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第267話 南東大陸後半突入までの準備期間・4

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レイルはラメル君とのデートを満喫。
ロイドは新人教育。
ソプランとアローマはシュルツとヤンの打ち合わせに参加してその後にギレム工房へ。
フィーネはクワンとグーニャを連れて買い物や図書館。

そして残った俺とプレマーレの初のペアでスフィンスラー18層へ突入。

「神にも破れぬ氷結界かぁ」
「壁が高いです。枯渇する勢いで施工しますのでエッチな事は程々に。
私は構いませんがフィーネ様に殺されますよ?」

「したくてもするか。お姫様抱っこで持ち帰る。カタリデもピーカー君も居るやないの」
「残念。そう言えば記憶を戻して頂いたお礼がまだでした。歯は磨いて来たのでキスでもしましょうか。フィーネ様が何処まで堪えられるかの確認も兼ねて」

「お礼と目的がごちゃごちゃやん。嬉しいけど今はお気持ちだけで結構です。
も少しフィーネの許容値が広がったら下さい」
「面白い方ですね貴方は。本に」
「ねー」
「ですね」

2つの彫像を離し置き。手前で土下座姿勢の両手着き。
その後方で見守る。

「参ります」
「お願いします」

プレマーレの氷起動と同時に彫像が輝き始めた。
「やはり抵抗しますか。幾度かの邂逅では戦わず。今ここで尋常に勝負!!」
気迫に満ちた顔。神との直接対決。

全身を竜鱗化。黒々とした瘴気を放ち聖属性の光との鬩ぎ合い。

苦悶に歪むプレマーレの全身。鋭い歯を剥き出し。歯茎から紫の出血。目尻からも出血して顎まで伝い落ちた。

地面を割り砕く握撃。プレマーレの周囲が歪んだ。
「私の寿命に時間操作は無駄。多寡が加護付き道具。
魔族を嘗めるなこの雌豚がぁぁぁ!!!」

徐々に黒い瘴気が白光を砕き。蝕み。押し潰した。
そして完成した分厚い永久氷の棺。

大量に吐血しその場に崩れ倒れた。
「意識は有るか!」
「はぁ…はぁ…なんと…か」
人間の姿に戻り。
「このままでは、帰れません。虹玉を…お願いします」
「直ぐに出す」

大型のバスタブに湯を張り装備状態のまま中に座らせた。

自分の手で顔や髪を拭い血の汚れを落とす彼女に。
「何か欲しい物は」
「酒精入りの甘酒を熱燗で」
「了解」

コテージを出し甘酒作りをしつつコテージ内の風呂にも湯を張った。

………

バスローブ姿のプレマーレが対面に座り。コップ一杯の水を飲み干してから甘酒に口を付けた。
「美味しいです。生き返ります」
「あれ程抵抗するとはなぁ」
「上級加護付きが2個だし。当たり前よ」
「聖女様の傍から離して正解でしたね」
今度もアローマが大正解を引いた。

神懸かってる。何時からか?
何が切っ掛けだったのかは解らないが。

「ここで仮眠してく?自宅で休む?」
「ここで仮眠を少し。…の前に。先程お断りしたキスを前払いで頂けませんか?」
「ほへ?」
なして?
「上位種は唾液交換で魔力を受け取れたりもするので頂きたいなと。私を助けると思って」
「…レイルとかでは?」
「異性間の方が効果が高く」
「一方的に俺が得しちゃうんだけど?」
「ですから帰る前に」
ええんかな。

「カタリデ様とピーカー君は内密に」
「しゃーないわねぇ」
「仕方無いですねぇ」

「で、では。お言葉に甘えまして。嫁に気付かれない平常心を維持しつつ。気持ちを込めますので。もう暫く甘酒をご堪能下さい」
「はい」

何故か俺が立ち上がって深呼吸。
レイルとした時のような気持ち作りを心懸け。

バスローブ姿の美女を抱き締め長時間のキスをした。
甘酒の優しい甘さが切なく胸に染み渡って美味!?

一旦コテージを14層に移動。2階の寝室にプレマーレを寝かせて1階リビングへと降りた。

俺も甘酒を飲み。
「危なかったぁ。もう少しで押し倒すとこだった」
「長時間は危険よ。2人共殺されるわ。今はまだ」
「怖い怖い」

「ギターでも弾いて気長に待ちましょう」
「そうしなさい」
「賛成です」

カタリデを外に。ピーカーをテーブル上に置き。
足を組んで馬弦ギターを膝上に構えた。

コード表を眺めながらポロポロと弾く。

「作曲でもしようかな。歌は多分下手だし」
「良い考えね。無心に成れるし。貴方の場合は時間を掛けられる趣味少ないし」
「建築は僕が奪ってしまって…。御免為さいです」

「いいよいいよ俺は遊び程度で。フィーネも言ってたけど趣味は競い合うもんじゃない。楽しめるかどうかさ。
カタリデはフィーネの好きな曲調知ってる?時々鼻歌で90年代POPS歌うのは知ってるんだけど」
「どうかしら。アーガイア時代ではその世界の曲歌ってたし。日本時代は仲良くなくて只のクラスメイト。カラオケにも一緒に行ったことないの」
「そかぁ。定番のバラードかなって前に。真面に作れるようになってから考えよ」
「そうね。ピーカー君には解らなくてごめん」
「いえいえ。楽しいお歌なら何でも」

譜線を書いて適当に時間を潰した。




--------------

アローマから聞いてはいたが新人3人の飲み込みは早い。これなら直ぐに成長する。と思いきやそうでもなく。

筆だろうがフォークだろうが力任せに折ろうとする。
「どうして何でも折ろうとするの?」

「上手く動かせないとイライラして」
「つい力任せに」
「折りたい訳ではなく。力の入れ方が解らないんです」

「まだ人間の身体に馴染んでないのですね。…では教養や戦闘訓練以前に。空きの畑を借用して農作業をしてみましょう。
農耕具で土を耕すのは万国共通。土や砂利に手肌で触れ身体の感覚を掴むのです」
「おぉ」
「身体を動かしながら感覚を」
「馴染みも早そうですね」

自宅のプリタを誘い裏庭納屋南の菜園へ足を運んだ。
「私の担当でのネタにしようと思ってたのですが」
私もそう思ってました。
「先取り失礼を」
「いえいえ。初期教育が早く済んで有り難いです」

土休めの固い畑を使い。農耕具の使い方から動かし方。
腰の入れ方。何も植えずに土を起こしたり盛り土にしたり均して戻して。

素手で掘ったり叩いたり。大きめの石を退けたりと。
積んで崩して小さな水路を組立たりもした。

休憩に入り新人3人は腰を押えて伸びをした。
「あーこの感覚。懐かしい」
「前世で味わって以来ですね」
「土や水に触れるのは生命の原点なのですかね。狩猟よりもずっと前から」

「良い感じですね」
「「「はい」」」
顔が生き生きと輝いて。

「ロイド様。手を洗ってお昼にして。午後から土でお団子作ったり別の花壇で向日葵の種を植えませんか?
別メニューが無ければ」
「それで行きましょう。進捗は明日のフィーネに伝えるだけなので大丈夫です。掴み始めた感覚を忘れない内に」
「了解でっす」




--------------

何やらスタンさんから嫌ーーーな感じを受け取ったが我慢我慢。これも夫婦円満と将来を見据えての苦行。

ソウルブリッジを外さずに無駄な嫉妬心を制御する為に。

図書館3階で雑学を取り入れながら。

ブリッジを任意で解除出来る事は伝えていない。
怒られる嫌われる。そこから逃げる嘘吐きな私。
解ってる。きっと怒りはしない。でも怖い。

肩のクワンティが耳元で囁く。
「お散歩してもいいですか?おトイレに」
「あ、ごめん。ここ窓開かないね。廊下出るわ」

膝のグーニャを小脇に抱え昇降階段廊下奥の非常用窓を開けた。
「帰りは自宅でいいから」
「クワッ」

少し自分も風に当っていると後ろから声を掛けられた。
「風も大分湿り気を帯びて来ましたね」
図書館管理人のブエテナさんだった。メルのお母さん。
貴族階級で言えば最上位。でもメルと一緒で気さくで優しい人。
「もう直ぐ雨期ですからね。好きな季節なんですが…」
「何かお悩みの様子。来館されてからずっと心ここに在らずのような」
「図星です…」

「奥の私室でお茶でも如何ですか?立場上口は堅いですわよ」
一瞬躊躇ったが。
「お言葉に甘えまして」
人生の先輩からご教授を伺おうと。

貴族夫人のブエテナさんが直々に淹れてくれた薫り高い紅茶で心が幾分和らいだ。

「何時も娘と仲良くして頂いて」
「いえいえ。本来の身分では有り得ないのですが。こちらこそ友達に成ってくれて有り難いです」
「その娘にも言えないようなお悩みを」
「はい実は…。夫婦間の悩みで。今のメルはとても大事な時期。世間話なら兎も角要らぬ心配を掛けたくなくて」

「まあそれはそれは。気を遣って頂いて申し訳無いです」
「夫に…。大きな嘘と裏切りを」
「あらあら。ソプラン殿と不倫を為された?」
「ブフォッ」
めっちゃ口からお茶が溢れた。

自分のハンカチと借りた布巾で口と胸元を拭う。
「違います。それではないです」
「大変。とんだ早とちり。最後まで伺いましょう」
急に毒気が抜かれてしまった。
「今ので楽に成れました。有り難う御座います。
私の生まれた里に伝わる秘術で。伴侶の心を強制的に繋いで今の感情が離れていても解る術が有るんです」
「まあ便利」

「最初はお試し感覚で黙って使い。本当は任意で自由に外れるのに…。生涯外せないと大嘘を吐き。夫を…。
誰にも渡したくなくてスタンの自由を奪ったんです。
水竜教に改信させたのもこの私。真実を告げて嫌われるのが怖くて先延ばしにして居たらもう2年も過ぎて」
「成程ぉ。それで?」
「それで?」

「それの何が悪いと?」
「え…。何も悪くないと?」
「全然余裕で大丈夫じゃないですか。秘術を有効活用して好きな殿方を独占して何が悪いのかしら」
「あ、いやでも」
「秘術を得た女の特権。浮気防止術ですよ。告白する必要は何処にも御座いません。
今は自由にさせていますが私も若い時分は縛るタイプの重たい女でした。そんな便利な術を持っていたら迷わず即座に使っていたでしょう」
ブエテナさん気が合う!
「ですよね!そうですよね」

「こう考えましょう。もしも。もしも万が一にも」
「はい」
「ちょっと浮気しても良いかな。食べてみたいな。と言う殿方が現われたなら」
「…」
「術を解いてご夫婦揃って浮気をしてみましょう」
「え!!??」
「ニャ!?」
隣に置いたグーニャも驚いた。

「冗談です」
「良かったぁ。ビックリしたぁ」
「ニャ~」

「それ位の気構えで良いのです。サンタギーナのサダハ王のように男児が欲しくて妃を複数設ける方も少なからず居ります。
水竜教信者の出産は何故か昔から女児率が高い。その抑制の為の一夫一妻推奨と言っても過言ではなく」
「そう…だったんですか」
「将来フィーネ様が女児しか産めず。体力的にも厳しくなった時。スターレン様が男児を望むのであれば第二妃や妾を受け入れてみる。それも一つの選択です。
今の私がそうであるように。ですが結局夫は第二妃を設けず愛人と浮気はすれども子供は作りませんでした。
一時期距離を置いても最後は私の元へと戻りましたよ」
「はぁ…」
経験値が違い過ぎる。

