嫌いなあいつの婚約者

みー

文字の大きさ
上 下
17 / 69
3話

しおりを挟む
 マナー講座の前に少し何かを食べようかと洋食のレストランに行くと、まさかの光景が目に入ってくる。

 そこには、杏里と杏里の好きな人が2人で仲睦ましそうにモーニングを食べている姿があった。

 私の存在に気づいた杏里が話しかけてくる。

「桜。おはよう。一緒にどう?」

「いいの?」

「ええ、もちろん」

 サラダとスープと小さめのパンと共に、杏里の隣に座った。

「初めまして、重三郎と申します」

「初めまして、桜です」

 いつもよりも優しい顔をして杏里は私の顔を見た。すごく幸せそうで笑顔が柔らかくて、私まで同じ気持ちになる。

 穏やかな雰囲気が2人を包み込んでいて、それが心底羨ましくなった。

 自分の気持ちに素直な杏里は、とても可愛らしく見える。

 私もこんな風に可愛らしい女の子になりたかった、なんて、気持ちの持ちようでなんとでもなることをただただ願望しているのは、きっと自分が怠け者なだけ。

「桜さんって、確か涼さんの婚約者でしたよね?」

「あ、はい」

「涼さんは桜さんのこといつも大事にされていて、男として見本にしています。僕もああなりたいと、日々精進しているんですよ」

 涼が私のことをいつも大事にしている……?

「素敵な方が婚約者で、よかったですね」

「あ、はい、……ありがとうございます」

 そんなことを言われたら、罪悪感で心が埋め尽くされてしまうじゃない。

 まるで、私が涼のことを裏切っているようで。

 私は、これっぽっちも涼のことを大事になんかしていない。

 私と涼はきっと正反対で、これで本当にいいいの? と心の中のもう1人の自分が問い掛けてくる。

 良いも悪いも、そんなの仕方ないじゃない、だって私は涼のことなんて好きじゃなくて、むしろ嫌いだったんだもの。

 どうしろっていうの…………?

「ねえ、桜、今日は何の授業受けるの?」

「あ、えっと、マナー講座を。基本をもう一度振り返ろうと思って」

「ええ、それはいいわね」

「そうですね。マナーは大切ですからね」

 杏里がそっと私の手を握ってきて、そこから色々な感情が伝わってくる。

 杏里は本当はどう思っているの?
 
 涼という婚約者がいながら、奏多さんのことを好きだと言う私を軽蔑したりしないの?

 苦しい。心が、息を吸えていないような感じで、苦しい。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

【完結】好きな人に身代わりとして抱かれています

黄昏睡
恋愛
彼が、別の誰かを想いながら私を抱いていることには気づいていた。 けれど私は、それでも構わなかった…。

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います

ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には 好きな人がいた。 彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが 令嬢はそれで恋に落ちてしまった。 だけど彼は私を利用するだけで 振り向いてはくれない。 ある日、薬の過剰摂取をして 彼から離れようとした令嬢の話。 * 完結保証付き * 3万文字未満 * 暇つぶしにご利用下さい

婚約をなかったことにしてみたら…

宵闇 月
恋愛
忘れ物を取りに音楽室に行くと婚約者とその義妹が睦み合ってました。 この婚約をなかったことにしてみましょう。 ※ 更新はかなりゆっくりです。

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

処理中です...