妖の木漏れ日カフェ

みー

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進みゆく秋

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 お屋敷に関する話を終えると、モミジさんが、名前と同じオレンジ色の紅葉の和菓子を持ってきてくれた。

 可愛らしい大きさの和菓子には、日本の風情を感じる。

「これ、今年の新作なの。ぜひ食べてみて」

「ありがとうございますっ」

 上生菓子はそこに存在するだけで気品を放っている。

 食べるのがもったいないほどに美しく、鑑賞用としてとっておきたいくらい。

「じゃあ、いただきます」

 黒文字で奇麗に、一口サイズに切って口に運ぶ。

 和菓子は、食べ方にも気を遣う。特にこの上生菓子は。

 崩してしまわないように、大きな口を開けて食べないように……。

「これも宴に出すの。毎年こうして宴のために秋に因んだ和菓子を作るのよ」

「そうなんですね」

 宴、なんて今までの私には縁遠すぎる世界で、そこでどんなことが繰り広げられるのか想像もつかない。

 普段私とは面識のない位の高い人たちが行うものだと思っていた。多分その考えは間違いではないと思う。

 宴のために毎年違う上生菓子を作ってもらうなんて、普通の人には出来ないもの。




「ありがとうございます。とても美味しかったです」

 一口一口を噛み締めて、時間をかけてゆっくりと紅葉を楽しんだ。

 お茶と和菓子の趣深いひと時は心に平穏を与えてくれる。

「じゃあ、また来ますね」

 洋菓子と和菓子を1つずつ購入して店を後にした。

 今日はこのままカフェに帰ろう、というよりもカイさんとそう約束した手前、これ以上勝手な行動をすることは許されない。



 
 カフェに戻ってくると、ちょうどランチ時と言うことでカイさんは忙しそうにしている。

 邪魔すると悪いと思い、声をかけずにそのまま家に戻った。

 偶には、自分で料理をしてみようと冷蔵庫を開くと、流石料理人のカイさん、豊富な食材が目に入って来て何を作ろうかと迷ってしまう。

 お肉、お魚……。自分でも作ることのできるもの、と考えた結果、無難に焼き鮭を作ることにした。

 他にはカイさんの手作りの常備菜があって、それをお皿に並べる。

「あ、そうだ……。本、持って来よう」

 まだ読みかけの例の本を自分の部屋から持ってきてテーブルの上に置いた。鮭が焼けるまで、それを読む。

「キセキバナのことは書いてないなあ……、ヤクモさんの友達に聞きたいけれど……」

 それには危険が伴うことは容易に分かることで、なかなか一歩を踏み出せないでいる。

 でも、このまま何もせずに無駄にただただ時間を過ごしていることほど生産性のないものはなく、それなら万全を期して会いに行くのがいいかもしれない。

 自分が犠牲になるか、この街の人が全員犠牲になるか、それとも誰も傷付かないで平和を維持するか。

 そんなの考えなくても答えは出てる。

「うん、聞きに行こう。って、鮭焦げちゃう」

 私は少し焦げた匂いの漂ってくるキッチンに急いで戻った。
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