妖の木漏れ日カフェ

みー

文字の大きさ
上 下
15 / 74
始まりの夏

14

しおりを挟む
「なあに? 真由ちゃん夏祭り行くの? それなら、浴衣が必要ね」

 スミレさんがハーブティーを飲みに来た。今日は普通にハーブの味を楽しみに来たらしく、王道のミントを注文している。

 カウンターに座って、カイさんと話をしながら優雅にお茶の時間を楽しんでいた。

 淡いピンク色の素敵なワンピースを着ていて、まるでスミレさんのために作られたかのように似合っている。

「浴衣ですか?」

「私の家に何着かあるから、お仕事が終わったら一緒に来ない?」

「でも……夜になってしまいます」

「少しくらい早く上がらせてもいいんじゃない? ねえ、カイ」

「まあ、そうだな」

 夏祭りに浴衣……まさに夏の風物詩。どちらも、言葉を聞くだけで心が高揚してくる。
 
 去年もクラスメイトと近くの神社の夏祭りに行ってりんご飴やたこ焼きを食べたり、金魚すくいをしたりしたのを思い出す。

 その時は浴衣じゃなくて、普通の洋服だったけれど。

 春夏秋冬いろんな行事があるけれど、夏祭りは私の好きなもののトップ3には入る。

「じゃあ、決まりね」

「ありがとうございますっ」









 夜になり、スミレさんが迎えに来てくれた。お昼に着ていたワンピースではなく、ラフなパンツ姿なのに妖艶さがどこからか漂う。

「22時くらいになったら迎えに来てね」

「あ、いえ、そんな。1人で大丈夫です」

「ダメだ。1人は危険すぎる。絶対に迎えに行くから、待ってろよ?」

「分かりました」

 確かに、言われてみれば22時の空はもう完全なる暗闇で、しかもスミレさんの家に行くのは初めてだから道だってよく分からないし、余計な心配を掛けさせてしまうよりだったら、素直に最初から「はい」と言っていた方が良かったかもしれない。

「じゃあ、行きましょう」

「はい」

 スミレさんの横に立つと、意外と身長差があって自分が小さく感じられる。

 スタイルもいいんだなと、しみじみと思う。

「真由ちゃんは、何色が好きかしら?」

「ええとですね……水色が好きです」

「あら、いいわね。真由ちゃんのイメージにぴったりだわ。確か、水色の浴衣もあったはずよ」

 スミレさんのように素敵な人に褒められると、照れ臭くなる。

「空、奇麗ですね」

 夜に入りかけの少し暗くなった空に、まるで墨絵のような雲が浮いていて、日本画のように見えた。

「この時間帯の空って、いいわよね」
 
 スミレさんも同じく視線を上向きにし、空を見る。

「はい、特に夏のこの時間の空、好きです」

「私もよ。絵画のようだもの」

「はい、そうなんです。絵みたいで、自然って美しいなあって思います。人間が作らないものでも、こんなに人の心を惹く景色が出来るなんて、すごいですよね」

「そうね、そんな風に思える真由ちゃんもきっと心が美しいのね」

「あ、いえ……」

 スミレさんのストレートな言葉は、ストレートに心の中に入ってくる。嬉しい反面、やっぱり歯痒くて。

 でも、ものごとをこんな風に真っすぐに表現できるスミレさんはなんだかかっこいいと思えた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

求不得苦 -ぐふとくく-

こあら
キャラ文芸
看護師として働く主人公は小さな頃から幽霊の姿が見える体質 毎日懸命に仕事をする中、ある意識不明の少女と出会い不思議なビジョンを見る 少女が見せるビジョンを読み取り解読していく 少女の伝えたい想いとは…

母が田舎の実家に戻りますので、私もついて行くことになりました―鎮魂歌(レクイエム)は誰の為に―

吉野屋
キャラ文芸
 14歳の夏休みに、母が父と別れて田舎の実家に帰ると言ったのでついて帰った。見えなくてもいいものが見える主人公、麻美が体験する様々なお話。    完結しました。長い間読んで頂き、ありがとうございます。

座敷童子が見える十四歳のわたしと二十七歳のナオカちゃん

なかじまあゆこ
キャラ文芸
座敷童子が見える十四歳の鞠(まり)と二十七歳のナオカちゃん。大人も子供も夢を持ち続けたい。 わたし座敷童子が見えるんだよ。それは嘘じゃない。本当に見えるのだ。 おばあちゃんの家に『開かずの間』と呼んでいる部屋がある その部屋『開かずの間』の掃除をおばあちゃんに頼まれたあの日わたしは座敷童子と出会った。 座敷童子が見える十四歳の鞠(まり)と二十七歳のナオカちゃん二人の大人でも子供でも夢を持ち続けたい。

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

追憶の君は花を喰らう 

メグロ
キャラ文芸
主人公・木ノ瀬柚樹のクラスに見知らぬ女子生徒が登校する。彼女は転校生ではなく、入学当時から欠席している人だった。彼女の可憐ながらも、何処か影がある雰囲気に柚樹は気になっていた。それと同時期に柚樹が住む街、枝戸市に奇妙な事件が起こり始めるのだった――――。 花を題材にした怪奇ファンタジー作品。 ゲームシナリオで執筆した為、シナリオっぽい文章構成になっている所があります。 また文量が多めです、ご承知ください。 水崎ソラさんとのノベルゲーム化共同制作進行中です。(ゲームやTwitterの方ではHN 雪乃になっています。) 気になる方は公式サイトへどうぞ。 https://mzsksr06.wixsite.com/hanakura 完結済みです。

こんこん公主の後宮調査 ~彼女が幸せになる方法

朱音ゆうひ
キャラ文芸
紺紺(コンコン)は、亡国の公主で、半・妖狐。 不憫な身の上を保護してくれた文通相手「白家の公子・霞幽(カユウ)」のおかげで難関試験に合格し、宮廷術師になった。それも、護国の英雄と認められた皇帝直属の「九術師」で、序列は一位。 そんな彼女に任務が下る。 「後宮の妃の中に、人間になりすまして悪事を企む妖狐がいる。序列三位の『先見の公子』と一緒に後宮を調査せよ」 失敗したらみんな死んじゃう!? 紺紺は正体を隠し、後宮に潜入することにした! ワケアリでミステリアスな無感情公子と、不憫だけど前向きに頑張る侍女娘(実は強い)のお話です。 ※別サイトにも投稿しています(https://kakuyomu.jp/works/16818093073133522278)

処理中です...