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6話
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しおりを挟む「柑菜さん、心配したよ」
別荘に帰ると、玄関で秋斗が柑菜のことを待っていた。
眉間にしわが寄っていて、しかしどこか力が抜けている。
その姿を見て、柑菜は不謹慎にも自分のことを気遣ってくれた秋斗の姿に嬉しく感じてしまった。
「あんな風にいきなり走っていったら驚くよ」
笑って謝ろうとした柑菜だったが、秋斗の顔があまりにも真剣であったために「ごめんなさい」と頭を下げる。
それを見た櫻子は、柑菜のフォローをするように「柑菜ちゃん、今日携帯の充電器忘れたみたいで、それを買いに行ってたんです」と秋斗に伝えた。
「そっか、……怖い顔してごめんね」
秋斗は、柑菜の下を向いている頭の上に手を乗せ、ポンポンと優しくたたいた。
その手は、柑菜を包んでくれるような感じがした。
ーー手、握りたい。
柑菜はそう思ってしまう、しかし、美鈴のことを考えるとその手をぎゅっと握って柑菜はその思いを押し込めた。
櫻子は、その二人の様子を見て、そうっと玄関からいなくなる。
ーーどうして、諦めるなんて言うのかしら……。
秋斗の柑菜を見る目、態度、そしてあの手。
櫻子の目には、秋斗が柑菜に対して何か特別な感情を持っているように見えるのであった。
「柑菜ちゃん、大学院のこと嫌だった?」
リビングに戻る柑菜に駆け寄る美鈴の顔は、不安でいっぱいそうだ。
柑菜はその美鈴を見て、心底申し訳ない気持ちになる。
自分の小さい恋心と嫉妬心のせいで、相手を不安な思いにさせてしまったと柑菜は悔いた。
「違うんです、本当に買い残しがあって……」
だからこそ、その恋心を奥底にしまい、何事もなかったかのように接する。
「よかった……」
柑菜の言葉を聞いた美鈴はの顔は、安心していた。
その顔は、どこかお母さんを思い起こさせた。
まだ会って間もない人をこんなにも考えてくれる人だからこそ、秋斗はきっと美鈴を好きになったのだろうと、柑菜は思う。
自分なんかよりも、何十倍も素敵な人だとーー。
「ねえ、そろそろカレー作らない?」
タイミングを見計らって、亜紀は冷蔵庫から具材を取り出していた。
柑菜を見る亜紀の目は、どこか冷たく感じる。
それを春樹は見逃さなかった。
「そうしよっか」
ひと段落した6人は、それぞれ分担を決め、カレー作りに取り掛かった。
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