嫌いなあいつの婚約者

みー

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8話

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「桜さまは、本当は誰と踊りたかったのですか?」

「誰とって……」

 今すぐに答えられるならどんなに楽なことか。

「正直になった方が、きっと楽ですよ」

「…………おかしいのよ。最近、涼のことばかり考えてしまう」

 今だって、頭の中を占めるのは半分以上が涼のこと……。

「……おかしくないですよ。誰だって、気になる人のことはずっと考えてしまいます」

「でも……これが好きなのかどうかは分からないわ。奏多さんといる時だって楽しいし。すごくドキドキするの。ずっと一緒にいたいって思っちゃうの」

「でも、涼さまのことも考えてしまう」

「……そうね」

「では、奏多さまと涼さまのどちらかに恋人が出来るとして、どっちの方がより気になってしまいますか? きっとそれが答えです」

「……今すぐには分からないわ」

「ええ、いいんです。ゆっくりでも。だけど、あまりにも時間を掛けると本当に失ってしまうかもしれないので、そこはタイミングを逃さないようにしないとですね」

「……そうね」

 メイドの言うことは分かっている。頭では理解しているけれど、気持ちの方はまだ理解が追いついていないみたいで混乱してる。

 それに、本当に分からない。

 私は、涼のことが好きなの……?

 奏多さんが好きなのに、同時に2人の人を好きになってしまったということ?

 そんなの、涼にも奏多さんにも悪い。

「桜さま、そろそろ戻りましょう」

「ええ、そうね」

 流石に、これ以上主役がいないというのはお父さまやお母さまにも迷惑がかかるかもしれない。

 華やかなパーティー会場へ戻らなくちゃ。









「はあ、疲れたわ」

 パーティーが終わって、ようやく一息つくことのできる時間が訪れる。

「さあ、着替えましょう。その格好じゃ苦しいと思いますよ」

「そうね」

 メイドにドレスを脱がせてもらうと、すっと肩の力が抜けた。

 ドレスも結構重くて、来ている間は確かにお姫様気分になれるけれど、やっぱり普段のややラフな格好の方がいい。

 それより…………。

『私はね、涼のことを愛しているの。中途半端な気持ちならもう金輪際近付かないで』

 パーティーの終わる数分前、彼女に言われた言葉。

 彼女の顔は今まで見てきた中で最も真剣な表情で、その言葉の重さが伝わってきた。

 私はそれに対して、何も言うことができなかった。

 そんな私を見て彼女は溜息を1つつくだけだった。

 仕方ない。彼女に呆れられるのも、分かる。

 いつものように「分かったわよ」と言えなかった自分。

「はあ…………本当、どうしたらいいの……」

 もう、誰か私に答えをちょうだい。










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