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三章 個人探求者
第12話 消費される子
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「か、は……」
余裕の様子でいたニニちゃん。
右手で胸元を押さえ、苦しそうに両膝をついた。
その手のあたりから少し煙が出てる。
何か機械が壊れたかのように。
そして、ニニちゃんの身体から現れている玄のオーラも不安定に揺れている。
となると考えられのは、ニニちゃんも瑠羅ちゃんが言っていたような、造られた女の子でチカラを使いすぎたことによるもの。
でなければ、球体から玄を制御していた装置みたいなものが抑えきれなくなったか。
両方という可能性もあるわね。
いずれにしても、チカラを使い過ぎたことが原因だと思う。
私も父さんから素養を受け継がなければ、チカラを使ったときに飲み込まれ、消滅してたかもしれない。
「父様……」
呟くように言いながら鉄摩さんを見るニニちゃん。
「少々、制御装置に負荷がかかり過ぎたみたいだね。だが大丈夫。もう少し頑張ってみようか、ニニ」
にこやかに話す鉄摩さん。
「はい……、父様」
それを受けてニニちゃんは、胸元を押さえたまま、ゆっくりと立ち上がった。
そうか。
あそこに制御装置があるんだ。
身体に取りつけられているか、ネックレスみたいに首から下げているか分からないけど、煙はまだ出ていて、収まる気配がない。
「では、いきます……」
ニニちゃんは辛そうにしながらも、しっかりとほむらちゃんを見て言った。
「……」
本気の目で答える、ほむらちゃん。
「やああー!」
左手を振り、玄のオーラでできた巨人の手がほむらちゃんに掴みかかる。
ドオオーン!
「!?」
それに一番驚く、ニニちゃん。
放った巨人の左手は一直線に飛んで壁を叩き、大きな手形をつくった。
「くっ……」
気を取り直し、もう一度、左手を振るニニちゃん。
ドオオーーン!
今度は天井に大きな手形。
ほむらちゃんはパラパラと降ってくる破片を冷静に避けた。
「え、えーい。ええぇーい!」
諦めず、ニニちゃんは何度も左手を振り、玄の手を放つけど、それはほむらちゃんに向かうことなく、あたりの壁や床なんかに手形をつくっていった。
動かない方が安全のようにさえ思える。
それと、ニニちゃんの胸元からさらに煙が揺らめいている。
「気持ちを落ち着かせるんだ、ニニ。そうすれば制御できる」
その状況を見ても全く慌てないで、鉄摩さんはニニちゃんにアドバイスをした。
「はい、父様」
左手を振るのを止め、呼吸を整えようとするニニちゃん。
だけど──。
「?……」
玄の手が形成され、壁を叩いた。
それだけじゃない。
ニニちゃんの背後を起点に右から左から、次々と玄の手が生まれ、好き放題に床や壁、天井を叩いていく。
それらに意思は感じられない。
暴走しているんだ!
「と、止まって」
ニニちゃんは両手を胸元にあて、必死に抑えようとした。
ほむらちゃんは自分に向かってくるものだけを躱して対処。
上にいる鉄摩さん、玄の手がかすめても平然としている。
「ダメ、父様……。止まらない!」
「心配ないよ、ニニ。慌てることはない。落ち着いていこう」
涙目になって訴えるニニちゃんに、鉄摩さんは微笑んで答えた。
いや、微笑んでる場合じゃない。
緊急事態だ。
はやく何とかしないと、ニニちゃんが危ない!
「ではニニ。逆に発散させるんだ。力で力を制御してみよう」
「で、でも、父様……」
「苦しいのはいまだけだよ、ニニ」
「はい……。わかりました……。父様」
何か言いたそうにしながらも、それに従うニニちゃん。
それは無理だ。
火で火を消そうとしたり、水で水を止めようとするのと一緒。
いくら玄の自由度が高くても、そういった根本的なところは変わらない。
元を断たなければ。
「う、ううぅ……、うおおおぉー!」
絶叫とともにニニちゃんは改めて玄をボール形に展開。
自分の周囲から全方位で暴走を抑えようとしている。
外へ漏らさず内へ内へと縮小させて、そのまま球体へ帰すつもりみたい。
赤黒い霧に包まれたかんじでその姿が隠れていく。
小さくなっていくボール型の玄がニニちゃんの身長くらいになった瞬間──。
「きゃああ──!」
ニニちゃんの悲鳴と同時に、赤く飛び散るものが見えた。
あれは、血だ。
封じ込めようとした玄がニニちゃんに襲いかかっているんだ。
「いやあぁー! あ、ああああああああああああああああああああ!」
耳を塞ぎたくなる痛々しい悲鳴と出血。
ダメ!
