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二章 ミストアイドル
第3話 レッドナース
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危険を感じ、後ろへ下がる聖名夜ちゃん。
「!?」
すると、香澄ちゃんの背後から赤い包帯がいくつも現れて、身体に巻きついていった。
「……」
声も出せないまま、驚いた瞬間を閉じ込めるように、髪や衣装、肌が覆われていく。
包帯が巻ききると、香澄ちゃんはバランスを崩して後ろへ倒れた。
その形はまさに赤いミイラといった感じ。
そして手を伸ばしたまま幽体離脱のようにして残ったのは、一人の女性看護師。
ナースキャップに、ワンピースタイプのナース服をしているからそうだと思うけど、正直、疑わしくもある。
だって、キャップも服も真っ赤だし、黒いラインやリボンの服飾があって実用性が感じられない。
そしてその顔は、二十代なかばくらいに見える大人の香澄ちゃん。
「これは渡せないなあ」
球体を握りしめてニヤッと笑う彼女。
「あなたは……」
左手のステッキを構え、問いかける聖名夜ちゃん。
「わたし? わたしは香澄よ。本音の香澄。あっちは可能性の香澄よ」
アイドルの香澄ちゃんを見やりながら言う、大人の香澄ちゃん。
そのアイドルの香澄ちゃん、顔も包帯で巻かれたまま動かないんだけど……。
「ちょっかい出されないようにしてるだけよ。死にはしない」
ほっ。
ならいいんだけど。
いや、よくないか。
「可能性ですって。しかもその力……」
「将来を決める際、歌か医療かで、わたしはこっちを選んだ。だけど医療を辞めて歌手になる可能性もまだ残っている。そういう事よ。アイドルのイメージが強いから若いしあの格好。それと、力に関しては感じたでしょう?」
「……」
聖名夜ちゃん、思わず右手を握った。
「スキル・ヴァンパイア。吸血鬼の能力が使える、ただの人間よ。食事は普通。それに吸血といっても傷をつけずに血を抜くことができるだけ。今なら何か変わったのかもと思ったけどね」
そう言って右手の人差し指を口元にあてる大人の香澄ちゃん。
アイドルの香澄ちゃんが球体を渡そうとしたとき、聖名夜ちゃんの血を抜き取ったんだ。
でもその様子から、血を抜き取るだけで、魔力を得るとか糧にするとか、そういうことはできないみたい。
「球体は渡さないと言ったわね。目的はなに?」
あらためて聖名夜ちゃんは問いかける。
「これを持っていると力が増幅されるのよね。わたしのスキル・ヴァンパイアだってここまでの力はなかった。だから、これをもって、より多くの人を助けようと思うの」
「助ける?」
「そう。さっきみたいに真夜中のライブをして元気づけようってわけ」
「ライブって言うけど、それができるとは思えないわね」
聖名夜ちゃんの言うとおり。
アイドルの香澄ちゃんを包帯でぐるぐる巻きにしているくらいだから、素直に歌うものとは考えられない。
それとも、大人の香澄ちゃんが歌うつもりなのかな?
「まあ、このままだったらね。わたしは歌えないし、あっちの香澄だって拒否する。けど、そのときはお注射して歌ってもらうわ」
言いながら仕草をする大人の香澄ちゃん。
つまり、アイドルの香澄ちゃんに無理矢理、歌わせるつもりなんだ。
「歌わせられたものが相手の心に響くことはない。そしてそれは友達を助けるために必要なもの。渡すわけにはいかないわ!」
ビシッと言い放つ聖名夜ちゃん。
人には心がある。
相手を思いやる心があるから相手の心に伝わるんだ。
心が無ければ伝わらない。
「フ、フフフフ……」
それがどうしたの、みたいに大人の香澄ちゃんは笑い出す。
「わたし思うんだけど、これがなければお友達は元に戻らないんでしょう? それに二個あると、より力が増幅さるんじゃない?」
!
