60 / 82
9話
3
しおりを挟む
そこにいたのは、柑菜と同い年くらいに見える男の人。
その人は柑菜の顔を見ると、はっとした表情を一瞬見せて、また元通りになる。
「あ、私退きますね」
「いや……いいんです…………あの、実は僕ここのケーキ屋来るの初めてで、どれがおすすめですか?」
柑菜は突然そう言われて驚いたが、「えっと、どれも美味しいので迷ってしまいます……」と返す。
男の人は照れくさそうに「そうなんですね」とこぼれる笑みを浮かべてそう言った。
「当店のおすすめですか?」
すると、秋斗が2人のもとにきて、柑菜と話している男の人にそう尋ねた。
「はい」
「今でしたら、モンブランとかどうでしょう? 秋ですし、おすすめですよ」
秋斗は笑顔を浮かべているが、内心は穏やかではなかった。
男の人が柑菜に話しかけた瞬間から、いつ2人のもとに行くかとずっと考えていた。
その人に笑顔で話しかける柑菜の顔を見ると、もやもやが募っていく。
それに、秋斗は早く柑菜に見せたいものがあった。
一分でも一秒でも早く……。
「柑菜さん、あとで少しいいですか?」
いつもなら、知り合いがきてもこうやって個人的に話しかけたりしない秋斗。
でも、今日は違った。
「は、はい」
柑菜の隣に立つ男の人は、その柑菜の表情の変化を見て、ピンとくる。
ーー彼女は、この人に惚れているんだ。
「あの、もしかしてですけど、○○大ですか?」
「あ、はい、そうです」
「僕もなんですよ、もしよかったら今度大学で会いませんか?」
「お客様、どういたしますか?」
秋斗は2人の会話を遮るように、男の人に話しかけた。
「じゃあ、おすすめのモンブランにします」
柑菜は、2人の顔を交互に見ながらいつもと違う秋斗に困惑している。
いつも優しさ100パーセントのような秋斗が、妙に人に絡む。
柑菜から見る秋斗の目の奥は、笑っていないように見えた。
それは、初めて柑菜が見る秋斗だった。
店内から、柑菜以外のお客様がいなくなる。
ケーキ屋には柑菜と秋斗の2人、今日は美鈴はいない。
その静かな店内に、柑菜の名前を呼ぶ秋斗の声。
「柑菜さん、これ」
秋斗は、ひとつの小さな箱を柑菜に手渡した。
「柑菜さんのおかげで、僕は一歩前に進むことができたから……それのお礼。家に帰ったら見てみて」
「あ、ありがとうございます」
「あ、あと……なんだかさっきはごめん。会話の邪魔して……」
「い、いえ!」
照れる秋斗の顔を見て、柑菜はそれが移ったのか同じように照れてしまう。
赤く染まる2人の顔は、夕日によってより赤く見えた。
カランカラン……。
2人だけの空間が、その音によって終わりを告げる。
「あ、これ、ください」
小さく可愛らしいかごに入れていたクッキーを秋斗に渡した。
柑菜は、ケーキ屋に来た人にその照れた顔がばれないように、ずっと下を向いていた。
その人は柑菜の顔を見ると、はっとした表情を一瞬見せて、また元通りになる。
「あ、私退きますね」
「いや……いいんです…………あの、実は僕ここのケーキ屋来るの初めてで、どれがおすすめですか?」
柑菜は突然そう言われて驚いたが、「えっと、どれも美味しいので迷ってしまいます……」と返す。
男の人は照れくさそうに「そうなんですね」とこぼれる笑みを浮かべてそう言った。
「当店のおすすめですか?」
すると、秋斗が2人のもとにきて、柑菜と話している男の人にそう尋ねた。
「はい」
「今でしたら、モンブランとかどうでしょう? 秋ですし、おすすめですよ」
秋斗は笑顔を浮かべているが、内心は穏やかではなかった。
男の人が柑菜に話しかけた瞬間から、いつ2人のもとに行くかとずっと考えていた。
その人に笑顔で話しかける柑菜の顔を見ると、もやもやが募っていく。
それに、秋斗は早く柑菜に見せたいものがあった。
一分でも一秒でも早く……。
「柑菜さん、あとで少しいいですか?」
いつもなら、知り合いがきてもこうやって個人的に話しかけたりしない秋斗。
でも、今日は違った。
「は、はい」
柑菜の隣に立つ男の人は、その柑菜の表情の変化を見て、ピンとくる。
ーー彼女は、この人に惚れているんだ。
「あの、もしかしてですけど、○○大ですか?」
「あ、はい、そうです」
「僕もなんですよ、もしよかったら今度大学で会いませんか?」
「お客様、どういたしますか?」
秋斗は2人の会話を遮るように、男の人に話しかけた。
「じゃあ、おすすめのモンブランにします」
柑菜は、2人の顔を交互に見ながらいつもと違う秋斗に困惑している。
いつも優しさ100パーセントのような秋斗が、妙に人に絡む。
柑菜から見る秋斗の目の奥は、笑っていないように見えた。
それは、初めて柑菜が見る秋斗だった。
店内から、柑菜以外のお客様がいなくなる。
ケーキ屋には柑菜と秋斗の2人、今日は美鈴はいない。
その静かな店内に、柑菜の名前を呼ぶ秋斗の声。
「柑菜さん、これ」
秋斗は、ひとつの小さな箱を柑菜に手渡した。
「柑菜さんのおかげで、僕は一歩前に進むことができたから……それのお礼。家に帰ったら見てみて」
「あ、ありがとうございます」
「あ、あと……なんだかさっきはごめん。会話の邪魔して……」
「い、いえ!」
照れる秋斗の顔を見て、柑菜はそれが移ったのか同じように照れてしまう。
赤く染まる2人の顔は、夕日によってより赤く見えた。
カランカラン……。
2人だけの空間が、その音によって終わりを告げる。
「あ、これ、ください」
小さく可愛らしいかごに入れていたクッキーを秋斗に渡した。
柑菜は、ケーキ屋に来た人にその照れた顔がばれないように、ずっと下を向いていた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
妹の妊娠と未来への絆
アソビのココロ
恋愛
「私のお腹の中にはフレディ様の赤ちゃんがいるんです!」
オードリー・グリーンスパン侯爵令嬢は、美貌の貴公子として知られる侯爵令息フレディ・ヴァンデグリフトと婚約寸前だった。しかしオードリーの妹ビヴァリーがフレディと一夜をともにし、妊娠してしまう。よくできた令嬢と評価されているオードリーの下した裁定とは?
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる