妖の木漏れ日カフェ

みー

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始まりの夏

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「なあに? 真由ちゃん夏祭り行くの? それなら、浴衣が必要ね」

 スミレさんがハーブティーを飲みに来た。今日は普通にハーブの味を楽しみに来たらしく、王道のミントを注文している。

 カウンターに座って、カイさんと話をしながら優雅にお茶の時間を楽しんでいた。

 淡いピンク色の素敵なワンピースを着ていて、まるでスミレさんのために作られたかのように似合っている。

「浴衣ですか?」

「私の家に何着かあるから、お仕事が終わったら一緒に来ない?」

「でも……夜になってしまいます」

「少しくらい早く上がらせてもいいんじゃない? ねえ、カイ」

「まあ、そうだな」

 夏祭りに浴衣……まさに夏の風物詩。どちらも、言葉を聞くだけで心が高揚してくる。
 
 去年もクラスメイトと近くの神社の夏祭りに行ってりんご飴やたこ焼きを食べたり、金魚すくいをしたりしたのを思い出す。

 その時は浴衣じゃなくて、普通の洋服だったけれど。

 春夏秋冬いろんな行事があるけれど、夏祭りは私の好きなもののトップ3には入る。

「じゃあ、決まりね」

「ありがとうございますっ」









 夜になり、スミレさんが迎えに来てくれた。お昼に着ていたワンピースではなく、ラフなパンツ姿なのに妖艶さがどこからか漂う。

「22時くらいになったら迎えに来てね」

「あ、いえ、そんな。1人で大丈夫です」

「ダメだ。1人は危険すぎる。絶対に迎えに行くから、待ってろよ?」

「分かりました」

 確かに、言われてみれば22時の空はもう完全なる暗闇で、しかもスミレさんの家に行くのは初めてだから道だってよく分からないし、余計な心配を掛けさせてしまうよりだったら、素直に最初から「はい」と言っていた方が良かったかもしれない。

「じゃあ、行きましょう」

「はい」

 スミレさんの横に立つと、意外と身長差があって自分が小さく感じられる。

 スタイルもいいんだなと、しみじみと思う。

「真由ちゃんは、何色が好きかしら?」

「ええとですね……水色が好きです」

「あら、いいわね。真由ちゃんのイメージにぴったりだわ。確か、水色の浴衣もあったはずよ」

 スミレさんのように素敵な人に褒められると、照れ臭くなる。

「空、奇麗ですね」

 夜に入りかけの少し暗くなった空に、まるで墨絵のような雲が浮いていて、日本画のように見えた。

「この時間帯の空って、いいわよね」
 
 スミレさんも同じく視線を上向きにし、空を見る。

「はい、特に夏のこの時間の空、好きです」

「私もよ。絵画のようだもの」

「はい、そうなんです。絵みたいで、自然って美しいなあって思います。人間が作らないものでも、こんなに人の心を惹く景色が出来るなんて、すごいですよね」

「そうね、そんな風に思える真由ちゃんもきっと心が美しいのね」

「あ、いえ……」

 スミレさんのストレートな言葉は、ストレートに心の中に入ってくる。嬉しい反面、やっぱり歯痒くて。

 でも、ものごとをこんな風に真っすぐに表現できるスミレさんはなんだかかっこいいと思えた。

 
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