妖の木漏れ日カフェ

みー

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物語の始まりの前

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 家の中に飾られてある、花を背景にした動物の家紋。

「お婆ちゃん、うちの家紋は動物と花のどっちもあるんだね」

「そうだねえ」

 お婆ちゃんの膝の上に、一匹の猫が横たわっていて太陽の光を浴びながら気持ちよさそうに目を閉じている。

 お婆ちゃんは、その猫をまるで宝物を扱うかのように優しく撫でている。

 いいなあ、猫、とても幸せだろうなあ。

 猫を見ていると、なんとなくその周りに温かみのあるオレンジ色のオーラを感じられて、羨ましくなる。

「真由、動物はね、人間と同じ生き物だから絶対に虐めちゃいけないんだよ」

「お爺ちゃん、うん、分かった」

 まだ小学生の私は、その言葉をしっかりと胸にしまった。

「動物もね、人間と同じように痛い、悲しい、寂しいって思うのよ」

 お婆ちゃんはいつも優しい表情をしている。常に朗らかに生きていて、お婆ちゃんの周りにいる人たちはきっと皆そこに惹かれているんだろって感じる。

「お婆ちゃんは動物の気持ちが分かるの?」
 
「ああ、分かるよ」

 嘘をついているように見えない。不思議だなと、子どもながらに感じていた。
 




 次の日、その日もまた晴天で庭に咲く花々に水を遣る。

 その手を伸ばして葉を指で擦り匂いを嗅ぐと、爽やかな香りが充満する。

「わあ、いい香り。これ、なんて言うの?」

「ああ、それはね、バジルだよ。ハーブっていうもので、料理に使ったりするもの。他にもハーブにはたくさんの種類があってね、面白いよ」

「そうなんだ」

 もう1度バジルの匂いを嗅ぐためにしゃがんでその葉に触れる。

 ハーブ、初めて聞く言葉。

 それについてもっとお婆ちゃんに聞こうとして振り向いた時、お婆ちゃんの姿が消えていた。

「お婆ちゃん!」

 呼んでも返事はない。

「おばあちゃーーーん!!」

「真由、どうした?」

 お婆ちゃんの代わりに、お父さんやお爺ちゃんが走ってこっちに来る。

 でも、お婆ちゃんの姿はやっぱりどこにも無くて、たった数十秒前までは確かにここにいたのに。

「お婆ちゃんが、いなくなっちゃったの」

「お婆ちゃんは……違う世界に行ってしまったのかもしれない」

「違う世界……?」

 私たちのいるこの世界の他にも、どこかにもう1つの世界があるっていうこと……?

「でもきっと、お婆ちゃんなら大丈夫」

 後からやってきたお母さんが震える私の体をそっと包んでくれた。


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