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第264話 南東大陸後半突入までの準備期間・1

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カストロさんのお返事は予約も無いので臨時休業にしますとの気持ちの良い返答。

砦長も町の東ルートを確保すると意気込み。
ロイドから父上に事前申し入れはする。

明日は運搬とお茶会で問題無いが本日の謝罪の方が…。

最初は俺たちの訪問を喜んでいたマホロバ首相。
挨拶後の茸採取ポイントの話を聞き。真顔になった。

執務机を指でトントン。
「それって。外交官時代からの話?」
「だね。最初に入国した時から度々」
「他国の特産品を勝手に独占と木材伐採?」
「そう…なるね」

「遣って良い事かどうか熟知してる貴方が?」
「面目ない」

「謝って済むなら国際条約要らんでしょ!」
「「御免為さい!」」
めっちゃ怒られた。当然です。
盗賊と同じ犯罪者でした。

「食用茸類は南部で見付からなくて希少品。まさか北部に在ったとは。取り敢えず地図を書いて。
ニーメン。昼の会合はキャンセル。担当外だけどモデロンを呼んで」
「はい」

その場で地図を手書き。

4人と3人で地図を囲み。
「トゥールーの南だったのかぁ」
「ここまで深い場所では気付きませんね」
「何故この場所に向かわれたのですか?」
モデロンに問われ。
「キタン時代に各町通るのが面倒だなって。最初の砦長に変な絡まれ方したから。首都に直行出来るルートを別で探してたら偶然見付かった」
「成程…」

「まあねぇ。キタンに言ってたらどの道独り占めだったし。どうしよっかなぁ…新発見の理由。勇者様が通る理由も無いし」
バッグの中からカタリデが。
「逆にすれば?マホロバがこっそりスターレンに調査依頼をして。その報酬として少し木を切らせて貰った形でならどう?」
「お!」
全員納得の後付け理由。

「それいいカタリデ様。さっすが東大陸開拓者」
ニーメンが苦言。
「行き過ぎでは有りませんか?財政難でもないのに首相が他国の役人に依頼するのは」
「う~。キタンの家から財産の半分没収したしねぇ。
じゃあ財務官のモデロンが個人的に依頼した体にしよう」
「あぁそれならば私が一番角が立ちません。親密さで言えば首相よりも劣りますが繋がりは認知されてます」
俺はそっと胸を撫でた。

「勘弁して下さいよ。もう無いでしょうね」
「無いね。迷宮はお宝無かったし。西諸島に在った闇組織の拠点には手を出さなかった。
船の考案図の件はキタンの時に決済してる。
後ちょっとだけ茸貰っても駄目かな?」
「駄目に決まってるっしょ。正規で買い取って。トゥールーの名産にするから直ぐに売り切れるだろうけど」
「駄目かぁ…」
残念。
「そんなに良い茸生えてるの?」
「めちゃめちゃ良いの生えてるよ。生食で食べられるマッシュルームみたいなのは無いけど。
時間有るなら今から現地見に行かない?」
「行こう。ニーメン。小一時間出掛ける手続き」
「はい」
「私も依頼担当者として」

中級鑑定眼鏡を3人に渡して現地のご案内。
香り豊かな高級松茸。椎茸。えのき茸。滑子茸。
時期が違えば舞茸。占地等々。

「教えたくなかったなぁ」
「まだ言う?」
「ごめん…」

3人共松茸を鼻にくっ付けスンスン。
「これが松茸」
「良い香りですね」
「病み付き成りそうです。食品担当が歓喜する事間違い無しです」
「そのまま網焼きにしてもスープに入れても。その香りが更に引き立ち料理に彩りを飾る。
味は素朴で今の時期じゃない舞茸や占地にやや劣る。
まあ好みだけどね」
「椎茸もスープや煮込みに加えると良い出汁が出て一層風味豊かに」
「「「ほぉ~」」」

「お詫びにその眼鏡あげるよ。事務仕事にでも使って。
因みに査定はしない。マホロバブチキレるから」
「そこはしようよ。何となく解るけど。一番高いのは?」
「…今手に持ってる松茸。付けるとしたら…銀貨20枚は下らない」
「こら!!」
「だから言ったじゃん」

「泥棒だよね完全に?」
「ごめんて」
「まあいいよ。この眼鏡で相殺する」
「助かります」

モデロンが南奥を指差し。
「あの紫茸は何ですか?食用可と眼鏡で見えるのですが」

「ん?あれは初めてだな」
「何度も来てるけど初めてね」

接近して皆で囲み。1本手に取った。

紫茸。
毎年7月上旬にしか現われない珍種。加熱食用可。
仄かな苦みが特徴。干せば薬効を発揮。
干したガラハイドの実と合わせ煎じて飲めば全身の神経伝達異常を整える効能。人間以外の動物にも改善効果が見込める。

「マホロバ殿。これ…半分売って。金貨言い値で払う」
「お願いします!」

「薬に成るのか。ガラハイドの実ってのは?」
「タイラント南部で採れる苦い野苺みたいな果実」

「ふむ…。お金は要らない。利潤は半々で薬が出来たらこっちにも回して。転移直送で良い。条件成立なら全部持ってって」
「了解。官邸で証文書くよ」

心臓病の薬がまさかここで見付かるとは。この運の良さはアウスレーゼ君効果絶大。女神の我が儘から守り抜くと決意した。

全ての紫茸を採取。
官邸へ戻り証文と誓約書を起こし署名。
マホロバから商業ギルドへ仲介依頼。手続きを任せた。

お礼を告げサンタギーナへ直行。




--------------

懐中時計で14時過ぎ。早くラフドッグへ行きたい気持ちを抑えサダハんと接見。

今回は挨拶だけと踏んでいたがお茶会に誘われた。

心の中で舌打ち。
ロイドさん聞こえてた?
「はい。グーニャと共に滋養酒の店へ向かってます」
ありがと。ホント助かる。タイラントに残して良かった。
おっちゃんに頼んで在庫の半分。無理するだろうから更にその半分でお願い。
「了解です」

3人とクワンに。
「ロイドとグーニャが滋養酒店に向かってる。あっちは大丈夫だ」
「良かったぁ…」
「真に綱渡り。殿下の仰る通りだぜ」
「何時もながら寿命が縮みます」
「クワァ~」

「何か困り事か?」
心置きなく。
「いえ。身内の話です」
「お構い無く」

「そうか。カタリデ様を見せて貰いたいのだが」
カタリデをバッグから取出し。
「何か御用?私は見世物ではないのだけど?」
「相談のような…。話が」
何時も以上に歯切れが悪い。
「国の困り事?私に?スターレンに?」
「何方の意見も伺いたい。報酬は特に考えていないが只意見をと」
「暇じゃないんだけどねぇ。何?」

「実は…。領土拡大を考えていてな」
「和平協定を結んだ東西に戦争でも始める気なの?」
「それは無い。ここの南部の森を開拓する」
「人口増加傾向なら仕方無いわね。カラード迷宮を越えた南部までが今の領土。まだまだ余裕でしょ?何に悩んでるか言いなさい」

「うむ。最近そのカラードキャメオとこの王都の中間点の東寄りに未知の新迷宮を掘り当ててしまった。
カラードと同じ死霊系。軍と冒険者隊を募って調査させて判明した天然迷宮。
並の武装では対処が難しく。サドハド島のニーナと南島の近衛隊を呼ばなくてはならない。
そこまでは良い。天然迷宮は事後管理も重要。町を広げれば住民の安全性が危うい。怯える者も出る。
迷宮は多くの財を生むが時に邪魔。何か迷宮を消滅させる手は無いのだろうかと」
踏破後の話か。

「成程ね。手は無くは無い。
私たち勇者隊で踏破し魔素を根刮ぎ消し去り結界を張る方法。
誰でもいいから踏破後に聖属性で洞窟内を満たす方法。
出現したお宝を依代に死霊を集め埋めてしまう方法。これは盗掘や無知な人が1つでも掘り起こすとアウト。
迷宮主討伐後にスターレンが持つ昇霊門の道具で強制的に天国行きにする方法。

何れも深さと広さの調査が肝心。迷宮主討伐は必須。
深過ぎれば規模の大きな結界具が必要。
貴重な聖魔石が幾つも必要。
継続的な立ち入り禁止管理が必要。
4番目が一番楽。だけど宝は二度と手に入らない。

私たちが遣るなら宝は全取り。立ち会い人が必要だとか嘗めた事言うならこの国がどうなろうと遣らないわ。
冒険者ギルドの代表の勇者でありタイラントの外交官に頼んでしまうなら当然の報酬よ。
後で見せろと言うのも無し。消し去るのならば」

「半分予想通りか…。サドハド島で平穏に暮らすニーナ隊を巻き込むのは辛い。一人の王として父として。
無かった物なら欲するな。それも至極当然。
勇者スターレンに頼みたい。四番目の案で消し去っては貰えないだろうか。
今の所流出は確認されてはいない。明日直ぐになどの無茶は言わない。近くで調整は可能だろうか」
「仕方無いですね。僕らはサドハド島自治の立ち会い人でもあるので。先程の条件で依頼書を起こし。ここの冒険者ギルド支部への提出と。当国のヘルメン陛下への内容親書を同時に送って下さい。調査と対処はそれから。
封鎖は勿論。宝の持ち出しは厳禁。上位の宝程、死霊は這い出てでも取り戻そうとします。
サダハ様以下の物欲を捻じ伏せられるとお誓い頂けるのならお引き受けします」

「捻じ伏せる。何としても。平和に向かうこの時代。領土戦争なぞ愚かの極み。友好国タイラントに泥は塗らん」
サダハんの覚悟が見えた。
「承知しました」

「唯一つ。昇霊門の儀式?を地上で行使するなら。外で見物しても良いだろうか。記念ではなく後世に残したい。
方法が有るのだと」
「地下で道具を使おうと。嫌でも地上上空に巨大な門が開きますよ」
「そうか…。ならば他に望む物は何も無い」

突発案件が重なった。

ロイドから。
「ガラハイドの実を購入しました。紫茸と略同量。日干しにすれば何方も縮むので充分な量だと」
ありがと。先にカメノス邸へ持ち込んで話しといて。
「お先に」

「イプシス様。これからサドハド島に遊びに行きますが同行されますか?」
「参ります!サダハに拘束されるのではと中々内陸に帰ってくれないので」
「余計な事を言うな。そこまで執着した覚えは無いぞ」
どうだか。


サドハド島の浜辺の片隅に船着き場が造られていた以外は以前と変わらぬ風景。

島長宅で2人と会いイプシス様を交えてお茶をした。カタリデがニーナの妊娠を暴露した以外のトラブルは起きなかった。どの道俺たちがやらんとダメやないの…。

お祝いのプチ宴会を催して帰宅。




--------------

新改善薬の依頼はアルシェに頼んで滞り無く。

コーレルサブデとオーナルディアの招待案内は城に届いた。内容確認は明日。

サンタギーナから帰った翌日にロイドとグーニャをラザーリア南へ置き。エルヴィス隊をカウテリアへ送り届け。
モルセンナ東に到着。

カタリデを出してもないのに町民たちに気付かれ。手を振りながらカストロさんの店の裏手。勝手口から入店。

店内の席に着き。やっと一息。
「ふぅ~。やっぱバレるのか」
「どうしたらいいんだろうね」
「熱が冷めるまで待つしかねえだろ」
「これ以上大きな出来事は起こりませ…。起こり…」

