君は少女をみたか!

一陽吉

文字の大きさ
上 下
27 / 51
三章 個人探求者

第16話 氷と音楽隊

しおりを挟む
 床にある血は銃弾を受けて飛び散ったような跡になっている。

 だけど聖名夜みなよちゃんは被弾したかんじじゃなかった。

 ケガをしていないのはいいけど、血が出るのって、いいことではないわよね。

「……」

 聖名夜ちゃんは何か心当たりがあるみたい。

 右手の人差し指を頭にあててマインドセットしている。

 これは術者が自身に対してあらかじめ設定をしておくもの。

 たとえば魔力を抑えようとか、探知範囲を広げておこうとか、そういうのを無意識下に働きかけて、自動的に行えるようにしているんだ。

 動作はあくまで儀礼としてのもの。

 見ようによってはボタンを押しているかんじだけど、聖名夜ちゃんはロボットじゃないからね。

 あ……。

 向こうに見えていた女の子、八人がいなくなってる。

「──いかがだったでしょうか、聖名夜様」

 入れ替わるようにして伶羅レイラちゃんが現れた。

 て、九人?

 正面に三人。

 左右と後方に二人ずついる。

 三人の真ん中に光の髪を伸ばした伶羅ちゃんがいて、残りの八人は。向こうで銃剣を撃った子たちだ。

 こっちへ移動したのね。

 いまは何も持たず、後ろ手に組んで待機している。

 腰にあったサーベルもないわね。

「ええ。なかなかのものだったわ」

 立ち上がりながら言う聖名夜ちゃん。

「ありがとうございます。それではもう一幕、いきますか?」

 伶羅ちゃんは口元に笑みを浮かべながら言った。

「その必要はないわ。さっきのは、先入観を利用した認知の魔法。撃たれたと思わせて、身体に反応させダメージを与えるもの。だけど、次はない」

 そっか。

 銃口を向けられて銃声がすれば、、撃ったと思ってしまう。

 銃声は八発あったけど、聖名夜ちゃんが反応したのは一発。

 たぶん、射線から考えて右肩は撃たれたかもと思ったのね。

 それで実際に被弾したわけじゃないけど、身体が勝手に血を流したんだ。

 ということは、この空間がその反応を受けやすいように、魔法がかけられているんじゃないかな。

 だって日常だったら、音がするおもちゃの銃で人が死んじゃうってことだからね。

「さようでございますか。私も飽きさせぬようにとメイクをいたしましたが、仕方ありません」

 伶羅ちゃんがそう言うと、八人の子の顔が一斉に、伶羅ちゃんになった。

「これらは全て私の分身。雷羅ライラのように、同じものが並んでも面白味に欠けると思い、変化させてみました」

 すると八人の子は立ったまま動かず順番に、床から浮いたかんじで移動。

 そのまま伶羅ちゃんの右から左からそろって身体を重ね、収まっていった。

 なんか配慮してくれたらしいけど、雷羅ちゃんのときって、真っ暗だったからあんまりその実感がなかったのよね。

「それでは聖名夜様のために、別の催し物をご用意いたします。これは私にとっても最大級のもの。どうぞお楽しみください」

 軽く一礼すると、伶羅ちゃんは姿を消した。

 静まり返り、ポツンと一人、取り残されたかんじの聖名夜ちゃん。

「……」

 再び緊張のときがやってきた。

 ……。

 ……。

 ……!

 これは、人?

 なんか整列しているものが現れた。

 それも半端ない数。

 一列十人で横に並んでいるけど、それが奥へ伸びていって三十くらいありそうだから、三百人はいる。

「は……」

 そして、おなじような集団が、左右と後ろにも出現。

 合計して千二百人くらいになった。

 聖名夜ちゃんを中心に、先頭の列からは、どの方向にも二十メートルは離れてる。

 数もすごいけど、その一人一人だって特徴がある。

 簡単にいえば文字が詰まった伶羅ちゃんの容器。

 制帽を被り、衣装を着た伶羅ちゃんの型をとって作った等身大のプラスチック容器に、水と色のついた漢字をたくさん入れて満杯にしたかんじ。

 漢字は五センチほどの大きさで、一人につき一文字だけ大量にあって、かたよることなく全身を漂っている。

 一文字だけだから、赤い色の『炎』だけとか、紫色の『雷』だけとか、そういうかんじで全員がなにかしらの色付き漢字を内包して整列してる。

 これも伶羅ちゃんの分身ていうことになるのかな?

 いずれにしろ、大規模魔法なのは確かね。

 ピ──────────────────、ピ!

 ホイッスルを合図に、ドラムが叩かれ、各種笛が吹かれていった。

 球体の私にもすごく響く。

 だって、およそ千二百人の大合奏だもんね。

 曲名は分からないけど、マーチングなんかでよく聞く曲。

 容器伶羅ちゃんたちは、みんな足を揃えて歩き始める。

 て、あれ。

 それぞれ担当する楽器を演奏する動作はしているけど、楽器が見当たらない。

 演奏の迫力はあるけど、肝心の物がない。

 どうなっているの?

 とか考えているうちに、全校生徒を集めたかのような大集団がエア演奏をしながらこちらへ向かってくる。

「freeze !」

 聖名夜ちゃんは正面の一団に凍結の魔法を放った。

 本来なら放った先、直径五メートルくらいにあった伶羅ちゃんたちの動きを封じることができる。

 でも、実際に凍結したのは五体。

 あとは消滅したり効かなかったりと、バラバラの効果になった。

 効かないのは分かるにしても消滅って、いや、そういうものではないはずなのよね。

 そして、味方がやられても動じることなく、伶羅ちゃんたちは進んでくる。

 ……。

 よく見ると凍結した伶羅ちゃん、それぞれの身体に、水、氷、土、雪、雨の漢字がある。

 そして、効かなかった伶羅ちゃんは風、眠、吸、上、伏とか、ものを表す漢字になっている。

 つまりこの伶羅ちゃん集団は、一人一人が漢字の意味する効果を持っているんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた

羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件 借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!

処理中です...