「信じるのは困難でも。真面目に。紳士に向き合える殿方ならば必ず戻って来ます。多少の浮気が何ですか?」
「…」
「第二夫人が何ですか?」
「う…」
「第一夫人は貴女です。正妻は貴女です。世界の誰もが知る唯一の存在。それがフィーネ様です。
異常な嫉妬心は思い込み。自分自身が浮気をしてしまう恐れの裏返し。優柔不断な心の表れです」
「嫉妬心が…自分の本心の投影…」
その発想は無かった。

「夫が奪われるのが怖いのでは無く。浮気されるのが嫌なのでも無く。自分の心が離れてしまうのが怖いのです。
嫉妬心と言う形で防いでいるのは何れなのか。問い正すのは相手ではなく。自分の弱い心の方なのではないかと貴女からは感じます」
「私の、弱い心…」

「時間に余裕が有る時に。時々術を外してみれば自ずと答えは出るのではないでしょうか」
「はい…」

「と!説教臭く垂れましたが」
「え?」
まだ何か?
「倦怠期が来たら…。夫の男根に触れるのが嫌で嫌で」
「え!?」
「その時外して離れてみるのも一興ですよ。ここだけの話倦怠期の時は私もはっちゃけました。偶には摘まみ食いも悪く有りません」
「あ…え?」

「物凄く燃えますし。何より気持ちがい」
「大丈夫です!それ以上は!」
「そうですか。偶には気分転換も大切だと」
「止まってブエテナさん!」
ウフフと笑い。
「揶揄って済みません。お心は楽に成りましたか?」
「はい、とっても。別の意味で鼓動が鎮まりませんが」

「何時でもここに居ります。ご来館の際にはまた遊びに入らして下さいな」
「多分来ます。何度も。相談に乗って下さい」
「私で宜しければ」

本を置いた席に戻って続きを読んだが頭に入らず。
自宅に帰るとスタンがリビングで寛いでいた。
「プレマーレは彫像の反撃喰らって重傷だから寝室で休ませてる。そっちお出掛け終わり?」
「う、うん。今日はもういいかな。明日の教育準備有るし。反撃有ったんだ。後でお見舞いする。お昼は?」
「ごめん適当にサンドイッチ食べちゃった。迷宮で休憩がてら甘酒飲んだし。鍋にまだ有るけど要る?」
「そか。甘酒は後で貰おうかな。ブエテナさんに頂いた紅茶溢しちゃったからお風呂入るねー」
「いってら~」

お風呂にグーニャと逃げ込み1人風呂。

ペッツは除き1人で入るの久し振りだなぁ…。
グーニャと湯船に浸かり天井を見上げた。
「ねえグーニャ」
「ハイニャ?」
「嫉妬心の正体解っちゃった」
「ずっと前からだニャ」
「…そうね。スタンと出会った時から。
道に迷っていたのは私。スタンが開いてくれた道を後ろに引っ付いて歩いてただけ。自分で決めずにスタンに任せ切りで。言い訳ばかりで私は何もしてない。何でもしてくれる彼を取られたくなかった。
信じてなかったのは私自身。
嫉妬心は…単なる甘えだったのね」
「海でも見に行きますかニャ?」
「大丈夫。今行くと今度は水竜様に甘えてしまうからトレーニング室で瞑想するわ。自分と向き合う」
「我輩はリビングでお昼寝ニャ~」

愛猫を撫でながら長いお風呂を楽しんだ。




--------------

ブエテナ。人間にしては中々見所の有る女じゃな。

マッサラの自宅でラメルと二人切り。
朝から食事以外はベッドで交わり肉欲に溺れた。

今日は一段と激しく。ラメルは必死だった。
昼過ぎの交わりの後でラメルの髪を撫でてキスをした。
「今日はどうしたの?」
「僕を…捨てるのですか?邪魔になって。レイル様の代わりを用意してまで。僕はレイル様さえ」
言葉を口吻で遮り。
「そんな事気にしてたのね。嫌なら選ばなければいいわ」
「スターレン様ですか?ソプラン様ですか?」

「面白いけど今じゃないわ。男はラメルだけで充分。
考え方を変えなさい」
「考え方?」
「私の種族は一人しか子供を産めない。人間とは出来難いとかじゃなくて。
私はもう大昔に産んでしまった。だから誰と交わろうと実りは無いの。
私にあの子たちとの子供を見せて。そうすれば私はずっとここに居る。飽きる事が無い」
「レイル様の為に、赤ん坊を…」
「そう。三人も美女が相手で何が不満なのよ。贅沢。
私を飽きさせないように頑張りなさい」
「…頑張ります!レイル様が帰る場所を僕が作ります」
宣言してまた腰を振り始めた。
「あっ…ちょ、ちょっと…」
「明日の朝まで寝かせませんよ」
「も、もう…。あぁっ」

かなり前からラメルには負けっ放し。
料理が上手いと床も上手い?身体の相性が良いだけ?
上達が早かったのは確か。

快楽に溺れてるのは妾の方。
絶頂を迎えても止めてくれない。
「ま、待って」
「待てません。満足してくれるまで」
私の弱い所ばかりを攻めて来る。
「し、して…あっ!してるからぁ、んんっ」
「嘘です!」
嘘じゃないのに…。

これからもっと楽しくなりそう。
明日も休ませようかしら。




--------------

フィーネはロイドの進捗を聞き新人教育へ。
他メンバーは自由休暇。アローマは午前のみ本棟側のお仕事に参加。ソプランも午前に城の様子見。

ラメル君の休暇延長の連絡をフィーネが受け料理長へ伝えた。
不死の王を満足させられるラメル君は凄いと称賛。

何がとは言わない。

ロイドはリビングで買ったばかりの編み物セットに挑戦。
俺は同じく休暇を取ったシュルツと防音室で曲作り、みたいな遊び弾き。観客は暇人プレマーレ。

そして昼前に飛び込んだ急報。
リビングでお昼は何にしようかと相談中の自宅組の前にプリタとファーナが届けてくれた。
「潜水艇の改修作業の!」
「完了通知が届きました!」

