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第283話 ダリアのお迎えと年末まで
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重要なイベントに備え体調調整。
ルーナリオンの宿の夜は何もせず帰宅しました前日午前。
自宅に招いたシュルツとの打ち合わせ。の前にオーナルディア迷宮での出来事とファフレイスの説明が入った。
聞き終えたシュルツは大きく何度も頷き。
「そうでしょう。そうでしょうとも。お兄様は神さえも惚れさせてしまう色男。オメロニアン様が生きて居らっしゃるなら救うべき。
そして!ファフレイスさんのご紹介は。誰一人。私と侍女含め城の皆が!絶対に違う。防壁なんて単なる下りて来る為の口実だ!と信じる者は居りませんでした」
「えぇ…。もう最初から…」
「だろうね。芋羊羹は流石に厳しいよ」
「でしょうね。芋羊羹でハーレム入りは無いよ」
「遊びに来ました、なら解ります」
「苦しいですね。その時私は居ませんでしたが」
「無理でしたか…」
「ですので説明は不要です。打ち合わせに上がった時などにチラリとお話されると宜しいでしょう。
宿舎へもどんどん通って頂いて結構です。と言いたい所ですがダリアさんの方が優先です」
「ご尤もで」
「私が成人する前に。更に増えそう…。増えますね間違い無く。そこでご提案ですお兄様」
「何でしょう」
「私と婚約をして下さい」
「何と!?」
「五番目の座は誰にも譲りません!その席は確約済だと発表してしまうのです。
次の六番も確約済。お二人追加予定なら八番までを確約済で時期未定とし。もうこれ以上は来られても誰も受付ませんと!
締め切ってしまえば良いのですお姉様」
「あぁ対策案会議要らないわ」
「一発回答とはこの事」
「終わって…しまいましたね」
「やはり天才じゃの」
「感服です。所詮私は地べたを這う女…。遠く及ばず」
「無視をするよりも余程良い案だと思われますが。お兄様流石にこれ以上は増えませんよね。それとも十人超えを目指して居られるのですか?」
「断じて無い。止めよう。何が何でも止めて見せる。それ以上は時間的にも身体的にも無理」
「私も堪えられません。
ダリアさんお迎え後に婚約。婚約発表後にファフレイスさんの発表。以降の詳細は秘匿とすれば万事解決です」
一同で拍手。
「その案以外無い。寧ろ何故そうしなかったのか自分自身に疑問」
「私見的に輪廻の輪の影響かも知れません。御方様からの最後の贈り物だとか」
「有り得るな。後で城に行って提案します」
「では転移プレートの配布を」
袋入りで4人へ配布。
「一応私の方で動作確認済です。カーネギさんたちと五人までで。六人となると発動不可。国内のラフドッグとウィンザートを往復しました。
元々消費が少なかった物を改良して更に半分。レイル様のプレートも消費を抑えたいのでしたら後で改造します」
「頼むのじゃ」
「これでやっと個人の買い物が気兼ね無く出来るぜ。後で練習しよ」
ソプランもニンマリ。
「では後に。続いて新事務棟一階厨房構成進捗。
基本的な厨房用品は整い。後は大型オーブンを二箇所に設置するのみで使用は可能です。ナイフと包丁は除き。
食堂エリアはテーブルセットを適当に並べて居り。変更移動はご自由ですと。
当初の構想としましては。自分を含めた六人が自由に調理可能な構成を目指しました。
流し台以外の構成は変更、微調整をする余力を残し実際使ってみてと言う具合。
毎年恒例のお姉様の御節作り。お兄様への誕生月祝いのケーキ作りもそちらで一括。こちらのキッチンは通常使用でお兄様とその他が主役。
ですのでファフレイスさんも新厨房の方へ篩ってご参加を」
「はい。食べてばかりでは罷り通りません故」
「レイル様御主催のラメルさんご成人祝いの件。
こちら本棟側の料理人を派遣する事も可能ですが如何致しましょうか」
「む~。身内の会じゃからの。集める人員以上の者は要らぬ。足りなければ外で買えば良い。ここで育てた食材を少し分けて貰う程度じゃ」
「了解です。大型冷蔵庫は空故に酒類や特殊飲料品は持参で願います。
エルラダさんの御様態に目立つ変化は有りません。明日お城で激変しない事を祈るのみ。
半分意義を失ったラフドッグの泳力訓練施設の件。予定地区画まで確保してしまった為。そのまま建設し一般開放とラフドッグの新名所とする積もりです。
こちらご自宅の増築は七人目をお迎えする時期を見て。手っ取り早くピーカー君との合作で考案致します。クワンティの自由出入り口を残し。屋上テラスと隠し洗濯物干しエリア以外特に浮かんでは居りません。二階から三階への通路階段などを決める段階からのご協力を」
「はい!色々試したい物が山積みです」
「私からは以上です。お姉様の方で何か有れば」
「全部言われました…。強いて言えば年明けからのスタンさんご実家関係者ご招待。こちらから新年のご挨拶。
アッテンハイムからの招待は考えていません。訪問するか否かはペリーニャにお任せ。
そこまでの間長期の遠出や遠征はしない予定です。レイルさんとプレマーレは不満を爆発させる前に私の方まで相談を。スタンさんとソプランに打診しスケジュールを協議します」
「うむ。早めにの」
「宜しくお願いします」
「それ以降にて。冬山登山演習や時期未定のキリータルニア案件も有りますが。
スタンさんとカル、ペリーニャ、ダリアとの1週前後の個別新婚旅行を5月までの間で企画します。
ファフはシュルツの後なので当分先。
別件でシュルツの自走車案件で役立ちそうな杖を見付けていたの。それは後日落ち着いてから説明するね」
「はい!楽しみにしています!」
「私からは以上。スタンさんは何か」
「有り難いし特に無し」
「アローマも我慢せずに耳打ちを。女同士ならどうとでも出来るので。寧ろ私の方が駄目かも」
「畏まりました。遠慮はせずに」
「ではスタンさんの提案後に時差ボケ解消訓練へと参りましょう。ロロシュさんにもご挨拶を忘れずにと。シュルツと一緒にウィンザートへの挨拶謝罪も忘れずに。婚約前の方がお勧めです」
「モチでそっち忘れてた!」
「私もです!」
これぞ正妻の貫禄。
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2人の女性の今後を分ける重要な。そして避けられないイベントが来た。
しかし俺たちは隣室から見守る役目。話声が聞こえる場所で待機中。
主役はライザーとダリア。何時ものように後宮へ娘に会いに来たエルラダさんの3人。
ライザーの謝罪が始まるその前に。神妙な面持ちのエルラダさんから語り出した。
「ライザー殿下」
「…はい」
「私と娘は何かの罪に問われるのでしょうか。不敬罪だとかの」
「その様な話では有りません。どうか落ち着かれよ」
「ち、違います」
母の直感は全てを凌駕していた。
俺たちも度肝を抜かれ焦ったのは述べるに至らず。
ホッと胸を撫で。
「良かったです。それだけが気掛かりで」
「余計な心痛を与えてしまったようで申し訳無い。全ては私の不徳から招いた事。罪を負うのならば私です。
その謝罪と婚姻解消の話をすべく。本日同席してお邪魔をした次第」
「…解りました。お隣に居るお二人にも関係有りと邪推します。そちら方もご同席でなら」
俺とフィーネは顔を見合わせ首を振り振り。
エルラダさんも何かの特殊スキル持ち?
呼ばれる前に大人しく末席に座る俺たち。揃って会釈。
こちらに会釈を返しライザーに向き直る。
「殿下。どうしてこの様な回り諄い事を為されるのか。
御自分の立場を汚されてまで。私の病など切り捨ててしまえば良い。
娘との時間は充分に胸に刻めました。例え明日死のうとも思い残しは有りません」
「そうは行きません。一度は貴女を母と呼び。今でもその思いは変わりません。
しかしダリアは自由に成りたいと望んだ。彼女と出会う前からの想いを遂げさせる為。真に喜ぶ姿を貴女にお見せしようと画策しました。
私の汚れは雑作も無く。前はもっと酷い物。今更何を塗ろうと変わりません。
既にウィンザートで候補者と会っているのは事実。それは何ら汚名でも恥じる行為でも無く。寧ろ今の段階で空いた隣席の後ろに誰も居ない事の方が問題。
貴女が心を痛める道理は有りません」
「お心遣いに感謝を。
ニーダ。式典会場で。本殿から王宮へと帰る途次。振り返った貴女が見ていたのは。私ではなくスターレン様の方だった。違いますか?」
あの時の視線は俺に向いて…。
「その…通りです…」
娘の答えを聞き。席を立ちダリアの隣に立つと。
渾身の平手打ち。
「私を捨てる覚悟が有るのなら!何故もっと早く走り出さなかったの!」
打たれた頬を押え。
「それは…」
「フィーネ様の病は言い訳には成りません。以前からその想いを唱える機会は有った筈。回数を重ね。穏やかな話し合いも出来た筈。そこから逃げた。その結末が今。
真に臆病者なのは誰なの!」
「わ、私です…。御免為さい…」
大粒の涙を流してそう答えた。
対面席へ座り直し胸を抑え呼吸を整えた。
「私なら大丈夫です。此れしきの痛みで死にはしません。
スターレン様。殿下の御前で。恥を忍びお頼みします。
不束で我が儘で臆病者の娘を宜しく、お願い致します」
「志かと。私と皆で迎え。支え。共に歩み。ダリアの望む幸せを探し。必ず見付けると誓います」
「感謝を。殿下。今後の娘の扱いは。城内立入禁止と成るのでしょうか」
「いいえ全く。これまで通りに。姉君や母ミランとのお茶会への参加は勿論。城内役職は内務文官の帰職と屋敷の主であるノイツェの直下へ下りるのみ。
加えて勇者隊事務棟の支配人が内定済。立場は変われど何も変わりません。休暇の策定も進んで居り。貴女本人の立入も何ら制限は掛けられません」
「温情に感謝を。殿下。お詫びの印に一つ進言を宜しいでしょうか」
「何なりと」
「娘の未来視は父親のベルエイガより受け継がれし能力。ですが私の生まれも代々星占いを生業としていた家系。
その占いの結果。殿下の直ぐ後ろに居られる第一候補の美しき御令嬢様は非常に相性が悪い。
世継ぎが生まれないだけでなく。行く先の城内の平穏を掻き乱す因子を抱えています。
見た目平凡そうでも。心豊かな第二候補様の方を強く。強く御推薦致します。
娘を育てて遣れなかった不甲斐ないこの私を信じて頂けるならば。どうぞ御一考を」
「信じます。信じましょう。社交ダンスを踊った時も肌が合わず、歩調が何一つ合わなかった。
たった今。至極合点が行きました。こちらこそご助言に感謝をお返しします」
衝撃の占いで謝罪会は幕引き。
一人の母は、重い病にも屈せず。
その場の中で誰よりも強かった。
それから2日後に婚姻解消の知らせを回し。更に2日後に城を下りる事に成ったダリアを旧知の俺が迎えると言うシナリオ。
その日の内に指輪購入。
誓いの岩場で誓いの言葉とキスを交した。
膝に乗せたダリアの頬に伝う涙を親指で拭い。
「この涙は嬉しい方?悲しい方?」
「…後者でしたら頭可笑しいです」
少し笑い合って又キスをした。
「エルラダさんのビンタ痛かっただろ」
「痛かったです。私の本性を曝け出されて。あれ程心を揺さ振られた平手は初めてです。
何もかも人の所為にしていたのだと…解りました。
同時にこれがお母さんなんだなぁと実感しました」
「誰でも弱い。俺も皆も。これからは沢山甘えるといい。
俺たちでも。直ぐ隣の邸内には正真正銘の母親が居るんだから。
救える人は必ず俺が連れて来る。再来年もその先もずっと続く道だ」
「はい…。その先は自分たちの足で。スターレン様から少し離れた隣の道を歩きます」
「それ言われると辛いっす。全部俺に異常なカリスマ与えたクソ女神が悪いんです」
「私はそれが無い頃から好きでした。なので真実です。
誰にも負けないと、言いたいですが上位三名には負けますので同時に救われたシュルツさんと同程度には」
「成程。…誓いを立ててからで申し訳無いけど。少し昔話を聞いて欲しい。城では詳しく話してない部分と。ラフドッグの浜辺でベルさんと会ってからの旅の話を最近まで全部」
「その前置きだと…まだ増える予定なのですか?」
「…増えます。ダリアとの手続きの後。シュルツとファフレイスの後ろにもう2人程。俺の前世以上の繋がりを持つ人たちが」
ダリアは天井壁を仰ぎ。
「逃げ場は無いのでお聞きします」
覚悟を決めた。
ペリーニャに話した部分から順番に。スフィンスラー15層で精霊体のベルさんと再会した話。
判明したグズルードの素性とその繋がりの有る人物2人の話まで。
無言で目を閉じたダリアに。
「未来視は使うなよ。目星は大体付いてる」
「違います。お話の規模が大きすぎて混乱しているだけです」
「良くないけど良かった」
彼女の肩と頭を撫でて落ち着くのをじっと待つ。
打ち寄せる潮騒が無言の時を繋いで埋めた。
「総合すると時の女神は変態で。その真実を知ってしまったペリーニャ様は改信を決断されたと」
「纏めるとそんな短いんか…」
「他を浮べると怒りに塗り潰されそうで」
「その通りやね」
俺の人生って結構単純なのかも。
「スターレン様とカタリデ様にお聞きしたいのですが。未来視を使って何が悪いのですか?父はそれを繋いでスターレン様とこの世界に未来を与えた。
修練を積まねば正確な未来は見えない。なのに周りは伸ばすな使うなと止めるばかり。
成人を一年以上過ぎてまで。私には理解が出来ないのですが」
「いや…ん?」
「それはダリアちゃんの精神面を心配して」
「でしたらそちらを先に伸ばせば良いではないですか。瞑想をせよとご助言を頂けて。てっきり瞑想で鍛えられる物なのかと毎日欠かさず続けて居ります。
最近では悪夢も見なく成りましたし。母の未来は怖くて見ていませんが。
それ程先の未来ではなく。明日とか数分先だとかで修練を積むのでは?」
「あれぇ反論出来ない…」
「おっかしいなぁ…。私も止める理由が見付からない」
「母は未来視の存在を知りながら謝罪の場で止めませんでしたよ?」
「「ん~?」」
「夢が偽りなら信じない。現実で起きる少し先の事象を積み重ねる。先を見すぎると良くないとフィーネ様とカタリデ様は仰いました。でしたら少し先だけに絞れば良いのではと私は思います」
「ちょっとあれだな。手続き終えて夕食にエルラダさん招いてお話聞いてみようか」
「そうね。正しい手順知っていそうだしね」
「はい」
その夕食後のエルラダさんは。
「止めた…?止めている?それは何故に…でしょうか」
頭上に?を乱立させて首を捻った。
「いやその。彼女の精神面が心配で」
「折角ベルが残した力を?私との子。ニーダが引き継ぐと解ったからこそ。病を押して頑張って産んだのに…」
「え!?」
「ですよね。やっぱりそうですよ。止めたままではお母さんの苦労が水の泡。私も何の為に生き抜いたのか解りません。
スターレン様と結ばれる為。即ち使えとの父からの遺言。だからこそお別れの浜辺に私も呼んだのでは?
後に養父となるノイツェまでも」
「「あぁ~」」
俺とフィーネの反応に対し。
「お使い下さい。娘の言う鍛え方で合っています。少し先の出来事を読み積み重ねる。同時に身体と精神も鍛え上げる。基本の積み重ねしか有りません。
あぁそれで事務棟に押し込めようとしていたのですね」
「はい…」
「類い希なる武装と運。カタリデ様の恩恵と勇者の力で戦い抜く。それは大変に素晴らしい事です。
ガンターネとの対峙した時の話の中。娘が居る筈なのに使った痕跡が聞こえず。私は混乱して寝落ちしました」
「…」
「スフィンスラー迷宮でのベルとの再会。スターレン様に直接会いつつも何の助言も残さなかった。
未来への手掛かりは既にニーダが握っているからと」
「そんな気がして来ました」
「これまで危険に面した時。事前に探れた場面も多々有ったのでは」
「確かに…」
「主に私がやらかした時、とか…」
「近々であれば何の問題も有りません。行き成り一月一年先を見なければ良い話。正確性に欠けるなら地道な努力。精神的な疲労を来すなら心身の鍛練と遊び。
休暇を設けるなら惰眠を貪るのではなく外で遊び。自然の景色で心を癒す。
この邸内には訓練場が有り。来年には専用の施設まで作られると聞きました。
未来視の教材は何処にでも。例えば都内に出来たカジノなどお金を掛けずに只眺める。遊戯なら自分でもやってみる等々。
勿体無いです…」
「お母さん。そんなに思い詰めてはお身体に毒です」
「申し訳無い。明日から考え直します」
「今日の所はお隣までお送りを。ゆっくりお休み下さい」
「そうさせて頂きます」
肩を落とすエルラダさんをダリアとフィーネが隣までお見送りした。
「カタリデさん。俺たち」
「間違ってたのかもね。成人してからなら。もし使っていたなら殿下には嫁がず。10月まで待っていたのかも」
「ややこしくしたのは俺の方だったのか…」
ロイドとペリーニャが優しく。
「過ぎた事です」
「皆で考え直しましょう」
「ういっす」
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ダリアとの初夜を越えた朝。
何時もとは違う隣の寝室にて。
添寝をするダリアの髪を撫でて起こす。
「おはよ。痛かったりは?」
「お早う御座います。
初めてでは有りませんので痛くは。でも激し過ぎです。
急に天国へ連れて行かれたようで。もう少しゆっくりが良かったです」
「今夜は気を付けます」
「お願いします」
焦りは禁物。女性はデリケート。
ついついハーレム生活で忘れ勝ち。
2人切りで遅めのお風呂。先輩嫁3人が用意してくれた美味しい朝食を食べ。
本日ウィンザートへ一緒に行くシュルツとファフレイスを呼び出した。
昨日の出来事を聞いた2人の反応は。
「成程その面は逆に考えていましたね」
「初歩的な鍛錬を加えましょう。運動で汗を流せば精神面も鍛えられます。
ロディと同様。私も軽度の治癒術を備えています。エッチな意味では無く身体の支えにも成り得ます。
まだ事務棟の稼働までは時間が有りますのでその間に基礎的な物を」
「それはファフに任せよう」
「真にピッタリの人材だわ」
「フィーネ様」アローマが挙手。
「何か浮かんだ?」
「はい。ダリア様の再婚姻と内務文官復帰の知らせは今日中には国内に回り切ります。
その内務文官の役職を使い。カジノへの視察を堂々と行え。ファフレイス様同伴であれば成人向け。未成年者向けならシュルツお嬢様も同席可能。
そこで営業時間外予約を取れば私たちも同行が可能。貨幣を掛けずにと言う建前と外交官の役職の立場も使えば対外的な面でも波が立ちません。
詰りダリア様の休暇中の夜間に遊び放題。目的である未来視を鍛える手段にも成り一挙両得。
加えて御方様からのご助言で一度もダリア様の話は出ていません。
それは温存を意味します。王女から文官復帰。平民上がりでは出来ない事も今なら出来ます。
なので今までの回り道は全くの無駄ではなかった。スターレン様が過去まで辿り着き。全てが整った今。
温存を解け、と言う事なのかも知れないと愚考致します」
場の一同で拍手。
「愚考じゃないよ何時も。でもそうね。
私たち全体の状況を鑑みても全部整ってる。余力時間も出来た。今からがダリアの解禁。焦らずじっくり鍛えて置けよと。そう言う事ね」
「その様に」
「ダリアの迷宮内訓練への参加を計画の内に加えます。削られる休暇分はファフの配分を多くし補填対応。
そして日常生活の中に負荷バンドをスタンさんから」
「ほい」
ダリアに負荷バンドの1つを手渡した。
「それの使い方はファフが熟知しているので問題無し。長期休暇を少し削って魔力枯渇を試すなど。上限を更に引き上げる方法も有るのでそちらも焦らず」
「はい。…例の秘密への参加はまだ心の準備が」
「そこは安心して。無理矢理なんて絶対しない。スタンさんとの時間を充分に作ってからの話よ」
「安心しました…」
「では本日の本題。シュルツ。お土産決めた?」
「はい!それが全く浮かびません!」
「シュルツにしては珍しい。ならば婚約者のスタンさんの腕の見せ処。無いと言う答え以外でどうぞ」
「激ムズ…。初回訪問時にお土産にした滋養酒以外は。今なら黒大蒜が消えてデザート酒にも最適。どうかな」
「良いじゃない有るじゃない。メリアードさんの妊娠だけには注意してね」
「そこはマストで握手で確認。カタリデも居るし」
「うん。ラメル君のお祝いの準備は残りの人で進めるから気にせず2人のデートを楽しんで。ダリアとの個別はお祝い翌日。ファフとはその翌日。年末までは1人の時間と新作料理の考案を皆でとかとかを自由に。
私たちとは年明けからたっぷりして貰います」
「承知しました」
「では行ってらっしゃい。お空からはクワンティが見守っています。お痛は厳禁!」
「「行って来ます!」」
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正妻からの激を受け取り買いに走った滋養酒。
今年分の最後の1瓶。次期作は4月以降に出来上がる。
自宅分は明日のお祝いで消費。今年と同じ分量のストックを依頼。
序でに蜂蜜と売れ残りの苺も購入してウィンザートへ移動した。
シュルツの手をしっかり握り緊張しながらノックした玄関。
笑顔で迎えてくれた担当侍女とシュルツの両親。
リビング席へ着くなりシュベインの方から切り出された。
「シュルツを宜しく頼む」
「え…?」
メリアードさんも。
「今日はそのお話に来られたのですよね?」
「ええ。その通りですが」
「御母様…」
「だったら早い。ピレリ君から娘を奪ったのは事実。
ならば責任を取って貰わないと。父が認めているなら私たちが反対する理由が無い。
次世代。詰りシュルツとスターレン殿の子が将来のミラージュ財団代表として相応しい」
「「あ…」」
「誰が文句を言えましょう。文句を言うなら只の阿呆。
私のお腹にはシュルツの弟か妹が宿りました。年齢的にはもう一人位は何とか。
ギサラ君はサルベイン家。公爵家としての跡取り。ギャラリアの方が余裕が有ります。
シュルツが代表の派閥。国のお相手をするサルベインの派閥。港のゴーギャンの養子ピレリの派閥。ここウィンザートの私たちの派閥。
四分割された財団を取り纏めるのは誰か。それはもうスターレン殿しか居りませんよね?」
「な…成程ぉ」
「お兄様。その面の責任を考えて居りませんでした…」
俺もやで。
「焦る事は無い。と偉そうに言える立場にも無いが。
スターレン殿の長旅が終わる頃にはシュルツも余裕で成人しているに違いない。
支える妻が多数居て。子も多く生まれよう。その中の誰かが次世代代表。それがシュルツとの子であれば尚結構。
男児でも女児でも健康で明晰であるなら万々歳。今日は婚約の挨拶なのだろう?」
「はい」
そこはハッキリ胸を張って答えた。同時に了解の意味。
「どうぞ貰ってくれ。財団代表の椅子と共に」
「「頑張ります」」
お酒で申し訳無いですとお土産を置き。
侍女と給仕が作った軽食を食べながら最近の王都の様子やオリオンの進捗などのシュルツが頑張ってますよの世間話をして退出。
潜水艇が見たいとの申し出は出産が無事に終わってからのお楽しみでとして逃げた。
公園のテーブル席に並んで座る午後。
「道理でロロシュさん…」
「一切反対しない訳ですね…」
ボーッと空を見上げる2人。
「御爺様は。ピレリ様とのお別れをお伝えした時。無言でしたが内心…」
「善くぞやったと笑ってたのかもな…」
「意外に気付いていないのは…」
「俺たちだけだったり…」
カタリデとピーカー君。
「当然じゃない」
「逆に何故気付かれないのか不思議です」
「「あぁ…」」
「恋は盲目って奴よ」
「「間違い無い…」」
気持ちをリセット。
「まあいいや。投げ捨てる意味では無く。覚悟は決まったの意味で。何度か想像をしてた事なのにすっかり忘れてシュルツに夢中に成ってた」
「お兄様…。そこまで言われると気持ちが抑え切れなく」
「それは駄目。お互いの人生が終わっちゃう」
「はい…」
「キス以上はしない。それを保った上で。内緒で国外に連れ出してしまいます。何処へ行きたいですか?」
「む~」
腕組みしながら指先で肘をトントンする姿が超絶可愛い。
俺…堪えられるかな。
堪え為さい!何なら止めに行きます!
そうして下さい!
「ルーナリオンの温泉街や両国王都の夜景は魅力的。今行けば夕方頃。お兄様のエッチな視線は有り難く。しかしそれでは私の抑えも利きません」
「ヤベ、バレてる…」
「強制終了は嫌です。ここは一つ冷静に。
ピーカー君。南極のハウスは今どう組まれているの?」
「実験をした時のまま改造はしてません。中の畑は全て抜かれて整地済です。抜き切れてない物が自生しているかも知れませんね」
「ではその確認とハウスの改造を少々。ドライエアードの鶏冠飾りの効果も見たいです。
ハウスの近くで頂いた技工士の杖の実験。行き成りタイラント内では使えないので試作を少々。
自作した防寒着は持っています。最後に帰宅してから防音室でご褒美のキスを下さい。どうでしょうお兄様」
「喜んで。あの家はシュルツが建てた物。寝室以外どう使っても誰も文句無し。俺もその方が安心だ」
上空に手招きしてクワンを下ろし。プランを説明した後にシュルツの提案通り即実行。
ハウス内へ直接転移で彼女の新作コートと手袋を装着。何方もフロッグの皮と獄炎竜の皮を合せた合皮に分解した背鰭で各所を補強した物。
「これは大狼様の毛皮を抜きに誰でも着られる。冬山登山用に考案した物です。ブーツはそのままに動き易さと耐寒性能を追求した形です。
私は行けませんがレイル様含め皆さんの人数分は作成済です。フロッグの効果でピッタリフィット。翼は無しの想定に仕上げました。
フードは目出し呼吸穴付きのフルフェイスにも出来ます」
「何時も助かります」
頭を撫でようとしたが手首を掴まれ。
「お兄様!外で私を甘やかしてはいけません!」
「ごめん…つい」
「未成年者に言われてるぅ~」
「自制心が足りないのはスターレン様の方ですね」
「頗る胸が痛い!修正する!」
冷静さを取り戻してハウス内点検。
3棟共殆ど空だったがトマトの木が1本だけ自生していた。大きな実が垂れピーク時で時を止めたまま直立不動。
「暫く来てなかったのに全部腐ってない」
「最高品質で止まっていますね。レイル様へのお土産にしましょう」
「明日を待てずに食べそうだ」
「充分に有り得ます」
そのハウスを使って改造を少々。日光の取り入れ方を工夫し鶏冠飾りの周囲に光を集めてみると。
「あっつ!」
「真夏を通り越して高温サウナです!」
至急鶏冠に指を当て温調。体感25度前後をイメージ。
「おー収まった」
「温調機能が有って良かったです」
温室効果は室内隅々。玄関を出て少しの距離まで。
確認が取れた所で俺はある提案をした。
「シュルツの前で申し訳無いが俺は提案をする。
ここを模擬戦実施の拠点。それを兼ねた秘密のパーティー会場としたい!」
「お兄様…。欲望が剥き出しです」
「止めてくれるなシュルツ君。これは君の将来にも関わる事だ。毎回毎回スタフィー号で沖へ出るのは面倒。海上のポイントへは転移で飛べず。
何かしらの理由を付け。ラフドッグや最果て町を出港しなくてはならない。
事後のお掃除も大変。帰港し船を返却するのにも時間が奪われる。
ここを拠点に出来れば何も心配は要らず。洗濯器まで置けば衣類も干し放題だ。
オマケに時差ボケを殆ど考えなくて済む!
