16 / 51
三章 個人探求者
第5話 銀狼の子
しおりを挟む
「玄は、奥深い、深淵などの意味があり、特に魔法に関しては魔力より深く、上位のものとして知られている」
ニニちゃんの言葉を受け継ぎ、話し出す鉄摩さん。
「簡単にいえば魔法版の原油だ。そして魔力より上位であるため、魔法を支配することも可能。混沌としたものであるため、応用範囲は限りなく、いかなるものにもなり得るし、いかなるものにも成しえない、神秘的自由の力」
……。
「しかし、その力は制御が難しいどころか、発現が極めて稀。しかも得ようとして得られるものではない。おそらく全世界七十八億人の内でも一人。千年に一人、発現するかどうかだろう。わずかな書物にしか書き残されなかった、まさに伝説級の力。ただ、二十年ほど前、どこぞの組織が玄の使い手を生み出したという噂があったが、球体は、それと関係あるのかな?」
鉄摩さんは試すように、ほむらちゃんを見た。
「……」
目を鋭くしたまま、ほむらちゃんは答えない。
「なるほど。いずれにしろ、そんな力が転がり込んできたんだから、魔導工学の探求者として手放したくない。たとえ君の友達が困るとしてもね。そこで提案する。再び、うちの娘と戦いたまえ」
「なに?」
「君は話す気がないようだし、お互い球体は欲しい。ならば戦いで決着をつけるのが手っ取り早いだろう」
「……」
「君が勝てば球体を持つ、ニニへの道を繋ごう。だが、うちの娘が勝てば君の持つ球体をいただこう。どうかね?」
確かに、渡す気がないなら、想定していたとおり戦うしかないけど、向こうから提案されるなんて思わなかった。
しかも道を繋ぐって、勝ったらすぐに渡すわけでもないようだけど。
「ああ、インチキのような真似はせんよ。それに、こちらが勝った際、君には魔法をかけるから」
魔法?
「逃げなれないように服従の魔法をかける。この状態でもそうだし、戦ってもインチキをしたからと思えば魔法はかからないが、正々堂々と負けたという事実を前にすれば、抵抗力は弱くなる。自分には嘘をつけないからね。さきほど利羅との戦いで君の素性はだいたい見当がついている。こちらとしても対策を講じなければならない」
服従の魔法なんて発想が出てくるくらいだから、鉄摩さん、過去にも経験があるんだろう。
聞いた話しだけど、魔法に精通している人は、他者から魔法をかけられないように精神防御を展開しているみたい。
だけどそれは精神によるものだから、動揺したりして心が乱されれば、その防御や抵抗力は弱くなるらしい。
だから、心を揺さぶる状況を作って、確実に魔法をかけるつもりなんだ。
逃げられないようにって言ってるけど、それだけじゃなく、全て聞き出すに決まってる。
それに、ほむらちゃんのことも言ってる。
はったりかもしれないけど、気をつけて。
「分かった。だが、俺が勝っても言うとおりにならなかった場合は暴れさせてもらうぜ」
「いいだろう。では、私とニニは引き上げさせていただく。瑠羅、あとは頼んだよ」
「はい、父様」
瑠羅ちゃんが静かに答えると、鉄摩さんとニニちゃんはその場から消えた。
立体映像だから、立ち去ったというよりは、消えたが正解よね。
戦う以上、あとは勝つだけ。
頑張って、ほむらちゃん!
「で、誰が俺の相手をするんだ?」
ほむらちゃんが瑠羅ちゃんに訊いた。
「いま呼ぶわ」
そう言うと、ほむらちゃんの目の前、五メートルくらいのところで一人の女が現れた。
銀髪で、黒革のジャケットに銀のインナー、黒のデニムパンツに黒のスニーカーを履いている。
そして、きれいな褐色の肌。
身長は百八十センチくらいあるんじゃないかな。
なんか狼って雰囲気がある。
歳は、十八?
たぶん大人ではないと思う。
「俺の名は工堂狼羅。楽しもうぜ」
そう言いながら銀髪の彼女、狼羅ちゃんはバシッと右拳を左手に打った。
獣のように瞳が細いこともあって好戦的みたいだわ。
武器のようなものは見当たらないし、この様子だと素手で戦うのかな。
「狼羅、ちょっと待って。いま補強するわ」
瑠羅ちゃんがまた合掌ポーズをすると、ツインテールの先から光の髪が伸びた。
利羅ちゃんと戦った時と同じく、結界を張ったんだ。
見えないけど、今回は補強って言ってたから、壁や床、天井に沿うかたちで展開したんだと思う。
どのくらいか分からないけど、かなり厚そうなコンクリートを補強って、壊れる可能性があるからしているのよね。
ほむらちゃんの戦い方はさっき見て知っているだろうから、これは狼羅ちゃん対策。
勢いあまって壊すかもしれないからだ。
てことは狼羅ちゃん、パワー系の戦い方をするんだわ。
「さあ、いいわよ」
「よっしゃー!」
許可がでて、気合いの雄たけびをあげる狼羅ちゃん。
魔力が全身を駆け巡り、同時に髪の襟足から白い光の髪が伸びた。
そもそもショートで襟足だけのウルフカットの髪型だったから尻尾が長くなったみたい。
確信したわ。
これは共通のシステムなんだ。
「俺の準備はいいぜ、お前はどうだ?」
「俺はいつでもいいぜ」
狼羅ちゃんの確認に、構えながら答えるほむらちゃん。
どちらも自分の事を、俺っていうから、ちょっと紛らわしいわね。
「そんじゃ、いくぜ!」
右拳を振り上げ、狼羅ちゃんは勢いよく跳び込んできた。
ニニちゃんの言葉を受け継ぎ、話し出す鉄摩さん。
「簡単にいえば魔法版の原油だ。そして魔力より上位であるため、魔法を支配することも可能。混沌としたものであるため、応用範囲は限りなく、いかなるものにもなり得るし、いかなるものにも成しえない、神秘的自由の力」
……。
「しかし、その力は制御が難しいどころか、発現が極めて稀。しかも得ようとして得られるものではない。おそらく全世界七十八億人の内でも一人。千年に一人、発現するかどうかだろう。わずかな書物にしか書き残されなかった、まさに伝説級の力。ただ、二十年ほど前、どこぞの組織が玄の使い手を生み出したという噂があったが、球体は、それと関係あるのかな?」
鉄摩さんは試すように、ほむらちゃんを見た。
「……」
目を鋭くしたまま、ほむらちゃんは答えない。
「なるほど。いずれにしろ、そんな力が転がり込んできたんだから、魔導工学の探求者として手放したくない。たとえ君の友達が困るとしてもね。そこで提案する。再び、うちの娘と戦いたまえ」
「なに?」
「君は話す気がないようだし、お互い球体は欲しい。ならば戦いで決着をつけるのが手っ取り早いだろう」
「……」
「君が勝てば球体を持つ、ニニへの道を繋ごう。だが、うちの娘が勝てば君の持つ球体をいただこう。どうかね?」
確かに、渡す気がないなら、想定していたとおり戦うしかないけど、向こうから提案されるなんて思わなかった。
しかも道を繋ぐって、勝ったらすぐに渡すわけでもないようだけど。
「ああ、インチキのような真似はせんよ。それに、こちらが勝った際、君には魔法をかけるから」
魔法?
「逃げなれないように服従の魔法をかける。この状態でもそうだし、戦ってもインチキをしたからと思えば魔法はかからないが、正々堂々と負けたという事実を前にすれば、抵抗力は弱くなる。自分には嘘をつけないからね。さきほど利羅との戦いで君の素性はだいたい見当がついている。こちらとしても対策を講じなければならない」
服従の魔法なんて発想が出てくるくらいだから、鉄摩さん、過去にも経験があるんだろう。
聞いた話しだけど、魔法に精通している人は、他者から魔法をかけられないように精神防御を展開しているみたい。
だけどそれは精神によるものだから、動揺したりして心が乱されれば、その防御や抵抗力は弱くなるらしい。
だから、心を揺さぶる状況を作って、確実に魔法をかけるつもりなんだ。
逃げられないようにって言ってるけど、それだけじゃなく、全て聞き出すに決まってる。
それに、ほむらちゃんのことも言ってる。
はったりかもしれないけど、気をつけて。
「分かった。だが、俺が勝っても言うとおりにならなかった場合は暴れさせてもらうぜ」
「いいだろう。では、私とニニは引き上げさせていただく。瑠羅、あとは頼んだよ」
「はい、父様」
瑠羅ちゃんが静かに答えると、鉄摩さんとニニちゃんはその場から消えた。
立体映像だから、立ち去ったというよりは、消えたが正解よね。
戦う以上、あとは勝つだけ。
頑張って、ほむらちゃん!
「で、誰が俺の相手をするんだ?」
ほむらちゃんが瑠羅ちゃんに訊いた。
「いま呼ぶわ」
そう言うと、ほむらちゃんの目の前、五メートルくらいのところで一人の女が現れた。
銀髪で、黒革のジャケットに銀のインナー、黒のデニムパンツに黒のスニーカーを履いている。
そして、きれいな褐色の肌。
身長は百八十センチくらいあるんじゃないかな。
なんか狼って雰囲気がある。
歳は、十八?
たぶん大人ではないと思う。
「俺の名は工堂狼羅。楽しもうぜ」
そう言いながら銀髪の彼女、狼羅ちゃんはバシッと右拳を左手に打った。
獣のように瞳が細いこともあって好戦的みたいだわ。
武器のようなものは見当たらないし、この様子だと素手で戦うのかな。
「狼羅、ちょっと待って。いま補強するわ」
瑠羅ちゃんがまた合掌ポーズをすると、ツインテールの先から光の髪が伸びた。
利羅ちゃんと戦った時と同じく、結界を張ったんだ。
見えないけど、今回は補強って言ってたから、壁や床、天井に沿うかたちで展開したんだと思う。
どのくらいか分からないけど、かなり厚そうなコンクリートを補強って、壊れる可能性があるからしているのよね。
ほむらちゃんの戦い方はさっき見て知っているだろうから、これは狼羅ちゃん対策。
勢いあまって壊すかもしれないからだ。
てことは狼羅ちゃん、パワー系の戦い方をするんだわ。
「さあ、いいわよ」
「よっしゃー!」
許可がでて、気合いの雄たけびをあげる狼羅ちゃん。
魔力が全身を駆け巡り、同時に髪の襟足から白い光の髪が伸びた。
そもそもショートで襟足だけのウルフカットの髪型だったから尻尾が長くなったみたい。
確信したわ。
これは共通のシステムなんだ。
「俺の準備はいいぜ、お前はどうだ?」
「俺はいつでもいいぜ」
狼羅ちゃんの確認に、構えながら答えるほむらちゃん。
どちらも自分の事を、俺っていうから、ちょっと紛らわしいわね。
「そんじゃ、いくぜ!」
右拳を振り上げ、狼羅ちゃんは勢いよく跳び込んできた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた
羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件
借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる