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第265話 南東大陸後半突入までの準備期間・2

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謎に包まれたサンタギーナの新迷宮。

シュルツの大切なネックレスをお借りして出発。

城内に直接転移。
サダハんに行って来るぜと挨拶…。
するとレイルに見蕩れ。
「そちらの淑女様をご紹介してくれないか!」
「毎度毎度あんた4人も嫁さん居て何言ってんだ!イプシス様引っ叩いて」
「国の恥晒し!」
サダハんの両頰にクッキリ紅葉。

冒険者ギルド支部にも伺い情報収集。
「冒険者隊でどの辺まで進んだ?」
支部長さんの見解。
「三層入口付近までですね。カラードに良く似て。一層はグール。二層はスケルトン。三層でレイスが見えたので撤退しました。広さも略同等。
人工迷宮のカラードの方が模倣したような。その様な印象です。私も参戦したので」
ベルさんが参考にしたのかな。
「成程。良く解りました。踏破後に城へ誰か転移させるんでギルドの連絡員も城で待機させて」
「承知しました」

案内の兵士隊を連れ中間まで飛び。そこから徒歩移動。

林の隙間を縫う獣道を抜けた場所。
身の丈程の防護柵で囲まれた真ん中の平面開口部。

外から双眼鏡で覗いた。
フィーネのはロイドにレンタル中。

「1…2…。8層か。カラードよりは深い。まあ魔物はウジャウジャ。8層目が2つの部屋に分岐。天然らしい構造してるね」
「私の腕輪ライト最高にして殲滅するのは…」
「妾を怒らせたいのかフィーネや」
「だよねぇ。言ってみただけ。じゃあレイルの腕輪も照明お願い。私のは弱めに」
「うむ」

反省は無いのか。やっぱり嘗めてるんじゃないか。
そう思われても仕方が無いが俺たちは真面目。

不死の王を前に死霊がどう反応するのか興味しか無い。

3m程の縦穴を飛び降りレイルを先頭に横穴を通る。若干狭い入口を抜けるとカラード1層目のような広い空間。

生への渇望と憎しみしか意思を持たぬグールたち。レイルに怯える事無く果敢に挑んで来た。勇気ではないな。

拳一つで突き進むレイル女王。
の後ろをプレマーレ。
の後ろの俺たちは洞窟観光と金角で魔石拾い。
中腰が辛い。

元の造形を失ったちょっと強い腐乱死体の階層主が出現して異臭を放った。
「く、臭いの」
女王が臭さに引いた。と同時に拳を止め憤怒サーベルで歩き出した。

臭い攻撃で攻めるとは中々の策士。

2層目のスケルトン集団は単なる骨。装備をぶら下げた人型も居れば。何かの動物の骨が踊り狂う。
臭い攻撃が消えレイルさんも上機嫌で粉砕。
天然だけあって宝箱は無い上にドロップは低位魔石と使えない装備品。
魔石だけ回収してその他は縁の横壁に並べた。後で昇霊した時に一括処理。

多種のパーツを集めた無形スケルトンが階層主。
ここまでなら通常装備でゴリ押せる。物理最強。

カラードのように1層目から混合ではなく層別で単一種。
これも天然迷宮の特徴の1つ。

3層目からは後ろの俺たちも武器を抜いた。
プレマーレ以外は聖属性付き。俺は煉獄剣。
クワンはソラリマ装備で優雅に。アローマは反射盾も。

様々な造形の亡霊は個々の意思を持ち。レイルを見た瞬間に壁や地面に隠れた。
「出て来ぬか!!」
一斉に首を出すレイスたち涙目。
「冥府に堕ちよ!」
女王の絶対命令。貴女が言う台詞では…。
自ら消え行く亡者。小さな魔石と汚れた布を残して。

「これって昇霊要らないんじゃ?」
「層内には留まっておる。造形を失っただけじゃ」
「そっか」

布はその場でフィーネがクリア掛けて回収。

主はデッドリーが1体。震えながら戦い果てた。
武器要らんがな。

入ってから2時間も経ってないがトイレ休憩とティータイム。冷やかな自然洞窟の中で温かい紅茶を。

プレマーレがレイルの方を揉み揉み。
「下手糞じゃのぉ」
「全く凝ってません故(泣)」
「ソプランと代われ」
そのソプランがお茶を溢した。
「え!?俺?いいんすか姐さん」
「良い。妾が指名したのじゃ」
「お、おぅ。ここで気合いが必要になるとは思わんかった」
袖を捲り手を消毒。軽く髪結い。
レイルがお気に入りのボディクリームを塗り首背から肩甲骨から肩先まで優しく強く丁寧に揉み解した。

「気持ちええのぉ」
「プレマーレ嬢の力が強すぎなんじゃね?首筋の筋肉とか普通に固いぞ」
「マジですか!?握力が強すぎた…」
愕然の新事実。
「姐さんアローマより胸有るからな。肩も凝るだろ。
あぁだから俺なのか」
「じゃの」

「何故か私が嫌味言われてる気がするんですけど!」
フィーネが被害妄想。
「事実じゃろ」
「くぅ~悔しいぃ」
「フィーネ。大きさじゃな」
俺がビンタを喰らった。
「シュルツにも負けるんだから言わないで!」
気にしてたんだ…。
「閉口します」

「こんなもんでいいか姐さん」
「うむ。大義であった」
普通のハンカチで仕上げ。自分の手も拭いた。
いいなぁソプラン。

逆側にもビンタを頂き。
「男の心を読むなって。不幸になるだけだぞ」
「知らない!浮気者!」
「そう言う問題じゃないんだって。大人になって下さい」
「ふんっ!」
「無関係なのに夫婦喧嘩してないで。フィーネ。ここは何処なの?」
「迷宮内でした…。御免為さい」
親友のカタリデ居てくれて良かった。


女王様もニッコリ。皆も気分を一新して降りた4層目。

オーナメティア 装飾品に紛れる悪魔
キルケアーツ 服飾品に紛れる悪魔
ランダルアーチェ 武装に紛れる悪魔

各々の物品に隠れる悪魔たちがレイルを見て死んだ振りを決め込んだ。

「整列!隠れとらんで姿を現わせ!」

それぞれが3箇所に分かれ整列。3体の個体へと変化して女王の前に正座。

代表なのか剣闘士姿のランダルが喋り出した。
「きゅ、吸血姫様がこの様な場所に何用で御座いましょう」
「暇潰しじゃ」
「ひ、暇潰しで我らは狩られるのですか」

「これも運命と諦めよ。迷宮主を倒したら強制的に天へ送る。嫌なのかえ」
「嫌…ではないですが。やっと上に人間が入り。
さあこれから仕事の時間だと喜んでいた所へ…吸血姫様のご来場。まだ何一つしていないのです。
責めて吸血姫様の配下に加わる、と言う選択肢は」
「うーむ。従順なのは嫌いではない。お前たちはそこから動けるのかえ」

「空っぽの何か。私なら武装一式。オーナならアクセサリーや宝石。キルケなら上質な着衣。等をご提供頂けるならそれを依代に自由移動は可能です」
「成程の。プレマーレ。フィアフォンゼルで手に入れた黄金装備をここへ出せ」
「ハッ!」

プレマーレ分の黄金騎士装備を寝かせた。
「おぉ~これは素晴らしい。運気上昇まで付与された夢の様な一式」
鎧が鎧を撫でる不思議な光景。
「オーナよ。宝石なら山程有る。好みを言え」
「ピンクサファイアが好きです!原石なら尚」
「気が合うのぉ。妾も好きな色じゃ。インテリアにしようか悩んでいた物を出そう」
大粒の原石を取出しオーナの前に置いた。
「感激です!こんな大きな石初めて見ました」

「キルケには何がええかのぉ」
シュルツに貰ったグレーブラウスとピンクシルクのキャミソを出して。
「どっちがええのじゃ」
「灰色のシャツで!闇属性なのが理想的。肌着ではちょっと私の自我が興奮で保てませぬ」
男寄りな思考性。

畳まれたブラウスをキルケの前に。
「直ちに移動せよ」
「「「ハッ!」」」
移動は一瞬。力を失った元の方が地面に転がった。

オーナが鎧の心臓部。キルケブラウスが鎧の中。
外郭を操るランダルが黄金の槍で槍術の殺陣。オマケkで付けたギレム工房の黄金剣で剣舞を披露。
鞘に納めてレイルの前に跪いた。
「新たな名を授けて下されば。統合進化が可能です。
永劫の忠誠を共に誓い」

「ふむ。考えるかの…」
チラッと俺を見た。
「主なんだからここは自分で決めないと」
「見ただけじゃて。金では面白くない。アウスレーゼに使わなんだ名を貰う」
「どうぞご自由に」
決めてたんじゃん。

「では。シュピナード、でどうじゃ」
「シュピナード…。性別や造形を問わぬ新しい響き。
胸に浸み。喜びと沸き上がる力。有り難く、御拝名に預かります」
「うむ」
レイルが承認した瞬間。鎧が輝き1つの個体に進化した。

見た目はリビングメイルの金上位版。詰り中身が空洞。
魔核はピンクサファイア。

「ダメスドーテ。騎乗させてやれ」
「あいあいさ~」
騎乗可能な大きさに拡大。その背にシュピナードが飛び乗った。
「ダメスドーテ殿。重く無いですかな」
「楽勝でやんす~」
層内をグルッと一周。手綱無しで余裕の身の熟し。

黒い大虎に黄金騎士。格好良す!

1人プレマーレが戦慄。
「わ、私に出て行けと…」
悲観するプレマーレの尻を撫で。
「お前には別の役目が有るじゃろ」
「よ、夜のお相手ですか」
パシンと一叩き。
「空を飛べるじゃろ。地上は二人に任せ。何を言うておるのじゃ!」
「申し訳有りませんでした!」
いや大抵の眷属は勘違いすると思うぞ。

元の依代を回収して次へ。


5層で現われた本物のリビングメイルの集団。
「もう要らぬわ!!」
女王の我が儘が炸裂。

新ダメス&シュピコンビで殲滅。
上質な防具が沢山落ちました。お胸のサイズが変更出来る女性用軽量鎧も多く。合成のベースに使い。余れば城に納めてもいいかな。

「順番て大事だよな」
「だよねぇ」


6層は頭部を小脇に抱えたデュラハン。
カラード後半で出なかった予想シリーズがここで連出。

ベルさんが参考にしたのは間違い無い。

ここも新コンビの一騎打ちで討伐。
コンビが圧倒して見応えは皆無。
黄金槍に貫かれ。踏み潰された頭部が可哀想になった。

「後でお迎え送るから」
「暫しの辛抱を」

プラチナ版の希望のサクレアをドロップ。
ロイドの天使の輪と合成してみる事で決定。


7層目。首が外れてない双頭のデュランザム。
迷宮主級の意地を見せ。新コンビと1時間に及ぶ長期戦となった。

騎乗では槍や剣が交差の火花を散らし。下では前足と蹄鉄の殴り合い。死霊騎馬の後ろ蹴りは相当強力で新コンビが何度か吹き飛ばされていた。

高く宙に浮いたのを見て2組に分裂。前後挟撃でデュランザムが優勢。

新コンビは騎乗を止め2手に別れて対処。
それを待っていたかのように結合。先にダメスを串刺し。
ダメス再生中に4本腕に手数を増やしシュピナを完封。

防戦一方のシュピナ。回復したダメスが背後から接近。
死霊馬の後ろ蹴りを読み切り回避。無数の子虎を排出。
デュランザムの視界を物理的に遮り高速周回。
止めは騎乗したシュピナの円周突きの連発で決した。

「強ぇ。これがカラード5層の相手だったのか」
「あの時対戦してたら結構ヤバかったね」
ソプランたちも頷いた。

レイルが倒れた馬と本体の前に立ち。
「見事であった。捨て置くには惜しいのぉ。
馬の賢さと持久力。分身と本体軽量化と増手…。
シュピナードに支配下合成。専用馬と成るなら連れて行ってやるぞ」
「「ほ、本当で御座いますか」」
「ヒヒーン」
「妾は嘘は言わぬ」

即座に膝を折り誓いを立てた。

合成化の儀式も一瞬で完了。
全身に影が差し輝く金色が抑えられ渋い感じに武装の増加と強度が増した。経験値も引き継いだ模様。
馬も武装が増え金色の装飾が入った。

「短い付き合いだった。ダメスドーテ殿」
「やんすねぇ。誰かを乗せる経験にはなったでやすよ」

俺とソプランは新装騎馬のシュピナードを見て歓喜。
「格好良い!素直に。俺も乗ってみたい」
「こんなの見た事ねえよ。これ新種だろ姐さん」
「じゃの。死霊系最強の騎馬騎士じゃ。良い模擬戦相手が増えたのぉ」
「重傷覚悟でやらなきゃ」
アローマは拒否。
「模擬戦は結構です。お馬には跨がってみたいですが」
馬は嘶きで答えた。…どっち?

「スターレン」レイルに呼ばれ。
「言いたい事は解るけど。今直ぐは過剰じゃない?
外れなくなったら嫌だし。類似品見付けるか。東魔境の野良黒馬狩ってからでも」
「そうするかえ。忘れるでないぞ」
「おけ」
忘れないようにメモ帳に記載。蹄鉄もう一組と。

7層の出口側でお昼休憩中。アローマとフィーネの特製サンドイッチを食べ終わり。

死霊馬には人参と種抜きブートの実。
無食の進化シュピナードにリサーチ。
「下の最下層2つになってるけど何が居るの?」
「…お話しても宜しいのでしょうか。レイルダール様」
「駄目じゃ。楽しみが減るじゃろ」
「チェッ」
教えて貰えなかった。

馬の頭を撫でていたアローマが。
「レイル様。お馬の名前はお決めにならないのですか?」
喜びの嘶き。今度は解った。
「おぉ忘れておったわ。シュピナード、何か有るかえ」
「難しいですね…。騎馬は一心同体故に」
「うーむ。気付いたアローマが決めよ」
「その積もりではなかったのですが。ご指名されたなら。
呼び易くシュピナードからナードを取り。ナルディかナーディでは如何でしょう」
「呼び掛けてみよ」

「ナルディ?」
無反応。
「ナーディ」
了承の嘶きで答えた。アローマの側頭に頬を擦り擦り。
「擽ったいですね。喜んでいる様子です。
レイル様の後で背に乗らせて頂いても良いですか?ナーディ」
ウンウン首を振った。

「俺も乗りたい」
無反応…。
「私も」
フィーネから顔を背けた。
「おいまさか。姐さんとアローマ以外…全員駄目?」
大きく頷いた。

「この違いは何だ」
「どうしてアローマだけなのかしら」
「謎だぜ…。そんでかなり悔しい」
「私にも解りませんな」
シュピナードも困惑。一心同体じゃないんかい!

クワンがナーディの頭に乗り。
「レイル様は主。シュピナードは盟友。アローマちゃんは名付け親で一目惚れ、みたいです」
「お恥ずかしい」
「「あぁ~」」
「好みの問題か」
「盟友…だったのか…」
主人はレイルの方でした。

見た目は灰色の毛並み。黒馬と同等の体躯。
言わなければ死霊と解らない生気。ナーディならお外でも走れる。

レイルとアローマの気持ち良さげな乗馬訓練でお昼休憩はお終い。裏山。




--------------

最下層の8層目手前側。

何とセクシー衣装に身を包んだ美女3人。
蝙蝠羽と細長い尻尾が特徴のサキュバスさんが。レイルの前に土下座した。

「精集鬼かえ」
「その様に。吸血姫様」
「ここで何を。と聞く迄も無いな」
「はい。お馬鹿な人間の客待ちを…。まんまです」
「ふぅ。詰まらんのぉ。幻惑術が使える程度で戦闘能力は低い。完全な人間の姿に擬態は出来るのかえ」
「それは問題無く。得意技です故。ロリから老婆まで。
まな板から西瓜まで。あらゆる要望を網羅出来ます」
凄い!

フィーネさんが隣で歯軋り。
「擬態だから。奥歯無くなる前にお止めなさい」
「あ、あら。何の事かしら」

「密偵には使えるかのぉ。じゃがそれも今は不要。
娼館を経営する積もりも無い。野放しにすれば雄を食い荒らす。使い道が無いの」
「そ、そんなご無体な…。まだ抱かれても抱いてもいないのに滅せよと」
「ん?雄にも成れるのかえ」
「一度だけなら。私たちを縛るこの奥の管理者を滅ぼして頂けるのなら。完全な人間に戻る事も可能です」
「ほぉ…。将来のメリーとラメルの番に出来るのか。
なら悪くないの」
やっさしぃ。ちゃんと将来の事を考えてるとは。

「人間社会に付いては?」
「大昔の文化の記憶しか持ち合わせが…」
「であろうな。教育と訓練を積むとして。
人間に戻りたいか。滅びて生まれ直したいか。どっちじゃ」
希有な場面に立ち会ってる気がする。

3人は相談タイム。

「手放す気が有るなら普通の一般人じゃ駄目なの?メリリーは解らんけどラメル君は今でもモテモテだし」
「妾の魅了にどっぷり掛かった者が並の男女に靡くと思うのか」
「あぁ…それは」
「強制的に解けば。ラメルは生涯独身。メリーはお主以外には見向きもしなくなるぞよ」
「困るな」
「困ります!」
嫁は激オコ。

「じゃから妾が梃子入れして残り香を付与した者を作らねばならん。格好の素材じゃ。鍛えれば並の冒険者よりも格段に強くも成る」
「なるほろ」
「納得。それしか無いわ」

相談の結果。
「私はクイネと申します。その名で今の容姿に近い女性に戻りたいと」
「私はラムネと申します。同じく女性に。前に叶わなかった子供を産んでみたいと」
「私はサイネ。サイネルと名乗り。男性冒険者として生きてみたいと思います。
吸血姫様のお目の届く範囲で」

「ふむ。志かと聞いた。三人共妾の商会の従業員として働いて貰う。勉学と共に鍛え上げる。サイネルは冒険者兼警備じゃな。
番は決めてあるから外での子作りは禁ずる。身内で交わるのも禁止じゃ。良いな」
「「「はい」」」
既に従順。

「変換中に妾の術を施す。妾が戻るまで勝手に変換を始めるでないぞ」
「「「はい」」」
「スターレンかソプランの使ってない一般服をサイネルに渡せ」
「はいよ。未使用の下着も付けよう」
「取り敢えず緩い紐パンでいいか」
2人で見繕って提出。




--------------

奥層に向かう最中。
「ラメル君行き成り2人も嫁さん貰うのかぁ。まあ無宗教なら何でも有りだけど」
「それ位せねば自然には解けぬ」
「ふむふむ…。フィーネさん一々反応すな」
「してないですぅ」
むくれてんじゃん。

奥の玉座に鎮座していたのはサピエル。
統括系の上位悪魔。

吊り目で顎しゃくれ。角が無ければ人間高身長男性。
何処で手に入れたのかタキシードを着熟して脚組。

「善くぞ来た低脳なに……」
俺たちを視界に捉えて停止硬直。
「きゅ、吸血姫様。聖剣に勇者。水巫女…?
どんな組み合わせっすかぁぁぁーーー」
絶叫しながら頭を抱えた。それが普通の反応だと思う。

「滅べ。どうせ自分で冥府に帰れなくなった口じゃろ」
「そうですけどぉ。一言目に滅べって…。責めて話聞いて貰えませんか」
「何じゃ」
「折角地上が開いたと思えば最初の到達者が貴女様方。
邪神教だか何だかの教祖の実験で。無理矢理引っ張り出されて使えないってここに封印されて。
やっと堕落した人間の瘴気を集められると思ったのに」
こいつもガンターネの被害者だった。

「瘴気を集めれば自分で帰れるんです。見逃して頂く訳には行かないもんですかね」
「行かぬ。因みに何人分じゃ」
「ざっと五百人分位っす」
「五百か…。昔の分は魔力に使ってしまったしのぉ」
顎に手を当て歩きながら考察。

「ふむ。クワンティ。妾を南東ボルトスタの南の空き地へ運べ。王族近辺の邪気を片っ端から抜いてみる」
「クワッ!直ちにぃ」

「うっわ鳩が喋った。この世界どうなってんの」
感想が素直で面白い。

2者が転移した後。
「上位悪魔なら多少強いんだよね。戦おっか」
カタリデに手を掛けた。
「希望を見せて殺すとか!あんたホントに勇者っすか!」
「冗談だよ。他にも同類居たりする?こっちの世界に」
「どうっすかねぇ。南東のアークロードは貴方に殺されましたし。それ以外は知らないっす。西の奴等が何か呼んだぽいのは感じました」
「どれ位前に?」
「五十年位前…だったかな。時間感覚鈍いですが」
前の対戦時か。

「強そう?」
「さあ。感覚的にはベルゼブブ様ぽかったかな」
「それわしやないかーーーい」
こんな所で真実判明。
「スタンさんも無理矢理だったのね。可哀想。でも少しだけ感謝。それが無かったら今も無いし。
複雑でごめんね」
「ま、まあ過ぎた事さ。忘れよう」

「勇者が?元ベルゼブブ様?またけったいな転生の仕方しますねぇ」
「好きで選んだんじゃない。結果オーライだったけども」
女神の入れ知恵かぁ。いい加減にして欲しい。

不毛な過去を振り返っていたらレイルたちが戻った。

「集まったぞ。国王のが特大じゃった。受け取れ」
速攻でサピエルの首を鷲掴み。
「ちょ!心の準備が」
「待っておったのじゃろ。たーんと喰らえ」
「ふごっ、ふお、ふぉぁぁぁ」
言葉に成らない絶叫。ドス黒い瘴気が胸や口から出たり入ったり。

それが収まると。
「おぉぉ。漲る。これで帰れます。
置き土産にこの椅子を。これは統率者の椅子。格上の指揮者が座れば自軍全部隊の士気が高まり統率がし易く成る優れ物。
では別の世界の何処で会いましょう。
序でにアークロードの残骸回収しますんで。そっちにも何かアイテム置いときまーす」
手を振りながら霧散した。

「悪魔なのにいい奴だったな」
「レイルと私たちが居たからよ。一般人が相手なら悪魔らしかったんじゃない?」
「そうかもね」

カタリデ落胆。
「結局こうなったかぁ。一度も戦わなかったし」

「シュピナード戦は面白かったじゃん」
「見応え有ったよな。俺らも長剣の練習するかアローマ」
「ですね。大型種相手が多く成りましたし」
ナーディの上のアローマも同意。
「アローマさん…。そろそろ降りて貰えますかな」
シュピナードの目が有ったら涙目。
「これは失礼を。乗っていると降りなくて良いとナーディから伝わって来まして」
「そ、そんな…」

「先に行くぞよ。男はここに残れ」
「解ってるよ」
「一人男に成るにな」

残された俺たちはサイネルはどっちの風呂に入るんだろうとしょーもない話をして待った。




--------------

すっかり人間らしくなった3人を交えて相談。

「おれ…おれ…。おいら?僕?まだしっくり来ませんねぇ。あ、来ねえなぁ。股間の物も」
男言葉に悩める金髪超美青年サイネル。身長は俺とソプランの中間辺り。イケメンが憎い。

「サイネルの言葉遣いは追々。身分証の発行も後。
3人を地上に連れてくと大混乱。さてどうしよう」
「ロロシュ邸なら誰か1人付き添わないとね」
「妾は儀式を見る」
「私も見たいです」
レイルとプレマーレは残りたい。

「主人と専属護衛が居ないと出だしの説明面倒だしな。
どっか別の空き地で待たせるか」
「うーん。何処がいいかなぁ」

「スフィンスラーの空きにテントとトイレ置きゃいいんじゃねえの。まだ決めねえ事有るだろ。出身とか。三人が姐さんと同じ金髪なんて限られるしよ」
「まあね。そうすっか」


スフィンスラー14層入口付近にテントとトイレを置き。
新人3人に使い方を説明。食糧と水も置いて戻った。

「新しい眷属はレイルの影でしっかり保管。
カタリデは他に何か注意事項有る?」
「言い忘れたけどシュピナードとナーディは居ない方がいいわ」
「さっき言わんか」
「だから忘れてたの。気付きなさいよ専門家なんだから」
「むぅ。もう一度じゃ」

「俺が送るからフィーネとアローマで城に連絡。集まるの時間掛かるし。地上で合流」
「そうね」
「お迎えに参ります」


空が赤焼けに染まる頃。
国とギルドの関係者が北側柵前に集合。

皆が離れ。俺とカタリデで入口穴の前。
ネックレスを右手でそっと握り昇霊門を起動。

久々に見るゲートは…前よりデカかった。
自分の魔力が上がったのとカタリデの所為。

穴奥から。周囲の地面から。
柵を越えた遠くの木々の間から。空中からも。

無数の白い輝きが立ち昇り大門に吸い込まれて行く。

吸い尽くす迄の10分間。一帯が輝きに包まれた。
聖でも闇でも何物でも無い魂の光。

自分たちも何時かあの中の1つに。

門が役目を果たし空へと消えた。

双眼鏡で確認し。自分たちも迷宮内に降り最下層まで目と気配で確認。

地上に出てサダハんたちにカタリデが報告。

「迷宮内は全8層。隠し通路は無し。
放置するとまた自然に集まる事も有る。ここを観光地にして定期的に祈りを捧げて。
賑やかに成れば亡者は寄り付かない。
神官は海が近いから水竜教か自然信奉の山神教から呼ぶのが良いと思う。
山神教だったらお供え物を食べちゃ駄目よ。その人に天罰が下るわ。
収益は国と冒険者ギルドで折半。商業ギルド経由でスターレンに締結書を必ず送る事。
違反したら私が単独で飛んでお城に大穴空けてあげる」

「承知した。観光地にする考えは無かった。
勇者隊が浄化した迷宮となれば大人気間違い無し。近くに作る町も栄える。カラードに行く冒険者も休める。
良い事尽くめだ」

見張りの兵隊を残し総員で城へ撤収。




--------------

14層にコテージを出し夕食を食べながら今後の打ち合わせをダラダラと。

略初めての温かい食事とお酒に3人は感涙。

「サイネルはトイレに慣れるまでは座る事」
盛大に拡散してた。
「申し訳無いです…」
顔を赤くしてもイケメンは正義。

「出身は東大陸がいいかな。金髪多いのは中央の西方三国かどっちかになるから」
「妾が東で拾った三人とするのじゃな」
「そだね。ギルド登録は恒例のパージェント商業ギルドでレイルが身元引受人。身分証が出来たら冒険者ギルドはプレマーレが付き添いで。東出身ならクイネとラムネも序でに冒険者登録を」
「はい」

「さてビックリ。何と3人はスリーサウジアの現地語しか文字が書けない事が判明しました。標準語は話せるけど読めない。
食事が終わったらまずは今夜一晩掛けて自分の名前を書く練習からスタートです」
「ビックリね。いっそ東の迷宮内で長期間氷漬けになってたって説明した方が早いかも。
戦闘面は得意な幻術を織り交ぜれば即戦力。武術指南役はシュピナードが居るから楽。私たちも教わりたい」
「間違い無い」

「勉学の方が問題じゃったか…。自分で言うて置いて面倒じゃの。カメノス邸の学舎の子供らと一緒にするのは妾が恥ずかしい。
アローマを借りられるかえ」
「しゃーないね。出来そう?」
「今月内に基礎を叩き込むには戦闘訓練を抑え気味にして頂かないとかなり厳しいです。
疲労困憊では頭に入りません故。
場所はロロシュ邸に住み込みで一室を借りれば良いのですが」

「どうするレイル」
「どうするもそれしか有るまいて。お主らの新事務棟はまだ先じゃし」
「宿舎もまだ完成してないからな。来客用の方を空けて貰おう。メリリーたちとの顔合わせも自然に出来る。
アローマの鍛錬と本業が全く出来なくなるから自宅担当の侍女衆にも頼んで俺たちも持ち回りで教育する。
ロイドも帰って来るし。文字が読めるようになれば図書館の3階席も使える」

謝罪する3人のナイフとフォーク捌きを見て。
「テーブルマナーもか」
「箸なんて当分先だなこりゃ」
「「「済みません…」」」

レイルは大きな子供を3人拾ってしまったとさ。
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…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

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