嫌いなあいつの婚約者

みー

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5話

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「なんか、どっと疲れたけど面白かったよ」

 若者の街を歩いて回り、面白い雑貨が売っているお店に寄ったり、途中で生クリームたっぷりの甘々クレープを食べたりしていたらあっという間に夕方になった。

 その間涼は驚きっぱなしで、あっちの世界と比べたら刺激の強すぎる感じで、でもいちいち反応が面白くて飽きない1日だった。

「まあ、こっちの世界ではとにかく、家族の人とはあまり話さないほうがいいよ? こっちの世界の涼って愛想無くて無口だし。意地悪ばっかりしてくるしさ」

「そうなのか。うん、分かったよ」

「なんかあったらすぐに電話して。……電話の仕方、分かる?」

「大丈夫。分からなかったら、すぐに桜のところに行くから」

 と、きらっきらの笑顔を私に向けて言ってくる。

 眩しすぎて目が合わせられなくて、視線をずらす。

「ま、まあ、隣だしね、家。じゃあ、また」

「うん、じゃあ」

 


 


 

 
 朝、雨の音で目が覚めると、じいっと私の顔を見つめている涼が部屋にいた。

「な、なんでいるの?」

「桜の母がぜひって」

 もう、思春期の娘の部屋に、幼馴染だからって簡単にいれる親ってどうなの? と思いながら急いで乱れている髪を直す。

「き、着替えするから下で待ってて」

「あ、うん、分かった」

 朝から心臓が有り得ないほど早く動いて、それを鎮めるとために深く息を吸ってすうっと少しずつ吐いていった。

 ティシャツにジーンズの涼は、あっちの国の正装の涼よりも親しみやすさがアップしていて、どうも調子が掴めない。

 いつものように王子様的な格好ならば、なんとなく距離も掴めるのに。

 顔を両手で挟んで気合いを入れてからベッドを出た。








「ここ数週間規則正しかったのに、またお寝坊桜に戻ったのね」

 と、目玉焼きとソーセージを焼きがらお母さんが話しかけてきた。

 昨日も思ったけれど、この質素とも言える朝食、やっぱり体にしっくりとくる。

 向こうの世界の豪華で色とりどりのモーニングももちろん美味で食べ応えがあって飽きないけれど、長年慣れてきたこの朝食は心がほっとする。

「まあ、少し生活を見直そうと思ったんだけど」

 やっぱり、向こうの世界は私は涼同様にこの私よりも大分出来のいい人間なんだなということが分かった。

「ていうか、仲良しね。幼馴染みから恋人になったんだから当たり前なのかしらね」

「こ、恋人?」

「なあに、まだ寝ぼけてるの? あなたたち付き合ってるって言ってたじゃない」

 この世界に私がいない間にそんなことになっているとは全く予想していなかったことで、声も出ない。

 涼は特に驚く様子も見せずに、あちらの世界と同様に優雅に紅茶を飲んでいる。

 私が知らない間にこっちの世界でもそんなことになっていようとは、全く想像していなった。

 ていうか、あっちの世界の桜はこっちの世界の涼をどう思ったのだろう。大分性格が違うと思うのだけれど。

 あんな涼でも好きだと思えるのかしら? 

「今日も2人でお出かけ? 遊ぶのもいいけど、宿題も忘れずにやるのよ」

「はあい」

 夏休みの宿題、なんて嫌な時にこっちの世界に戻って来てしまった。
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