全てを叶える最適な場所なんだ」
「う~否定が出来ません。私も一々言い訳をするのは恥ずかしいです」
「どうだろうカタリデ、ピーカー君、クワン君。失望してくれて構わないが秘密を隠し通すにはここしか無いんだ。
どうか許して欲しい」
バッグを掲げて一礼。
「まーいんじゃない。毎度個別でオーナルディア行くのは浮気と同じで微妙だし。他国の領土だし。完全に人が居ない場所はここしか無いわね」
「前回は誰か海に落ちてましたしね。陸地の方が安全安心です。玄関には二枚目の誘導版を置いて出られなくすれば良し。
長期間放置されると欲求不満を爆発させる人が三人も居ますし。ここなら気兼ね無く何時でも使えます。
僕も賛成です。ご主人様たちの淫らな姿は外に漏らしたくは有りません」
「あたしも賛成です。ここなら模擬の方も楽勝で見渡せるので寧ろ有り難いです。外に出る人が居たら蔦で掴んで室内へ戻します」
「有り難う3人共。泣きそうです。全ての意味で!」
思い立ったが吉日。早速テーブルセットを出し。シュルツとピーカー君との合作で設計図面を起こした。
非常食としてトマトの菜園を残し。その棟を起点に3棟を集約してから周辺一帯を整地。パイルバンカーで地下空洞まで排水路を確保。その真上に大型浄化槽付きのブロック。そこから拡散するように大小風呂場とシャワー室。
洗面所、洗濯物干しエリア、大型キッチン、併設食堂。
汎用冷蔵庫と冷凍庫。広々寝室を5部屋。
真面目な方の会議室。ウォシュレット乾燥器付きトイレ等々をパーツ組み上げ。
ピーカー君製作のテーブルや椅子やベッドフレーム。
俺とシュルツの手持ちの備品全てを出し切り配置完了。
寒い外へ繋がるのはキッチンの換気扇と玄関と日光の取り入れ口。それ以外完全窓無しの要塞が完成した。
3者が本気を出せば物の1時間足らずの工数で終了。
最後に菜園エリアの鶏冠の隣に消臭の冠を置き皆が好きな柔らかい薔薇の香りにしてみた。
温調を少し上げて各室隅々確認。
「凄いなあのセット。ホントに全域カバーされてる」
「隙間の無い壁や扉を無視するとは…物理法則を超越していますね。換気扇や取り入れ口の風さえ制御して」
「久々に全力出せました。不満が出た時の為に二階部を考案して置きます」
「多分出ない。出たら贅沢」
「経験は無いですが出ないでしょう。強いて言えば姿見や洗面所の鏡が有りませんがペリーニャ様が後付けで作れるのでそれ位ですね」
「帰ったら皆に報告して。出した備品を明日以降で補充しようかね」
「はい!」
新品の食堂でお茶とトイレ休憩を挟み。玄関扉手前に出口だから引き返せの誘導板を床に填めてから外へ。
造った本人も驚く万里の長城並に長い道を。2人並んで日傘を差して時間一杯までお散歩。
「ごめんなシュルツ。大事なデートを俺の欲望に使ってしまって」
「大丈夫です。この方が楽しくて勉強に成りました。自分の欲望が抑えられて逆に良かったです」
帰宅後。城に8人目までの申請をしてから自宅の防音室でお互いのご褒美タイムを夕食時まで。
「苦しい?」
「苦しくは無いです…。甘くて蕩けてしまいました…」
しっかり抱き締め頭を撫でて2度目のデートを終了した。
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夕食後の俺たちの発表で経験者たちは歓喜した。
「オーナルディアは訪問した時しか使えない。他国の領土に平気で外交官勇者が勝手に出入出来ない。それは他の顔を知られたメンバーも同様。
なので自由に使える場所を作ってしまいました!」
「有り難うスタンさん。お外は興奮するけどやっぱり衛生的じゃないし。気が引けてたの」
「だと思いました。自分も。乾いた地面でもどっかしら汚れるし。何か敷くのも変だし。途中で我に返る事も有ったしさ」
「…」
経験者たちがシミジミ頷いた。
「エロい話はここまでに。所でレイルたちはなんでもう来てるの?」
「クワンティの目で美味しそうなトマトが見えたからじゃ」
「明日のお土産にしようと思ってたのにあざとい」
「抜け目が無いですねレイル様は」
「好きな物は好きなのじゃ」
袋に詰めて半分進呈。
「残りは明日のお摘まみに使います」
「うむ。有り難う」
今日は解散しようかと言う段階に成って。赤ワインを嗜むソプランが挙手をした。
「姐さんとマーレ嬢も居て。主要メンバーとスターレンの嫁も揃った所で。少し俺の妄想聞いてくんねえか」
「どうぞ。ソプランが改まるとなんか怖いな」
「ねー」フィーネも同意。
「怒ってる訳じゃねえさ。俺たちメメット隊がスターレンを拾ったあのラザーリアの出発日。実はあの日は予定よりも二日遅れだった」
「初耳」
「初めてだからな話すのは。遅れの理由の一つは前々日にメメット隊長が酔い潰れて二日酔い。もう一つは同じ日にメレスが急に発熱。
収まったのが二日後。スターレンと出会った日だ。
この事が何を意味するのか。この出会いは偶然ではなく俺たちの方も時間調整の中に入ってた。
スターレンと既に共に居たロイド様までどう欺くか。そこから辿って行く着く先は何処だと思う?」
「まさか…前世だとでも?」
「そのまさかだと思う。スタプ時代の十年のストックはそこに向けて調整。更にスタプが彫像彫り師に目覚め、成功するまで何度も繰り返されたって事に成る」
「…」
「要するに時空結界破りの前。クワンティがオーラと遭遇する前辺りまで繰り返されてる。破れたのは今回が初。
最大の要因は姐さんとマーレ嬢が加入して同行していたから。それは間違い無く初めて。
特に姐さんには時が通じない。だからヌンタークは慎重に対応した。
クワンティの神格化は初。クソ女神が細かい時間干渉を諦めた要因の一つ。お前の神域強制招待時。時間操作を間近で目撃された上にクワンティだけ操作適応外だった。
そこから慎重に成ったとも取れる。
ファフ様の加入も初めて。フィアフォンゼル迷宮での邂逅は初じゃない。理由は簡単。一目惚れでここまでは流石にしない。何度もあの邂逅経験が有ったから。その記憶が消えてるのはこちらの世界の時間軸に入り込み。極短時間で離脱したからだと考える。加入は結界破りの後。
姐さんがヌンタークに提示した三年間。その時見せたクソ女神の余裕。カタリデ様は盟約破りで時間的余裕が有るからだと言ったが…。俺はそうは思わない。
その三年の間に覆せる何かが有ったからだと思う。姐さんとは関係無い所で。ヌンタークも眷属も知らないクソ独自の罠が三年に隠されてる」
「ロイドが抜けてる時間丸々が調整かぁ。そこまでは考えてなかった」
「口惜しい…。あの女は何処まで」
「可能性の話だが初転生者のお嬢。上位者のロイド様とファフ様と姐さん以外は繰り返されてると見える。マーレ嬢は西大陸内に居た。カタリデ様は休眠中の時間を弄られたとかな」
「成程…」
「有り得るわね」
「罠を張れる場所は何処か。今俺が怪しいと踏んでるのはフレゼリカと前皇帝アミシャバが繋がってた統一教会本部とオメロニアン様を捕えた時間牢獄。その二つ。
統一教会は勇者に成っての初訪問時に呼んでもない宴会場にまで乗り込んで来たあの過剰反応が引っ掛かる。
オメロニアン様は言う迄も無い。何だって罠が仕込めるし行き過ぎれば体内に何かを埋め込むだとかも可能だ。
それを助けようとしたスターレンを巻き添えにする手段とかを色々と。
クソ女神はまだ終わってなんかない。相手は女神教と邪神教だけじゃない。このまま平穏無事に西に行けるとは到底思えん。
眷属はキエンターラが最後だと言ったが過去の奴等はまだ何処かに居る。
姐さんに渡された過去眷属再生の壺が未使用だったのが良い例だ。
壺の回数制限で言えば後二匹。例えば黒竜様に挑ませた白竜は白ロープの髭と姐さんが拾ったソラリマ分の牙とカットランス分の骨以外が消失してる。
改造されてなきゃお前や姐さんには単なる雑魚だが黒竜様に惨敗して置いて何も手を加えない筈は無い。合成キメラも有り得る。
キエンターラは完全人型。その前段階でクルシュの身体を試しに作ったとも考えられる。擬態に見せ掛けお前に助けを求めて騙すとかな」
「うん…。そこら辺組立直すよ」
「お前に言わずに行ったのは悪いが。昨日転移の練習がてらオーナルディアのイグニースさんに会って個別の話を聞いて来た」
「別に構わないよ。でどんな?」
「俺自身の前世だ」
「ソプランの?」
「最初のグズルードに殺された妃の六人以外が妙に気になってな。それで従者とはどんな奴だったかを聞いた。
その特徴を聞くに。従者統括執事と専属侍女長が…俺とアローマにそっくりだった。今の立ち位置から仕事内容まで何もかもが」
「「え…」」
アローマと俺の反応。他は無言。
「アローマの出身はペカトーレ首都南町のサンコマイズ。それは確定情報。
俺は海繋がりのウィンザート。しかし正確な出生地は解らない。俺を捨てた両親はロルーゼで生きてるらしいがホントに産んだかも怪しいもんだ。
次に第二から第六までの妃の話を聞いてみた。
妄想力限界で判断するに。ここに居るペリーニャ様とダリアとシュルツお嬢様…。何か気付かないか?」
「邪神教のクインケが語った。生贄候補者…」
「ペリーニャ様は依代要員で候補には入ってない。
お嬢はお前の身近な人物として狙われた要素が強い。外面上はな。
サドハド島のニーナ姫は俺たちが離れた後で。ギリングスの海賊に何度も襲撃された。タラティーノを絞っても情報が取れるかは微妙。
繋がっていたクインケはロルーゼ強制送還後。碌な尋問もされず即座に極刑。
クルシュは今何処だ?」
「統一教会本部の直ぐ近く」
「だから怪しいと睨んだ。助けたお前を見る目も何処か冷めてる。以前のお嬢が無反応。大狼様の傍を離れ国に帰った後からなら隙も多い。帝城も一度大きな襲撃を受けて混乱した。その時お前に接近出来て罠を仕込むならと絶好の人物に選ばれた可能性が有る」
「彼女に、何かを…」
「何方か又は他が発動する前にグリドットが来る。ダリアの力が必要に成るのはその時だ。個人の妄想で時間取らせて済まん。頭の片隅にでも置いてくれ。
前世からの主殿」
「ありがと。ソプランに怒りが全く湧かない理由がそこに有ったのか…」
「普通じゃ有り得ねえだろ。人間だろうが魔族だろうがお互いの大切な嫁さん交換しといて全員平気で居られる状況なんざ可笑しいにも程が有る。姐さんの言う通り」
「じゃの」
「だよなぁ…。そしてクソ女神の課題が終わらない」
「増えちゃってるね。折角暇に成ったと思ったのに…」
「スターレン。オメロの目星が付いていると口走ったが何処なのじゃ」
「それね。今持ってる情報で一番怪しいと思ってるのはキリータルニアのエラルズゴーザ迷宮内。クソ女神が何かを隠せるならそこ。闇の罠張りはヌンタークか眷属にやらせて最古の迷宮ってのも注意点かな」
「むぅ…。気分が台無しじゃ」
「怒らない怒らない。勝手に行くなよ。軍部の調査が終われば正面から入れるんだからさ」
「解っておる!」
「ではフィーネさん」
「私も苛つくわぁ。の気持ちはぶん投げまして。
今日は解散。明日はお祝い。年末までは各員身体を休める。又は少しだけ迷宮訓練。ペッツの管理はクワンティに一任一択。
年始行事が終わってから南極で弾ける。それ以前に我慢出来なく成ったら相談の上行ってみる。
登山の勉強をしながらキリータルニアの続報を待つ。
ボルトイエガルの動きにも注視しつつ。
帝国のクルシュは様子見。転移具でここまで飛んで来たら必ず捕まえる。
以上!」
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翌日。本日はオールお祝いデーの朝。
昨晩も隣寝室にて。
「おはよ。ダリア」
「お早う…御座います。スターレン様…。ううっ」
朦朧とした虚ろな眼差しに堪らずお早うのキス。
風呂場で彼女の背中を流している時にも1回。
歯を磨いてからも1回。
今日はキス攻めにしてみた。
朝食時。隣に座る筈だったダリアが対面のフィーネの隣に座って懇願。
「フィーネ様…」
「どうしたの?」
「もう…私一人では。何もかもが気持ち良すぎて…」
「「「でしょうね」」」
正妻さんから三妃まで一致。
「今夜からはそちらのお部屋で。休息を挟みたいなと」
「解った。私たちも限界みたいだから丁度良かったわ」
「うんうん」「ですです」
「有り難う御座います…」
どうやら遣り過ぎてしまったらしい。
普通の境界線を見失った俺には難しいな。
席に座り直して和やかな朝食を5人とペッツで。
お祝いと言っても昼食会とお酒も入れた夕食会が開催されるだけ。
基本的な料理は作成済。事務棟の厨房や食堂は整えられ大半が冷蔵庫内。温め物は直前に温める感じ。
昼の部夕の部共に。ラメル君が新包丁セットを使って自分で考案した新作料理を披露しレイルに捧げる流れ。
午前はシュルツと一緒に放出した備品類を買い漁った。
他人員はペリーニャを筆頭に南極拠点の視察と菜園の一部再開拓や鏡など好きな備品の追加整理。
ダリアも南極拠点へ行ったので今後の心の準備を整えている模様。
そのダリアは通常の転移具が使えない。転移プレートがもう1枚必要だと判明。どうしてもでは無いので来年の空き時間の何処かにて。
昼食の部。
ラメル君の新作は照り焼きチキン。焼き加減は極上。醤油と砂糖の配分も絶妙。我慢出来ずに昼の部からワインを空けてしまいました。
昼のデザートは酒精を飛ばした梅酒ゼリー。
それを食べ終わったラメル君が立って挨拶。
「レイル様と皆様にお祝いされとても幸せです。恐らくこの様な位の高い方々の恩恵に預かれる一般平民は僕と姉メリリーだけでしょう。
秘匿を守るのは当然。これからも料理の腕を磨いて参ります。最近ではレイル様やプレマーレ様に国外地方の外食店へ連れて行って貰い日々勉強中です。
特にルーナ両国の料理は何れも素晴らしく。塩加減や甘さが絶妙でとても感銘を受けました。
自分の店ならどうしよう。どんな物を出そう。場所や席数は等々頭の中がグチャグチャで。来年はご相談しながらその辺を解きほぐそうと思います。
それが整うのが何時に成るのか。整えられるのか全く見えては居りませんが。今後も引き続きロロシュ邸本棟とこちらの半専従として精進を重ねて参る所存です」
ラメル君の一礼後に皆で拍手。
顔を上げたラメル君は。
「因みに…。こちらの専属の道を選ぶとしたらレイル様はお許し下さるのでしょうか」
「好きにすれば良いぞ。ラメルの自由じゃ。今は転移で遊びに来れるしの。寧ろ外に出店すれば長蛇の列じゃて。
ここで腰を据えるも良し。将来の子が巣立った後で他の場所に独自の店を構えるのも良かろう。
妾が飽きねばそれで良い。その要素は見付からぬがな」
「有り難う御座います。スターレン様とフィーネ様もその道を候補に入れても宜しいでしょうか」
「全然良いよ。休日以外毎日極上の料理が味わえるなら従業者希望が殺到しちゃうよ」
「私たちも自炊止めて通っちゃう。2つ位仕込みに使っても自分たちが使える余裕は充分有るし。新作料理とかの考案も一緒に出来れば最高。その時点で負けてそう…」
「悲しくなるから止めよ。競う物じゃなく俺たちのは趣味だから」
「そ、そうね。何にしても大歓迎よ」
「有り難う御座います。益々楽しみで頭が混乱して来ました。
後スターレン様。こちらの国での平民の婚姻手続きはどうの様にすれば」
「私もお聞きしたいです」とメリリーも目がキラキラ。
「あぁそれね。無宗教の平民なら商業ギルドで書類申請するか。王城外南北の兵舎で直申請すればいいよ。どの道管理する城への申請でお終い」
「そうでしたか。意外に」
「簡単でしたね」
それぞれのお相手同士で喜び合っていた。
シュルツがレイルに。
「レイル様。この様子だと新宿舎のお部屋で良いのでは」
「じゃの。相談会も不要に成りそうじゃ」
「了解です。お部屋を何時でも紹介出来るように整えて置きます」
「頼むぞよ。妾たちも内覧に同行する」
午後は酔い覚ましを兼ね。フィーネと従者2人を誘いギリングスへのお礼参りと年末挨拶に向かった。
通行証のお礼がメイン。復興状況の確認など。
