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8章
面影
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ゼンが亡くなった後、僕の心が完全に壊れなかったのはやはりゼンの存在があったからだと思う。25歳になったあの日も僕はゼンの夢を見て、また大切な思い出が増えた朝だった。夢から覚め、ゼンがいない現実を実感するとやはりいつもの様に深い悲しみと孤独感に苛まれた。それでも体を起こし職場へ向かう途中、あの仔猫の鳴き声が聞こえてきて、導かれる様に僕らは出会った。
一瞬、ゼンの面影が重なって見えた様な気がしたが、それは見間違いだった。仔猫の瞳が白くないなどの見た目の違いもあったが、人懐っこく近寄ってきたゼンとは違い、この仔猫が近寄ってくることはなかった。恐怖に怯えているのか、寒さに耐えられないのか仔猫は震えていて、出会った頃のゼンより幼く見えた。思わず手を差し伸べようと手を近づけると、
「シャー」
と蛇の鳴き声の様な声で僕を威嚇した。だがそのまま見放す訳にはいかなかった。どう見てもこの仔猫は捨てられている。このまま放っておいたら死んでしまう。僕は嫌がる仔猫を抱き抱え自宅に帰った。後になって気付いたが、その日僕は職場を無断欠勤していた。だがそんなことはどうでもよかった。後悔は微塵もない。
一瞬、ゼンの面影が重なって見えた様な気がしたが、それは見間違いだった。仔猫の瞳が白くないなどの見た目の違いもあったが、人懐っこく近寄ってきたゼンとは違い、この仔猫が近寄ってくることはなかった。恐怖に怯えているのか、寒さに耐えられないのか仔猫は震えていて、出会った頃のゼンより幼く見えた。思わず手を差し伸べようと手を近づけると、
「シャー」
と蛇の鳴き声の様な声で僕を威嚇した。だがそのまま見放す訳にはいかなかった。どう見てもこの仔猫は捨てられている。このまま放っておいたら死んでしまう。僕は嫌がる仔猫を抱き抱え自宅に帰った。後になって気付いたが、その日僕は職場を無断欠勤していた。だがそんなことはどうでもよかった。後悔は微塵もない。
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