「アローマ。それ以上は」
「今は止めよ」
「何も無い。それでいい」
「はい」

紅茶が運ばれた後。お昼時と言う事も有り。お店自慢のサンドイッチ、レモングラスの冷製スープ、焼き立てのマカロニグラタンが出された。

店のご一家が並び。
「こんな物しか出せませんが。夕時用のワインも有りますが如何しましょうか」
「お酒は結構です。とても美味しいですよ。スープはさっぱり冷たくこれからの季節にピッタリ」
「グラタンも熱々。チーズも香ばしく良い焼加減」
「これに文句言ったら何も食えねえよ」
「サンドイッチも季節に合せて変化させてますね」
何れも美味。フレッシュオリーブで胃にも優しい。

「有り難う御座います」
「励みに成ります」
「スターレン様。もう少ししたらこの町に居る救助者十人が来るのですが大丈夫でしょうか」
「おぉいいよ。探して訪ねるのも大変だし」
「大勢で食べた方が楽しいしね」
「はい!」
「ソルダも座りなさい。私たちで運ぶから」
「はーい」

俺の対面席に座りニッコニコ。
「何だか恥ずかしいよ。じっと見られるのは」
「嫌です。勇者様を独り占め出来るのは今しか無いので許して下さい」
「すっかり女の子ね。手強いわ」
「モテモテだな」
「何処へ行こうとも」
「茶化すなよ」

続々と親子連れが入店し丁度満席。皆が俺を見詰める中でも楽しい昼食会。

料理を運び終わり店主夫婦も着席した。

過去の話よりも今の話を。タイラントの事。
カタリデを出して東大陸の最果て町の面白話。
フィアフォンゼル迷宮での苦労話などなど。

子供たちは目を輝かせ。大人たちは涙した。
泣く話してないんですが…。

カストロさんが代表で。
「タイラントへ遊びに行きたく成りました」
「オリオンが完成したら来て下さい。少しだけ距離は有りますが」
「まだまだ先の話で。完成しても最初は予約で一杯になるでしょうけど」
「空くのを気長に待ちます。のんびりと」
皆が頷いた。

笑顔が収まった頃。今度は重く口を開いた。
「少しだけ…。前のお話を宜しいでしょうか」
「何か困り事ですか?」
「いえ。今は何も。ローレン様からは固く閉口を命じられたお話です」
「…何でしょう」

「既に…お気付きかも知れませんが。ソルダやここに居る子供たちより下層に囚われていた子供の殆どは。一冬を越せずに亡くなりました」
「…」
何となく…想像はしていた事。
「最初は風邪に似た流行り病。次々にそれが伝染。食べ物は喉を通らず。タイラントのカメノス財団から寄付された薬では効果が薄く。回し切るには数も足りず。
最後は眠るような衰弱死だったそうです」
「そう…でしたか。薄々とは感じていました。王都の四方を歩いても。見覚えの有る子供を見掛けなかったので。
希望的に。近隣の町へ分散されているのだと信じて」

「あれから丁度二年。早い物です。次にラザーリアへ足をお運びの際に。王都西部の寺院裏の共同墓地を訪ねてあげて頂きたいのです。
可能であれば。聖女様もご一緒に」
「解りました。必ず伺います。聖女は…少し後。成人の儀を迎えた後に話そうと思います」

「有り難う御座います。スターレン様や聖女様を悪く言う者は誰一人居ません。只…。我らが信ずる女神様は何を見て居られるのかと。思い抱く者は少なくないです。
嘆き言葉を掛けられるかも知れませんが。
どうかご容赦を」
「はい。宗派は違えど甘んじて受けましょう。それで心が晴れるなら」

「お耳汚しはこれまでに。ローレン様にはご内密に願います」
「文句を言っても始りません。言った所でぶん殴られるのは僕です。ご安心を」
「勇者様を叱責出来る方が居られるのですね」
「こう見えて最近怒られる事ばかりですよ。方々から遣り過ぎだの。先に連絡しろだの。確認不足だの。昨日も南国の方に怒られました」
「直ぐ調子に乗っちゃうからねぇ」
「止めても止らねえし。良く忘れ物するし」
「大半を自己完結されてしまわれる方です故」
「クワ」
「皆酷くない?ちゃんと意見は聞いてるんだけどなぁ」

