13 / 82
3話
1
しおりを挟む「美鈴先輩、先輩ってもしかして、あのケーキ屋のパティシエのこと好きなんですか?」
授業が終わったあと、チューターとして授業に出席していた美鈴に、春樹は疑問を投げかけた。
教室にはもう誰もいないし、今が5限の授業だったため、次に使うこともなく、静かだ。
空も暗くなりつつあり、静寂さに拍車をかける。
その沈黙の中待つ答えは、春樹にとっても、そして柑菜にとっても、返答次第では複雑な心境になる。
自分よりもずっと仲が良くて、ずっと大人で、近くにいることができて、そんな人が好きな人の周辺にいると知ったら、穏やかな気持ちではいられないはず。
「……うん、って言ったら、何か困る?」
意地悪くそう言う美鈴に、どう返事したら良いか、すぐに答えが出ず、春樹は黙ってしまう。
美鈴は春樹の眉の下がった顔を見て視線を一度彼から逸らした。
そして沈黙を、美鈴から破った。
「柑菜さんに関係あるとか?」
「それは……ただ、俺が聞きたいだけですよ」
嘘ではない、だけど、質問には答えていない。
「そっかあ、……うん、そうだよ、春樹くんの言う通り、ずっと片思いしてる」
春樹が質問に答えなくても、美鈴はなんとなく分かっていた。
乾いた風が、2人の間を通ったように、春樹は感じた。
「柑菜さんも、惚れてるでしょ?」
美鈴の言葉に、春樹は真っ直ぐな視線で美鈴を見た。
それは、「そうです」と言っているも同然だった。
「大丈夫よ、別に意地悪なんてしないし」
「そうですか」
ーー柑菜の気持ちには気がつくくせに、俺の気持ちは一切感じ取ろうとしないんだな、いや、わざと……なのかもしれない。
美鈴は、「あ、そうだ」と言うと、鞄から紙袋を1つ取り出した。
「これね、秋斗から、あ、パティシエね。柑菜さんにだって……褒めてくれたお礼」
春樹は、複雑な気持ちですそれを受け取る。
お菓子よりも2人の関係が気になる春樹は、さらなる質問をした。
「彼は、美鈴先輩の思い、知ってるんですか?」
「どうかしら……知っているかもしれないし、知らないかもしれない」
はっきりとしない美鈴の答えに、春樹はもやもやする。
「何年間、好きなんですか?」
嫌われるかもと思いながらも、質問することをやめられない。
好きな人のことをもっと知りたい気持ちが前面に出る。
「そうね……10年くらいかしら」
それに、あくまでも平静で答える美鈴に、なぜだか春樹の方が感情的になる。
「なら……! もうそろそろ、新しい恋、してもいいんじゃないんですか?」
「誰と?」
「え?」
思いもよらぬ質問に、春樹は言葉が詰まる。
なんと答えれば良いのか、考えても考えても答えは出てこない。
ーー俺と、なんて言ってもきっと今は駄目だ。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ドクターダーリン【完結】
桃華れい
恋愛
女子高生×イケメン外科医。
高校生の伊吹彩は、自分を治療してくれた外科医の神河涼先生と付き合っている。
患者と医者の関係でしかも彩が高校生であるため、周囲には絶対に秘密だ。
イケメンで医者で完璧な涼は、当然モテている。
看護師からは手作り弁当を渡され、
巨乳の患者からはセクシーに誘惑され、
同僚の美人女医とは何やら親密な雰囲気が漂う。
そんな涼に本当に好かれているのか不安に思う彩に、ある晩、彼が言う。
「彩、 」
初作品です。
よろしくお願いします。
ムーンライトノベルズ、エブリスタでも投稿しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる