31 / 69
6話
2
しおりを挟む
朝、起きて朝食を求めに来るといつも通りに涼がいた。そういえば、ずっと思っていたのだけれど、朝に涼がここに来る意味って何なのかしら?
そんな疑問を浮かべつつ、どちらの涼か分からない涼にいつものように挨拶をしてみた。
「おはよう」
「…………」
涼は何も言わずに私の顔を見た。この感じ…………冷たさを含む目。この冷酷さを帯びている目をしているのは、こっちの世界の涼じゃない。
「まさか、涼?」
「もしかしてお前、桜か?」
「はあ……。やっぱり、涼なのね」
考えれば、こっちの世界の桜は今あっちの世界にいて、同様にこっちの世界の涼はあっちの世界にいる。
涼が好きなのはこっちの世界の桜で、その桜と出会ったならこっちに戻る選択をする確率は低くなる。
もしかしたら、私を追って元の世界に戻ってきたかも、なんて期待をしていた分、ずどんと心が落ち込んでしまう。
「でも、ちょうどよかった。今日の放課後、あなたのお父さんに会って婚約解消を申し出たいの。いいかしら?」
「いいけど…………ってか、俺戻りたいんだが」
そりゃそうよね。こっちの世界にこの涼がいる意味なんて1ミリもないもの。
「願えば戻れるんじゃないかしら? 私はもう戻らないけど」
「は? 戻らないってお前……」
「こっちの世界の桜とそう決めたのよ。だからあなたも、願えばもしかしたら同じように話し合えるかもね」
「願えばねえ……。つかお前、相変わらずツンツンしてんのな」
「あんたが嫌いだから。てか、それはあんたのせいでしょ。昔から意地悪ばっかりしてきたくせに」
「はっ、まあ…………。否定はしないけど」
同じ顔なのにこうも違うのかと、涼の顔を見て改めて思う。
あんなに優しくて穏やかでまるでほっと心を落ち着かせてくれるハーブティーのような涼は、ここにはいない。
って、今はそんな存在でもない。むしろ私の心を乱す存在なのだから、どっちの涼も私の前にいないのがいい。
思ったら即行動、ということで今日偶々涼のお父さんが在宅らしく、早速会いに来た。
涼のお父さんは、あっちの世界と同様朗らかで、どうしてそんな人からこんなつんけんした人間が生まれてくるのだろうかと何度思ったことだろう。
正直に、話した。好きな人がいること。
「ーーということで、涼さんとの婚約を破棄したいんです」
「そうか……2人がそう決めたのなら、仕方ない。自分の気持ちを大切にするのが1番だよ。この国は恋には寛容だからね、皆分かってくれるさ」
「本当に申し訳ないわ」
「いや、いいんだ。若者の恋を邪魔する方が私は嫌だからね」
「ありがとうございます」
「自分の気持ちに素直にね」
「はい」
自分の気持ちに素直に……。もし、自分の心の奥底にある本当の気持ちを探ったらどんな答えが返ってくるのだろう。
ううん、いいの。自覚しているこの奏多さんへの気持ちを大切にするのが1番いいことなのだから。
そんな疑問を浮かべつつ、どちらの涼か分からない涼にいつものように挨拶をしてみた。
「おはよう」
「…………」
涼は何も言わずに私の顔を見た。この感じ…………冷たさを含む目。この冷酷さを帯びている目をしているのは、こっちの世界の涼じゃない。
「まさか、涼?」
「もしかしてお前、桜か?」
「はあ……。やっぱり、涼なのね」
考えれば、こっちの世界の桜は今あっちの世界にいて、同様にこっちの世界の涼はあっちの世界にいる。
涼が好きなのはこっちの世界の桜で、その桜と出会ったならこっちに戻る選択をする確率は低くなる。
もしかしたら、私を追って元の世界に戻ってきたかも、なんて期待をしていた分、ずどんと心が落ち込んでしまう。
「でも、ちょうどよかった。今日の放課後、あなたのお父さんに会って婚約解消を申し出たいの。いいかしら?」
「いいけど…………ってか、俺戻りたいんだが」
そりゃそうよね。こっちの世界にこの涼がいる意味なんて1ミリもないもの。
「願えば戻れるんじゃないかしら? 私はもう戻らないけど」
「は? 戻らないってお前……」
「こっちの世界の桜とそう決めたのよ。だからあなたも、願えばもしかしたら同じように話し合えるかもね」
「願えばねえ……。つかお前、相変わらずツンツンしてんのな」
「あんたが嫌いだから。てか、それはあんたのせいでしょ。昔から意地悪ばっかりしてきたくせに」
「はっ、まあ…………。否定はしないけど」
同じ顔なのにこうも違うのかと、涼の顔を見て改めて思う。
あんなに優しくて穏やかでまるでほっと心を落ち着かせてくれるハーブティーのような涼は、ここにはいない。
って、今はそんな存在でもない。むしろ私の心を乱す存在なのだから、どっちの涼も私の前にいないのがいい。
思ったら即行動、ということで今日偶々涼のお父さんが在宅らしく、早速会いに来た。
涼のお父さんは、あっちの世界と同様朗らかで、どうしてそんな人からこんなつんけんした人間が生まれてくるのだろうかと何度思ったことだろう。
正直に、話した。好きな人がいること。
「ーーということで、涼さんとの婚約を破棄したいんです」
「そうか……2人がそう決めたのなら、仕方ない。自分の気持ちを大切にするのが1番だよ。この国は恋には寛容だからね、皆分かってくれるさ」
「本当に申し訳ないわ」
「いや、いいんだ。若者の恋を邪魔する方が私は嫌だからね」
「ありがとうございます」
「自分の気持ちに素直にね」
「はい」
自分の気持ちに素直に……。もし、自分の心の奥底にある本当の気持ちを探ったらどんな答えが返ってくるのだろう。
ううん、いいの。自覚しているこの奏多さんへの気持ちを大切にするのが1番いいことなのだから。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる