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10話
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「桜は今日何するの?」
「今日はメイドと一緒に街に散歩に」
「僕も行っていい?」
「あ、うん。大丈夫だと思う」
メイドの方を見ると、にっこりと笑顔を浮かべながらゆっくりと大きく首を縦に振った。
本当は、恋人がいる身分で男の人、しかも元婚約者と出かけるなんてよくないに決まっているけど、メイドと三人なら大丈夫よね。
「わあ、これ可愛い。買っていいかしら?」
「職人に作らせることもできますが」
「ううん、これがいいの」
それは手鏡で、金色がベースで宝石のようなきらきらとした石が装飾されてあり、アンティークなデザインが印象的だった。
「じゃあ、買ってきますね」
「よろしく」
メイドがお金を払いに行っている間に涼くんと2人になる。涼くんはハンカチを真剣な眼差しで見つめている。
店内にはクラシックな音楽が流れていて、涼くんを見ていると、ただの日常のワンシーンなのに、まるで映画の一コマを見ているかのようだった。
なんていうか、目を惹くの。顔の造形とかもそうだけど、雰囲気っていうか、他の人にはない特別なオーラが。
「ハンカチ、好きなの?」
「うん、色々な柄が合って飽きないし、色々と役に立つからね」
「確かに、ハンカチって便利よね」
深い青色のまるで深い海を思わせる模様のハンカチが目に入った。絶対、涼くんに似合う。
私が倒れたときも走って心配して来てくれたし、何かお礼くらいしたい。
これくらい、恋人じゃなくてもプレゼントしたって、いいわよね?
「ねえ、これも欲しいわ」
戻ってきたメイドにそのハンカチを渡すと、耳元で「プレゼント用ですか?」と聞かれ、静かに頭を縦に振った。
メイドはにっこりと笑って「かしこまりました」と言うと、また再び会計しに行く。
「桜」
「なあに?」
ハンカチコーナーから既に離れていた涼くんは、何かを見つけたのか私に向かって手を振っている。
「見て、苺の柄のティカップがあるよ」
「わあ、本当だ。可愛い。苺…………苺」
苺の柄を見ていると、頭の中の押し込まれた記憶の一部を思い出しそうな感覚を覚える。
苺の何か……。なんだろう、思い出せそうなのに、思い出せない。分からないけど、すごく大切なもののような気がする。
「桜さま、そろそろ出ましょうか。人も多くなってきましたし」
「そうね」
店を出て、ウィンドウショッピングを楽しむ。その間涼くんは嫌な顔一つせず私に付き合ってくれる。
それにしても、なんて優しい目で私を見るのだろう。時々、その視線に恥ずかしくなって目を反らしてしまう。
だって、好きっていう気持ちがその目から十分すぎる程に伝わってくるんだもの。
「桜、危ない」
前から来る人に気付かずぶつかりそうになると、涼くんは私の腕を引いて自分の方に寄せた。その瞬間、私たちの距離はゼロセンチになる。涼くんの鼓動や体温が伝わってくる。
「ご、ごめん」
「ううん……」
すぐに涼くんは私から距離を取った。
ぱっと離れる涼くんに、物足りなさを感じてしまった。
「今日はメイドと一緒に街に散歩に」
「僕も行っていい?」
「あ、うん。大丈夫だと思う」
メイドの方を見ると、にっこりと笑顔を浮かべながらゆっくりと大きく首を縦に振った。
本当は、恋人がいる身分で男の人、しかも元婚約者と出かけるなんてよくないに決まっているけど、メイドと三人なら大丈夫よね。
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「職人に作らせることもできますが」
「ううん、これがいいの」
それは手鏡で、金色がベースで宝石のようなきらきらとした石が装飾されてあり、アンティークなデザインが印象的だった。
「じゃあ、買ってきますね」
「よろしく」
メイドがお金を払いに行っている間に涼くんと2人になる。涼くんはハンカチを真剣な眼差しで見つめている。
店内にはクラシックな音楽が流れていて、涼くんを見ていると、ただの日常のワンシーンなのに、まるで映画の一コマを見ているかのようだった。
なんていうか、目を惹くの。顔の造形とかもそうだけど、雰囲気っていうか、他の人にはない特別なオーラが。
「ハンカチ、好きなの?」
「うん、色々な柄が合って飽きないし、色々と役に立つからね」
「確かに、ハンカチって便利よね」
深い青色のまるで深い海を思わせる模様のハンカチが目に入った。絶対、涼くんに似合う。
私が倒れたときも走って心配して来てくれたし、何かお礼くらいしたい。
これくらい、恋人じゃなくてもプレゼントしたって、いいわよね?
「ねえ、これも欲しいわ」
戻ってきたメイドにそのハンカチを渡すと、耳元で「プレゼント用ですか?」と聞かれ、静かに頭を縦に振った。
メイドはにっこりと笑って「かしこまりました」と言うと、また再び会計しに行く。
「桜」
「なあに?」
ハンカチコーナーから既に離れていた涼くんは、何かを見つけたのか私に向かって手を振っている。
「見て、苺の柄のティカップがあるよ」
「わあ、本当だ。可愛い。苺…………苺」
苺の柄を見ていると、頭の中の押し込まれた記憶の一部を思い出しそうな感覚を覚える。
苺の何か……。なんだろう、思い出せそうなのに、思い出せない。分からないけど、すごく大切なもののような気がする。
「桜さま、そろそろ出ましょうか。人も多くなってきましたし」
「そうね」
店を出て、ウィンドウショッピングを楽しむ。その間涼くんは嫌な顔一つせず私に付き合ってくれる。
それにしても、なんて優しい目で私を見るのだろう。時々、その視線に恥ずかしくなって目を反らしてしまう。
だって、好きっていう気持ちがその目から十分すぎる程に伝わってくるんだもの。
「桜、危ない」
前から来る人に気付かずぶつかりそうになると、涼くんは私の腕を引いて自分の方に寄せた。その瞬間、私たちの距離はゼロセンチになる。涼くんの鼓動や体温が伝わってくる。
「ご、ごめん」
「ううん……」
すぐに涼くんは私から距離を取った。
ぱっと離れる涼くんに、物足りなさを感じてしまった。
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