妖の木漏れ日カフェ

みー

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終わらない冬

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「でも、仮に私がどっちが好きなのかが分かったとしても……私は人間です」

 私は、帰らなくちゃいけない。

 私の世界はこことは別の世界にある。

「とりあえず、今は今を楽しめばいいのよ。せっかくここにいるんだから。未来のことは誰にも分からない」

 確かに……そう言われるとここにいる時間を楽しまない理由なんてないし、好きだと思っても別にその思いを伝えるとかは考えていない。




「いい感じに出来上がったわね」

 目の前には焼きたてのジンジャークッキーがあって、どれひとつ焦げていなくて匂いからも見た目からもとても美味しそうに仕上がった。

 それを見ていると、クリスマスが待ちきれず、早くその日がこないかと今から心が躍る。

「食べましょうか」

「はいっ」

 噛むとさくっと音を立てて割れた。

 出来立てのクッキーは暖かくて手作り特有の優しい味がしていて、お菓子屋で買うクッキーとはまた別の美味しさがある。

「そうだ、カイにも持って行ってあげたら?」

「そういえば……今までに手作りのものをあげたことなかったです。でも……料理人のカイさんにあげて大丈夫でしょうか?」

 素人のお菓子なんて、カイさんからしたらおもちゃのようなもの。

「大丈夫よ、きっと喜んでくれるはずだわ」

「そうですね」

 キキョウさんにもあげたいな……でも、キキョウさんはもう自分の家に帰ってしまったんだ。

 ずっとカイさんの家にいて欲しかったなんて我儘は言わないけれど、いなくなってしまったその日から少しばかりの喪失感を感じていた。

「あの……2袋分プレゼント用としてもらっていいですか?」

「ええ、もちろんよ」

 お世話になったのに、まだまだカイさんにもキキョウさんにもその恩返しが出来ていなくて、少しずつでいいから2人のために私ができることをするの。

 そういえば……2袋と思っていたけれど、もう1袋を加えて3袋にジンジャークッキーを詰めていった。





「1人で大丈夫?」

「大丈夫です、今日はありがとうございました」

「いえいえ、また2人でお菓子作りしましょう」

「はいっ」

 スミレさんと別れて、キキョウさんに会いに、前までは近づくことさえ躊躇われたあの場所へと行く。

 でも今はなんともなくて、ううん、そう言うと少し違うかも知れない。

 災いが終息したとはいえ人間嫌いな気持ちが消滅したわけではなく、まだ時々鋭い視線を感じる時はある。

 でも、シドウさんが何かを言ってくれたみたいで、視線以外のものは特にない。

「あ、キキョウさん」

 キキョウさんのお家に向かおうとした時、ちょうど向かいから歩いているキキョウさんに出会う。

 だけど、その隣には見たことのない女の子の姿があって……。

「真由さん」

 キキョウさんは私に気付くと名前を呼んでくれる。

「あ、あの……。さっきスミレさんとクッキーを焼いてきたんです。今までのお礼にと思って」

「わあ、嬉しいよ」

「えっと……シドウさんはいらっしゃいますか?」

 シドウさんにも、食べて欲しい。これで人間の全てを許して欲しいと言うわけじゃないけれど、少しでもマイナスな気持ちが無くなるように……。

「呼んでこようか?」

「えっと、じゃあ……よろしくお願いします」

 キキョウさんは、隣の女の子に「待ってて」と一言言って私たちを2人残して行ってしまった。
 
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