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第3話 戦夜・始ノ時
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「来ちゃったわね、イブ」
「そうね、ヤエ」
館のエントランスにて、来客を見ながらイブとヤエが言った。
外界との扉から現れたのは二体一組の招かざる客。
どちらも身長が二メートル程度あり、大人の女性といった姿をしているが、両肘両膝の先が大きな翼となっている。
豊満な胸と股間部は左右から小さな翼が包み、それ以外は裸身という格好だった。
髪はなく、顔だちも整っているが眼球はなく、口も開くことがない。
なぜなら、向かって右側は象牙色の、左側は淡灰色の肌をした、硬い石像であるからだ。
色以外、全て同一である来客、四翼の女像は床から五十センチほど浮いて、立っているような状態だった。
「人に非ず者よ。当館に何用か」
静かな声でヤエが言った。
「この館にとてつもない力を持ったものがあるでしょう?」
「それをもらいに来たの」
脳に直接響く念話の声。
右から左へ言葉を繋いで答えると、右側、象牙色の女像が右腕の翼から桜の花びらを一枚出して見せた。
淡いピンクの花びらは魔力ともつかぬ神秘的な力を放ち、単純な樹木からのものではないことを表していた。
「なるほど」
「その力を得て、あなたたちは何をするつもり?」
納得といった表情のヤエから、イブが女像に問いかけた。
「私たち、子供がほしいの」
「子供?」
揃って答える女像と同じく、揃って反応する少女。
「そうよ。私たち、どんなに愛しあっても肉体ではないし、生殖器もない」
「でもこの力さえあれば、二人の愛の証、子供ができる」
そう言って下腹部を触る二体。
お互いがお互いの子を産むつもりのようだ。
「目的は分かったわ」
「だが非ず者よ、精霊でもないあなたたちが存在するには糧となるものが必要になるはず」
「察しはつくが────」
「ええ、人間の命よ」
ヤエが言い終えるより早く、二体が言った。
「でも安心して。肉を食い散らかすわけではなく、生命力を吸い取るだけ」
「死体はとてもきれいよ」
「……」
人の命はあくまで食糧であり、そこにある心など女像は気にもとめていない。
────すると、館の奥から小さな風が吹き、女像の持つ花びらを飛ばした。
「あら?」
「まあいいじゃない。力さえ手に入れば」
大したことではないという女像と違い、少女たちの目が鋭くなった。
「非ず者よ、主は悲しんでおられる」
「本来であれば退去の選択肢もあるが、それはない」
わずかに声を震わせて言うイブとヤエ。
「即刻、消滅せよっ!」
言い放つと同時にクラシック銃を握った右手を突き出す二人。
だが、気配を感じた二体はすでに間合いに入っていた。
左右から挟む横の一閃。
刃と化して振るわれる翼を、二人は、頭を傾け身体をねじるようにして回避した。
少女の容姿から想像できない、人間離れした反射神経と運動能力。
それによって首の切断こそ免れたが、イブは右頬を、ヤエは左頬をわずかに切った。
赤い血が空中を舞い、床に────。
「!?」
落ちることなく、桜の花びらになって散り、消えた。
「ちょっと待ってよ。いまの桜、私が見つけたものと同じじゃない」
「それはつまり……」
「この館にある桜に力があるのではない」
「この館にいる娘が力」
話していた二体は向き直りイブとヤエを見た。
少女たちは距離をとり、表情を変えずに構えている。
頬の傷はすでに跡形もなく消えていた。
「そうね、ヤエ」
館のエントランスにて、来客を見ながらイブとヤエが言った。
外界との扉から現れたのは二体一組の招かざる客。
どちらも身長が二メートル程度あり、大人の女性といった姿をしているが、両肘両膝の先が大きな翼となっている。
豊満な胸と股間部は左右から小さな翼が包み、それ以外は裸身という格好だった。
髪はなく、顔だちも整っているが眼球はなく、口も開くことがない。
なぜなら、向かって右側は象牙色の、左側は淡灰色の肌をした、硬い石像であるからだ。
色以外、全て同一である来客、四翼の女像は床から五十センチほど浮いて、立っているような状態だった。
「人に非ず者よ。当館に何用か」
静かな声でヤエが言った。
「この館にとてつもない力を持ったものがあるでしょう?」
「それをもらいに来たの」
脳に直接響く念話の声。
右から左へ言葉を繋いで答えると、右側、象牙色の女像が右腕の翼から桜の花びらを一枚出して見せた。
淡いピンクの花びらは魔力ともつかぬ神秘的な力を放ち、単純な樹木からのものではないことを表していた。
「なるほど」
「その力を得て、あなたたちは何をするつもり?」
納得といった表情のヤエから、イブが女像に問いかけた。
「私たち、子供がほしいの」
「子供?」
揃って答える女像と同じく、揃って反応する少女。
「そうよ。私たち、どんなに愛しあっても肉体ではないし、生殖器もない」
「でもこの力さえあれば、二人の愛の証、子供ができる」
そう言って下腹部を触る二体。
お互いがお互いの子を産むつもりのようだ。
「目的は分かったわ」
「だが非ず者よ、精霊でもないあなたたちが存在するには糧となるものが必要になるはず」
「察しはつくが────」
「ええ、人間の命よ」
ヤエが言い終えるより早く、二体が言った。
「でも安心して。肉を食い散らかすわけではなく、生命力を吸い取るだけ」
「死体はとてもきれいよ」
「……」
人の命はあくまで食糧であり、そこにある心など女像は気にもとめていない。
────すると、館の奥から小さな風が吹き、女像の持つ花びらを飛ばした。
「あら?」
「まあいいじゃない。力さえ手に入れば」
大したことではないという女像と違い、少女たちの目が鋭くなった。
「非ず者よ、主は悲しんでおられる」
「本来であれば退去の選択肢もあるが、それはない」
わずかに声を震わせて言うイブとヤエ。
「即刻、消滅せよっ!」
言い放つと同時にクラシック銃を握った右手を突き出す二人。
だが、気配を感じた二体はすでに間合いに入っていた。
左右から挟む横の一閃。
刃と化して振るわれる翼を、二人は、頭を傾け身体をねじるようにして回避した。
少女の容姿から想像できない、人間離れした反射神経と運動能力。
それによって首の切断こそ免れたが、イブは右頬を、ヤエは左頬をわずかに切った。
赤い血が空中を舞い、床に────。
「!?」
落ちることなく、桜の花びらになって散り、消えた。
「ちょっと待ってよ。いまの桜、私が見つけたものと同じじゃない」
「それはつまり……」
「この館にある桜に力があるのではない」
「この館にいる娘が力」
話していた二体は向き直りイブとヤエを見た。
少女たちは距離をとり、表情を変えずに構えている。
頬の傷はすでに跡形もなく消えていた。
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