「おぉ遂に」
「来ましたね」
ラフドッグに行くのを控えていたシュルツはルンルン。

1人で城下へ出掛けたソプランを除いて4人とペッツで手紙を囲んだ。

「外装は完了。浸水テストは潜ってからじゃないと解らないからお早めにか。昼食べたら行ける人で行こう。
ロイドと俺はマストで。
プレマーレはレイルに明後日でいいか聞いて」
「はい。……取込中だから明後日で良いそうです」
「おっけ。クワンは町中のソプランに今日か明後日か聞いて来て」
「クワッ」
「プリタとファーナはアローマとフィーネに明後日組に加えると伝えて」
「「はい」」

「ではロイドさんお昼をサクッと作りましょう」
「白身魚の甘酢あん掛けを。やはり原点から」

ロイドとキッチンに入るのも珍しい。
未来の義理親子の共同作業。(父上ごめん)

昼食は食べに来たがアローマと同じ明後日で良いと言うソプランを交えちょい豪華な昼食。

自宅担当の4人も集まり。カーネギはミランダの体調に合わせ安定期中に間に合えばと辞退。
僅かでも気圧変化有るしな。

食後休憩を経ての出発間際。
ロロシュ氏とカメノス氏が護衛を連れて参加。
「工夫さんたちを乗せるんで定員が」
「外から眺めるだけだ」
「沈む所を。ん?違う潜水する所を」
不穏なフレーズを訂正してくれた。

「動くかな」
「私たちなら出来ます。遣るんです」
ロイドに背中を押されてラフドッグへ出発。

工房前には既に財団関係者や婆ちゃんや海軍上層部がお待ち兼ね。

スタフィー号は隣ドックへ移され出港準備済み。

「婆ちゃんもう乗る?」
「まだいいよ。外で心の準備しないと心臓止まっちまう」

シュルツとプレマーレと俺たち4人が乗り込み。後から工夫が続き確認持ち場に配置。

操縦席に座り後ろのゴーギャン氏とピレリに。
「警報が1箇所でも鳴ったら止まります。浸水し出したら船毎転移でドック内に帰港。船員に慌てず何かに掴まれと指示を」
「はい」
「僕は三層へ伝えます」

シュルツは後部座席でプレマーレの膝上に抱えられた。
「シュルツは僅かでも異常を感じたらプレマーレと地上の何処かに転移。上空待機のクワンが必ず見付けてくれる」
「はい!」
「グーニャはシュルツの監視。絶対に目を離すな」
「ニャ!」

「俺の転移具は空中で使える物に入替えた。船と船内の事は俺に任せろ。じゃあ行くぜ相棒」
「承知」

念話状態をフルオープン。
2人で読み込みシュミレートを重ねた操縦書を前列シートの真ん中サイドシートに据え。起動項目を開いた。

左手上部の船内配管を開き。
「船内総員。船を起動する」

緊張する1層目の人員。下も同様だろう。

同じ姿勢。同じ魔力量を操縦桿に掛け。同じ力でゆっくりと前に倒した。

滑り出しは順調。最初の桟橋を越えた所でロイドと呼吸が乱れ停止した。

焦らずゆっくり。ゆっくり過ぎる?
いいえ。今のは私が倒し過ぎました。修正します。

船が再稼働。警報は鳴らない。

深度計とソナー確認。入り江を抜けて水深100を越えた所で停船。その後に注水開始。
停船後に注水了解。

目的ポイントに到着。レバーを正位置に戻し停船。
警報は無し。

注水起動。
起動了解。

右手の注水スイッチを同時押し。
船底3層までが海面下へ。警報は無し。

この状態で200前進。
200前進了解。

出港と同じ速度で前進。そして停船。警報は無し。

船内配管に呼び掛け。
「今から50潜水。停船し様子見。何も無ければ70。
そこから前進と後退を繰り返す」

潜水開始。深度計50きっかり潜水停止。
50潜水停止了解。

右手2つ目の潜水開始スイッチを同時押し。

ゆっくりと船が潜水。前面部窓の景色が海面。
海中へと潜行。警報は無し。

「深度20越え。船入口まで冠水」

30,40,50m。窓の外では魚が泳ぎ。上方の海面からは光が差し込み神秘的に煌めいた。

右手3つ目の潜水停止スイッチを同時押し。
停船。警報無し。

「深度50到達停船。各層の時計3分後に潜行再開」

息を呑む3分間。これ程長く感じた事は無い。
3分経過。警報無し。

「3分経過。潜行を再開する」

潜水開始。深度計70きっかり潜水停止。
70潜水停止了解。

60,70m到達停船。警報は無し。
「深度70m到達。海流異常無し。大型魚群無し。
前進100。後退200。以降前後200を繰り返す」

操縦桿を同期。レバーを前。正位置。後ろへ順番に。
後ろへ倒した時初めて赤警報が船内に鳴り響いた。

「注水圧異常警報。各層各員。漏れた箇所を報告」
少し間が空き。
「三層前段左舷。側壁内の注水配管の繋ぎ目。
漏れ量は軽微!」
「良し。転移で帰港する。総員固定具に掴まれ」

ピレリから。
「三層完了!」
ゴーギャン氏。
「二層完了!」
後ろ通路の船員。
「一層完了!」
「転移する。排水音が海上到達合図。聴感後に三層内から上層へ退避。落ち着いて耳を澄ませ」

景色は一瞬で元のドック内へ。
操作盤中央の排水スイッチを同時押し。帰港完了。

「初期ドック内へ帰港完了。排水中。お疲れさん!」
後方と下から歓声が聞こえた。

ロイドと右手左手のハイタッチ。
「お疲れ」
「まだまだ先は長そうで」

「遣り甲斐有るってもんよ。シュルツは無事か」
「何とも有りません!」
「この状態の船奪っても意味無いもんな」
「ですよね…。ゆっくり成人を待ちます。首が千切れる位に長く」

船内は工夫に任せ船外へ。
ゴーギャン氏らと工房前に出て集まる関係者に到達深度と状況を立ち話で説明。

「明後日の昼過ぎに再確認に来ます。補修と補強が間に合えば潜行テストを再開。
慌てずにと工夫長に伝えて下さい」
「承知しました」

クワンが上空から飛来。
「クワッ」
「一旦王都に帰ります。2時間後に少し買い物とシュルツを迎え来ます。残る方はここに集合で」

帰宅を選んだカメノス組と一緒に自宅前。
「いい船でしょ。俺が作った訳じゃないですが」
「羨ましい!家の財団も船を買おうか…」
「増産は遙か先ですよ」
「待つとも。生きてる間に間に合えば」
「明日の午前にエルラダさんの具合を見に行きます」
「うむ。試薬の投与は始まったが今の所目も脈拍も変化は無い」
「解りました」
急に変化したら秘薬ですよと。

カメノス組を見送り侍女衆4人とリビングで打ち合わせ。
「明後日新人教育の担当は俺だったけど。午後からは4人に任せる。以降迷宮内の新人特訓以外のスケジュールに変更が加わる。シュルツを交えて再調整。
4人も船に乗りたいだろうけどシュルツも成人まで乗れなくなったから一緒に我慢して」
「「「「はい!」」」」

「今日は一旦解散。各自の業務に戻って」
「ふぁい!忙しく成りますね」
「やっと我々侍女衆の出番が」
プリタとファーナが裏庭へ。他は本棟側。

「お茶でも淹れるかね」
プレマーレが珍しく。
「偶には私が茶淹れを」
「珍し。お任せします」

それぞれの趣味に勤しむ午後。




--------------

スフィンスラー14層にコテージ設置。

その14層で艶々レイルが新人3人に暴行。もとい地獄の特訓を開始。

4人以外で18層の異変確認をした後。
コテージでの休憩と料理以外は13層で各自の訓練。

傷だらけの専用金属案山子を見詰め。
「動かないと物足りなくなって来たな」
背中のカタリデ。
「シュピナードに操って貰う?」
「うーん…」
層内を振り返るとシュピナードはソプランとアローマの剣術指南をしていた。
「邪魔するのはなぁ」
「そうね。でもフィーネとプレマーレは素手で金塊サンドバッグにしてるし。自分で操る?」
「うーん。カタリデ抜けば自立駆動が可能なんだけど。今抜いちゃうとソプランたちの基礎が乱れるからね。なんか良い方法は無い物か…」
「出来るの前提?やった事有るの?」
「武器や盾500個までは宙に浮かせて動かせたよ?」
「へ、へぇ…。あんた異常よ!!」
「複雑ではない単純統一操作だって。標的一箇所の。魔力消費が増えるだけで難しくはない」
「そう言う事か。案山子と一緒に10本位個別操作の練習してみれば?余裕が出たら増やして」
「ええかも!まずは順番に検証だな」
「そうそう。結果予測を先に立てるから駄目なのよ」
「仰る通り」

結果を求めず地道な努力をしないとアドリブに弱くなる。それでは鍛錬の意味が無い。やってる振りだ。

案山子に大盾を持たせ操縦開始。単純行動で自分の剣戟動作に合わせ盾を移動させた。鏡合わせ動作。

服のフィッティングのような。

長短槍を10本浮かせて案山子に差し向けた。案山子を起点に円周等配置。上から見ると時計針。分度器?みたいに見える。

案山子の真上に飛び槍を順に突いた。
1周又1周積み重ね。刺突速度を上昇。豪快な火花と等音が響いた。

槍を2本追加。6本ずつに分け上下二段に配置。
下段を時計回り。上段を反時計回りに同時操作。
案山子と合わせ3種の同時操作が可能だと判明。
「意外に出来る。上から見ると打楽器。案山子からするとオルゴール。いいな」
「積み重ねよ。手順飛ばしは良くない」
「為に成りま…」
層内のメンバー全員がこちらを向いてジト目。

俺は天井を見上げ。
「おっかしいなぁ。天井に何か有るのかなぁ」
「あんたよ!」

風マイクをON。
「そんなに暇なら最大500個武装を全員に投げる!
さあ早くしろ。各自防具確認。アローマ反射盾。ソプラン背中合わせで背面守備」
「ちょ!待て待て!」ソプランの悲鳴。
「敵は待ってくれないぞ!」

500個の武装を上空展開。シュピナードには案山子君を突撃プレゼント。両者の衝突から始まる層内乱戦模様。

両腕を広げ高らかに笑う。
「さあ足掻け。従者2人以外、手加減は一切しない!
ハーハッハッハッ!!」
「あんたは魔王かっ!!」

マイクを仕舞って武装を拡散。精一杯のランダム操作。
再生力が弱いクワンは棍棒で追跡。他有翼たちには槍と斧を翼に集中。地上班には多段円周ジグザグ刺突。

ソプランたちには二段棍棒で緩めにポコポコ。
上空美女とグーニャは全力棍棒で尻叩きの刑。
「いったーい。嫁には手加減してよー」
「愛すればこそ!差別はしない!!」

約15分後…。

力比べを続けるシュピナードと案山子君以外全員地面に転がった。

「アーハッハッハッ。どうだ参ったか!!
俺の鍛錬出来とらんやないかぁぁ」
「本末転倒ね」

自分に対してどう操作すれば…。全部自分の外周に並べて暫く考察してみたが答えは見付からなかった。

柄や棒や面を階段状に整えその上を歩いたり降りたり飛び移ったりしながら考察。

復帰した皆の反撃は。フィーネの無軌道円月輪から突然始まった。
「落ちろぉぉ」
「あらま」

ロイドの投擲斧と骨槍。
シュピナードの黄金槍。
プレマーレの追跡カットランス。
クワンとグーニャの蔦鞭。
ダメスドーテの子虎ビット多数。
ナーディに騎乗したアローマの飛び苦内。
何時買った!?
ソプランの欠月弓。卑怯だぞ!
ソラリマ装備のクワンの一点突破。
キレたアローマの超硬弾スリング。
何故か下層から飛んで来たレイルの超速斬撃。