特に変な奴も現われず順調。来年春には北部港を再開するらしい。
親密化の進んだマルシュワとサインジョと釣り談義のお茶会をしたりと平和そのもの。
今度一緒に釣りしましょうとお墓参りをして帰宅。の前にレンブラントのローレライを突撃訪問。
ハープの出所はやはりキリータルニア。東王都の闇市卸品の中から発掘されたとか。
「気になるならもっと調べましょうか?」
「いやいいよ。貧民街解放の時に地下も覗いて少し気になっただけ。まだ何が繋がってるとかそう言う話じゃない」
「そうですか。所でスターレン殿…」
「ペリーニャなら返さないよ。本人の強い意志だし。俺は一生離さないと決めた。その話されると思って今日は連れて来てない」
「返せだなんて言えません。言う資格も無いので。只単に一目お会い出来ればなと」
他の2人も大きく頷いた。
「解ったよ。来年のどっかで連れて来る。キリーの事後確認にも行くし。その序でに」
「本人が拒否しなければですよ?」
「それは当然。でも楽しみにお待ちします」
エスカルとコロロアも喜び。
「新茶か良い茶葉を仕入れないと」
「最近はこの大陸も平和ですし。暇なんです」
「ボルトイエガルって入れるように成ったりしてない?」
「そう言えば宗教の壁は緩和されましたね。行商の通行税も他国と同等に成ったとか。国境の出入はある程度。全面解除とは行きません。一気に内部の山神教が広がって女神教も水竜教も出遅れ。まあ無理に布教する物ではないので王都に小さな教会でもと考え中です」
「ふーん…」
緩和止まり…。急には変わらないのか。
「何か…。したんでしょうね」
「何かはね。偵察飛ばして少し王都を舐めただけさ」
「味見で国を変えてしまうとは…」
「怖い人だ。貴方は本当に」
「西以外の統一王にでも成るのですか?」
「冗談だろ。そんな面倒な事はしない。害敵が居ないか見回ってるだけだよ」
「統一王妃なんて御免です。最近下りた子も居るのに」
また今度と市場で米類その他を購入して帰宅。
夕食の部の新作料理は鱈の身と白子を酒蒸しにして皮と白子の表面を少し炙った物。味付けは焼き天然塩を振るのみと言うシンプルさを極めた極上の逸品。
鱈の捌き方から誰もが唸り。俺とフィーネは。
「お見逸れしました」
「御節料理を覗くのはどうぞご勘弁を」
「それはとても残念です。でもまだまだ。米酒の使い方と種類が選定し切れていないので改良の余地は有ります」
「まだ高みを目指すと…」
「既に恐ろしい領域に…」
メリリーは半泣き。
「どうしよサイネル。私ラメルに弟子入りしないと」
「そこまでは。僕はメリーの家庭的な料理が好きだ。気持ちが昂ぶる料理よりも安心を。ラメル君の料理は偶に頂くからこそ最上なんだと思う」
「有り難う…。嬉しい」
ラブラブ要素に変換。サイネルも恐るべし。
今期は禁漁で来春シーズンの鰻を酒蒸し焼きにしてみようと盛り上がった。
待ち切れなかったらギリングスへ釣りに行こうと決意。
多分行く。キリータルニア案件の前後に。
シュルツのお眠の時間でお開き。
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翌朝やはり俺はベッドに張り付けで4人が無理矢理添寝。寝返りが打てない生活に戻った。
5人での初風呂。
正妻からダリアに直球。
「私たちとは嫌だった?」
「全然嫌ではなかったですが…。私は休息を、とお願いした記憶が。天国を維持されると呼吸を整える暇が無く」
「ごめん。どうしても仲良く成りたくて。今夜は少しペース下げてみるね」
「控えます」
「控えましょう」
「お願いします…。お手柔らかに」
朝食終わりにお出掛け服に着替えてリビングへ。
嫁3人とペッツは各方面へ食材の買い出し。東大陸で蕎麦粉の購入だとか。
ダリアと2人切りのリビング。
「急に2人切りだと静かだな」
「ですね。急に家族が増えたのが夢のようで。スターレン様と二人切りに成れるのも」
「今日は最後以外何も決めてない。その最後もダリアが嫌なら変える」
キッパリと。
「…そこまでハッキリ言われて外されては困ります。今は体力の方が追い付いてないだけで。ご心配無く」
「良かった。とは言え自由に出入り出来るのは国内。スタフィー号でクルージング。マッハリア王都から南部。
ルーナ両国。時差の少ないサンタギーナ王都周辺。ペカトーレ首都港方面。
技工士の杖は預かってるから南極で迷路作って最初から遊ぶとか。最後のは遊びでは無く本気です」
誤解の無いように。
ダリアは頭を抱えて。
「悩みます…。でも迷路は結局別行動と変わらないので嫌です。ルーナリオンの温泉地は行きたいです。シュルツさんを除いてファフ様に先を越されているので私も。
秘湯はフィーネ様や上位を差し置くと怒られます故それは抜きで」
何処まで情報共有してんのさ。
固有の呼び名以外略全部です。そこは諦めて貰って。
まあ隠すと喧嘩に繋がるからなぁ。
はい。複数婚と仲間の平和の為に。
「了解。お昼は同じ国の別の町で。着替えは持った?」
「バッチリです!」
ダリアもかなり弾けて来た。
北1番に到着。ゆっくり足湯で疲れていない足を癒し。
その綺麗な御御足を揉み解し。
「こ、困ります。人目が」
「脹ら脛位普通だって」
「もぅ…。好きにして下さい」
お言葉に甘えてしっかり膝裏まで揉み解し。
手を繋いで町中散策。夕方のオヤツ用の温泉饅頭をちゃっかり購入。
昼まで大露天風呂を2人切りで肩を寄せ合い堪能。
そこでも彼女の肩を揉み解し。反撃に出た彼女に背中から肩を揉まれた。
「私を試しているのですか!」
「お、怒らなくても…。ちょっと痛くない?」
「痛いようにしているのです!握力は怠けていても落ちません」
「ごめんて。調子に乗りました」
「そんなに前を大きくして置いて!」
「イデデデッ。ごめん!済みませんでした」
暫くの後に許され昼食へ。選んだのは南2番の餃子店。
店前で躊躇うダリア。
「ここは…。今回態々?」
「シュルツとファフ以外で来て皆が気に入った店。シュルツには手作り餃子をプレゼント。明日ファフを連れて行くと差を付けられてしまうのは誰?」
「入りましょう。問答無用で」
勢い良く入店。着席してメニュー確認。
通常メニューに加え。何と!
「年末年始限定…」
「精力盛り盛り…餃子」
滋養芋と果物を食べさせ育てた豚の挽肉。限定種の韮と大蒜。年の瀬自然薯に凝縮タラの芽に特別高麗人参の実とエキスを盛り盛り配合。
なんてこった!?
お土産の購入を!行かなくてはいけなく成ります!
「すみませーん。この限定品の持ち帰りって可能ですか」
「出来ますよー。二十人前を冷凍済でーす」
「良し全部買おう。臭い消しも添えて。明日も来るから同じ分量追加で!」
「畏まりー」
有り難う!
「ス、スターレン様…。今も、食べるのですか?」
「当然だ。2人切りの時間は少ない。この貴重な時間を大切にしたいんだ」
「お言葉は嬉しいのに意味合いが複雑過ぎて」
「踏み出そう。一緒に食べれば怖くない!」
「はい!」
通常の2種と限定を1皿ずつ。と生ビールを発注。
それが届けられる前に。
「お土産を展開するのは明日の夜だ。でないと明日が潰れちゃう」
「だと思います」
「それを理解しているなら覚悟は決まった?」
「たった今決めました。これ以上ファフ様に遅れを取る訳には参りません」
序列ってそんな大事なんだ…。
大事です。例外が2人も居ては。
成程。
全品同時に届き。ビールで乾杯しつつ限定品を。
「お、意外に臭く無い」
「品の良いお味ですね」
後でどうなるか全く解りませんが。
恒例の食べさせ合いを心行くまで。
「真面目な話。旅が終わっても事務棟は残すけどずっと専任って考えてる?俺が押し付けた仕事じゃなくて。もっと別の夢が有るなら聞かせて」
「そうですね…。押し付けられたとは微塵も。スターレン様のお仕事の一部ですから誇りを以て。
内務の仕事は六区の解放に目処が付き次第区切ります。その頃にはスターレン様の旅も終わり。自分にも実りが有るかもですし。
それも落ち着いた頃に王都外。ハイネやマッサラなどに孤児院を開いてみたいなと」
「孤児院か」
「水竜教の寺院には長くお世話に成りましたし。そのご恩返しに成れば。タイラントは平和に向かっていても世界にはまだまだ。手広くするよりも要点を絞って」
「うんいいね。学舎の近くとか。併設すると…」
「大混乱ですから止めましょう」
「はい」
お土産をしっかり受け取り南極拠点へ移動。
空の冷凍庫にIN。ほろ酔いが抜けるまで水分補給。
後の流れはご想像にお任せ。
夜の方も当然。竜血剤を飲んだかの如く燃え上がった。
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早朝。未だ夢から帰らぬ美女4人に毛布をそっと掛け。
サッとシャワー。濃い目の珈琲を飲みながらの朝食作り。
御節と年末年始用の食材は全て事務棟冷蔵庫内。故に自宅庫内は何でも使って良し。
お米を炊いている間に庫内を眺め添える物を考案。
今朝はファフも招くので人型は6人分+α。ペッツ分も含めて10人前有れば良し。
丁度鮭の切り身が10切れ。バターは使わずリゼルオイルでムニエルソテーに決定。
厚揚げと長葱と椎茸の味噌汁。じゃこ出汁巻き。
出汁巻きに添える黒酢大根下ろし。キャベツとほうれん草の煮浸し。大粒紫蘇梅干し。欲しい人には納豆。
デザートは豆乳仕立ての芋羊羹!おーけー完璧だ。
終盤間際に4人が寝間着姿で下りて来た。
「遅かったぁ~」
「寝坊しましたからね」
「限定餃子恐るべし…」
「私は昼夜連続でしたので。もう何がなんだか」
「もう直ぐ出来るから。お風呂にササッと」
「はーい…」
伸びをしながら風呂場へ向かう4人の後に。
「クワン。そろそろファフ呼んで」
「クワッ」
ちょっぴりおめかししたファフと自宅全員が着席。
に加えやはり来ました。
「レイルとプレマーレの分も並べたから手洗って着席」
「気が利くのぉ」
「流石です。来るのがバレバレでしたね」
食後にタイラント時間18時過ぎの秘密のパーティー緊急開催を宣言。アローマにもメールでお知らせ。
各員好きな食材やお弁当や酒持参を指示して一旦解散。
嫁4人がキッチンで相談する中。
リビングテーブル席で佇む自分と緊張するファフ。
「途中で襲ったりしないから落ち着いて。お昼以降は略決まってるけど何処行きたい?」
「襲って頂いて一向に構いませんが…」
キッチンのフィーネを見ながら。
「秘湯は駄目でしょうかフィーネ様」
「えー。あのレイルにも我慢して貰ってるのにぃ。順番的に私からだよ。それは悲し過ぎる」
「やはり駄目でしたか…。ではサンタギーナのシャインジーネの散策を。時間も計り易いですし」
「おけ。身支度…は俺か。着替えてお出掛けしよう」
「お待ちします」
シュルツと周り分の限定餃子5人前の回収をフィーネに依頼して飛んだサンタギーナ。
デートの定番。展望台で寄り添い語らう午前。
「俺の為にって自惚れだけど。来た事を後悔は」
「微塵も。ソプラン殿の話を聞いて確信を得ました。
初めて食べた筈の芋羊羹。なのにとても懐かしく切なく胸が痛みました。
もう一度貴方と会いたい。だから破邪剣をロディに渡して架け橋を作った。動機は不純でも主が神格化され居ても立っても居られず。逃したくないと気が付けば神域の扉をノックしていました」
「嬉しい。感謝しか無い。俺もあの時胸がドキドキして。
フィーネとロイドが居なければ何もかも捨てて走ってたと思う。君の手を掴みたい。行き成り抱き着いたらどうなるのかなとか真剣に考えてた」
風に流れる長い髪を抑え笑ってくれた。
その髪をシュシュで結い。
「余り先の話をしても辛くなるけど。人間化出来そう?」
「解りませんね。主と共に生きるも良し。主単体で天寿を全うされるなら私も。主にその能力が備われば恩恵を。
貴方と人間に戻れた妻たちの最期を看取るのも悪くない選択です。
きっとレイルさんも酷く悲しむでしょう。その時隣に居ても良いのかなと考えています」
「そっか…。カタリデって耳塞げる?」
「…塞げない。寝る事は出来ても」
「直ぐ寝られる?」
「まあ数分後なら。…何話す気?」
「異世界日本の答え。フィーネより先に死んだら困るからファフに託したいなと。ロイドには念話を切って貰う」
「止め為さい!まんま死亡フラグじゃない。貴方は使命を果たすの。そうしないと私も誰も人間に戻れない。前向きな貴方は何処へ行ったの?」
「僕も今ではないと思います。僕は寝ていても耳には届いてしまうので」
「怒られちゃった」
ファフにも抱き締められ。
「後ろ向きではいけません。その伝言は私に取っても辛すぎる。今は聞きたくない。天寿を全うするその前にお願いします!」
「ごめん皆。そこまで深くは…。ロイドもごめん」
もう少しで殴りに行く所でしたよ。
すんません。
「気分を戻そう。ヨボヨボ爺さんに成った俺を見に来た以外で何か独自で遣ってみたい事は有りますか?」
「複雑な質問の投げ方ですね…。与えられた役割そのままにダリアさんの補佐。孤児院ならばその副管理。又はシュルツさんの秘書官。独自でなら…お花屋さんを開いてみたいです」
「ほぉほぉ花屋かぁ。薔薇好きな君らしい。美しい物には棘が有るって良く聞く話。なのに君には全く棘が無い。
こんな幸運が有って良い物か。俺はなんて幸せ者なんだ!はさて置き」
「フフッ。何時か棘が生えるかも知れませんよ」
「怖いな。変な質問だけど蒼い薔薇って存在したの?この世界でも異世界日本でも薄紫が限界だった記憶でさ」
「私の必殺技名ですね。それは強い焦がれ。元居た世界にも存在しませんでした。所謂夢の憧憬。なので花屋の前に開発するのも一興かと」
「成程面白そう。そう言う道なら有りやね。南極拠点に薔薇科種集めて交配とか」
「とても良い案です」
彼女の手を取り。
「時は有限。町中散策へと参りましょう」
「何処へでも。ずっとお側に」
嬉しい言葉に心も躍る。今直ぐ南極へ飛びたい気持ちを抑え散策を。
港の発着場を見物したり市場や商店で南国フルーツを購入したり摘まんだりと楽しい昼前。
昼以降は予定通りの流れ。2人切りでの初めてを存分に味わい尽くし迎える夜。
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時を忘れ。例の薬も投入し。最後に残った食材の菜園トマトを塩振り皆で食べる。多分3日後の朝方。
「皆様。気が付けばもう27日。今年も後4日。これ以上の延長は厳しく。シュルツからも御節作りやケーキの考案を始めなくて良いのですか?との苦情メール」
「それはとても拙いです。年始に間に合わない処かシュルツに嫌われてしまいます」
「早期の参加となってしまったダリアさん。失礼ながら率直なお気持ちをお聞かせ下さい」
「最高の一時でした。お母さんには死んでも言えない秘密を沢山作ってしまいましたが後悔はして居りません。
一度ソプランさんをお受けしてからのスターレン様に戻れた時の愛と快楽の尊さは暫くこの身を離れてくれないと思います。後は昇って行くばかりで。二巡目以降は自我が飛び記憶が薄いですがお二人と皆さんから頂けた幸福感は今もしっかりと心と身体に残っています。次回も宜しくお願い致します。
遠征への誘惑に負けそうですが抑え込み。本分である未来視と心身の鍛錬を重ねて参ります。
ファフ様と共に置き忘れないで下さいスターレン様」
率直を超えた独自理論に本人も聞いてる皆も真っ赤。
「スケジュールを強引に捻じ曲げてでも忘れません。
レイルさんとプレマーレは来月は未定ですが堪えられそうですか?」
「堪えるのじゃ。二人に捨てられたら発狂する事間違い無しじゃて」
「右に同じく。我慢が足りなければ素直にお伝えします」
「はい。ではお掃除と片付けとお洗濯。乾かしてる間に仕上げのシャワーかお風呂。
帰宅後に毎年恒例の餅搗きから始めます。各自の年末予定を片し。年越し蕎麦を食べたいなら我が自宅までお集まりを。フィーネさんからは」
「何も無し。撤収作業開始!」
月に2度目の開催は遣り過ぎだったかも。しかしダリアと同じく後悔は無し!
