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進みゆく秋
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「それでは、行ってきますね」
「行ってくるわね」
休日を利用して、この前教えてもらった本屋に早速行く。
でも、やっぱり1人で行くことはカイさんが心配して、今日はスミレさんと2人のお出かけになった。
「真由ちゃん、何か探し物?」
「ちょっと、本を」
「本かあ。読書の秋っていうものね。赤や黄色に染まる木の下で読書をするの、とても風情があると思わない?」
「そうですね、とても素敵です」
秋晴れの空の下、スミレさんと女子トークをしながら爽やかな秋の空気を楽しむ。
スミレさんは今日は淡い紫のワンピースを着ていて、それはコスモスの花を思い出させる。
スミレさんはスタイルがいいからどんな服でも似合っていて、特に今日のワンピースはまるでスミレさんの為に作られた服のように見えた。
地図を見ながら歩くこと30分ほど、そろそろ本屋に着きそうだ。
本屋があるという方向に目を向けると一際大きな建物が視界に入って来て、もう一度地図を確かめるとその建物がどうやら本屋であることが分かる。
「ここ、ですね」
「いつ来ても大きいわね。じゃあ、お目当てのもの、探しましょうか」
「はい」
探しているものは2つ。
1つはハーブに関するものと、もう1つはこの前から探しているこの土地に関するもの。
ハーブの方は多分すぐに見つかると思うけど、問題は後者。でも、これだけ大きな本屋なら1冊くらいあっても不思議じゃないと思う。
中に入ると、空間は本で埋め尽くされていた。茶色ベースの空間は落ち着きがあって、本に相応しい環境だ。
「わあ、すごいですね」
「ここに来れば大抵のものは揃うからね。ただ、カイのところからだと少し遠いのよね」
確かに、ここまで来るのに30分は歩いた。
そんなに歩かせてしまってスミレさんに悪いと思いつつ、カイさんのことを思うと1人でどこかに行くことは出来ない。
私に何かあったらきっと、カイさんは自分を責めてしまうと思うから。
ただでさえお世話になっているのだから、それ以上の迷惑をどうしてかけることが出来るだろうか。
一旦スミレさんと別れて、先に街のことに関する本を探すことにした。
地域・伝統コーナーに来ると、分厚い本がかなり多くの数並んでいて、この中になら1冊くらいありそうな雰囲気が漂っている。
視線を左から右へとどんどんと移していくと、『人間と妖の歴史』という題名の本が目に入ってきた。
腕を伸ばしてその本に触れたとき、知っている声に話しかけられる。
「お、真由じゃん」
「ヤ、ヤクモさん」
伸ばしていた腕をさっと引っ込める。
「今日はお買い物ですか?」
「ちょっと散歩がてらに。真由は?」
「ええと、本を買いに」
ヤクモさんは、私の指が触れた本に目を向けて、その文字を見ている。
「人間と妖? ……真由、人間のことについて調べてるのか?」
「あ、その、ちょっと興味が」
「それなら、俺の友達がこういう本たくさん持ってるぞ? 向こうのほうに屋敷あるだろ? あそこに、住んでるんだけど」
ヤクモさんの友達が屋敷に住んでいる? ということは、その人は反人間の妖ということで、多分それは私にとっては危険すぎる。
それにしても、ヤクモさんとその人たちが知り合いだなんて……ううん、変なことを考えるのは止めておこう。
「だ、大丈夫です。そんなに詳しく知りたいというわけでもないので」
「そっか。あ、そういえばこの前これ見つけてネックレス作ったんだけど、真由にあげるよ」
ヤクモさんは、深い青色の、ターコイズに似た石のネックレスを私にくれた。
「きっと真由に似合うはず」
「ありがとうございます」
渡されたその石を見ていると、その青色に吸い込まれそうな不思議な感覚に襲われる。
ヤクモさんは「じゃあまたな」と、この場を後にした。
「行ってくるわね」
休日を利用して、この前教えてもらった本屋に早速行く。
でも、やっぱり1人で行くことはカイさんが心配して、今日はスミレさんと2人のお出かけになった。
「真由ちゃん、何か探し物?」
「ちょっと、本を」
「本かあ。読書の秋っていうものね。赤や黄色に染まる木の下で読書をするの、とても風情があると思わない?」
「そうですね、とても素敵です」
秋晴れの空の下、スミレさんと女子トークをしながら爽やかな秋の空気を楽しむ。
スミレさんは今日は淡い紫のワンピースを着ていて、それはコスモスの花を思い出させる。
スミレさんはスタイルがいいからどんな服でも似合っていて、特に今日のワンピースはまるでスミレさんの為に作られた服のように見えた。
地図を見ながら歩くこと30分ほど、そろそろ本屋に着きそうだ。
本屋があるという方向に目を向けると一際大きな建物が視界に入って来て、もう一度地図を確かめるとその建物がどうやら本屋であることが分かる。
「ここ、ですね」
「いつ来ても大きいわね。じゃあ、お目当てのもの、探しましょうか」
「はい」
探しているものは2つ。
1つはハーブに関するものと、もう1つはこの前から探しているこの土地に関するもの。
ハーブの方は多分すぐに見つかると思うけど、問題は後者。でも、これだけ大きな本屋なら1冊くらいあっても不思議じゃないと思う。
中に入ると、空間は本で埋め尽くされていた。茶色ベースの空間は落ち着きがあって、本に相応しい環境だ。
「わあ、すごいですね」
「ここに来れば大抵のものは揃うからね。ただ、カイのところからだと少し遠いのよね」
確かに、ここまで来るのに30分は歩いた。
そんなに歩かせてしまってスミレさんに悪いと思いつつ、カイさんのことを思うと1人でどこかに行くことは出来ない。
私に何かあったらきっと、カイさんは自分を責めてしまうと思うから。
ただでさえお世話になっているのだから、それ以上の迷惑をどうしてかけることが出来るだろうか。
一旦スミレさんと別れて、先に街のことに関する本を探すことにした。
地域・伝統コーナーに来ると、分厚い本がかなり多くの数並んでいて、この中になら1冊くらいありそうな雰囲気が漂っている。
視線を左から右へとどんどんと移していくと、『人間と妖の歴史』という題名の本が目に入ってきた。
腕を伸ばしてその本に触れたとき、知っている声に話しかけられる。
「お、真由じゃん」
「ヤ、ヤクモさん」
伸ばしていた腕をさっと引っ込める。
「今日はお買い物ですか?」
「ちょっと散歩がてらに。真由は?」
「ええと、本を買いに」
ヤクモさんは、私の指が触れた本に目を向けて、その文字を見ている。
「人間と妖? ……真由、人間のことについて調べてるのか?」
「あ、その、ちょっと興味が」
「それなら、俺の友達がこういう本たくさん持ってるぞ? 向こうのほうに屋敷あるだろ? あそこに、住んでるんだけど」
ヤクモさんの友達が屋敷に住んでいる? ということは、その人は反人間の妖ということで、多分それは私にとっては危険すぎる。
それにしても、ヤクモさんとその人たちが知り合いだなんて……ううん、変なことを考えるのは止めておこう。
「だ、大丈夫です。そんなに詳しく知りたいというわけでもないので」
「そっか。あ、そういえばこの前これ見つけてネックレス作ったんだけど、真由にあげるよ」
ヤクモさんは、深い青色の、ターコイズに似た石のネックレスを私にくれた。
「きっと真由に似合うはず」
「ありがとうございます」
渡されたその石を見ていると、その青色に吸い込まれそうな不思議な感覚に襲われる。
ヤクモさんは「じゃあまたな」と、この場を後にした。
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