嫌いなあいつの婚約者

みー

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6話

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 授業を終えてほっと一息ついている時、目の前に鈴華さんの姿が現れる。

「ちょっと桜さん」

 手首を無理矢理掴まされて屋上に連れて来られた。

 今日は曇りで、白いもくもくとした雲が気持ちよさそうに浮いている。

 それに、鳥なんかも気持ちよさそうに鳴いていて、夏の日の気分の良い昼下がりを感じるとこができた。

 そういえばこの世界は夏と言ってもそこまで暑くならないし、湿度もないから過ごしやすい。

 美味しそうな形をしている雲から、目の前の人に視線を移す。

「それで……なんでしょう?」

「私の言いたいこと分かるくせに、白々しいのね」

 そんな嫌味を言うならはっきりと言いたいことを言ったほうが早そうだけど。

「婚約のことかしら?」

「ええ、そうよ」

 なんとなく予想はついていたものの、流石情報を仕入れるのが早い事には感心してしまう。

 でもどうせ、今の涼はあなたの好きな涼じゃないし、あなたの好きな涼は帰って来るかどうかも分からない。

「解消したって本当なの?」

「そうだけど、あなたにとっては好都合でしょ?」

「それはそうだけど……いいの? それで」

「いいの? って。私は奏多さんが好きだし、いいのよこれで」

 何か間違っていることがあるかしら? ううん、これが正しい。

「あ、そう。…………あなたが涼さまのことを本当に好きそうだったから今まではほとんど何もしなかったけれど、そういうことならもう私も遠慮することないわね」

「ええ、どうぞ」

「っ、後から後悔したって知らないんだからねっ」

 どすんどすんと効果音がつきそうな歩き方をして、彼女は私を屋上に1人残して行ってしまった。

 再び白い雲を見る。

「はーっ、気持ちいい」

 さらさらと風が吹いてきて、木々の葉を鳴らす。

 雲も、ゆっくりゆっくりと、だけど確実に動いている。

「桜」

「杏里」

「心配で後を追ってきたんだけど、大丈夫だったかしら?」

「ええ、大丈夫」

「それなら良かったわ。…………奏多さんに想い、伝えるの?」

 もう少し先でいいかな、と思っている。

 婚約解消してすぐなんて、いくらなんでも世間体も良くないし、奏多さんだって周囲から好奇の目で見られてしまうかもしれないもの。

「そのうち、ね」

「そうね。暫く様子を見た方が良いわ」

「うん」

 とりあえず、明日からの夏休み。

 奏多さんとどこかに出掛けられたらな、なんて妄想が溢れてきて、例えば湖のほとりのレストランとか……、そんなひと時を過ごしたい。

「よしっ、会いに行こう」

 うじうじと迷っているなんて勿体ない。

 用のなくなった屋上から、奏多さんのいるであろう教室を目指す。

 早く行かないと帰ってしまうかもと思うと、自然と歩くのが早くなり、距離が近づく程に心臓の鼓動も早くなっていく。

 ちょうど廊下の角を曲がって2年生の教室が並ぶ場所に来た時、奏多さんの姿が見えた。

「奏多さんっ」

「桜さん、お疲れさま」

「お疲れさまです。今、ちょっといいですか?」

「うん、いいよ」

「あ、あの、夏休み、どこか一緒にお出掛けしませんか?」

「うん、もちろんだよ」

 なんの迷いもなくストレートに奏多さんは言った。それがすごくすごく嬉しくて、心の中でガッツポーズをしてしまう。

「じゃあ、詳しいことは後で連絡するよ。僕がいろいろ決めていいかな?」

「はいっ」

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