ルーナリオンの宿の夜は何もせず帰宅しました前日午前。
自宅に招いたシュルツとの打ち合わせ。の前にオーナルディア迷宮での出来事とファフレイスの説明が入った。
聞き終えたシュルツは大きく何度も頷き。
「そうでしょう。そうでしょうとも。お兄様は神さえも惚れさせてしまう色男。オメロニアン様が生きて居らっしゃるなら救うべき。
そして!ファフレイスさんのご紹介は。誰一人。私と侍女含め城の皆が!絶対に違う。防壁なんて単なる下りて来る為の口実だ!と信じる者は居りませんでした」
「えぇ…。もう最初から…」
「だろうね。芋羊羹は流石に厳しいよ」
「でしょうね。芋羊羹でハーレム入りは無いよ」
「遊びに来ました、なら解ります」
「苦しいですね。その時私は居ませんでしたが」
「無理でしたか…」
「ですので説明は不要です。打ち合わせに上がった時などにチラリとお話されると宜しいでしょう。
宿舎へもどんどん通って頂いて結構です。と言いたい所ですがダリアさんの方が優先です」
「ご尤もで」
「私が成人する前に。更に増えそう…。増えますね間違い無く。そこでご提案ですお兄様」
「何でしょう」
「私と婚約をして下さい」
「何と!?」
「五番目の座は誰にも譲りません!その席は確約済だと発表してしまうのです。
次の六番も確約済。お二人追加予定なら八番までを確約済で時期未定とし。もうこれ以上は来られても誰も受付ませんと!
締め切ってしまえば良いのですお姉様」
「あぁ対策案会議要らないわ」
「一発回答とはこの事」
「終わって…しまいましたね」
「やはり天才じゃの」
「感服です。所詮私は地べたを這う女…。遠く及ばず」
「無視をするよりも余程良い案だと思われますが。お兄様流石にこれ以上は増えませんよね。それとも十人超えを目指して居られるのですか?」
「断じて無い。止めよう。何が何でも止めて見せる。それ以上は時間的にも身体的にも無理」
「私も堪えられません。
ダリアさんお迎え後に婚約。婚約発表後にファフレイスさんの発表。以降の詳細は秘匿とすれば万事解決です」
一同で拍手。
「その案以外無い。寧ろ何故そうしなかったのか自分自身に疑問」
「私見的に輪廻の輪の影響かも知れません。御方様からの最後の贈り物だとか」
「有り得るな。後で城に行って提案します」
「では転移プレートの配布を」
袋入りで4人へ配布。
「一応私の方で動作確認済です。カーネギさんたちと五人までで。六人となると発動不可。国内のラフドッグとウィンザートを往復しました。
元々消費が少なかった物を改良して更に半分。レイル様のプレートも消費を抑えたいのでしたら後で改造します」
「頼むのじゃ」
「これでやっと個人の買い物が気兼ね無く出来るぜ。後で練習しよ」
ソプランもニンマリ。
「では後に。続いて新事務棟一階厨房構成進捗。
基本的な厨房用品は整い。後は大型オーブンを二箇所に設置するのみで使用は可能です。ナイフと包丁は除き。
食堂エリアはテーブルセットを適当に並べて居り。変更移動はご自由ですと。
当初の構想としましては。自分を含めた六人が自由に調理可能な構成を目指しました。
流し台以外の構成は変更、微調整をする余力を残し実際使ってみてと言う具合。
毎年恒例のお姉様の御節作り。お兄様への誕生月祝いのケーキ作りもそちらで一括。こちらのキッチンは通常使用でお兄様とその他が主役。
ですのでファフレイスさんも新厨房の方へ篩ってご参加を」
「はい。食べてばかりでは罷り通りません故」
「レイル様御主催のラメルさんご成人祝いの件。
こちら本棟側の料理人を派遣する事も可能ですが如何致しましょうか」
「む~。身内の会じゃからの。集める人員以上の者は要らぬ。足りなければ外で買えば良い。ここで育てた食材を少し分けて貰う程度じゃ」
「了解です。大型冷蔵庫は空故に酒類や特殊飲料品は持参で願います。
エルラダさんの御様態に目立つ変化は有りません。明日お城で激変しない事を祈るのみ。
半分意義を失ったラフドッグの泳力訓練施設の件。予定地区画まで確保してしまった為。そのまま建設し一般開放とラフドッグの新名所とする積もりです。
こちらご自宅の増築は七人目をお迎えする時期を見て。手っ取り早くピーカー君との合作で考案致します。クワンティの自由出入り口を残し。屋上テラスと隠し洗濯物干しエリア以外特に浮かんでは居りません。二階から三階への通路階段などを決める段階からのご協力を」
「はい!色々試したい物が山積みです」
「私からは以上です。お姉様の方で何か有れば」
「全部言われました…。強いて言えば年明けからのスタンさんご実家関係者ご招待。こちらから新年のご挨拶。
アッテンハイムからの招待は考えていません。訪問するか否かはペリーニャにお任せ。
そこまでの間長期の遠出や遠征はしない予定です。レイルさんとプレマーレは不満を爆発させる前に私の方まで相談を。スタンさんとソプランに打診しスケジュールを協議します」
「うむ。早めにの」
「宜しくお願いします」
「それ以降にて。冬山登山演習や時期未定のキリータルニア案件も有りますが。
スタンさんとカル、ペリーニャ、ダリアとの1週前後の個別新婚旅行を5月までの間で企画します。
ファフはシュルツの後なので当分先。
別件でシュルツの自走車案件で役立ちそうな杖を見付けていたの。それは後日落ち着いてから説明するね」
「はい!楽しみにしています!」
「私からは以上。スタンさんは何か」
「有り難いし特に無し」
「アローマも我慢せずに耳打ちを。女同士ならどうとでも出来るので。寧ろ私の方が駄目かも」
「畏まりました。遠慮はせずに」
「ではスタンさんの提案後に時差ボケ解消訓練へと参りましょう。ロロシュさんにもご挨拶を忘れずにと。シュルツと一緒にウィンザートへの挨拶謝罪も忘れずに。婚約前の方がお勧めです」
「モチでそっち忘れてた!」
「私もです!」
これぞ正妻の貫禄。
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2人の女性の今後を分ける重要な。そして避けられないイベントが来た。
しかし俺たちは隣室から見守る役目。話声が聞こえる場所で待機中。
主役はライザーとダリア。何時ものように後宮へ娘に会いに来たエルラダさんの3人。
ライザーの謝罪が始まるその前に。神妙な面持ちのエルラダさんから語り出した。
「ライザー殿下」
「…はい」
「私と娘は何かの罪に問われるのでしょうか。不敬罪だとかの」
「その様な話では有りません。どうか落ち着かれよ」
「ち、違います」
母の直感は全てを凌駕していた。
俺たちも度肝を抜かれ焦ったのは述べるに至らず。
ホッと胸を撫で。
「良かったです。それだけが気掛かりで」
「余計な心痛を与えてしまったようで申し訳無い。全ては私の不徳から招いた事。罪を負うのならば私です。
その謝罪と婚姻解消の話をすべく。本日同席してお邪魔をした次第」
「…解りました。お隣に居るお二人にも関係有りと邪推します。そちら方もご同席でなら」
俺とフィーネは顔を見合わせ首を振り振り。
エルラダさんも何かの特殊スキル持ち?
呼ばれる前に大人しく末席に座る俺たち。揃って会釈。
こちらに会釈を返しライザーに向き直る。
「殿下。どうしてこの様な回り諄い事を為されるのか。
御自分の立場を汚されてまで。私の病など切り捨ててしまえば良い。
娘との時間は充分に胸に刻めました。例え明日死のうとも思い残しは有りません」
「そうは行きません。一度は貴女を母と呼び。今でもその思いは変わりません。
しかしダリアは自由に成りたいと望んだ。彼女と出会う前からの想いを遂げさせる為。真に喜ぶ姿を貴女にお見せしようと画策しました。
私の汚れは雑作も無く。前はもっと酷い物。今更何を塗ろうと変わりません。
既にウィンザートで候補者と会っているのは事実。それは何ら汚名でも恥じる行為でも無く。寧ろ今の段階で空いた隣席の後ろに誰も居ない事の方が問題。
貴女が心を痛める道理は有りません」
「お心遣いに感謝を。
ニーダ。式典会場で。本殿から王宮へと帰る途次。振り返った貴女が見ていたのは。私ではなくスターレン様の方だった。違いますか?」
あの時の視線は俺に向いて…。
「その…通りです…」
娘の答えを聞き。席を立ちダリアの隣に立つと。
渾身の平手打ち。
「私を捨てる覚悟が有るのなら!何故もっと早く走り出さなかったの!」
打たれた頬を押え。
「それは…」
「フィーネ様の病は言い訳には成りません。以前からその想いを唱える機会は有った筈。回数を重ね。穏やかな話し合いも出来た筈。そこから逃げた。その結末が今。
真に臆病者なのは誰なの!」
「わ、私です…。御免為さい…」
大粒の涙を流してそう答えた。
対面席へ座り直し胸を抑え呼吸を整えた。
「私なら大丈夫です。此れしきの痛みで死にはしません。
スターレン様。殿下の御前で。恥を忍びお頼みします。
不束で我が儘で臆病者の娘を宜しく、お願い致します」
「志かと。私と皆で迎え。支え。共に歩み。ダリアの望む幸せを探し。必ず見付けると誓います」
「感謝を。殿下。今後の娘の扱いは。城内立入禁止と成るのでしょうか」
「いいえ全く。これまで通りに。姉君や母ミランとのお茶会への参加は勿論。城内役職は内務文官の帰職と屋敷の主であるノイツェの直下へ下りるのみ。
加えて勇者隊事務棟の支配人が内定済。立場は変われど何も変わりません。休暇の策定も進んで居り。貴女本人の立入も何ら制限は掛けられません」
「温情に感謝を。殿下。お詫びの印に一つ進言を宜しいでしょうか」
「何なりと」
「娘の未来視は父親のベルエイガより受け継がれし能力。ですが私の生まれも代々星占いを生業としていた家系。
その占いの結果。殿下の直ぐ後ろに居られる第一候補の美しき御令嬢様は非常に相性が悪い。
世継ぎが生まれないだけでなく。行く先の城内の平穏を掻き乱す因子を抱えています。
見た目平凡そうでも。心豊かな第二候補様の方を強く。強く御推薦致します。
娘を育てて遣れなかった不甲斐ないこの私を信じて頂けるならば。どうぞ御一考を」
「信じます。信じましょう。社交ダンスを踊った時も肌が合わず、歩調が何一つ合わなかった。
たった今。至極合点が行きました。こちらこそご助言に感謝をお返しします」
衝撃の占いで謝罪会は幕引き。
一人の母は、重い病にも屈せず。
その場の中で誰よりも強かった。
それから2日後に婚姻解消の知らせを回し。更に2日後に城を下りる事に成ったダリアを旧知の俺が迎えると言うシナリオ。
その日の内に指輪購入。
誓いの岩場で誓いの言葉とキスを交した。
膝に乗せたダリアの頬に伝う涙を親指で拭い。
「この涙は嬉しい方?悲しい方?」
「…後者でしたら頭可笑しいです」
少し笑い合って又キスをした。
「エルラダさんのビンタ痛かっただろ」
「痛かったです。私の本性を曝け出されて。あれ程心を揺さ振られた平手は初めてです。
何もかも人の所為にしていたのだと…解りました。
同時にこれがお母さんなんだなぁと実感しました」
「誰でも弱い。俺も皆も。これからは沢山甘えるといい。
俺たちでも。直ぐ隣の邸内には正真正銘の母親が居るんだから。
救える人は必ず俺が連れて来る。再来年もその先もずっと続く道だ」
「はい…。その先は自分たちの足で。スターレン様から少し離れた隣の道を歩きます」
「それ言われると辛いっす。全部俺に異常なカリスマ与えたクソ女神が悪いんです」
「私はそれが無い頃から好きでした。なので真実です。
誰にも負けないと、言いたいですが上位三名には負けますので同時に救われたシュルツさんと同程度には」
「成程。…誓いを立ててからで申し訳無いけど。少し昔話を聞いて欲しい。城では詳しく話してない部分と。ラフドッグの浜辺でベルさんと会ってからの旅の話を最近まで全部」
「その前置きだと…まだ増える予定なのですか?」
「…増えます。ダリアとの手続きの後。シュルツとファフレイスの後ろにもう2人程。俺の前世以上の繋がりを持つ人たちが」
ダリアは天井壁を仰ぎ。
「逃げ場は無いのでお聞きします」
覚悟を決めた。
ペリーニャに話した部分から順番に。スフィンスラー15層で精霊体のベルさんと再会した話。
判明したグズルードの素性とその繋がりの有る人物2人の話まで。
無言で目を閉じたダリアに。
「未来視は使うなよ。目星は大体付いてる」
「違います。お話の規模が大きすぎて混乱しているだけです」
「良くないけど良かった」
彼女の肩と頭を撫でて落ち着くのをじっと待つ。
打ち寄せる潮騒が無言の時を繋いで埋めた。
「総合すると時の女神は変態で。その真実を知ってしまったペリーニャ様は改信を決断されたと」
「纏めるとそんな短いんか…」
「他を浮べると怒りに塗り潰されそうで」
「その通りやね」
俺の人生って結構単純なのかも。
「スターレン様とカタリデ様にお聞きしたいのですが。未来視を使って何が悪いのですか?父はそれを繋いでスターレン様とこの世界に未来を与えた。
修練を積まねば正確な未来は見えない。なのに周りは伸ばすな使うなと止めるばかり。
成人を一年以上過ぎてまで。私には理解が出来ないのですが」
「いや…ん?」
「それはダリアちゃんの精神面を心配して」
「でしたらそちらを先に伸ばせば良いではないですか。瞑想をせよとご助言を頂けて。てっきり瞑想で鍛えられる物なのかと毎日欠かさず続けて居ります。
最近では悪夢も見なく成りましたし。母の未来は怖くて見ていませんが。
それ程先の未来ではなく。明日とか数分先だとかで修練を積むのでは?」
「あれぇ反論出来ない…」
「おっかしいなぁ…。私も止める理由が見付からない」
「母は未来視の存在を知りながら謝罪の場で止めませんでしたよ?」
「「ん~?」」
「夢が偽りなら信じない。現実で起きる少し先の事象を積み重ねる。先を見すぎると良くないとフィーネ様とカタリデ様は仰いました。でしたら少し先だけに絞れば良いのではと私は思います」
「ちょっとあれだな。手続き終えて夕食にエルラダさん招いてお話聞いてみようか」
「そうね。正しい手順知っていそうだしね」
「はい」
その夕食後のエルラダさんは。
「止めた…?止めている?それは何故に…でしょうか」
頭上に?を乱立させて首を捻った。
「いやその。彼女の精神面が心配で」
「折角ベルが残した力を?私との子。ニーダが引き継ぐと解ったからこそ。病を押して頑張って産んだのに…」
「え!?」
「ですよね。やっぱりそうですよ。止めたままではお母さんの苦労が水の泡。私も何の為に生き抜いたのか解りません。
スターレン様と結ばれる為。即ち使えとの父からの遺言。だからこそお別れの浜辺に私も呼んだのでは?
後に養父となるノイツェまでも」
「「あぁ~」」
俺とフィーネの反応に対し。
「お使い下さい。娘の言う鍛え方で合っています。少し先の出来事を読み積み重ねる。同時に身体と精神も鍛え上げる。基本の積み重ねしか有りません。
あぁそれで事務棟に押し込めようとしていたのですね」
「はい…」
「類い希なる武装と運。カタリデ様の恩恵と勇者の力で戦い抜く。それは大変に素晴らしい事です。
ガンターネとの対峙した時の話の中。娘が居る筈なのに使った痕跡が聞こえず。私は混乱して寝落ちしました」
「…」
「スフィンスラー迷宮でのベルとの再会。スターレン様に直接会いつつも何の助言も残さなかった。
未来への手掛かりは既にニーダが握っているからと」
「そんな気がして来ました」
「これまで危険に面した時。事前に探れた場面も多々有ったのでは」
「確かに…」
「主に私がやらかした時、とか…」
「近々であれば何の問題も有りません。行き成り一月一年先を見なければ良い話。正確性に欠けるなら地道な努力。精神的な疲労を来すなら心身の鍛練と遊び。
休暇を設けるなら惰眠を貪るのではなく外で遊び。自然の景色で心を癒す。
この邸内には訓練場が有り。来年には専用の施設まで作られると聞きました。
未来視の教材は何処にでも。例えば都内に出来たカジノなどお金を掛けずに只眺める。遊戯なら自分でもやってみる等々。
勿体無いです…」
「お母さん。そんなに思い詰めてはお身体に毒です」
「申し訳無い。明日から考え直します」
「今日の所はお隣までお送りを。ゆっくりお休み下さい」
「そうさせて頂きます」
肩を落とすエルラダさんをダリアとフィーネが隣までお見送りした。
「カタリデさん。俺たち」
「間違ってたのかもね。成人してからなら。もし使っていたなら殿下には嫁がず。10月まで待っていたのかも」
「ややこしくしたのは俺の方だったのか…」
ロイドとペリーニャが優しく。
「過ぎた事です」
「皆で考え直しましょう」
「ういっす」
-------------
ダリアとの初夜を越えた朝。
何時もとは違う隣の寝室にて。
添寝をするダリアの髪を撫でて起こす。
「おはよ。痛かったりは?」
「お早う御座います。
初めてでは有りませんので痛くは。でも激し過ぎです。
急に天国へ連れて行かれたようで。もう少しゆっくりが良かったです」
「今夜は気を付けます」
「お願いします」
焦りは禁物。女性はデリケート。
ついついハーレム生活で忘れ勝ち。
2人切りで遅めのお風呂。先輩嫁3人が用意してくれた美味しい朝食を食べ。
本日ウィンザートへ一緒に行くシュルツとファフレイスを呼び出した。
昨日の出来事を聞いた2人の反応は。
「成程その面は逆に考えていましたね」
「初歩的な鍛錬を加えましょう。運動で汗を流せば精神面も鍛えられます。
ロディと同様。私も軽度の治癒術を備えています。エッチな意味では無く身体の支えにも成り得ます。
まだ事務棟の稼働までは時間が有りますのでその間に基礎的な物を」
「それはファフに任せよう」
「真にピッタリの人材だわ」
「フィーネ様」アローマが挙手。
「何か浮かんだ?」
「はい。ダリア様の再婚姻と内務文官復帰の知らせは今日中には国内に回り切ります。
その内務文官の役職を使い。カジノへの視察を堂々と行え。ファフレイス様同伴であれば成人向け。未成年者向けならシュルツお嬢様も同席可能。
そこで営業時間外予約を取れば私たちも同行が可能。貨幣を掛けずにと言う建前と外交官の役職の立場も使えば対外的な面でも波が立ちません。
詰りダリア様の休暇中の夜間に遊び放題。目的である未来視を鍛える手段にも成り一挙両得。
加えて御方様からのご助言で一度もダリア様の話は出ていません。
それは温存を意味します。王女から文官復帰。平民上がりでは出来ない事も今なら出来ます。
なので今までの回り道は全くの無駄ではなかった。スターレン様が過去まで辿り着き。全てが整った今。
温存を解け、と言う事なのかも知れないと愚考致します」
場の一同で拍手。
「愚考じゃないよ何時も。でもそうね。
私たち全体の状況を鑑みても全部整ってる。余力時間も出来た。今からがダリアの解禁。焦らずじっくり鍛えて置けよと。そう言う事ね」
「その様に」
「ダリアの迷宮内訓練への参加を計画の内に加えます。削られる休暇分はファフの配分を多くし補填対応。
そして日常生活の中に負荷バンドをスタンさんから」
「ほい」
ダリアに負荷バンドの1つを手渡した。
「それの使い方はファフが熟知しているので問題無し。長期休暇を少し削って魔力枯渇を試すなど。上限を更に引き上げる方法も有るのでそちらも焦らず」
「はい。…例の秘密への参加はまだ心の準備が」
「そこは安心して。無理矢理なんて絶対しない。スタンさんとの時間を充分に作ってからの話よ」
「安心しました…」
「では本日の本題。シュルツ。お土産決めた?」
「はい!それが全く浮かびません!」
「シュルツにしては珍しい。ならば婚約者のスタンさんの腕の見せ処。無いと言う答え以外でどうぞ」
「激ムズ…。初回訪問時にお土産にした滋養酒以外は。今なら黒大蒜が消えてデザート酒にも最適。どうかな」
「良いじゃない有るじゃない。メリアードさんの妊娠だけには注意してね」
「そこはマストで握手で確認。カタリデも居るし」
「うん。ラメル君のお祝いの準備は残りの人で進めるから気にせず2人のデートを楽しんで。ダリアとの個別はお祝い翌日。ファフとはその翌日。年末までは1人の時間と新作料理の考案を皆でとかとかを自由に。
私たちとは年明けからたっぷりして貰います」
「承知しました」
「では行ってらっしゃい。お空からはクワンティが見守っています。お痛は厳禁!」
「「行って来ます!」」
-------------
正妻からの激を受け取り買いに走った滋養酒。
今年分の最後の1瓶。次期作は4月以降に出来上がる。
自宅分は明日のお祝いで消費。今年と同じ分量のストックを依頼。
序でに蜂蜜と売れ残りの苺も購入してウィンザートへ移動した。
シュルツの手をしっかり握り緊張しながらノックした玄関。
笑顔で迎えてくれた担当侍女とシュルツの両親。
リビング席へ着くなりシュベインの方から切り出された。
「シュルツを宜しく頼む」
「え…?」
メリアードさんも。
「今日はそのお話に来られたのですよね?」
「ええ。その通りですが」
「御母様…」
「だったら早い。ピレリ君から娘を奪ったのは事実。
ならば責任を取って貰わないと。父が認めているなら私たちが反対する理由が無い。
次世代。詰りシュルツとスターレン殿の子が将来のミラージュ財団代表として相応しい」
「「あ…」」
「誰が文句を言えましょう。文句を言うなら只の阿呆。
私のお腹にはシュルツの弟か妹が宿りました。年齢的にはもう一人位は何とか。
ギサラ君はサルベイン家。公爵家としての跡取り。ギャラリアの方が余裕が有ります。
シュルツが代表の派閥。国のお相手をするサルベインの派閥。港のゴーギャンの養子ピレリの派閥。ここウィンザートの私たちの派閥。
四分割された財団を取り纏めるのは誰か。それはもうスターレン殿しか居りませんよね?」
「な…成程ぉ」
「お兄様。その面の責任を考えて居りませんでした…」
俺もやで。
「焦る事は無い。と偉そうに言える立場にも無いが。
スターレン殿の長旅が終わる頃にはシュルツも余裕で成人しているに違いない。
支える妻が多数居て。子も多く生まれよう。その中の誰かが次世代代表。それがシュルツとの子であれば尚結構。
男児でも女児でも健康で明晰であるなら万々歳。今日は婚約の挨拶なのだろう?」
「はい」
そこはハッキリ胸を張って答えた。同時に了解の意味。
「どうぞ貰ってくれ。財団代表の椅子と共に」
「「頑張ります」」
お酒で申し訳無いですとお土産を置き。
侍女と給仕が作った軽食を食べながら最近の王都の様子やオリオンの進捗などのシュルツが頑張ってますよの世間話をして退出。
潜水艇が見たいとの申し出は出産が無事に終わってからのお楽しみでとして逃げた。
公園のテーブル席に並んで座る午後。
「道理でロロシュさん…」
「一切反対しない訳ですね…」
ボーッと空を見上げる2人。
「御爺様は。ピレリ様とのお別れをお伝えした時。無言でしたが内心…」
「善くぞやったと笑ってたのかもな…」
「意外に気付いていないのは…」
「俺たちだけだったり…」
カタリデとピーカー君。
「当然じゃない」
「逆に何故気付かれないのか不思議です」
「「あぁ…」」
「恋は盲目って奴よ」
「「間違い無い…」」
気持ちをリセット。
「まあいいや。投げ捨てる意味では無く。覚悟は決まったの意味で。何度か想像をしてた事なのにすっかり忘れてシュルツに夢中に成ってた」
「お兄様…。そこまで言われると気持ちが抑え切れなく」
「それは駄目。お互いの人生が終わっちゃう」
「はい…」
「キス以上はしない。それを保った上で。内緒で国外に連れ出してしまいます。何処へ行きたいですか?」
「む~」
腕組みしながら指先で肘をトントンする姿が超絶可愛い。
俺…堪えられるかな。
堪え為さい!何なら止めに行きます!
そうして下さい!
「ルーナリオンの温泉街や両国王都の夜景は魅力的。今行けば夕方頃。お兄様のエッチな視線は有り難く。しかしそれでは私の抑えも利きません」
「ヤベ、バレてる…」
「強制終了は嫌です。ここは一つ冷静に。
ピーカー君。南極のハウスは今どう組まれているの?」
「実験をした時のまま改造はしてません。中の畑は全て抜かれて整地済です。抜き切れてない物が自生しているかも知れませんね」
「ではその確認とハウスの改造を少々。ドライエアードの鶏冠飾りの効果も見たいです。
ハウスの近くで頂いた技工士の杖の実験。行き成りタイラント内では使えないので試作を少々。
自作した防寒着は持っています。最後に帰宅してから防音室でご褒美のキスを下さい。どうでしょうお兄様」
「喜んで。あの家はシュルツが建てた物。寝室以外どう使っても誰も文句無し。俺もその方が安心だ」
上空に手招きしてクワンを下ろし。プランを説明した後にシュルツの提案通り即実行。
ハウス内へ直接転移で彼女の新作コートと手袋を装着。何方もフロッグの皮と獄炎竜の皮を合せた合皮に分解した背鰭で各所を補強した物。
「これは大狼様の毛皮を抜きに誰でも着られる。冬山登山用に考案した物です。ブーツはそのままに動き易さと耐寒性能を追求した形です。
私は行けませんがレイル様含め皆さんの人数分は作成済です。フロッグの効果でピッタリフィット。翼は無しの想定に仕上げました。
フードは目出し呼吸穴付きのフルフェイスにも出来ます」
「何時も助かります」
頭を撫でようとしたが手首を掴まれ。
「お兄様!外で私を甘やかしてはいけません!」
「ごめん…つい」
「未成年者に言われてるぅ~」
「自制心が足りないのはスターレン様の方ですね」
「頗る胸が痛い!修正する!」
冷静さを取り戻してハウス内点検。
3棟共殆ど空だったがトマトの木が1本だけ自生していた。大きな実が垂れピーク時で時を止めたまま直立不動。
「暫く来てなかったのに全部腐ってない」
「最高品質で止まっていますね。レイル様へのお土産にしましょう」
「明日を待てずに食べそうだ」
「充分に有り得ます」
そのハウスを使って改造を少々。日光の取り入れ方を工夫し鶏冠飾りの周囲に光を集めてみると。
「あっつ!」
「真夏を通り越して高温サウナです!」
至急鶏冠に指を当て温調。体感25度前後をイメージ。
「おー収まった」
「温調機能が有って良かったです」
温室効果は室内隅々。玄関を出て少しの距離まで。
確認が取れた所で俺はある提案をした。
「シュルツの前で申し訳無いが俺は提案をする。
ここを模擬戦実施の拠点。それを兼ねた秘密のパーティー会場としたい!」
「お兄様…。欲望が剥き出しです」
「止めてくれるなシュルツ君。これは君の将来にも関わる事だ。毎回毎回スタフィー号で沖へ出るのは面倒。海上のポイントへは転移で飛べず。
何かしらの理由を付け。ラフドッグや最果て町を出港しなくてはならない。
事後のお掃除も大変。帰港し船を返却するのにも時間が奪われる。
ここを拠点に出来れば何も心配は要らず。洗濯器まで置けば衣類も干し放題だ。
オマケに時差ボケを殆ど考えなくて済む!
全てを叶える最適な場所なんだ」
「う~否定が出来ません。私も一々言い訳をするのは恥ずかしいです」
「どうだろうカタリデ、ピーカー君、クワン君。失望してくれて構わないが秘密を隠し通すにはここしか無いんだ。
どうか許して欲しい」
バッグを掲げて一礼。
「まーいんじゃない。毎度個別でオーナルディア行くのは浮気と同じで微妙だし。他国の領土だし。完全に人が居ない場所はここしか無いわね」
「前回は誰か海に落ちてましたしね。陸地の方が安全安心です。玄関には二枚目の誘導版を置いて出られなくすれば良し。
長期間放置されると欲求不満を爆発させる人が三人も居ますし。ここなら気兼ね無く何時でも使えます。
僕も賛成です。ご主人様たちの淫らな姿は外に漏らしたくは有りません」
「あたしも賛成です。ここなら模擬の方も楽勝で見渡せるので寧ろ有り難いです。外に出る人が居たら蔦で掴んで室内へ戻します」
「有り難う3人共。泣きそうです。全ての意味で!」
思い立ったが吉日。早速テーブルセットを出し。シュルツとピーカー君との合作で設計図面を起こした。
非常食としてトマトの菜園を残し。その棟を起点に3棟を集約してから周辺一帯を整地。パイルバンカーで地下空洞まで排水路を確保。その真上に大型浄化槽付きのブロック。そこから拡散するように大小風呂場とシャワー室。
洗面所、洗濯物干しエリア、大型キッチン、併設食堂。
汎用冷蔵庫と冷凍庫。広々寝室を5部屋。
真面目な方の会議室。ウォシュレット乾燥器付きトイレ等々をパーツ組み上げ。
ピーカー君製作のテーブルや椅子やベッドフレーム。
俺とシュルツの手持ちの備品全てを出し切り配置完了。
寒い外へ繋がるのはキッチンの換気扇と玄関と日光の取り入れ口。それ以外完全窓無しの要塞が完成した。
3者が本気を出せば物の1時間足らずの工数で終了。
最後に菜園エリアの鶏冠の隣に消臭の冠を置き皆が好きな柔らかい薔薇の香りにしてみた。
温調を少し上げて各室隅々確認。
「凄いなあのセット。ホントに全域カバーされてる」
「隙間の無い壁や扉を無視するとは…物理法則を超越していますね。換気扇や取り入れ口の風さえ制御して」
「久々に全力出せました。不満が出た時の為に二階部を考案して置きます」
「多分出ない。出たら贅沢」
「経験は無いですが出ないでしょう。強いて言えば姿見や洗面所の鏡が有りませんがペリーニャ様が後付けで作れるのでそれ位ですね」
「帰ったら皆に報告して。出した備品を明日以降で補充しようかね」
「はい!」
新品の食堂でお茶とトイレ休憩を挟み。玄関扉手前に出口だから引き返せの誘導板を床に填めてから外へ。
造った本人も驚く万里の長城並に長い道を。2人並んで日傘を差して時間一杯までお散歩。
「ごめんなシュルツ。大事なデートを俺の欲望に使ってしまって」
「大丈夫です。この方が楽しくて勉強に成りました。自分の欲望が抑えられて逆に良かったです」
帰宅後。城に8人目までの申請をしてから自宅の防音室でお互いのご褒美タイムを夕食時まで。
「苦しい?」
「苦しくは無いです…。甘くて蕩けてしまいました…」
しっかり抱き締め頭を撫でて2度目のデートを終了した。
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夕食後の俺たちの発表で経験者たちは歓喜した。
「オーナルディアは訪問した時しか使えない。他国の領土に平気で外交官勇者が勝手に出入出来ない。それは他の顔を知られたメンバーも同様。
なので自由に使える場所を作ってしまいました!」
「有り難うスタンさん。お外は興奮するけどやっぱり衛生的じゃないし。気が引けてたの」
「だと思いました。自分も。乾いた地面でもどっかしら汚れるし。何か敷くのも変だし。途中で我に返る事も有ったしさ」
「…」
経験者たちがシミジミ頷いた。
「エロい話はここまでに。所でレイルたちはなんでもう来てるの?」
「クワンティの目で美味しそうなトマトが見えたからじゃ」
「明日のお土産にしようと思ってたのにあざとい」
「抜け目が無いですねレイル様は」
「好きな物は好きなのじゃ」
袋に詰めて半分進呈。
「残りは明日のお摘まみに使います」
「うむ。有り難う」
今日は解散しようかと言う段階に成って。赤ワインを嗜むソプランが挙手をした。
「姐さんとマーレ嬢も居て。主要メンバーとスターレンの嫁も揃った所で。少し俺の妄想聞いてくんねえか」
「どうぞ。ソプランが改まるとなんか怖いな」
「ねー」フィーネも同意。
「怒ってる訳じゃねえさ。俺たちメメット隊がスターレンを拾ったあのラザーリアの出発日。実はあの日は予定よりも二日遅れだった」
「初耳」
「初めてだからな話すのは。遅れの理由の一つは前々日にメメット隊長が酔い潰れて二日酔い。もう一つは同じ日にメレスが急に発熱。
収まったのが二日後。スターレンと出会った日だ。
この事が何を意味するのか。この出会いは偶然ではなく俺たちの方も時間調整の中に入ってた。
スターレンと既に共に居たロイド様までどう欺くか。そこから辿って行く着く先は何処だと思う?」
「まさか…前世だとでも?」
「そのまさかだと思う。スタプ時代の十年のストックはそこに向けて調整。更にスタプが彫像彫り師に目覚め、成功するまで何度も繰り返されたって事に成る」
「…」
「要するに時空結界破りの前。クワンティがオーラと遭遇する前辺りまで繰り返されてる。破れたのは今回が初。
最大の要因は姐さんとマーレ嬢が加入して同行していたから。それは間違い無く初めて。
特に姐さんには時が通じない。だからヌンタークは慎重に対応した。
クワンティの神格化は初。クソ女神が細かい時間干渉を諦めた要因の一つ。お前の神域強制招待時。時間操作を間近で目撃された上にクワンティだけ操作適応外だった。
そこから慎重に成ったとも取れる。
ファフ様の加入も初めて。フィアフォンゼル迷宮での邂逅は初じゃない。理由は簡単。一目惚れでここまでは流石にしない。何度もあの邂逅経験が有ったから。その記憶が消えてるのはこちらの世界の時間軸に入り込み。極短時間で離脱したからだと考える。加入は結界破りの後。
姐さんがヌンタークに提示した三年間。その時見せたクソ女神の余裕。カタリデ様は盟約破りで時間的余裕が有るからだと言ったが…。俺はそうは思わない。
その三年の間に覆せる何かが有ったからだと思う。姐さんとは関係無い所で。ヌンタークも眷属も知らないクソ独自の罠が三年に隠されてる」
「ロイドが抜けてる時間丸々が調整かぁ。そこまでは考えてなかった」
「口惜しい…。あの女は何処まで」
「可能性の話だが初転生者のお嬢。上位者のロイド様とファフ様と姐さん以外は繰り返されてると見える。マーレ嬢は西大陸内に居た。カタリデ様は休眠中の時間を弄られたとかな」
「成程…」
「有り得るわね」
「罠を張れる場所は何処か。今俺が怪しいと踏んでるのはフレゼリカと前皇帝アミシャバが繋がってた統一教会本部とオメロニアン様を捕えた時間牢獄。その二つ。
統一教会は勇者に成っての初訪問時に呼んでもない宴会場にまで乗り込んで来たあの過剰反応が引っ掛かる。
オメロニアン様は言う迄も無い。何だって罠が仕込めるし行き過ぎれば体内に何かを埋め込むだとかも可能だ。
それを助けようとしたスターレンを巻き添えにする手段とかを色々と。
クソ女神はまだ終わってなんかない。相手は女神教と邪神教だけじゃない。このまま平穏無事に西に行けるとは到底思えん。
眷属はキエンターラが最後だと言ったが過去の奴等はまだ何処かに居る。
姐さんに渡された過去眷属再生の壺が未使用だったのが良い例だ。
壺の回数制限で言えば後二匹。例えば黒竜様に挑ませた白竜は白ロープの髭と姐さんが拾ったソラリマ分の牙とカットランス分の骨以外が消失してる。
改造されてなきゃお前や姐さんには単なる雑魚だが黒竜様に惨敗して置いて何も手を加えない筈は無い。合成キメラも有り得る。
キエンターラは完全人型。その前段階でクルシュの身体を試しに作ったとも考えられる。擬態に見せ掛けお前に助けを求めて騙すとかな」
「うん…。そこら辺組立直すよ」
「お前に言わずに行ったのは悪いが。昨日転移の練習がてらオーナルディアのイグニースさんに会って個別の話を聞いて来た」
「別に構わないよ。でどんな?」
「俺自身の前世だ」
「ソプランの?」
「最初のグズルードに殺された妃の六人以外が妙に気になってな。それで従者とはどんな奴だったかを聞いた。
その特徴を聞くに。従者統括執事と専属侍女長が…俺とアローマにそっくりだった。今の立ち位置から仕事内容まで何もかもが」
「「え…」」
アローマと俺の反応。他は無言。
「アローマの出身はペカトーレ首都南町のサンコマイズ。それは確定情報。
俺は海繋がりのウィンザート。しかし正確な出生地は解らない。俺を捨てた両親はロルーゼで生きてるらしいがホントに産んだかも怪しいもんだ。
次に第二から第六までの妃の話を聞いてみた。
妄想力限界で判断するに。ここに居るペリーニャ様とダリアとシュルツお嬢様…。何か気付かないか?」
「邪神教のクインケが語った。生贄候補者…」
「ペリーニャ様は依代要員で候補には入ってない。
お嬢はお前の身近な人物として狙われた要素が強い。外面上はな。
サドハド島のニーナ姫は俺たちが離れた後で。ギリングスの海賊に何度も襲撃された。タラティーノを絞っても情報が取れるかは微妙。
繋がっていたクインケはロルーゼ強制送還後。碌な尋問もされず即座に極刑。
クルシュは今何処だ?」
「統一教会本部の直ぐ近く」
「だから怪しいと睨んだ。助けたお前を見る目も何処か冷めてる。以前のお嬢が無反応。大狼様の傍を離れ国に帰った後からなら隙も多い。帝城も一度大きな襲撃を受けて混乱した。その時お前に接近出来て罠を仕込むならと絶好の人物に選ばれた可能性が有る」
「彼女に、何かを…」
「何方か又は他が発動する前にグリドットが来る。ダリアの力が必要に成るのはその時だ。個人の妄想で時間取らせて済まん。頭の片隅にでも置いてくれ。
前世からの主殿」
「ありがと。ソプランに怒りが全く湧かない理由がそこに有ったのか…」
「普通じゃ有り得ねえだろ。人間だろうが魔族だろうがお互いの大切な嫁さん交換しといて全員平気で居られる状況なんざ可笑しいにも程が有る。姐さんの言う通り」
「じゃの」
「だよなぁ…。そしてクソ女神の課題が終わらない」
「増えちゃってるね。折角暇に成ったと思ったのに…」
「スターレン。オメロの目星が付いていると口走ったが何処なのじゃ」
「それね。今持ってる情報で一番怪しいと思ってるのはキリータルニアのエラルズゴーザ迷宮内。クソ女神が何かを隠せるならそこ。闇の罠張りはヌンタークか眷属にやらせて最古の迷宮ってのも注意点かな」
「むぅ…。気分が台無しじゃ」
「怒らない怒らない。勝手に行くなよ。軍部の調査が終われば正面から入れるんだからさ」
「解っておる!」
「ではフィーネさん」
「私も苛つくわぁ。の気持ちはぶん投げまして。
今日は解散。明日はお祝い。年末までは各員身体を休める。又は少しだけ迷宮訓練。ペッツの管理はクワンティに一任一択。
年始行事が終わってから南極で弾ける。それ以前に我慢出来なく成ったら相談の上行ってみる。
登山の勉強をしながらキリータルニアの続報を待つ。
ボルトイエガルの動きにも注視しつつ。
帝国のクルシュは様子見。転移具でここまで飛んで来たら必ず捕まえる。
以上!」
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翌日。本日はオールお祝いデーの朝。
昨晩も隣寝室にて。
「おはよ。ダリア」
「お早う…御座います。スターレン様…。ううっ」
朦朧とした虚ろな眼差しに堪らずお早うのキス。
風呂場で彼女の背中を流している時にも1回。
歯を磨いてからも1回。
今日はキス攻めにしてみた。
朝食時。隣に座る筈だったダリアが対面のフィーネの隣に座って懇願。
「フィーネ様…」
「どうしたの?」
「もう…私一人では。何もかもが気持ち良すぎて…」
「「「でしょうね」」」
正妻さんから三妃まで一致。
「今夜からはそちらのお部屋で。休息を挟みたいなと」
「解った。私たちも限界みたいだから丁度良かったわ」
「うんうん」「ですです」
「有り難う御座います…」
どうやら遣り過ぎてしまったらしい。
普通の境界線を見失った俺には難しいな。
席に座り直して和やかな朝食を5人とペッツで。
お祝いと言っても昼食会とお酒も入れた夕食会が開催されるだけ。
基本的な料理は作成済。事務棟の厨房や食堂は整えられ大半が冷蔵庫内。温め物は直前に温める感じ。
昼の部夕の部共に。ラメル君が新包丁セットを使って自分で考案した新作料理を披露しレイルに捧げる流れ。
午前はシュルツと一緒に放出した備品類を買い漁った。
他人員はペリーニャを筆頭に南極拠点の視察と菜園の一部再開拓や鏡など好きな備品の追加整理。
ダリアも南極拠点へ行ったので今後の心の準備を整えている模様。
そのダリアは通常の転移具が使えない。転移プレートがもう1枚必要だと判明。どうしてもでは無いので来年の空き時間の何処かにて。
昼食の部。
ラメル君の新作は照り焼きチキン。焼き加減は極上。醤油と砂糖の配分も絶妙。我慢出来ずに昼の部からワインを空けてしまいました。
昼のデザートは酒精を飛ばした梅酒ゼリー。
それを食べ終わったラメル君が立って挨拶。
「レイル様と皆様にお祝いされとても幸せです。恐らくこの様な位の高い方々の恩恵に預かれる一般平民は僕と姉メリリーだけでしょう。
秘匿を守るのは当然。これからも料理の腕を磨いて参ります。最近ではレイル様やプレマーレ様に国外地方の外食店へ連れて行って貰い日々勉強中です。
特にルーナ両国の料理は何れも素晴らしく。塩加減や甘さが絶妙でとても感銘を受けました。
自分の店ならどうしよう。どんな物を出そう。場所や席数は等々頭の中がグチャグチャで。来年はご相談しながらその辺を解きほぐそうと思います。
それが整うのが何時に成るのか。整えられるのか全く見えては居りませんが。今後も引き続きロロシュ邸本棟とこちらの半専従として精進を重ねて参る所存です」
ラメル君の一礼後に皆で拍手。
顔を上げたラメル君は。
「因みに…。こちらの専属の道を選ぶとしたらレイル様はお許し下さるのでしょうか」
「好きにすれば良いぞ。ラメルの自由じゃ。今は転移で遊びに来れるしの。寧ろ外に出店すれば長蛇の列じゃて。
ここで腰を据えるも良し。将来の子が巣立った後で他の場所に独自の店を構えるのも良かろう。
妾が飽きねばそれで良い。その要素は見付からぬがな」
「有り難う御座います。スターレン様とフィーネ様もその道を候補に入れても宜しいでしょうか」
「全然良いよ。休日以外毎日極上の料理が味わえるなら従業者希望が殺到しちゃうよ」
「私たちも自炊止めて通っちゃう。2つ位仕込みに使っても自分たちが使える余裕は充分有るし。新作料理とかの考案も一緒に出来れば最高。その時点で負けてそう…」
「悲しくなるから止めよ。競う物じゃなく俺たちのは趣味だから」
「そ、そうね。何にしても大歓迎よ」
「有り難う御座います。益々楽しみで頭が混乱して来ました。
後スターレン様。こちらの国での平民の婚姻手続きはどうの様にすれば」
「私もお聞きしたいです」とメリリーも目がキラキラ。
「あぁそれね。無宗教の平民なら商業ギルドで書類申請するか。王城外南北の兵舎で直申請すればいいよ。どの道管理する城への申請でお終い」
「そうでしたか。意外に」
「簡単でしたね」
それぞれのお相手同士で喜び合っていた。
シュルツがレイルに。
「レイル様。この様子だと新宿舎のお部屋で良いのでは」
「じゃの。相談会も不要に成りそうじゃ」
「了解です。お部屋を何時でも紹介出来るように整えて置きます」
「頼むぞよ。妾たちも内覧に同行する」
午後は酔い覚ましを兼ね。フィーネと従者2人を誘いギリングスへのお礼参りと年末挨拶に向かった。
通行証のお礼がメイン。復興状況の確認など。
特に変な奴も現われず順調。来年春には北部港を再開するらしい。
親密化の進んだマルシュワとサインジョと釣り談義のお茶会をしたりと平和そのもの。
今度一緒に釣りしましょうとお墓参りをして帰宅。の前にレンブラントのローレライを突撃訪問。
ハープの出所はやはりキリータルニア。東王都の闇市卸品の中から発掘されたとか。
「気になるならもっと調べましょうか?」
「いやいいよ。貧民街解放の時に地下も覗いて少し気になっただけ。まだ何が繋がってるとかそう言う話じゃない」
「そうですか。所でスターレン殿…」
「ペリーニャなら返さないよ。本人の強い意志だし。俺は一生離さないと決めた。その話されると思って今日は連れて来てない」
「返せだなんて言えません。言う資格も無いので。只単に一目お会い出来ればなと」
他の2人も大きく頷いた。
「解ったよ。来年のどっかで連れて来る。キリーの事後確認にも行くし。その序でに」
「本人が拒否しなければですよ?」
「それは当然。でも楽しみにお待ちします」
エスカルとコロロアも喜び。
「新茶か良い茶葉を仕入れないと」
「最近はこの大陸も平和ですし。暇なんです」
「ボルトイエガルって入れるように成ったりしてない?」
「そう言えば宗教の壁は緩和されましたね。行商の通行税も他国と同等に成ったとか。国境の出入はある程度。全面解除とは行きません。一気に内部の山神教が広がって女神教も水竜教も出遅れ。まあ無理に布教する物ではないので王都に小さな教会でもと考え中です」
「ふーん…」
緩和止まり…。急には変わらないのか。
「何か…。したんでしょうね」
「何かはね。偵察飛ばして少し王都を舐めただけさ」
「味見で国を変えてしまうとは…」
「怖い人だ。貴方は本当に」
「西以外の統一王にでも成るのですか?」
「冗談だろ。そんな面倒な事はしない。害敵が居ないか見回ってるだけだよ」
「統一王妃なんて御免です。最近下りた子も居るのに」
また今度と市場で米類その他を購入して帰宅。
夕食の部の新作料理は鱈の身と白子を酒蒸しにして皮と白子の表面を少し炙った物。味付けは焼き天然塩を振るのみと言うシンプルさを極めた極上の逸品。
鱈の捌き方から誰もが唸り。俺とフィーネは。
「お見逸れしました」
「御節料理を覗くのはどうぞご勘弁を」
「それはとても残念です。でもまだまだ。米酒の使い方と種類が選定し切れていないので改良の余地は有ります」
「まだ高みを目指すと…」
「既に恐ろしい領域に…」
メリリーは半泣き。
「どうしよサイネル。私ラメルに弟子入りしないと」
「そこまでは。僕はメリーの家庭的な料理が好きだ。気持ちが昂ぶる料理よりも安心を。ラメル君の料理は偶に頂くからこそ最上なんだと思う」
「有り難う…。嬉しい」
ラブラブ要素に変換。サイネルも恐るべし。
今期は禁漁で来春シーズンの鰻を酒蒸し焼きにしてみようと盛り上がった。
待ち切れなかったらギリングスへ釣りに行こうと決意。
多分行く。キリータルニア案件の前後に。
シュルツのお眠の時間でお開き。
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翌朝やはり俺はベッドに張り付けで4人が無理矢理添寝。寝返りが打てない生活に戻った。
5人での初風呂。
正妻からダリアに直球。
「私たちとは嫌だった?」
「全然嫌ではなかったですが…。私は休息を、とお願いした記憶が。天国を維持されると呼吸を整える暇が無く」
「ごめん。どうしても仲良く成りたくて。今夜は少しペース下げてみるね」
「控えます」
「控えましょう」
「お願いします…。お手柔らかに」
朝食終わりにお出掛け服に着替えてリビングへ。
嫁3人とペッツは各方面へ食材の買い出し。東大陸で蕎麦粉の購入だとか。
ダリアと2人切りのリビング。
「急に2人切りだと静かだな」
「ですね。急に家族が増えたのが夢のようで。スターレン様と二人切りに成れるのも」
「今日は最後以外何も決めてない。その最後もダリアが嫌なら変える」
キッパリと。
「…そこまでハッキリ言われて外されては困ります。今は体力の方が追い付いてないだけで。ご心配無く」
「良かった。とは言え自由に出入り出来るのは国内。スタフィー号でクルージング。マッハリア王都から南部。
ルーナ両国。時差の少ないサンタギーナ王都周辺。ペカトーレ首都港方面。
技工士の杖は預かってるから南極で迷路作って最初から遊ぶとか。最後のは遊びでは無く本気です」
誤解の無いように。
ダリアは頭を抱えて。
「悩みます…。でも迷路は結局別行動と変わらないので嫌です。ルーナリオンの温泉地は行きたいです。シュルツさんを除いてファフ様に先を越されているので私も。
秘湯はフィーネ様や上位を差し置くと怒られます故それは抜きで」
何処まで情報共有してんのさ。
固有の呼び名以外略全部です。そこは諦めて貰って。
まあ隠すと喧嘩に繋がるからなぁ。
はい。複数婚と仲間の平和の為に。
「了解。お昼は同じ国の別の町で。着替えは持った?」
「バッチリです!」
ダリアもかなり弾けて来た。
北1番に到着。ゆっくり足湯で疲れていない足を癒し。
その綺麗な御御足を揉み解し。
「こ、困ります。人目が」
「脹ら脛位普通だって」
「もぅ…。好きにして下さい」
お言葉に甘えてしっかり膝裏まで揉み解し。
手を繋いで町中散策。夕方のオヤツ用の温泉饅頭をちゃっかり購入。
昼まで大露天風呂を2人切りで肩を寄せ合い堪能。
そこでも彼女の肩を揉み解し。反撃に出た彼女に背中から肩を揉まれた。
「私を試しているのですか!」
「お、怒らなくても…。ちょっと痛くない?」
「痛いようにしているのです!握力は怠けていても落ちません」
「ごめんて。調子に乗りました」
「そんなに前を大きくして置いて!」
「イデデデッ。ごめん!済みませんでした」
暫くの後に許され昼食へ。選んだのは南2番の餃子店。
店前で躊躇うダリア。
「ここは…。今回態々?」
「シュルツとファフ以外で来て皆が気に入った店。シュルツには手作り餃子をプレゼント。明日ファフを連れて行くと差を付けられてしまうのは誰?」
「入りましょう。問答無用で」
勢い良く入店。着席してメニュー確認。
通常メニューに加え。何と!
「年末年始限定…」
「精力盛り盛り…餃子」
滋養芋と果物を食べさせ育てた豚の挽肉。限定種の韮と大蒜。年の瀬自然薯に凝縮タラの芽に特別高麗人参の実とエキスを盛り盛り配合。
なんてこった!?
お土産の購入を!行かなくてはいけなく成ります!
「すみませーん。この限定品の持ち帰りって可能ですか」
「出来ますよー。二十人前を冷凍済でーす」
「良し全部買おう。臭い消しも添えて。明日も来るから同じ分量追加で!」
「畏まりー」
有り難う!
「ス、スターレン様…。今も、食べるのですか?」
「当然だ。2人切りの時間は少ない。この貴重な時間を大切にしたいんだ」
「お言葉は嬉しいのに意味合いが複雑過ぎて」
「踏み出そう。一緒に食べれば怖くない!」
「はい!」
通常の2種と限定を1皿ずつ。と生ビールを発注。
それが届けられる前に。
「お土産を展開するのは明日の夜だ。でないと明日が潰れちゃう」
「だと思います」
「それを理解しているなら覚悟は決まった?」
「たった今決めました。これ以上ファフ様に遅れを取る訳には参りません」
序列ってそんな大事なんだ…。
大事です。例外が2人も居ては。
成程。
全品同時に届き。ビールで乾杯しつつ限定品を。
「お、意外に臭く無い」
「品の良いお味ですね」
後でどうなるか全く解りませんが。
恒例の食べさせ合いを心行くまで。
「真面目な話。旅が終わっても事務棟は残すけどずっと専任って考えてる?俺が押し付けた仕事じゃなくて。もっと別の夢が有るなら聞かせて」
「そうですね…。押し付けられたとは微塵も。スターレン様のお仕事の一部ですから誇りを以て。
内務の仕事は六区の解放に目処が付き次第区切ります。その頃にはスターレン様の旅も終わり。自分にも実りが有るかもですし。
それも落ち着いた頃に王都外。ハイネやマッサラなどに孤児院を開いてみたいなと」
「孤児院か」
「水竜教の寺院には長くお世話に成りましたし。そのご恩返しに成れば。タイラントは平和に向かっていても世界にはまだまだ。手広くするよりも要点を絞って」
「うんいいね。学舎の近くとか。併設すると…」
「大混乱ですから止めましょう」
「はい」
お土産をしっかり受け取り南極拠点へ移動。
空の冷凍庫にIN。ほろ酔いが抜けるまで水分補給。
後の流れはご想像にお任せ。
夜の方も当然。竜血剤を飲んだかの如く燃え上がった。
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早朝。未だ夢から帰らぬ美女4人に毛布をそっと掛け。
サッとシャワー。濃い目の珈琲を飲みながらの朝食作り。
御節と年末年始用の食材は全て事務棟冷蔵庫内。故に自宅庫内は何でも使って良し。
お米を炊いている間に庫内を眺め添える物を考案。
今朝はファフも招くので人型は6人分+α。ペッツ分も含めて10人前有れば良し。
丁度鮭の切り身が10切れ。バターは使わずリゼルオイルでムニエルソテーに決定。
厚揚げと長葱と椎茸の味噌汁。じゃこ出汁巻き。
出汁巻きに添える黒酢大根下ろし。キャベツとほうれん草の煮浸し。大粒紫蘇梅干し。欲しい人には納豆。
デザートは豆乳仕立ての芋羊羹!おーけー完璧だ。
終盤間際に4人が寝間着姿で下りて来た。
「遅かったぁ~」
「寝坊しましたからね」
「限定餃子恐るべし…」
「私は昼夜連続でしたので。もう何がなんだか」
「もう直ぐ出来るから。お風呂にササッと」
「はーい…」
伸びをしながら風呂場へ向かう4人の後に。
「クワン。そろそろファフ呼んで」
「クワッ」
ちょっぴりおめかししたファフと自宅全員が着席。
に加えやはり来ました。
「レイルとプレマーレの分も並べたから手洗って着席」
「気が利くのぉ」
「流石です。来るのがバレバレでしたね」
食後にタイラント時間18時過ぎの秘密のパーティー緊急開催を宣言。アローマにもメールでお知らせ。
各員好きな食材やお弁当や酒持参を指示して一旦解散。
嫁4人がキッチンで相談する中。
リビングテーブル席で佇む自分と緊張するファフ。
「途中で襲ったりしないから落ち着いて。お昼以降は略決まってるけど何処行きたい?」
「襲って頂いて一向に構いませんが…」
キッチンのフィーネを見ながら。
「秘湯は駄目でしょうかフィーネ様」
「えー。あのレイルにも我慢して貰ってるのにぃ。順番的に私からだよ。それは悲し過ぎる」
「やはり駄目でしたか…。ではサンタギーナのシャインジーネの散策を。時間も計り易いですし」
「おけ。身支度…は俺か。着替えてお出掛けしよう」
「お待ちします」
シュルツと周り分の限定餃子5人前の回収をフィーネに依頼して飛んだサンタギーナ。
デートの定番。展望台で寄り添い語らう午前。
「俺の為にって自惚れだけど。来た事を後悔は」
「微塵も。ソプラン殿の話を聞いて確信を得ました。
初めて食べた筈の芋羊羹。なのにとても懐かしく切なく胸が痛みました。
もう一度貴方と会いたい。だから破邪剣をロディに渡して架け橋を作った。動機は不純でも主が神格化され居ても立っても居られず。逃したくないと気が付けば神域の扉をノックしていました」
「嬉しい。感謝しか無い。俺もあの時胸がドキドキして。
フィーネとロイドが居なければ何もかも捨てて走ってたと思う。君の手を掴みたい。行き成り抱き着いたらどうなるのかなとか真剣に考えてた」
風に流れる長い髪を抑え笑ってくれた。
その髪をシュシュで結い。
「余り先の話をしても辛くなるけど。人間化出来そう?」
「解りませんね。主と共に生きるも良し。主単体で天寿を全うされるなら私も。主にその能力が備われば恩恵を。
貴方と人間に戻れた妻たちの最期を看取るのも悪くない選択です。
きっとレイルさんも酷く悲しむでしょう。その時隣に居ても良いのかなと考えています」
「そっか…。カタリデって耳塞げる?」
「…塞げない。寝る事は出来ても」
「直ぐ寝られる?」
「まあ数分後なら。…何話す気?」
「異世界日本の答え。フィーネより先に死んだら困るからファフに託したいなと。ロイドには念話を切って貰う」
「止め為さい!まんま死亡フラグじゃない。貴方は使命を果たすの。そうしないと私も誰も人間に戻れない。前向きな貴方は何処へ行ったの?」
「僕も今ではないと思います。僕は寝ていても耳には届いてしまうので」
「怒られちゃった」
ファフにも抱き締められ。
「後ろ向きではいけません。その伝言は私に取っても辛すぎる。今は聞きたくない。天寿を全うするその前にお願いします!」
「ごめん皆。そこまで深くは…。ロイドもごめん」
もう少しで殴りに行く所でしたよ。
すんません。
「気分を戻そう。ヨボヨボ爺さんに成った俺を見に来た以外で何か独自で遣ってみたい事は有りますか?」
「複雑な質問の投げ方ですね…。与えられた役割そのままにダリアさんの補佐。孤児院ならばその副管理。又はシュルツさんの秘書官。独自でなら…お花屋さんを開いてみたいです」
「ほぉほぉ花屋かぁ。薔薇好きな君らしい。美しい物には棘が有るって良く聞く話。なのに君には全く棘が無い。
こんな幸運が有って良い物か。俺はなんて幸せ者なんだ!はさて置き」
「フフッ。何時か棘が生えるかも知れませんよ」
「怖いな。変な質問だけど蒼い薔薇って存在したの?この世界でも異世界日本でも薄紫が限界だった記憶でさ」
「私の必殺技名ですね。それは強い焦がれ。元居た世界にも存在しませんでした。所謂夢の憧憬。なので花屋の前に開発するのも一興かと」
「成程面白そう。そう言う道なら有りやね。南極拠点に薔薇科種集めて交配とか」
「とても良い案です」
彼女の手を取り。
「時は有限。町中散策へと参りましょう」
「何処へでも。ずっとお側に」
嬉しい言葉に心も躍る。今直ぐ南極へ飛びたい気持ちを抑え散策を。
港の発着場を見物したり市場や商店で南国フルーツを購入したり摘まんだりと楽しい昼前。
昼以降は予定通りの流れ。2人切りでの初めてを存分に味わい尽くし迎える夜。
-------------
時を忘れ。例の薬も投入し。最後に残った食材の菜園トマトを塩振り皆で食べる。多分3日後の朝方。
「皆様。気が付けばもう27日。今年も後4日。これ以上の延長は厳しく。シュルツからも御節作りやケーキの考案を始めなくて良いのですか?との苦情メール」
「それはとても拙いです。年始に間に合わない処かシュルツに嫌われてしまいます」
「早期の参加となってしまったダリアさん。失礼ながら率直なお気持ちをお聞かせ下さい」
「最高の一時でした。お母さんには死んでも言えない秘密を沢山作ってしまいましたが後悔はして居りません。
一度ソプランさんをお受けしてからのスターレン様に戻れた時の愛と快楽の尊さは暫くこの身を離れてくれないと思います。後は昇って行くばかりで。二巡目以降は自我が飛び記憶が薄いですがお二人と皆さんから頂けた幸福感は今もしっかりと心と身体に残っています。次回も宜しくお願い致します。
遠征への誘惑に負けそうですが抑え込み。本分である未来視と心身の鍛錬を重ねて参ります。
ファフ様と共に置き忘れないで下さいスターレン様」
率直を超えた独自理論に本人も聞いてる皆も真っ赤。
「スケジュールを強引に捻じ曲げてでも忘れません。
レイルさんとプレマーレは来月は未定ですが堪えられそうですか?」
「堪えるのじゃ。二人に捨てられたら発狂する事間違い無しじゃて」
「右に同じく。我慢が足りなければ素直にお伝えします」
「はい。ではお掃除と片付けとお洗濯。乾かしてる間に仕上げのシャワーかお風呂。
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「何も無し。撤収作業開始!」
月に2度目の開催は遣り過ぎだったかも。しかしダリアと同じく後悔は無し!
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