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始まりの夏
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「じゃあ、ここがとりあえずお前の部屋な。そういえば、名前」
「あ、えっと、堺真由です」
「真由か。ところで、お前どうやってここの世界に来たんだ?」
「おじいちゃんの家にある井戸を覗き込んだら吸い込まれてしまいまして……」
言葉にすると、非現実感が強まって、ますますこの今いる自分の状況が不思議で堪らなくなってくる。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
でも、今はきっとそんなことを思っている余裕はなくてとにかくこの環境を受け入れるしかない。そうしないと、同じ場所で足踏みをしているままになってしまう。
「そうか……、まあ、1年我慢することだな」
「1年?」
「ああ、こっちの世界と人間界の境界線の扉は1年に1度しか開かない」
「で、でも高校が」
「大丈夫、こっちの1年は人間界の1日にも満たない。帰ってもほぼ時間は経過していない」
私はどうやら、とんでもない世界に来てしまったようで、しかも1年間はここに居なければということ。
「仕方ないから、1年くらいはここに居させてやるよ。まあ、さっきも言った通り畑仕事を手伝ってもらうけどな」
「はい、それは大丈夫です」
「まあ、とりあえず今日はハトリにこの街の案内でもしてもらいな。いろいろと不便だろ?」
「そうですね」
「じゃあ、戻るか」
カフェに戻ると、ハトリさんは何かを飲んでくつろいでいた。
カイさんが街の案内のことを頼むと、ハトリさんは快く引き受けてくれて再びハトリさんは私の隣に立つ。
「行ってくるね」
「おう」
「行ってきます」
「あ、そうだ。行く前に、これ、付けた方がいいかも」
それは、皆が頭に付けている動物の耳で、ハトリさんは慣れたように私の頭にもつけた。
「一応、ね。あ、因みに、僕達のは本物だよ」
「本物……」
「まあ、歩きながら話しましょうか」
外に出て、赤茶の煉瓦で作られた道を歩く。
こつんこつんとハトリさんの下駄と煉瓦が作り出す音が、なんだか耳に心地よい。
一定のリズムで刻まれるその足音は、不安を取り除いてくれるような気がした。
「ここにいる皆には、動物の妖が付いているんだ。主に哺乳類のね。僕はリスでカイはオオカミ。偶に、その中には昔人間にいじめられた動物の妖が付いている人もいて、人間を酷く嫌っている」
「じゃあ、私……」
「まあ、出かけるときはなるべく僕かカイと一緒に居るといいね。でも、さっき飲んだお茶あるだろう? あれを飲めば人間の匂いが消えるから大丈夫さ」
「なるほど……」
ハトリさんは、この街の説明をしながら、途中途中にある色んな店を案内してくれた。
その中には菓子屋もあって、美味しそうなカラフルなお菓子が並んでいた。洋菓子や和菓子、様々で優柔不断な私はあれこれと迷ってしまうと思う。
あとで、買いに来たいな、なんて思ったけれど、そういえばお金を持っていないことを思い出す。
「あ、あの、お金って……」
「ああ、そっか。あとでカイに言っておくよ」
「ありがとうございます」
空を見ると、さっきまでの水色からオレンジ色に変わっていて、いつの間にか夕方になっていた。雀のような鳥が、ちゅんちゅんと鳴きながら空を横切る。
夕方の空を見ているとふと家族のことを思い出し、物寂しく感じる。
ううん、大丈夫、と自分に言い聞かせて前を向いた。
「あっ」
ぐうっと、お腹の虫が盛大に鳴る。
こんな時でもお腹は空くもので、私の音を聞いたハトリさんはふふっと笑って「そろそろ、帰ろうか」と言ってきた。
「あ、えっと、堺真由です」
「真由か。ところで、お前どうやってここの世界に来たんだ?」
「おじいちゃんの家にある井戸を覗き込んだら吸い込まれてしまいまして……」
言葉にすると、非現実感が強まって、ますますこの今いる自分の状況が不思議で堪らなくなってくる。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
でも、今はきっとそんなことを思っている余裕はなくてとにかくこの環境を受け入れるしかない。そうしないと、同じ場所で足踏みをしているままになってしまう。
「そうか……、まあ、1年我慢することだな」
「1年?」
「ああ、こっちの世界と人間界の境界線の扉は1年に1度しか開かない」
「で、でも高校が」
「大丈夫、こっちの1年は人間界の1日にも満たない。帰ってもほぼ時間は経過していない」
私はどうやら、とんでもない世界に来てしまったようで、しかも1年間はここに居なければということ。
「仕方ないから、1年くらいはここに居させてやるよ。まあ、さっきも言った通り畑仕事を手伝ってもらうけどな」
「はい、それは大丈夫です」
「まあ、とりあえず今日はハトリにこの街の案内でもしてもらいな。いろいろと不便だろ?」
「そうですね」
「じゃあ、戻るか」
カフェに戻ると、ハトリさんは何かを飲んでくつろいでいた。
カイさんが街の案内のことを頼むと、ハトリさんは快く引き受けてくれて再びハトリさんは私の隣に立つ。
「行ってくるね」
「おう」
「行ってきます」
「あ、そうだ。行く前に、これ、付けた方がいいかも」
それは、皆が頭に付けている動物の耳で、ハトリさんは慣れたように私の頭にもつけた。
「一応、ね。あ、因みに、僕達のは本物だよ」
「本物……」
「まあ、歩きながら話しましょうか」
外に出て、赤茶の煉瓦で作られた道を歩く。
こつんこつんとハトリさんの下駄と煉瓦が作り出す音が、なんだか耳に心地よい。
一定のリズムで刻まれるその足音は、不安を取り除いてくれるような気がした。
「ここにいる皆には、動物の妖が付いているんだ。主に哺乳類のね。僕はリスでカイはオオカミ。偶に、その中には昔人間にいじめられた動物の妖が付いている人もいて、人間を酷く嫌っている」
「じゃあ、私……」
「まあ、出かけるときはなるべく僕かカイと一緒に居るといいね。でも、さっき飲んだお茶あるだろう? あれを飲めば人間の匂いが消えるから大丈夫さ」
「なるほど……」
ハトリさんは、この街の説明をしながら、途中途中にある色んな店を案内してくれた。
その中には菓子屋もあって、美味しそうなカラフルなお菓子が並んでいた。洋菓子や和菓子、様々で優柔不断な私はあれこれと迷ってしまうと思う。
あとで、買いに来たいな、なんて思ったけれど、そういえばお金を持っていないことを思い出す。
「あ、あの、お金って……」
「ああ、そっか。あとでカイに言っておくよ」
「ありがとうございます」
空を見ると、さっきまでの水色からオレンジ色に変わっていて、いつの間にか夕方になっていた。雀のような鳥が、ちゅんちゅんと鳴きながら空を横切る。
夕方の空を見ているとふと家族のことを思い出し、物寂しく感じる。
ううん、大丈夫、と自分に言い聞かせて前を向いた。
「あっ」
ぐうっと、お腹の虫が盛大に鳴る。
こんな時でもお腹は空くもので、私の音を聞いたハトリさんはふふっと笑って「そろそろ、帰ろうか」と言ってきた。
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