ケーキ屋の彼

みー

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7話

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 再びソファに座って、冷え冷えのオレンジの炭酸のジュースを飲みながら、だらーっとしている2人。

「そういえばさ、1日目の散歩してからお前なんか変だぞ」

 疲れて忘れていたことを、柑菜が1番知りたくて、でも1番知りたくなかったことを亜紀から聞いたあの時のことがフラッシュバックされる。

「なんかあったんだろ?」

 なんで、私になんか興味がなさそうなのにいつもいつもお見通しなのよと、柑菜はジュースを飲む春樹を見つめた。

「秋斗さん、…………美鈴さんのことが好きなんだって」

 きっとこれ以上隠したっていつかはばれること、と柑菜は思い春樹に正直に話す。

 その声は、少し震えていた。

「え、それはないだろ」

 しかし返ってきた言葉は、柑菜が予想もしていないものだった。

 柑菜はてっきり、「そうか」や「まあ……な」と罰が悪そうに春樹が言うだろうなと思っていた。

「でも、私そう聞いたよ」

「誰に?」

 柑菜は再び、やっぱりあれは亜紀の嘘だったのかもしれないと思い始めた。

 考えれば、恋愛の話をするほど亜紀と秋斗の2人が仲が良いとは思えない。この前会ったばかりなのだから……。

 でも、亜紀が柑菜に嘘を教える理由が、柑菜には到底思いつかなかった。

「俺は、秋斗さんから直接聞いた。美鈴さんのことは幼馴染として大切に思ってるって」

 春樹は、1日目の温泉の時を思い返す。






 秋斗と春樹は、風を感じながら温泉に浸かっていた。

 女子4人とは違い、こちらは落ち着いていて、2人は空に浮かぶ月を見ていた。

「そういえば、昔夏目漱石は生徒にI love youの訳を聞かれて、月が綺麗ですねと訳せば日本人には伝わると言ったらしいですね」

 秋斗は、月を見ながら春樹にそう話す。

「秋斗さんは、誰か好きな人いるんですか?」

「僕は……気になっている人はいますよ。ーーさんです」

 秋斗が名前を言った瞬間、突然風が吹いてきて、春樹はその名前を聞き取ることができなかった。

 風はすぐにおさまり、再び静寂を取り戻す。

 名前は聞き取れなかったものの、『さん』付けをしているということは美鈴ではないということだけは分かった。

「じゃあ…………美鈴先輩は?」
 
 意を決して、春樹は秋斗にそれを尋ねた。

 本当は、秋斗の好きな人なんてのはどうでもよく、ただそのことを聞きたいだけだった。

「美鈴は、幼馴染として大切に思ってるよ。でも、恋とは違う」

 秋斗は美鈴の思いに気づいているのか、雲に半分隠れた月を見ながら切ない声でそう言った。

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