妖の木漏れ日カフェ

みー

文字の大きさ
上 下
12 / 74
始まりの夏

11

しおりを挟む
「おう、兄さん。……その子は?」

 街中を歩いていると、男の子が話しかけて来た。兄さん、ということはハトリさんの弟さん?

「偶然だね。この子は、カイの親戚の子だよ。今預かってるんだ」

「へえ、そうなのか。初めまして、ハトリの弟のヤクモです」

「初めまして、真由です」

 私と同じくらいの年に見えるヤクモさんは、ハトリさんの弟と聞いて納得いくほどに顔が整っている。

 だけどハトリさんとは雰囲気が違って、ハトリさんは色で言うと紫、ヤクモさんはオレンジという感じがした。

 静と動、と対称的な印象を受ける。

「同じくらいの年だよな? 仲良くしようぜ」

「あ、はいっ」

 目の前に手が差し伸べられ、それを握るとヤクモさんは太陽みたいな笑顔を浮かべてぎゅっとその手を握った。

「じゃあ、またな」

「じゃあ、また」

 ヤクモさんは走ってどこかへ行ってしまった。

「俺の弟、うるさいでしょ? まあ、悪い奴じゃないからさ。……カイの親戚ってことにしちゃったけど、とりあえずそういう設定でいこうか」

「はい、分かりました」

 雑貨屋に行く途中の道で、ふと横を見ると今まで気が付かなかったお屋敷のようなものが遠くの方に見えた。

 ものすごく広い敷地で建物がいくつも見えて、とんでもない偉い人が住んでいるとか、お金持ちが住んでいるとか、そういうところかな?

「ハトリさん、あちらは」

「ああ……あそこはまあ……なんていうか、少し神経質な人たちが住んでいるんだ。地主だよ。ある一族が住んでいるところさ」

「そうなんですね」

 どんな方たちが住んでいるのか、いつか会う機会があるのかな、なんて考えているとハトリさんは歩くのをやめた。

「雑貨屋、ついたよ」

 中に入ると、様々な雑貨が売っている。

 店内を見渡すと、お目当ての時計もあっていろいろな種類がありどれがいいか目移りしてしまう。

 デジタル型、アナログ型、デザインが可愛いもの、機能性の高そうなもの、高級感漂うもの…………。

 いろいろと迷った挙句、無難に青色のデジタルの時計を選んだ。

「時計のほかには何か欲しいのある?」

「今のところは大丈夫です」

 お会計をしてお店から出ると、タイミング悪く空からぽつぽつと雫が落ちて来た。

 まさか降るとは思っていなくて、傘ももちろんなく、そういえば雑貨屋の隅に傘が売ってあったことを思い出す。

「あの、傘も、買いたいです」

「うん、そうだね。雨、結構降るし必要だね」

 もう一度お店に戻り、レモン柄の可愛らしい傘を購入して再び外に出た。

 雨のせいで暗くなったところに、傘の柄のレモンがぱっと気分を明るくさせる。うん、これにしてよかった。

「じゃあ、カイのところまで送るよ」

「ありがとうございますっ」

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

第七魔眼の契約者

文月ヒロ
キャラ文芸
 主人公、最弱の【魔術師】・和灘 悟《わなだ さとる》。  第六魔法学院に通う彼は、二年の夏のとある日の朝学院より落第を通告された。 『【迷宮】攻略試験を受け、攻略する』  状況を打破しようと奔走する彼は、そんな折、落第回避の方法として追試の存在を知る。  そして試験開始後【迷宮】へと潜り込んだ悟だったが、そこで【魔眼】を名乗る声に話し掛けられ――。  最弱だった少年【魔術師】が【魔眼】と紡ぐ――最強の物語、開幕!!

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

処理中です...