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2話
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しおりを挟む「それでね、そこのケーキ屋の彼に恋しているのよ、柑菜ちゃん」
3人で、大学で本日のランチを食べながら、昨日の出来事について話している。
今日のランチは少し早めで、今はちょうど2限目の授業をしている時間だ。
そのせいか、人も少なくピアノの音楽なんかがBGMで流れていて、食堂内は落ち着いていてゆったりとしていた。
その中、3人の話している内容は、柑菜の甘酸っぱい恋について。
3人の顔は、青春真っ只中の少女そのもの。
「その人はどんな感じの人?」
まだ会ったことのない亜紀が、彼についての質問をする。
柑菜がもじもじとしていると、櫻子が代わりに口を開いた。
「そうねえ、色が白くて目が大きくて鼻が高いのだけれど、くどくなくて綺麗な印象を受ける方よ。柑菜ちゃんの隣にいたらきっとお似合いだわ」
櫻子は、思いを寄せている本人よりも詳しく、そしてどこか嬉しそうに亜紀に報告している。
それを隣で聞いている柑菜本人は、少し歯がゆく感じていた。
その恥ずかしさを消すかのように、柑奈は目の前のランチに集中する。
今日のランチは、鮭のムニエル。
これに、食堂のスープ部門2番人気のコーンスープとライス、小さめのサラダがついている。
3人はそれぞれ、これにプラスし、櫻子は夏ミカンソースのパンナコッタ、柑菜はイタリアンプリン、亜紀はフルーツヨーグルトを選んだ。
そんなランチを目の前に、話は広がりを持つ。
「それで、その人とは話したりするの?」
亜紀は、2人の恋の模様が気になるのか、質問を続けた。
「それが……まだプライベートな話はしたことなくて」
ようやく言葉を発したかと思うと、伏せた目にいつもよりも小さな声。
明らかに自信がない雰囲気を醸し出している柑菜の姿を見て、2人はどうしようかと悩んでいた。
「とりあえず、『今日はいい天気ですね』くらい話しかけたら?そんなに特別な内容じゃなくてもいいと思う」
亜紀は、積極的に柑菜にアドバイスをする。
どうやら、柑菜の恋を応援しているようだ。
こうして友達や家族と話をすることは、こんなにも簡単で気が楽なのに、それが好きな人となると、どうしてこうも困難なことになってしまうのだろう。
柑菜は、どうしようもない気持ちを抱える。
「弟を連れて行けばいいんじゃないかしら?男の人同士なら、少しくらい世間話してもきっとおかしくないわ。そこに柑菜ちゃんが加われば自然と会話ができると思うの」
櫻子は、なるべく柑菜に負担がかからないような提案をする。
それを聞いた柑菜は、先日のことを思い出した。
春樹がケーキ屋に行きたいと言っていたこと。
ーーでも、今更一緒に行くと言って怪しまれないかしら。
あの時の浅はかな考えの自分を、柑菜は少しだけ恨む。
もっとちゃんと考えてから返事をすべきだったと。
勘違いをされる、なんて考えるよりもまずはこの今の関係を壊すことがなにより大切なことなのだ。
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