68 / 69
11話
5
しおりを挟む「もう、好きにしてよっ」
鈴華さんは真っ赤な顔をして、走ってこの場を去る。
自分の気持ちを素直に言えたという爽快感と、鈴華さんに悪いことをしたかなという罪悪感が一気に押し寄せてくる。
でも、その2つを上書きする恥ずかしさが数秒後に襲ってきた。
「あ、あの」
好き、って言ったんだ……。言っちゃったんだよね……?
「あ、えっと……奏多さんに言わなきゃね。僕たちのこと」
僕たち……。
もう1人だけのことじゃくて、涼と私の2人のことになるんだ。
そのことが歯痒くて、でも嬉しくて、ニヤけてしまう。
「その……私のこと愛想尽かしたりしてない?」
「そんなわけないよ。それより、家族にも言わないといけないし、そっちの方が緊張するよ」
「たしかに……そうだね」
自分から婚約を破棄しておいて、結局は涼のことが好きだなんて、絶対に呆れられるし、下手したら怒鳴られたりするかもしれない。
でも。
もう、この気持ちに嘘はない。
誰が何を言おうと私は涼に惚れている。
「その……また、よろしくお願いします」
「うん、僕の方こそ」
涼の手がふわっと頭に触れる。ああ、この手の感覚が懐かしい。
我慢しきれなくなって、自分から涼に抱きつく。ぎゅっと、強く強く涼の体を抱き締める。
「さ、桜」
「だって、好きなんだもん」
「もう、仕方ないな」
と言うと、涼も同じくらい、ううん、もっと強く抱きしめ返してきた。
ああ、もう、幸せすぎる。
「私のこと、離しちゃだめだからね」
「桜こそ」
遠くの方から誰かの足音が聞こえてきて、ぱっと離れる。
そしてここが学校だということを思い出すと、恥ずかしさで顔が熱くなってくる。
「じゃあ、僕は生徒会行くから、桜先に帰ってて」
「うん、分かった」
「それでね、涼とまた恋人になったの」
家に帰ってから、杏里に電話で報告した。すごく喜んでくれて、「やっぱり桜の隣には涼くんね」なんて嬉しい言葉も。
奏多さんにも電話をして、後日2人で会いに行くことに。
なんだか、電話の向こうの奏多さんはすっきりとした声をしていて「幸せに」という言葉には、心がこもっているような気がした。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
【完結】婚約前に巻き戻ったので婚約回避を目指します~もう一度やり直すなんて、私にはもう無理です~
佐倉えび
恋愛
リリアンナは夫のジルベールの浮気や子どもとの不仲、うまくいかない結婚生活に限界を感じ疲れ果てていた。そんなある日、ジルベールに首を絞められ、気が付けば婚約直前の日まで時が巻き戻っていた……!! 結婚しても誰も幸せになれないのだから、今度は婚約を回避しよう! 幼馴染のふたりが巻き戻りをきっかけにやり直すお話です。
小説家になろう様でも掲載しています。
溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる
田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。
お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。
「あの、どちら様でしょうか?」
「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」
「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」
溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。
ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。
【完結】あなただけが特別ではない
仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。
目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。
王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる