君は少女をみたか!

一陽吉

文字の大きさ
上 下
24 / 51
三章 個人探求者

第13話 代わりの子、そして

しおりを挟む
 新しく現れたニニちゃんそっくりの女の子。

 しかも鉄摩テツマさん、その子をニニって呼んでた。

 いや、ニニちゃんはそこに倒れている子でしょう。

「ではニニ。その古いやつから球体あれを取り出してくれ」

「分かりました、父様」

 微笑んで言うと、その子は鉄摩さんの指示どおり、ニニちゃんの胸元を探って球体を取り出した。

「はい、父様」

「ご苦労様」

 お使いができて褒めているみたいになってるけど──。

「おい、待てよ」

 ほむらちゃんが言った。

「そこに倒れているのがニニじゃねえのか」

「ああ、確かに。ニニだ」

「なに?」

「いちいち名前をつけるのが面倒なので、私の助手は全てニニと呼んでいる。身長、容姿、体型も分かりやすく均一にしてね」

「分かりやすくだと?」

「そうとも。頭脳面でのサポートと使用実験が中心だからね。小型で製造しやすく、よしよしと頭を撫でてあげられるくらいがちょうどいい」

 それってつまり……。

「使い捨てできる代替可能な量産物。ニニという名前も文字の見た目と語感が気に入ってるからにすぎない。だから最初は、ミミというのも考えたんだが、耳や猫を連想していしまうからやめたよ」

 そう言って微笑む鉄摩さん。

 それじゃ、身体が新しくなっただけで、ニニちゃんの意識や魂はその子にあるってことなのかな。

「ただ、製造魂魄せいぞうこんぱくは一つの身体に固定される。そのため、この新しいニニは別の魂魄が使われている。つまり、身体が激しく損壊したり、魔力が尽きれば、造られた魂魄は維持できず崩壊。普通に死というわけだ」

 え?

「だからこうして、記憶を引き継がせ研究を続ける一方、余計な情報は削除というわけさ」

 言いながら、鉄摩さんは右手の人差し指を振ると、倒れているニニちゃんからその子、頭から頭へ光の粒が飛んでいった。

 ということは、その粒が記憶。

 ニニちゃんのところで弾ける粒もあったから、それが削除したものなんだ。

「ずいぶん、ベラベラとしゃべるじゃねえか。秘密なんだろう?」

 睨みつけるようにして言うほむらちゃん。

「なーに、構わんよ。似たようなことをしている者はいるし、具体的な製造方法に触れているわけじゃないからね」

「はい、父様」

「では、ニニ。第二ラウンドを始めようか。新しい制御装置はつけているね?」

「はい、父様」

「うんうん、いい子だね」

 言いながら鉄摩さんはその子の頭を撫でた。

「さっき暴走させといて、まだやる気か」

 ほむらちゃんは表情を変えないまま鉄摩さんに言った。

「もちろん。君が倒れるまで戦闘は続く。ニニはまだたくさんあるし、やるごとにデータが蓄積され分析や装置の開発が進む。ああ、この場所は気にすることはない。廃棄予定の場所だ。壊れ具合からもデータを取れるからね。存分に暴れてくれ」

 実験の再開を楽しみにしている感じで話す鉄摩さん。

 ……。

 ……。

 ……。

 なによ……、それ。

 ニニちゃん、苦しんでたじゃない。

 泣いて、叫んで、助けを求めてたじゃない。

 その子にも同じことをさせようと言うの?

 心は痛まないの?

 あのとき、ニニちゃんが何度も顔を向けたのは何でだと思う?

 止めてほしかったからよ。

 使い捨てできる代替可能な量産物?

 たくさんある?

 ふざけないで!

 ニニちゃんは、ニニちゃん。

 他の誰でもないでしょう。

 父さんなら、親なら、子供を守らなきゃ。

 ──私は父さんを知らない。

 私が産まれる前に去ったから。

 けどそれは見捨てたんじゃない。

 母さんと私を巻き込まないために去ったんだ。

 玄なんて力を得たために組織に使われ、自由のために抜け出したみたいだけど、それは人並みの幸せを望んでいたから。

 母さんと出会い、お祖父ちゃんの会社で働いていたことからも分かる。

 母さんは私を産んでから一人で育ててくれた。

 そりゃあ、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんの助力もあっただろうけど、私のために一生懸命に仕事をしていた。

 私と一緒に暮らすために。

 いつか父さんが帰ってくると信じて。

 私と状況が違うことは分かる。

 分かるけど、データのために見殺しにするような真似は絶対におかしい!

 許さない!

 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。

 許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。

 絶対に、許さない!

「落ち着け、優子─────────────────────!」

 は!?

 あ、あれ、私……。

 ……。

 ……。

 鉄摩さん、ニニちゃん、新しい子がいない。

 て、広場!

 マグマが噴出したみたいに、壁や床が溶けて赤くなってる。

 災害発生直後よ、これ。

 それも、

「はは……、ようやく気がついたか……」

 両膝をつき、両手で球体を握るほむらちゃん。

 その手が真っ赤に腫れている!

 え……。

 そんな……。

 まさか、私……。

 チカラが暴走してた?

 ああ……。

 ニニちゃんがあまりにも可哀そうで、鉄摩さんが許せなくて、カッとなった気持ちに球体が反応したんだ。

 鉄摩さんとかは逃げたけど、ほむらちゃんは暴走を止めようとして、使ったみたい。

 それは神様も焼き払うくらい強烈なやつ。

 そんな炎だから当然、使用者も容赦なく燃やすから加減の難しい、奥の手のようにしていたもの。

 それをほむらちゃんは……。

「気にするなよ、優子」

 え?

「お前の友達ダチなったときから、覚悟してた」

 でも……。

「さっきのだって、ニニが可哀そうで、頭にきたんだろう。分かってる」

 ……。

「力があるからって、それを汚れた欲望に使わず、弱い奴のためや理不尽に立ち向かうために使うお前を、俺は誇りに思う」

 ……。

「お前は太陽だ。闇を打ち払う光だ。涙や後悔は似合わねえ。それに一人じゃねえ。俺や聖名夜みなよがいる。友達がいること、忘れんなよ優子」

 ……。

 ……。

 ……。

 ほむらちゃん……。

 ありがとう……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた

羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件 借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!

処理中です...