「わたしがあなたのも、もらってあげる!」
大人の香澄ちゃんが両腕を交差させると、空中から赤い包帯が飛び出した。
十本くらいの包帯は蛇みたいな軌跡を描きながら聖名夜ちゃんに巻きつこうと襲いかかる。
「!」
横へ跳んで躱しつつ精神を集中させる聖名夜ちゃん。
「freeze!」
完璧な発音で言うのと同時に、全部の包帯が凍りついて止まった。
「break!」
着地して声を発するとその氷たちは砕け、欠片も残さず全てが消えていった。
聖名夜ちゃんの氷聖魔法。
氷結を中心とした水属性の魔法で、何もないところから水を現し操ることができる、お母さん譲りのもの。
しかも、呪文ではなく単語で効果を発揮するから、すぐに対応できる。
「やるわね。でも、これなどうかしら!」
言いながら右手を上げる大人の香澄ちゃん。
すると今度は聖名夜ちゃんの頭上からたくさんの包帯が降ってきた!
「wall!」
すかさず四角い氷の壁を展開して傘にすると、再び横へ跳んでその場を離れる聖名夜ちゃん。
氷の壁に阻まれた包帯はそれで終わらず、追撃してくる。
「ほうら!」
大人の香澄ちゃんが右手を横に振ると、また空間から包帯の群れが飛び出した。
まずい、挟み撃ちだ!
「!」
聖名夜ちゃんは左手のステッキを突き立て、逆立ちする格好から一回転。
空中へ飛んで逃れた。
「freeze & break!」
残されたステッキを中心に包帯どおしが激突して、からみあったところを聖名夜ちゃんが一気に氷結。
氷漬けになった包帯はパーンと砕け散り、空中で消えていった。
そのステッキも、いま行きます、とばかりに飛んで聖名夜ちゃんの左手に納まった。
あの包帯、一回当たりに出せるのは、だいたい十本みたいね。
全部の攻撃がそうだった。
ある程度は連続でやれそうだし、一本でも巻きつけばそこから次々と動きを封じられていく。
だから聖名夜ちゃんは全方位で避けることができて、対応ができる空中へ移動したのね。
これなら大丈夫。
「!?」
すると、香澄ちゃんの背後から赤い包帯がいくつも現れて、身体に巻きついていった。
「……」
声も出せないまま、驚いた瞬間を閉じ込めるように、髪や衣装、肌が覆われていく。
包帯が巻ききると、香澄ちゃんはバランスを崩して後ろへ倒れた。
その形はまさに赤いミイラといった感じ。
そして手を伸ばしたまま幽体離脱のようにして残ったのは、一人の女性看護師。
ナースキャップに、ワンピースタイプのナース服をしているからそうだと思うけど、正直、疑わしくもある。
だって、キャップも服も真っ赤だし、黒いラインやリボンの服飾があって実用性が感じられない。
そしてその顔は、二十代なかばくらいに見える大人の香澄ちゃん。
「これは渡せないなあ」
球体を握りしめてニヤッと笑う彼女。
「あなたは……」
左手のステッキを構え、問いかける聖名夜ちゃん。
「わたし? わたしは香澄よ。本音の香澄。あっちは可能性の香澄よ」
アイドルの香澄ちゃんを見やりながら言う、大人の香澄ちゃん。
そのアイドルの香澄ちゃん、顔も包帯で巻かれたまま動かないんだけど……。
「ちょっかい出されないようにしてるだけよ。死にはしない」
ほっ。
ならいいんだけど。
いや、よくないか。
「可能性ですって。しかもその力……」
「将来を決める際、歌か医療かで、わたしはこっちを選んだ。だけど医療を辞めて歌手になる可能性もまだ残っている。そういう事よ。アイドルのイメージが強いから若いしあの格好。それと、力に関しては感じたでしょう?」
「……」
聖名夜ちゃん、思わず右手を握った。
「スキル・ヴァンパイア。吸血鬼の能力が使える、ただの人間よ。食事は普通。それに吸血といっても傷をつけずに血を抜くことができるだけ。今なら何か変わったのかもと思ったけどね」
そう言って右手の人差し指を口元にあてる大人の香澄ちゃん。
アイドルの香澄ちゃんが球体を渡そうとしたとき、聖名夜ちゃんの血を抜き取ったんだ。
でもその様子から、血を抜き取るだけで、魔力を得るとか糧にするとか、そういうことはできないみたい。
「球体は渡さないと言ったわね。目的はなに?」
あらためて聖名夜ちゃんは問いかける。
「これを持っていると力が増幅されるのよね。わたしのスキル・ヴァンパイアだってここまでの力はなかった。だから、これをもって、より多くの人を助けようと思うの」
「助ける?」
「そう。さっきみたいに真夜中のライブをして元気づけようってわけ」
「ライブって言うけど、それができるとは思えないわね」
聖名夜ちゃんの言うとおり。
アイドルの香澄ちゃんを包帯でぐるぐる巻きにしているくらいだから、素直に歌うものとは考えられない。
それとも、大人の香澄ちゃんが歌うつもりなのかな?
「まあ、このままだったらね。わたしは歌えないし、あっちの香澄だって拒否する。けど、そのときはお注射して歌ってもらうわ」
言いながら仕草をする大人の香澄ちゃん。
つまり、アイドルの香澄ちゃんに無理矢理、歌わせるつもりなんだ。
「歌わせられたものが相手の心に響くことはない。そしてそれは友達を助けるために必要なもの。渡すわけにはいかないわ!」
ビシッと言い放つ聖名夜ちゃん。
人には心がある。
相手を思いやる心があるから相手の心に伝わるんだ。
心が無ければ伝わらない。
「フ、フフフフ……」
それがどうしたの、みたいに大人の香澄ちゃんは笑い出す。
「わたし思うんだけど、これがなければお友達は元に戻らないんでしょう? それに二個あると、より力が増幅さるんじゃない?」
!
「わたしがあなたのも、もらってあげる!」
大人の香澄ちゃんが両腕を交差させると、空中から赤い包帯が飛び出した。
十本くらいの包帯は蛇みたいな軌跡を描きながら聖名夜ちゃんに巻きつこうと襲いかかる。
「!」
横へ跳んで躱しつつ精神を集中させる聖名夜ちゃん。
「freeze!」
完璧な発音で言うのと同時に、全部の包帯が凍りついて止まった。
「break!」
着地して声を発するとその氷たちは砕け、欠片も残さず全てが消えていった。
聖名夜ちゃんの氷聖魔法。
氷結を中心とした水属性の魔法で、何もないところから水を現し操ることができる、お母さん譲りのもの。
しかも、呪文ではなく単語で効果を発揮するから、すぐに対応できる。
「やるわね。でも、これなどうかしら!」
言いながら右手を上げる大人の香澄ちゃん。
すると今度は聖名夜ちゃんの頭上からたくさんの包帯が降ってきた!
「wall!」
すかさず四角い氷の壁を展開して傘にすると、再び横へ跳んでその場を離れる聖名夜ちゃん。
氷の壁に阻まれた包帯はそれで終わらず、追撃してくる。
「ほうら!」
大人の香澄ちゃんが右手を横に振ると、また空間から包帯の群れが飛び出した。
まずい、挟み撃ちだ!
「!」
聖名夜ちゃんは左手のステッキを突き立て、逆立ちする格好から一回転。
空中へ飛んで逃れた。
「freeze & break!」
残されたステッキを中心に包帯どおしが激突して、からみあったところを聖名夜ちゃんが一気に氷結。
氷漬けになった包帯はパーンと砕け散り、空中で消えていった。
そのステッキも、いま行きます、とばかりに飛んで聖名夜ちゃんの左手に納まった。
あの包帯、一回当たりに出せるのは、だいたい十本みたいね。
全部の攻撃がそうだった。
ある程度は連続でやれそうだし、一本でも巻きつけばそこから次々と動きを封じられていく。
だから聖名夜ちゃんは全方位で避けることができて、対応ができる空中へ移動したのね。
これなら大丈夫。
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