないように。
そして、立ち上がったことから、駆けだして接近することは止めたみたい。
一対一だったら勝負しても良かったんだろうけど、もとの二対一になったから戦法を変えたんだ。
ほむらちゃんは龍の炎があるし、爆発でなければ効かなかった真紅の炎もある。
もしかすると別の炎があるかもしれない。
聖名夜ちゃんも氷結や文字の魔法があるし、居合い斬りもする。
それにいままでの戦いで使った魔法が全てとは限らない。
つまり、女都羅さんにしてみれば、最初と違って警戒事項が増えたから近づけなくなったのね。
そうなればおのずと遠距離攻撃になるわけだけど……。
「illusion」
先に聖名夜ちゃんが動いた。
ほむらちゃんの手を握りながら魔法を発動させると、薄い霧みたいなものが発生。
そこから次々と、ほむらちゃん、聖名夜ちゃんが現われていって女都羅さんを包囲した。
全部で五十人くらいかな。
一人一人、バラバラに構えながら中央の女都羅さんを見てる。
当然、これは幻。
しかもそれぞれ魔力を持って動いているから、見た目はもちろん魔力探知や体温でも、本体と区別が難しいと思う。
「……」
無言で出方をみる女都羅さん。
すると、一人のほむらちゃんが飛びかかろうとしたのに反応して、女都羅さんの手が動いた。
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