白い瞳の猫

木芙蓉

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1章:出会い

①12年前の孤独

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12年前の4月、僕は小学校を卒業して中学生になった。
半分以上は僕とは別の小学校からやって来た全く知らない人たちだった。

同じ小学校から来た子でも親しいといえる友達は居ない僕に、
馴染める筈はなかった。



それでも最初は努力した。明るく振舞ったり、積極的に話しかけたり。
でも上手くいかず気付いたら顔を合わせぬよう、休み時間の度机に頭を突っ伏して寝ようする毎日になっていた。


一度だけ聞いてしまったそれが、僕にとって致命傷だった。
その日も休み時間、机に顔を突っ伏して寝ようとしていた時、
その子には本当にに寝ていると思われたのだろう。
隣の席で噂話をして嘲笑する声が聞こえた。噂話の主人公は僕だった。

話の内容はショックで忘れてしまった。

だがそれ以来、傍に誰かいるだけで、目が合うだけで笑われているんだ。そんな気がした。


ただただそこから逃げ出したかった。
だけど中学1年生の僕にとって、学校生活とは僕の生活のほぼすべてだった。
生きている世界すべてだった

生活の全て、生きている世界そのものから逃げ出すと言うことは、死を意味した。
そう、僕は「死にたい」と思うようになっていた。

その願いは今も叶わぬまま12年後の今も僕は生きている。
弱すぎたんだ。死ぬ事も生きる事も出来なかった。一歩を踏み出す勇気がなかった。
月日が経につれ、学校に出席する日が徐々に減っていった。

現実から逃れるように、小説など物語を書かれたものを読み耽った。
この山を越えたらまだ見知らぬ隣町があって、そこには美しい景色があって
そこにはまだ知れぬ新しい仲間と、
まだ知らない世界で、新しい人生が始まる・・・。

新しい世界、そこへ行けばすべてがリセットされ、自分も変われるんだと
空想の中に理想の自分を夢見ていた。


学校に行かない日、サボってしまう日は自分を受け入れてくれる理想郷を探した。
まだ知らぬ街、美しい風景を探すための旅、僕にとっては日帰りの大冒険だ。

毎日が家を出るときは学校へ行く振りを装った。その為毎日制服に着替えて家を出た。
そのうち何割かは本当に学校へ行き、授業を受けた。
残りの何割かは自宅の最寄り駅の駐輪場に置いた自転車に乗り、冒険へと出かけるのだった。

「それ」は中々発見することは出来なかった。
僕の住む街は大きな平野の真ん中にある。隣町との間に山なんかは存在しない。
見慣れたファミレスや携帯ショップなどロードサイド型の店舗の横を、
通り過ぎてはまたそれが現れ、また通り過ぎてを何度か繰り返したら
隣町へとたどり着いていた。そこは僕の住む街と何だ変わらない街並みが並んでいた。

中学生が自転車で、しかも日帰りで移動できる距離などたかが知れていた。
何処の方角へ行っても大して変わらない隣町の街並みが並んでいるだけだった。
夢見た理想郷を見つけられぬまま季節は過ぎ、
穏やかな春は終わりを告げ、季節は梅雨入りを告げた。

連日雨の日が続き、僕の冒険は中断を余儀なくされてしまった。
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