煉獄剣と霊廟盾で受け流し。
「殺す気か!!」
「死ねい!」
レイルの目が本気。
ボナーヘルトと憤怒二刀流で黒炎まで纏わせ。

「お尻の恨み。どうして私だけ治りが遅いのよぉ!」
「それは愛情たっぷり込めたから!」
「込めるとこ違う!!」

数分後。血塗れで地上で皆に土下座。
「調子に乗って、すんませんした…」
「言わんこっちゃない」

「解れば良いのよ解れば」
「反省為さい。明日シートに座れなくなったらどうするのですか」
ロイドもお尻を撫でてプンプン。
「それ。俺も同じなんですが…。てかなんでレイルまで来てるんだよ。下は?」
「体力が尽きて寝ておる。竜血剤を飲ませよ。起きたら昼を食うて負荷布を巻かせる」
「そっすか…。出血多いから俺も飲んで今日は休みます」
ゴロンキュ~。




--------------

フィーネさんから新人教育の引き継ぎ。
「読みは半分ってとこ。書きはまだまだ苦手みたいで幼児並のフニャフニャ文字しか書けない。殆ど見てるだけで軽く手を添える位よ。
プリタの農業教育の方が一番効果有るみたい」
「見てるだけかぁ…。ちょっと変えてみようかな。一般的な弦楽器テーブルに置いたまま弾かせて遊ばせるとか」
「良いですねぇ。手指の感覚とか力の入れ方がネックだから丁度良さげ。里を出た頃の私を見てるよう」
「あー近いかも。んじゃ行って来ます」
「行ってらっしゃい」

教育部屋に楽器と替え用の弦を持ち込み。音遊びと文字の書き取りを交互に実施。

本人たちも成長を実感出来て満足そう。
プリタたちに引き継ぎ午前を終了。


昼をゆっくり食べてラフドッグへ。今回は引率無し。
俺とロイドと行ってないメンバーメインで。

ラメル&メリリーも同行したがまだお外で見学。

修繕が間に合い試運転へ出発。
フィーネもまだ中で見学。
「本番は海上にスタフィー号を停泊させて追い掛ける」
「上の留守番は?」
「クワンティーとグーニャかな」
「クワッ!」
「ニャ!」

「そか。ではロイドさん。今日も張り切って」
「参りましょう」

「ワクワクするのぉ」
「姐さんも緊張する事有るんだな」
「深くまで潜るのは初めてじゃからの」
「俺もっす。アローマ手握るか」
「はい。…心中するみたいですが」

「後ろで不吉な事言わんといて。特にアローマは」
「済みません。閉口致します」

船内配管を開き。
「アルカナ号を起動する。巡航速度は前回と同程度。
潜行速度も同様。今回の目標深度は220。
前回の到達深度より30刻み。その都度3分待機。
前後航行は3往復。次の深度へと言う流れ。
最初に深海500域まで到達後に運用試験を開始する」

順調に試験は進み。待機中に船員も交代で操舵室からの景色を味わい目に焼き付け。

本日の目標深度に到達し前後航行でも警報は無し。

「本日予定の行程は終了。船内各員目視で気になった点は無いか」
暫しの待機後。工夫長のマンドが。
「工長のマンドです。三層後段制御室内。深度二百を越えてから船内圧力計の針に震えが出ています。現在も」

「計器故障なら黄色か…。
自然と見るか異常かの判断が難しい。
現在の針の振れを数人で記憶。記憶後に50m潜行。
振れ幅に変化が有るかの確認を」

「記憶完了。目印も外に貼付。どうぞ」
「良し。追加潜行を開始する」

深度270mに到達。

「深度270到達待機中。針は」
「……振れ幅変化無し」

「圧力調整器の不良かも知れない。警報レベル赤。
調整器周辺を触診。何処かに熱を持っていないか調査を頼む」
「直ぐに」

待ちは約2分。
「マンドです。調整器下側。床座面との隙間に熱源。
手元温度計で摂氏五十度とやや高温」
「うーん…。調整器の許容温度は70度。外で既に50。
この深度で50度越えは嬉しくない。
更に追加で50m潜行。針の振れと温度上昇の確認を」
「三層了解」
「他箇所の目視も怠るな。特に客室小窓近辺。
では追加潜行を開始する」

深度320mに到達。

「深度320到達待機中。針と温度は」
「……針に変化無し。温度は二度上昇。
安定はしています」

「非常に厳しい温度。今日の潜行深度はここまでに。
これから右舷航行で螺旋浮上をする。
針と温度推移。各所の確認を頼む」

螺旋ループで海上まで。排水スイッチを同時押し。

「現在海上で排水中。懸念点や温度推移は帰港してから検証しよう。総員肩の力を抜け」

のんびり帰港。ドックを左から入って元の定位置着。
「帰港完了。今日もお疲れさん!」
安堵の声と歓声が同時に上がった。

「俺たち遅くなりそう。レイルはクワン連れて買い物でもどうぞ。見たいなら見てもいいけど制御室狭いからさ」
「遠目で眺めて適当に帰るかの」
「任せます」
「クワッ」
レイルの肩にポン。


マンドたちと3層待機所と制御室を往復。
解説書や図解を囲みながら討論。長時間に及び女性陣を先に帰らせた。

懸念事項は制御室以外は無し。その点は安心。
圧力調整器の温度上昇の原因は。背面冷却導風板の目詰まりだと判明。針の震えもそれに起因。

「重傷じゃなくて良かった。完成は近そう。
冷却周りを見直して貰うのと水冷式の銅板接地面も合わせて見直して下さい。また1日置いて…いや2日置いて午後に確認に来ます。
明日は警備以外は全員お休み。詰め込み過ぎで皆さんお疲れの様子。目の下隈が出来てますよ」
「これは、お恥ずかしい。のめり込んでしまって」
「その内誰か倒れますって。今夜は嫁さん放ってパーッと中打ち上げやりましょう!」
「おぉいいですね是非。でも宜しいのですか?ロディ様を呼ばれなくて」
「いいのいいの。どうせ自宅で女子会してるから」
「女は数人固めときゃ幸せなんだよ。偶には離れてパーッとな。暫くラフドッグで飲んでねえし」
ソプランもノリノリ。

ロイドに念話で伝え。関係者を集め財団宿舎の食堂を借り料理や酒を運んで日の出まで飲んで騒いだ。

主に船や海や旅の話で馬鹿騒ぎ。




--------------

自宅にはカルとアローマとペッツだけ。
旦那2人が午前様と聞き。女子会で深酒。

カルは隣の寝室。酔いと最近の心の乱れも手伝い。
アローマと添い寝。最近彼女と深いキスを重ねるように成っていたのも有り。

油断から。遂に…最後までしてしまった。

裸で抱き合っている所をカルに見付かり。
「何をしているのですか!」
と平手ではなく拳で殴られた。
「ごめん。つい…」
「も、申し訳有りません!最初のキスは私から求め」
「アローマは黙って為さい!」
「「…」」

「フィーネ。何ですか貴女は。外交次官で勇者隊の副隊長の貴女が。性別問わず。在ろう事か身内に手を出した」
「うん…」

「初めてですか?」
「ここまでは今日が初めて」

カルが胸を撫でて深呼吸。
「まだ良かった。今日は夫が外に出ている間の過ちだったと流しましょう。フィーネ。私とは出来るのですか」
「出来ない」
「立場の弱いアローマを抱けても私とは無理。それは完全に浮気では有りませんか」
「!?」

「貴女が最も忌み嫌い。スターレンに死んでも許さないと秘術を盾に強要して御している浮気と同じです」
「…」
「同性同士だから良い。子供は出来ないから良いと言う話ではなく歴とした本気の浮気。許容の広い彼とソプランなら許すでしょうが私は許しません」
「…御免為さい」

「性に奔放なレイルさんとは」
「した事無い。キス以外」

「夫は駄目で自分は許されるとでも?」
「思ってない。自分がスタンに酷い事をしていると自覚は有る」

大きな溜息を吐き。
「3人でお風呂に入って飲み直しましょう。何が貴女をそこまで追い込んでいるのかを包み隠さず話し為さい。
それすら嫌だと言うならば私はスターレンと寝ます。婚姻前の自由な身ですから」
「そんなの!」
「話してくれますね。全ての悩みを。貴女の親友だと思っていたのは私の勘違いですか?」
「話します。2人に聞いて欲しい。本来ならフウにも」

「解りました。嘘だと思える所が有ればスターレンを自由にして貰います。私は貴女が居るから身を引いた。
ローレン様が居なければ。リリーナ様がご健在であったならスターレンの第2を考えていました。この意味は」
「解る。真面目で一途なアローマ以外皆スタンが好きだって事位は誰でも解るよ。本気で異性として。
レイルは火遊びかな」
「でしょうね。芯から自由な方なので。さあお風呂でサッパリしましょう。話はそれから」
「うん」

外さなくても答えは出た。
ブエテナさんの指摘通りに。浮気をしたのはこの私。




--------------

2人の艶声が隣から僅かに聞こえ。突入してみると火遊びを通り過ぎていた。

まさかフィーネの方が先に浮気するとは思わず。
グーニャはリビング。クワンティは屋根裏に居て人間の性には無関心なのを良い事に。

深夜の風呂上がり。滋養酒のロックを嗜み。
「でも相手がアローマで良かった。これがソプランなら隊は解散でしたよ副隊長」
「う…ごめん。ホントに」
「これも女神が仕組んだ罠。と無理矢理こじつけて何処かへ投げ捨てましょう。
フィーネの話の前に。アローマは何故フィーネとキスを」
「…最近。私の思考能力が急上昇したのは。帝国で毒治療を施して頂いた時の。私の発情を抑える為にフィーネ様から頂いたキスが切っ掛けだったからです」
「あぁそれで」
「あそこからだったんだ…。成程ね」

「もしキスで水竜様の御加護が授かったのなら。また次も何かと欲が出てしまい…。先日のご褒美の時にもお願いしました。
そして今夜も二人切りに成れたのを利用して」
「言い難い話では有りますが女性陣には相談しても良かったのでは」
「猛省を。もっと早く打ち明けていれば」

「そんな健気なアローマをつい押し倒してしまったと」
「…そだね。私最低」
「キス如きでスターレンを殴れなく成りましたよ」
「解ってます」
キスは許容値が広がった。私もしてみようかな…。

「ではフィーネ。話し為さい」
観念したのか覚悟を決めた顔で。
「私とスタンを繋いだ生まれ里の秘術。ソウルブリッジは実は何時でも外せるの。任意で…自由に」
「「なっ!」」
私とアローマのグラスが割れた。

「お、面白い事を言ってくれますね…」
「今更言われましても…」

「御免!ホントに御免。特に2人には怒られると思ってずっと誰にも言えなくて…」
「怒りますよ。現に今」
「グラスを替えて入れ直しましょう」
タオルでテーブルを拭き上げた。

「レイルとプレマーレとグーニャは既に知ってる。
アッテンハイムの秘術とは言っても闇寄りの術だから直ぐにバレた」
「特にレイルさんは専門家ですからね」
「成程…。それでレイル様とのキスは不問だった。私だってしたかったのに。婚姻前なら」
「もうしましょう。キスは解禁です。アローマはソプランの目を盗んで居ない場所で」
「そ、そんな…」

「これに関しては有り難く。夫に見付かったらフィーネ様が夫とのキスを」
「ちょっと待って。それは行き過ぎよ」
「罰です。甘んじて心を込めなさい」
「…考える。見付からないようにお願い。最大限」

「キスの件は横に置き。確かにモテモテスターレンを一度許すと周囲が群がる。その面は否めません。
女なら独占したい。その気持ちも解ります。
都合の良い秘術を持っていたから使ったのも。
彼に外せないと嘘を吐いてしまったのも。
貴女の嫉妬心は独占欲の裏返しでしたか」
「そう…。私の甘え。誰にも取られたくなくて。私の為に何でもしてくれるスタンを利用し続けてた」

「自覚が有るなら善しとします。秘密は秘密としてそのままに」
「今は納得行くお答えを求めます。先程の逢瀬は綺麗に吹き飛びました」

「ご、ごめん…。術を使った経緯とは別に。
2人とクワンティとの旅が進み。邪神教の存在が見え始めた頃。生贄の候補者が私を含め全てスタンの関係者で若い女性ばかりだったから。
当時は繋がってなかった帝国の姫様も含め。
だから私は生贄云々よりスタンとの子供を作らせようとしていると考えた」

「一理有りますね。当時なら」
「半分納得です」

「子供が出来難い私が相手なら。独占していれば二次被害は生まれない。それが当時の言い訳。
最近女神の狙いが候補者の乗っ取りだと解り。私の秘術の意味が薄れ。今では約款も切れて。いよいよ何の意味も無くなった」
「それで悩んでいたの」
「外すか外すまいかを」

「スタンならきっと許してくれる。
寧ろとっくに気付いてる。神域から帰った後で。彼の目の前で繋ぎ直したから」
「あぁ…あの時確かに」
「スターレン様ならば有り得ます」

「生涯一度って言いながらの二度目だもん。間違い無く気付いてる。でも彼は私を責めたりしない。
有っても無くても何も変わらないと言ってくれた。
私は後ろめたい。卑怯でガサツで重たい女。腕力と見た目ばかりの空っぽ。
カルみたいに深い愛情で包めるでもなく。
アローマみたいな繊細で優しい母性も無い。
私よりも先に出会っていたらきっと結ばれていたペリーニャにも負ける。
私と出会わずタイラントに来ていたら。シュルツや当時のダリアにも。
外したくない。外すのが怖い。悩んでいたらもう2年半」
「私が素性を明かしたのはこちらに降りてからですからね」
「打ち明ける機会を逸した。先程の私と同じように」

「3日前。図書館で暇潰しをしていたら館長のブエテナさんにお茶に誘われたの。3階奥の私室に。
経験豊富で気さくな方でメルのお母さん。悩んでる風に見えたから何でも話してと言われ秘術の嘘を相談した。

そんな便利な術なら誰でも使う。自分も持ってたら使ってたと慰められて。告白する必要は無い。
浮気をされたら自分もしてみればいい。私の嫉妬心は相手よりも自分が浮気するのが怖い。その恐怖の裏返しだと指摘してくれて。
胸の痞えがスッと消え。術を外さずに嫉妬心を制御出来るんじゃないかって希望が見えた。

気が楽に成って。今日は船にも乗れて。旦那抜きで楽しく女子会して…。
心許せるアローマに、甘えちゃってた。

気付いたらカルに殴られ。やっぱり先に浮気をしたのは自分だった。さっきは本気で…。
もうスタンに何も言えないよね」
そう言ってテーブルに突っ伏した。
涙も出ない程にガックリと。

「良い事も重なり過ぎると悪い方向へ転じる物なのですね」
「先程のは不意の事故、と言う事で」
「ありがと」
酒臭いタオルに顔を埋めながら。

「フィーネ」
「はい」
顔を起こした彼女に。
「ペリーニャの件は」
「…本人の意思を尊重し。他に誰の希望も無ければ受け入れます。でも何となく。2月の載冠式典でペリーニャはスタンじゃない誰かを見て乙女の目をしていたような気がするの。妄想では無い直感」
「相手を選ぶのは彼女ですからフィーネに気を遣って!
もうお相手候補を決めている、のかも知れませんね!」
「ですね!」
「…申し訳無いです」

「私とアローマはもう無理ですが。スターレンには一度浮気をする権利が有ります」
「辛い…。それは普通に。遊びであっても彼には余裕で養える財力が有るから歯止めが利かないよ。彼がじゃなく周囲が放って置かない」
「うーん…」
「難しいですね」

「黙って置きますか。外には」
「レイル様とプレマーレ様にはもう聞かれていますし」
「尚辛い!」
『妾が食べてやろう。だそうだ』
「超辛い!でも外よりはマシ?でも辛い!」
『プレマーレも希望しているそうだが?』
「勇者隊が終わりそう…」
「終わりませんよ?」
「私とロイド様以外ならば」
フィーネが泣き出した。

「苛めるのは止めますか」
「そうですね。マッサラのお二人は存じませんが」
『遠征が楽しみじゃのぉ。そうですねぇ。だと』
「今日はもう…寝ます…うっううっ」

「私が添い寝します。そして術を外しなさい」
「楽に成れます。きっと。私も隣のベッドで見守ります」
「やってみる…。手を握っててね」
「良いでしょう。逃がしません。フィーネの転移具は没収します」
「今夜は私がお預かりを」
「そ、そこまでしなくても…」

「やはり逃げる気でしたか」
「スターレン様と夫に何とご報告すれば…」
『臆病者め。と二人から』
「解ったわよ!渡せばいいんでしょ渡せば!」

「親友に向かって逆ギレ」
「私への愛は嘘だったと。深く、傷付きました」
「はいこれ…。済みませんでした…」
渋々渡してくれた。

お酒の失敗は怖い物です。
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