笑いが溢れ。また未来の話をして昼食会を終えた。
洗い物を手伝い静かに帰宅。




--------------

翌午前に登城。

南東大陸東部2国。
オーナルディア。エンブラヒ・オル・デシャンティ国王。
「鳩が何処かで落ちていたとは驚き案内再送を。
当国には小さな火山と森と迷宮しか無いと言っても過言ではない。貴国とは昔から交流は持たぬが勇者隊が来てくれるなら最近入れ替わった迷宮を紹介しよう。
持て成しの報酬は勿論迷宮産物。新たな迷宮主は強いと聞く。時に余裕が有るなら是非挑戦してみて欲しい。
序での欲でフィアフォンゼル大迷宮の話が聞けると嬉しい限り」

「レンブラントで聞いた前情報と同じだな」
「冒険好きそうな国王様ぽいね」
「一昨日のサダハと似てる気がするわ」
そんな感じがするな。

コーレルサブデ。ペテルギヌ・ミル・サブジャイ国王。
「お気に入りの鳩だったのに。帰って来ぬから四方やとは思っていたが残念だ。
当国は漁業が主軸で平凡。持て成しで見せられる物は大して無いが存分に海産物を食して欲しいと思う。
海に面した王都で城や高台から望める景色は絶景だと自負をする。後は吹奏楽器が発展している位か。
新勇者は芸術にも堪能だと聞いた。来国したならその話でもしよう。
見栄っ張りな南キリーとは不仲。勇者殿が望むなら幾らでも話す」

「協力的な人みたいで良かった」
「キリータルニアの話が聞けるなら行くべきね」
「どの道通るんでしょ」
ご尤も。海産物も景色も楽器も楽しみではある。

「陛下。まずは案内着の知らせを返信で。突発のサンタギーナ案件が読めませんが。私たちなら深くても数日内で踏破可能です。
予定通り8月以降の調整とし。回る順はオーナルから南下とします」
「うむ。その様に返信して置く。にしてもサダハめ。
面倒事しか寄越せぬのか」

「死霊系特化武装を所持するニーナ姫が目出度く懐妊されたので無理はさせられません。今回は止む無く。
未開箇所が多い大陸です故。今後も3国からの要請が発生する可能性は往々にして有ると」
「勇者隊の宿命か。心配はしていないが油断はするな」
「はい。充分な観察と作戦を練った上で突入をば」

俺からは特に無いのでこれにて帰宅。


ロイドとグーニャ以外のメンバー。プレマーレを自宅に呼んで昼食を…。
「レイルも行きたいと?」
「頗る暇じゃ」
「でもレイルとダメスが行くと一瞬で終わって俺たちの楽しみがなんも無くなるんですが?」
「オーナルディアの迷宮まで我慢出来ないかな?」
「知らんし出来ぬ」

「姐さんを暇にしたお前らが悪い。諦めろ」
「「はぁ~」」
溜息しか出んわ。

「じゃあ明日までに各自の装備品見直して。明後日に行こっかね」
「しゃーなし…」

「プレマーレのブラッドの調整は出来た?」
「まだです。西へ突入するまで練りに練り。それまでは修練で作った白ダイヤを試します」
「そか。1個しか無いもんな」
「はい。大切に」

「新しいアクアマリンはどうする?シュルツのネックレス借りるか温存するか」
「素材は同等でも昇霊門開ける人居ないじゃん」
「そっかぁ。私もお馬鹿。フウは出来たりしない?」
「間近で見てない物をぶっつけで作れって?」
「ごめんちゃい」

「カルとの合作で作れそうだけど。中域と神域まで繋ぐから魔力消費が激しいわ。私も数日完全休眠するし。
何より上の女神ちゃんにもろバレよ」
「それは拙いわね。温存して別の物を目指そう」

レイルが不満げに。
「一つの案じゃが。海中戦を想定するなら。フィーネが水竜に頼んで複数人用の道具にして貰え。有るかどうかも解らぬのに勿体無いがの」
「う~ん勿体無いねぇ。大半は地上戦だし。複数箇所で船を襲い出しても結局近場に居ないと効果無いだろうし」