死んじゃう!
「……」
助けたくてもあれが玄だから下手に手を出せず、苦々しい顔のほむらちゃん。
鉄摩さんは……。
笑ってる?
「痛い、痛いよ、父様! 父様!」
泣き叫びながらお父さんを呼ぶニニちゃん。
それでも鉄摩さんは動こうとしない。
そんな。
ニニちゃん、痛がってるよ。
泣いているよ。
苦しんでるよ。
父様って、呼んでるよ。
どうして動かないの……。
……。
そんなのだめだよ。
可哀そうだよ。
お父さんなんでしょ。
……。
……。
……。
やめて……。
やめて、やめて。
やめて、やめて、やめて。
やめて、やめて、やめて、やめて。
やめて─────────────────────!
……。
……。
……。
……。
ドサッ。
!?
ニニちゃん!
まわりにあった玄が消え、ニニちゃんが倒れた。
着ている白衣は赤く染まり、本来あるべき分のふくらみがなかった。
まるで握りつぶされたかのように。
「と……、父様……」
視点の定まらない目で涙を流し、呟くニニちゃん。
そこへ鉄摩さんが現れた。
「ご苦労様、ニニ。あとはゆっくり休むといいよ」
満面の笑みで労いの言葉をかける鉄摩さん。
「……」
ニニちゃんは動かず、沈黙。
触ったわけでもないのに、その身体は冷たくなったのが分かった。
「さて、ニニ」
「はい、父様」
すると鉄摩さんの横に、倒れているニニちゃんそっくりの白衣を着た女の子が現れた。
声まで同じ。
え、なに……、どういうこと?
余裕の様子でいたニニちゃん。
右手で胸元を押さえ、苦しそうに両膝をついた。
その手のあたりから少し煙が出てる。
何か機械が壊れたかのように。
そして、ニニちゃんの身体から現れている玄のオーラも不安定に揺れている。
となると考えられのは、ニニちゃんも瑠羅ちゃんが言っていたような、造られた女の子でチカラを使いすぎたことによるもの。
でなければ、球体から玄を制御していた装置みたいなものが抑えきれなくなったか。
両方という可能性もあるわね。
いずれにしても、チカラを使い過ぎたことが原因だと思う。
私も父さんから素養を受け継がなければ、チカラを使ったときに飲み込まれ、消滅してたかもしれない。
「父様……」
呟くように言いながら鉄摩さんを見るニニちゃん。
「少々、制御装置に負荷がかかり過ぎたみたいだね。だが大丈夫。もう少し頑張ってみようか、ニニ」
にこやかに話す鉄摩さん。
「はい……、父様」
それを受けてニニちゃんは、胸元を押さえたまま、ゆっくりと立ち上がった。
そうか。
あそこに制御装置があるんだ。
身体に取りつけられているか、ネックレスみたいに首から下げているか分からないけど、煙はまだ出ていて、収まる気配がない。
「では、いきます……」
ニニちゃんは辛そうにしながらも、しっかりとほむらちゃんを見て言った。
「……」
本気の目で答える、ほむらちゃん。
「やああー!」
左手を振り、玄のオーラでできた巨人の手がほむらちゃんに掴みかかる。
ドオオーン!
「!?」
それに一番驚く、ニニちゃん。
放った巨人の左手は一直線に飛んで壁を叩き、大きな手形をつくった。
「くっ……」
気を取り直し、もう一度、左手を振るニニちゃん。
ドオオーーン!
今度は天井に大きな手形。
ほむらちゃんはパラパラと降ってくる破片を冷静に避けた。
「え、えーい。ええぇーい!」
諦めず、ニニちゃんは何度も左手を振り、玄の手を放つけど、それはほむらちゃんに向かうことなく、あたりの壁や床なんかに手形をつくっていった。
動かない方が安全のようにさえ思える。
それと、ニニちゃんの胸元からさらに煙が揺らめいている。
「気持ちを落ち着かせるんだ、ニニ。そうすれば制御できる」
その状況を見ても全く慌てないで、鉄摩さんはニニちゃんにアドバイスをした。
「はい、父様」
左手を振るのを止め、呼吸を整えようとするニニちゃん。
だけど──。
「?……」
玄の手が形成され、壁を叩いた。
それだけじゃない。
ニニちゃんの背後を起点に右から左から、次々と玄の手が生まれ、好き放題に床や壁、天井を叩いていく。
それらに意思は感じられない。
暴走しているんだ!
「と、止まって」
ニニちゃんは両手を胸元にあて、必死に抑えようとした。
ほむらちゃんは自分に向かってくるものだけを躱して対処。
上にいる鉄摩さん、玄の手がかすめても平然としている。
「ダメ、父様……。止まらない!」
「心配ないよ、ニニ。慌てることはない。落ち着いていこう」
涙目になって訴えるニニちゃんに、鉄摩さんは微笑んで答えた。
いや、微笑んでる場合じゃない。
緊急事態だ。
はやく何とかしないと、ニニちゃんが危ない!
「ではニニ。逆に発散させるんだ。力で力を制御してみよう」
「で、でも、父様……」
「苦しいのはいまだけだよ、ニニ」
「はい……。わかりました……。父様」
何か言いたそうにしながらも、それに従うニニちゃん。
それは無理だ。
火で火を消そうとしたり、水で水を止めようとするのと一緒。
いくら玄の自由度が高くても、そういった根本的なところは変わらない。
元を断たなければ。
「う、ううぅ……、うおおおぉー!」
絶叫とともにニニちゃんは改めて玄をボール形に展開。
自分の周囲から全方位で暴走を抑えようとしている。
外へ漏らさず内へ内へと縮小させて、そのまま球体へ帰すつもりみたい。
赤黒い霧に包まれたかんじでその姿が隠れていく。
小さくなっていくボール型の玄がニニちゃんの身長くらいになった瞬間──。
「きゃああ──!」
ニニちゃんの悲鳴と同時に、赤く飛び散るものが見えた。
あれは、血だ。
封じ込めようとした玄がニニちゃんに襲いかかっているんだ。
「いやあぁー! あ、ああああああああああああああああああああ!」
耳を塞ぎたくなる痛々しい悲鳴と出血。
ダメ!
死んじゃう!
「……」
助けたくてもあれが玄だから下手に手を出せず、苦々しい顔のほむらちゃん。
鉄摩さんは……。
笑ってる?
「痛い、痛いよ、父様! 父様!」
泣き叫びながらお父さんを呼ぶニニちゃん。
それでも鉄摩さんは動こうとしない。
そんな。
ニニちゃん、痛がってるよ。
泣いているよ。
苦しんでるよ。
父様って、呼んでるよ。
どうして動かないの……。
……。
そんなのだめだよ。
可哀そうだよ。
お父さんなんでしょ。
……。
……。
……。
やめて……。
やめて、やめて。
やめて、やめて、やめて。
やめて、やめて、やめて、やめて。
やめて─────────────────────!
……。
……。
……。
……。
ドサッ。
!?
ニニちゃん!
まわりにあった玄が消え、ニニちゃんが倒れた。
着ている白衣は赤く染まり、本来あるべき分のふくらみがなかった。
まるで握りつぶされたかのように。
「と……、父様……」
視点の定まらない目で涙を流し、呟くニニちゃん。
そこへ鉄摩さんが現れた。
「ご苦労様、ニニ。あとはゆっくり休むといいよ」
満面の笑みで労いの言葉をかける鉄摩さん。
「……」
ニニちゃんは動かず、沈黙。
触ったわけでもないのに、その身体は冷たくなったのが分かった。
「さて、ニニ」
「はい、父様」
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