白い瞳の猫

木芙蓉

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1章:出会い

③大冒険

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道のりはとてもきつかった。
急勾配の登り坂が延々と続く。
このまま終わりがないんじゃないかとすら感じられた。
競技用の自転車ならともかく、僕の自転車は通学用の一般的な自転車だ。
思うように進まない。

-ハァハァ・・・・
息が上がる。
一番軽いギアに入れ足をぐるぐる回して必死にペダルをこいだが、
空しく空転するだけだった。
汗がとめどなく流れ出し、汗でびしょ濡れなのか、雨でびしょ濡れなのかさえわからない。
僕はそのぐらい夢中だった。
いつの間にか止んでいた雨に気付くことは無かった。
それから何時間こぎ続けていたのだろう。
ふと、空を見上げたら陽が既に陰り始めていた。

すーっと目の前から光が消え。気が遠くなるのを感じた。

ほんの一瞬だったような、凄い長い時間だったような曖昧な記憶。


意識が戻った瞬間、顔の横には地面のアスファルトが迫ってきていた。
そして次の瞬間には完全に転倒していた。受け身をとれず。全身を道路に強く打ち付けてしまった。
何時間も自転車をこぎ続けた疲れもあったのだろうか。
全てはきっと一瞬の出来事だった筈だ。

その場に座りこんだまま状況を確認する。
顔や膝など全身に痣や擦り傷があるものの、幸い大きな怪我はない様だ。
けれど無事では済まなかったのが自転車だ。
チェーンが外れ、支柱となる金属部分、ステンレスだろうか?
そこがポキッと折れていた。
だがこのまま道に座り込んでいるわけにもいかない、
道の端に避けようと立ち上がった瞬間。

-痛っ

全身に電気のような強い衝撃を伴った痛みが走った。
このまま歩けなくなるのはマズイ。
もう一度様子を見ながら2歩,3歩と歩いてみた。

相変わらず痛みは走るものの、少し落ち着き
電気のような衝撃も和らいでいった。

だが状況は絶望的だった。
僕は自転車を失った。

これからどうしよう。
-帰ろうか。
一瞬頭をよぎったがどうやらそれも難しいようだ。
だったら前に進もう。痛む足を引きずりながら僕は再び歩を進めた。

どこまでこの道は続くのか。その後宛もなく漠然と歩いていた。
暫くして、それまで道路の脇を覆い茂っていた木々が途切れ、空が見える開けた場所が見えてきた。

一旦ここで一休みしよう。
そこは谷側が崖になっており、転落防止の木でできた柵が設置されていた。
どうやら展望台のようだ。ただ自分以外の人は誰もおらず、
後ろを時折車が通り過ぎていくだけだった。
雨は止んでおり、陽が暮れかけていた。

そこで見たものに、僕は思わず感動した。
眼下には自分が通ってきた平野が広がっていた。遠くの方には僕の住む街も見える。
陽は沈み始め太陽が紅くなっていた。
太陽は辺り一面を紅く染め、僕の住む街も染まっていた。
それがとても幻想的だった。
-ずっと見たかった美しい景色はきっとこれなんだ。

僕は気付いた。
何の変哲もないつまらない街だと思っていたけど
こんなにも美しい街だったんだ。

新しい世界は見つけられなかったけど、帰る場所が見つかった気がした。
今思えば考えが単純すぎたけど、思春期の豊かな感受性は当時そう受け取っていた。

ここがゴールなんだ。
いや、僕の街がゴールならここは折り返し地点だ。

-帰らなきゃ。

心は焦って引き返そうとするが、もう体がついてこなかった。
足の痛み、疲れ。ドット押し寄せてきた。

今日は此処で休もう。明日の朝1番で出発しよう。
そう決めた。
そのころには痛みと疲れも幾分和らいでいるはずだ。

だが、このままこの展望台で休むわけにはいかない。
交通量が少ないとはいえこの道は幹線。
車は来るし、見つけられたら通報されてしまう。
それだけは避けたかった。
自分の足で帰らなければ意味がなかった。

どうしようか。痛む足を引きずりながら辺りを見回った。
展望台から少し進んだ、道路の谷側1,2m下がったところ、
斜面に人ひとりすっぽり隠れてしまうような草の茂みがあった。
そこで休もう。茂みに自分の体を隠した。
陽が沈み森は闇に覆われつつあった。
それはとても怖かった。だが恐怖が頂点に達する前に
僕は眠りの世界へ落ちていった。
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