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三章 個人探求者
第16話 氷と音楽隊
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床にある血は銃弾を受けて飛び散ったような跡になっている。
だけど聖名夜ちゃんは被弾したかんじじゃなかった。
ケガをしていないのはいいけど、血が出るのって、いいことではないわよね。
「……」
聖名夜ちゃんは何か心当たりがあるみたい。
右手の人差し指を頭にあててマインドセットしている。
これは術者が自身に対してあらかじめ設定をしておくもの。
たとえば魔力を抑えようとか、探知範囲を広げておこうとか、そういうのを無意識下に働きかけて、自動的に行えるようにしているんだ。
動作はあくまで儀礼としてのもの。
見ようによってはボタンを押しているかんじだけど、聖名夜ちゃんはロボットじゃないからね。
あ……。
向こうに見えていた女の子、八人がいなくなってる。
「──いかがだったでしょうか、聖名夜様」
入れ替わるようにして伶羅ちゃんが現れた。
て、九人?
正面に三人。
左右と後方に二人ずついる。
三人の真ん中に光の髪を伸ばした伶羅ちゃんがいて、残りの八人は。向こうで銃剣を撃った子たちだ。
こっちへ移動したのね。
いまは何も持たず、後ろ手に組んで待機している。
腰にあったサーベルもないわね。
「ええ。なかなかのものだったわ」
立ち上がりながら言う聖名夜ちゃん。
「ありがとうございます。それではもう一幕、いきますか?」
伶羅ちゃんは口元に笑みを浮かべながら言った。
「その必要はないわ。さっきのは、先入観を利用した認知の魔法。撃たれたと思わせて、身体に反応させダメージを与えるもの。だけど、次はない」
そっか。
銃口を向けられて銃声がすれば、弾丸が発射されていなくても、撃ったと思ってしまう。
銃声は八発あったけど、聖名夜ちゃんが反応したのは一発。
たぶん、射線から考えて右肩は撃たれたかもと思ったのね。
それで実際に被弾したわけじゃないけど、身体が勝手に血を流したんだ。
ということは、この空間がその反応を受けやすいように、魔法がかけられているんじゃないかな。
だって日常だったら、音がするおもちゃの銃で人が死んじゃうってことだからね。
「さようでございますか。私も飽きさせぬようにとメイクをいたしましたが、仕方ありません」
伶羅ちゃんがそう言うと、八人の子の顔が一斉に、伶羅ちゃんになった。
「これらは全て私の分身。雷羅のように、同じものが並んでも面白味に欠けると思い、変化させてみました」
すると八人の子は立ったまま動かず順番に、床から浮いたかんじで移動。
そのまま伶羅ちゃんの右から左から揃って身体を重ね、収まっていった。
なんか配慮してくれたらしいけど、雷羅ちゃんのときって、真っ暗だったからあんまりその実感がなかったのよね。
「それでは聖名夜様のために、別の催し物をご用意いたします。これは私にとっても最大級のもの。どうぞお楽しみください」
軽く一礼すると、伶羅ちゃんは姿を消した。
静まり返り、ポツンと一人、取り残されたかんじの聖名夜ちゃん。
「……」
再び緊張のときがやってきた。
……。
……。
……!
これは、人?
なんか整列しているものが現れた。
それも半端ない数。
一列十人で横に並んでいるけど、それが奥へ伸びていって三十くらいありそうだから、三百人はいる。
「は……」
そして、おなじような集団が、左右と後ろにも出現。
合計して千二百人くらいになった。
聖名夜ちゃんを中心に、先頭の列からは、どの方向にも二十メートルは離れてる。
数もすごいけど、その一人一人だって特徴がある。
簡単にいえば文字が詰まった伶羅ちゃんの容器。
制帽を被り、衣装を着た伶羅ちゃんの型をとって作った等身大のプラスチック容器に、水と色のついた漢字をたくさん入れて満杯にしたかんじ。
漢字は五センチほどの大きさで、一人につき一文字だけ大量にあって、偏ることなく全身を漂っている。
一文字だけだから、赤い色の『炎』だけとか、紫色の『雷』だけとか、そういうかんじで全員がなにかしらの色付き漢字を内包して整列してる。
これも伶羅ちゃんの分身ていうことになるのかな?
いずれにしろ、大規模魔法なのは確かね。
ピ──────────────────、ピ!
ホイッスルを合図に、ドラムが叩かれ、各種笛が吹かれていった。
球体の私にもすごく響く。
だって、およそ千二百人の大合奏だもんね。
曲名は分からないけど、マーチングなんかでよく聞く曲。
容器伶羅ちゃんたちは、みんな足を揃えて歩き始める。
て、あれ。
それぞれ担当する楽器を演奏する動作はしているけど、楽器が見当たらない。
演奏の迫力はあるけど、肝心の物がない。
どうなっているの?
とか考えているうちに、全校生徒を集めたかのような大集団がエア演奏をしながらこちらへ向かってくる。
「freeze !」
聖名夜ちゃんは正面の一団に凍結の魔法を放った。
本来なら放った先、直径五メートルくらいにあった伶羅ちゃんたちの動きを封じることができる。
でも、実際に凍結したのは五体。
あとは消滅したり効かなかったりと、バラバラの効果になった。
効かないのは分かるにしても消滅って、いや、そういうものではないはずなのよね。
そして、味方がやられても動じることなく、伶羅ちゃんたちは進んでくる。
……。
よく見ると凍結した伶羅ちゃん、それぞれの身体に、水、氷、土、雪、雨の漢字がある。
そして、効かなかった伶羅ちゃんは風、眠、吸、上、伏とか、凍結できないものを表す漢字になっている。
つまりこの伶羅ちゃん集団は、一人一人が漢字の意味する効果を持っているんだ。
だけど聖名夜ちゃんは被弾したかんじじゃなかった。
ケガをしていないのはいいけど、血が出るのって、いいことではないわよね。
「……」
聖名夜ちゃんは何か心当たりがあるみたい。
右手の人差し指を頭にあててマインドセットしている。
これは術者が自身に対してあらかじめ設定をしておくもの。
たとえば魔力を抑えようとか、探知範囲を広げておこうとか、そういうのを無意識下に働きかけて、自動的に行えるようにしているんだ。
動作はあくまで儀礼としてのもの。
見ようによってはボタンを押しているかんじだけど、聖名夜ちゃんはロボットじゃないからね。
あ……。
向こうに見えていた女の子、八人がいなくなってる。
「──いかがだったでしょうか、聖名夜様」
入れ替わるようにして伶羅ちゃんが現れた。
て、九人?
正面に三人。
左右と後方に二人ずついる。
三人の真ん中に光の髪を伸ばした伶羅ちゃんがいて、残りの八人は。向こうで銃剣を撃った子たちだ。
こっちへ移動したのね。
いまは何も持たず、後ろ手に組んで待機している。
腰にあったサーベルもないわね。
「ええ。なかなかのものだったわ」
立ち上がりながら言う聖名夜ちゃん。
「ありがとうございます。それではもう一幕、いきますか?」
伶羅ちゃんは口元に笑みを浮かべながら言った。
「その必要はないわ。さっきのは、先入観を利用した認知の魔法。撃たれたと思わせて、身体に反応させダメージを与えるもの。だけど、次はない」
そっか。
銃口を向けられて銃声がすれば、弾丸が発射されていなくても、撃ったと思ってしまう。
銃声は八発あったけど、聖名夜ちゃんが反応したのは一発。
たぶん、射線から考えて右肩は撃たれたかもと思ったのね。
それで実際に被弾したわけじゃないけど、身体が勝手に血を流したんだ。
ということは、この空間がその反応を受けやすいように、魔法がかけられているんじゃないかな。
だって日常だったら、音がするおもちゃの銃で人が死んじゃうってことだからね。
「さようでございますか。私も飽きさせぬようにとメイクをいたしましたが、仕方ありません」
伶羅ちゃんがそう言うと、八人の子の顔が一斉に、伶羅ちゃんになった。
「これらは全て私の分身。雷羅のように、同じものが並んでも面白味に欠けると思い、変化させてみました」
すると八人の子は立ったまま動かず順番に、床から浮いたかんじで移動。
そのまま伶羅ちゃんの右から左から揃って身体を重ね、収まっていった。
なんか配慮してくれたらしいけど、雷羅ちゃんのときって、真っ暗だったからあんまりその実感がなかったのよね。
「それでは聖名夜様のために、別の催し物をご用意いたします。これは私にとっても最大級のもの。どうぞお楽しみください」
軽く一礼すると、伶羅ちゃんは姿を消した。
静まり返り、ポツンと一人、取り残されたかんじの聖名夜ちゃん。
「……」
再び緊張のときがやってきた。
……。
……。
……!
これは、人?
なんか整列しているものが現れた。
それも半端ない数。
一列十人で横に並んでいるけど、それが奥へ伸びていって三十くらいありそうだから、三百人はいる。
「は……」
そして、おなじような集団が、左右と後ろにも出現。
合計して千二百人くらいになった。
聖名夜ちゃんを中心に、先頭の列からは、どの方向にも二十メートルは離れてる。
数もすごいけど、その一人一人だって特徴がある。
簡単にいえば文字が詰まった伶羅ちゃんの容器。
制帽を被り、衣装を着た伶羅ちゃんの型をとって作った等身大のプラスチック容器に、水と色のついた漢字をたくさん入れて満杯にしたかんじ。
漢字は五センチほどの大きさで、一人につき一文字だけ大量にあって、偏ることなく全身を漂っている。
一文字だけだから、赤い色の『炎』だけとか、紫色の『雷』だけとか、そういうかんじで全員がなにかしらの色付き漢字を内包して整列してる。
これも伶羅ちゃんの分身ていうことになるのかな?
いずれにしろ、大規模魔法なのは確かね。
ピ──────────────────、ピ!
ホイッスルを合図に、ドラムが叩かれ、各種笛が吹かれていった。
球体の私にもすごく響く。
だって、およそ千二百人の大合奏だもんね。
曲名は分からないけど、マーチングなんかでよく聞く曲。
容器伶羅ちゃんたちは、みんな足を揃えて歩き始める。
て、あれ。
それぞれ担当する楽器を演奏する動作はしているけど、楽器が見当たらない。
演奏の迫力はあるけど、肝心の物がない。
どうなっているの?
とか考えているうちに、全校生徒を集めたかのような大集団がエア演奏をしながらこちらへ向かってくる。
「freeze !」
聖名夜ちゃんは正面の一団に凍結の魔法を放った。
本来なら放った先、直径五メートルくらいにあった伶羅ちゃんたちの動きを封じることができる。
でも、実際に凍結したのは五体。
あとは消滅したり効かなかったりと、バラバラの効果になった。
効かないのは分かるにしても消滅って、いや、そういうものではないはずなのよね。
そして、味方がやられても動じることなく、伶羅ちゃんたちは進んでくる。
……。
よく見ると凍結した伶羅ちゃん、それぞれの身体に、水、氷、土、雪、雨の漢字がある。
そして、効かなかった伶羅ちゃんは風、眠、吸、上、伏とか、凍結できないものを表す漢字になっている。
つまりこの伶羅ちゃん集団は、一人一人が漢字の意味する効果を持っているんだ。
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