嫌いなあいつの婚約者

みー

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6話

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 今日から夏休みということで、いつもよりも遅い時間にメイドが起こしに来た。夏休みのこの余裕のある朝は、やっぱりどこの世界にいても気持ちがいい。

 今日はなんのフルーツを食べようかしらと部屋を移動したとき、涼の姿が目に入ってくる。

「涼、もう婚約者じゃないんだから来なくていいのに」

「桜」

 それは、昨日とは違う話し方。

「……もしかして、戻ってきたの?」

 涼はいつの間にか入れ替わっていて、元の世界に戻ってきていた。

「まあ、僕はこっちの家の跡取りでもあるし、向こうにはずっといられないよ」

「でも……桜と一緒にいられるのよ? あっちにいれば」

「桜はいるじゃないか、目の前に」

「そうじゃなくて……あなたの好きな桜のこと」

 なんでいちいち声に出さないといけないの。

「僕の好きな桜?」

「そう、女の子らしい桜よ。私は桜は桜でも、違う桜なの。あなたの好きな桜じゃない」

「僕は……桜、君が好きだよ。桜は桜だ。どんな桜でも好きだ」

 そんなわけがない。今はまだ少しの間しか過ごしていないから分からないだけで、そのうちきっとやっぱり違うって思うに決まっている。

「私は奏多さんが好き」

 はっきりと、ゆっくり涼に、そして自分に言い聞かせるように言った。

「知ってる」

「じゃあ」

「それなら、僕を好きになってもらうように努力する」

「……もう、知らない。勝手にして」

 ほら、すぐにこうやって怒ってしまうし嫌なことがあればすぐに逃げてしまうし、自分でもこんな自分が嫌いになってしまうことがある。

 こんな私を好きだなんて、あるわけがない。

「どこかに、出掛けないか? せっかくの夏休みだし」

「奏多さんと約束してるの」

「毎日じゃないだろう?」

「そ、そうだけど」

「予定が分かったら教えて欲しい」

「分かった、分かったから。とりあえず、なんか食べさせて。お腹空いてるの。起きたばかりだし」

「あ、ごめん」

 あっちの世界で頭でも打ったのかしら? なんだかいつもの涼よりも強引で、人が変わったように感じるのは。

 ああ、もう、早く奏多さんに会いたい。奏多さんとのひと時を、幸福な時間を噛みしめたい。

 せっかく自然の甘さで美味しいフルーツを食べているのに、涼がいるせいでその味を100%楽しめずに、彼の存在ばかりが気になってしまう。

 そうだ。

「苺のネックレス、返すわ」

「どうして?」

「だって…………涼と私は、なんの関係もないでしょう?」

「そうだけど、いいよ。あれは桜の為に買ったものだから」

「……そう、分かったわ」


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