46 / 82
7話
4
しおりを挟む夏休みも1か月ほど過ぎた頃、柑菜は櫻子と大学にいた。
夏休みの課題で、何か1つの作品を完成させるものがあり、2人はそれに取り掛かっている。
夏休みは校舎には人の出入りも少なく、普段よりも空気の流れが穏やかだった。
窓を開けているので、風が吹くと外からは木の葉っぱが擦れる、さあっという音が聞こえてくる。
「ねえ、櫻子」
柑菜は絵を描くのを中断し、心の中に引っかかっているあのことを話し始める。
櫻子には話さないでおこうと思った柑菜だったけれど、やはり友人の意見を聞きたくなってしまった。
「なあに?」
「亜紀のことなんだけど……」
櫻子は作業をやめ、柑菜の顔を見た。
「秋斗さんが美鈴さんを好きだって、嘘をつかれたの」
それを聞いた櫻子は、『やっぱり』といった顔をし、何かを考えているようだ。
「亜紀ちゃん、美鈴さんのことすごく慕ってるでしょう? だから、きっと美鈴さんの恋を応援したくて、でもそのためには柑菜ちゃんに諦めてもらわなければならくて、だからそう言ったんじゃなないかしら」
本当のことは亜紀ちゃんに聞いてみないと分からないけれど、と櫻子は付け加える。
もし柑菜が亜紀の立場だったら、自分の大好きな先輩が友達と同じ人好きだと言ったら……自分はどうするだろう……柑菜は考えたけれど、答えは出なかった。
時計は11時40分を指していた。
話をしたことで2人の作業が同時に中断したということで、2人はランチを食べに行くことにした。
「本人に聞いてみましょう、それが確実だわ」
「うん、そうだね」
2人がちょうど、校舎から外に出た時、2人のよく知っている、そしてまさに今会いたいと思っていた人の姿が現れる。
「亜紀ちゃん……」
「今からお昼?」
柑菜が本当のことを知っているとは思っていない亜紀は、いつも通り明るくはつらつとした口調で2人に話しかけた。
柑菜は笑顔を浮かべるも、『顔、引きつっていないよね?』と心の中で心配をしている。
「亜紀ちゃんも食堂行きましょう」
「うん、じゃあ行こうかな」
櫻子は、2人に話す機会を持たせたいと思い、沈黙が流れても気まずい雰囲気にならないよう人が行きかいざわめきのある食堂に亜紀を誘った。
柑菜は櫻子が亜紀を誘った瞬間戸惑うも、静かすぎる校舎内よりはまだ食堂のほうが話をするにはいいと思った。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる