君は少女をみたか!

一陽吉

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三章 個人探求者

第5話 銀狼の子

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げんは、奥深い、深淵しんえんなどの意味があり、特に魔法に関しては魔力より深く、上位のものとして知られている」

 ニニちゃんの言葉を受け継ぎ、話し出す鉄摩テツマさん。

「簡単にいえば魔法版の原油だ。そして魔力より上位であるため、魔法を支配することも可能。混沌としたものであるため、応用範囲は限りなく、いかなるものにもなり得るし、いかなるものにも成しえない、神秘的自由の力」

 ……。

「しかし、その力は制御が難しいどころか、発現が極めてまれ。しかも得ようとして得られるものではない。おそらく全世界七十八億人の内でも一人。千年に一人、発現するかどうかだろう。わずかな書物にしか書き残されなかった、まさに伝説級の力。ただ、二十年ほど前、どこぞの組織が玄の使い手を生み出したという噂があったが、球体これは、それと関係あるのかな?」

 鉄摩さんは試すように、ほむらちゃんを見た。

「……」

 目を鋭くしたまま、ほむらちゃんは答えない。

「なるほど。いずれにしろ、そんな力が転がり込んできたんだから、魔導工学の探求者として手放したくない。たとえ君の友達が困るとしてもね。そこで提案する。再び、うちのと戦いたまえ」

「なに?」

「君は話す気がないようだし、お互い球体は欲しい。ならば戦いで決着をつけるのが手っ取り早いだろう」

「……」

「君が勝てば球体を持つ、ニニへの道を繋ごう。だが、うちの娘が勝てば君の持つ球体をいただこう。どうかね?」

 確かに、渡す気がないなら、想定していたとおり戦うしかないけど、向こうから提案されるなんて思わなかった。

 しかも道を繋ぐって、勝ったらすぐに渡すわけでもないようだけど。

「ああ、インチキのような真似はせんよ。それに、こちらが勝った際、君には魔法をかけるから」

 魔法?

「逃げなれないように服従の魔法をかける。この状態でもそうだし、戦ってもインチキをしたからと思えば魔法はかからないが、正々堂々と負けたという事実を前にすれば、抵抗力は弱くなる。自分には嘘をつけないからね。さきほど利羅リラとの戦いで君の素性はだいたい見当がついている。こちらとしても対策を講じなければならない」

 服従の魔法なんて発想が出てくるくらいだから、鉄摩さん、過去にも経験があるんだろう。

 聞いた話しだけど、魔法に精通している人は、他者から魔法をかけられないように精神防御を展開しているみたい。

 だけどそれは精神によるものだから、動揺したりして心が乱されれば、その防御や抵抗力は弱くなるらしい。

 だから、心を揺さぶる状況を作って、確実に魔法をかけるつもりなんだ。

 逃げられないようにって言ってるけど、それだけじゃなく、全て聞き出すに決まってる。

 それに、ほむらちゃんのことも言ってる。

 はったりかもしれないけど、気をつけて。

「分かった。だが、俺が勝っても言うとおりにならなかった場合は暴れさせてもらうぜ」

「いいだろう。では、私とニニは引き上げさせていただく。瑠羅ルラ、あとは頼んだよ」

「はい、父様」

 瑠羅ちゃんが静かに答えると、鉄摩さんとニニちゃんはその場から消えた。

 立体映像だから、立ち去ったというよりは、消えたが正解よね。

 戦う以上、あとは勝つだけ。

 頑張って、ほむらちゃん!

「で、誰が俺の相手をするんだ?」

 ほむらちゃんが瑠羅ちゃんに訊いた。

「いま呼ぶわ」

 そう言うと、ほむらちゃんの目の前、五メートルくらいのところで一人のおんなのこが現れた。

 銀髪で、黒革のジャケットに銀のインナー、黒のデニムパンツに黒のスニーカーを履いている。

 そして、きれいな褐色の肌。

 身長は百八十センチくらいあるんじゃないかな。

 なんか狼って雰囲気がある。

 歳は、十八?

 たぶん大人ではないと思う。

「俺の名は工堂狼羅クドウロウラ。楽しもうぜ」

 そう言いながら銀髪の彼女、狼羅ちゃんはバシッと右拳を左手に打った。

 獣のように瞳が細いこともあって好戦的みたいだわ。

 武器のようなものは見当たらないし、この様子だと素手で戦うのかな。

「狼羅、ちょっと待って。いま補強するわ」

 瑠羅ちゃんがまた合掌ポーズをすると、ツインテールの先から光の髪が伸びた。

 利羅ちゃんと戦った時と同じく、結界を張ったんだ。

 見えないけど、今回は補強って言ってたから、壁や床、天井に沿うかたちで展開したんだと思う。

 どのくらいか分からないけど、かなり厚そうなコンクリートを補強って、壊れる可能性があるからしているのよね。

 ほむらちゃんの戦い方はさっき見て知っているだろうから、これは狼羅ちゃん対策。

 勢いあまって壊すかもしれないからだ。

 てことは狼羅ちゃん、パワー系の戦い方をするんだわ。

「さあ、いいわよ」

「よっしゃー!」

 許可がでて、気合いの雄たけびをあげる狼羅ちゃん。

 魔力が全身を駆け巡り、同時に髪の襟足から白い光の髪が伸びた。

 そもそもショートで襟足だけのウルフカットの髪型だったから尻尾が長くなったみたい。

 確信したわ。

 これは共通のシステムなんだ。

「俺の準備はいいぜ、お前はどうだ?」

「俺はいつでもいいぜ」

 狼羅ちゃんの確認に、構えながら答えるほむらちゃん。

 どちらも自分の事を、俺っていうから、ちょっと紛らわしいわね。

「そんじゃ、いくぜ!」

 右拳を振り上げ、狼羅ちゃんは勢いよく跳び込んできた。
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