妖の木漏れ日カフェ

みー

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お別れと始まりの夏

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 太陽が街を照らし、ある人はアイスキャンディを舐めながら歩いている。

「ハイビスカスとローズヒップのブレンドハーブティーです」

「ありがとう。……今日で最後の日なのね、寂しいわ」

 スミレさんは水色の爽やかなこの季節に合うワンピースを着ている。

 そう、去年の明日が私が井戸に吸い込まれてこの世界に来た日。

 あの時はどうなるかと思ったけれど、皆のおかげで私はここにいることが出来ている。

「スミレさんに会えたこと、本当に嬉しく思います」

「私もよ」

 私のいなくなったこの世界はきっと、何も変わらない。

 それでいい。何も変わらない方がいい。

「真由ちゃんのハーブティーがもう飲めなくなるなんてねえ」

 スミレさんの隣に座るハトリさんは、ミントティーを飲んでいた。

 あの時、ハトリさんとの出会いが無ければ今頃どうなっていたのだろう。

 本当に、初めて会ったのがハトリさんでよかった。

「真由、俺らのこと忘れるなよ?」

「絶対忘れませんよ。それに、きっと願えばまた会えますから」

 鍵のことは、多分キキョウさん以外は知らない。

 ここ1ヶ月考えていた、自分の世界に戻った後のことを。

 ここにまた来ようと思えば来ることはできる。でも、それはもしかしたらしないほうがいいのかもしれない。

 ここの世界にはここの世界の秩序がある。

「僕も忘れない。真由さんのこと」

「キキョウさん」

 好きだという気持ちはまだ依然として心の中に残っている。

 儚いこの思い。

 きっとここでキキョウさんを好きになれたことはいつかどこかで私の糧となる。

 だから、この思いは無駄なんかじゃない。

「本当に、皆には感謝してもしきれないです。私がこの世界でこうして無事にいられたのも、皆がいてこそ。本当にありがとうございます」

 もうすぐ離れてしまうという寂しさが心を埋め尽くす。

 でも、涙は見せたくない。

 最後に皆の前に見せる表情は笑顔だと決めているから。

「私、皆のこと大好きです」

 皆の笑った顔が脳裏に焼きつく。

 私が見たかったこの表情。

 ハーブの香りと共に皆の優しさが伝わってきた。
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