「女神が次に動くまでじっくり考えよう。アウスレーゼ君に相談も出来る」
「あぁそうね。もう一度はピーカー君の件で会うし」

アローマがふと。
「準備にも然程時間を要しませんし。スフィンスラーの十六層を出し切るのは如何でしょうか」
「あ、いいかも。何が出るか気になってたし」
「冒険者アローマの直感冴えに冴えてるからねぇ。導きの才能持ってたりして」
「この中で一番指導者に向いてんのかもな」
お顔が真っ赤。
「照れます。恥ずかしいのでお止めを」
「将来侍女長と兼任で学校の先生もやって貰おうか」
「いいわね。校長先生とか似合いそう」
「学校かぁ。懐かしいわ。私も一度学習院作ろうとしたけど人手が足りなくて。信者は私に頼り切りで失敗した。
これからの時代には合ってるかもね」
「こ、困ります。責任が山のような…」
「まあまあ。先の話さ」

プレマーレが挙手。
「最近魔力の消費効率も上がりましたし。十六もそれ程消費しないと思われます。序でに十七のゴーレムも。ギミックに対しマウデリンのみと言うのも気になります」
「やれそうだったら連発しましょうか」
「自信が有ると言うて枯渇したら笑うぞよ」
「ぐっ…。フィーネ様の補助を。聖属性抜きで」
「仕方無いわね」

スフィンスラーは明日の午前で議決。




--------------

私も行きたいのですが…。レイルさんが行くなら半日も掛からず終わってしまう。無念…。

胸のグーニャも意気消沈。

中空庭園の手入れも終わり。ペリルさん御一家と庭園脇のオープンテラスで昼食。

お屋敷の侍女でもある奥様ジョナーさんと娘のペジョさんにべた褒めされ。
「ロディ様の黒髪はホントに素敵。お肌も艶々で」
「やはりジャンプ-や化粧水なのですかね。タイラントのカメノス財団の商品は何時まで経っても入荷が未定で羨ましいです。まあ根本からして違うのですが」
「それ程でも。パージェントでも常に人気で品薄なのです。私共には強制的に届けられてしまうのですが。バランスの良い食事。睡眠。お風呂と運動で汗を出す。規則正しい生活を心懸ける。しか無いですね」
「美容と健康。仕事の能率も全て繋がるお話ですな。私は冒険者時代の頃の方がスリムでしたがこれも歳の所為。
今は事務仕事で贅肉が気になります」

「父さんはサボり過ぎなんですぅ。前はあんなに鍛えろ鍛えろ武芸を学べと煩かったのに」
「ハッハッハッ。耳が痛い…」
「ペジョも早く伴侶を見付けませんと」
「止めて母さん。のんびり構えていたら何時の間にか穏健派の青年部が売り切れてしまったのですから仕方が無いのです。三十までには何とか…」
「のんびりしてる貴女が悪いのよ」

「貴族家の流儀には疎いのですが従者のお相手も同じ派閥でないといけないのですか?」
「前は政治的な物が有りまして。今も本家に勤める者が他の派に嫁ぐとなると戻れなくなるみたいな。
無派閥の平民家だとお知り合いが少なく。サン様のお家は格上げで従者の身分ではとてもとても。
アッテンハイムでは宗教観が増し増し。ロルーゼは嫌。
帝国は縮まりましたが文化が違い。憧れのタイラントだと女性比率が高く。八方塞がりで御座い」
「な、成程。難しいのですね」
「ロルーゼが平定してくれれば良いのですがどうなる事やら誰にも解りませんし。同派の兵士様を絶賛探して居りまする。と言うと父が」
「兵士は駄目だ」
「この通りに」
厳格な父に柔軟な娘。中立の母の構図。

「駄目なのですか?」
「二月の地下書庫の一件で。二人も同派の離反兵が混じっていましてね。信用が足りません」
「それはまた難儀な」
難しい。邪神教の脅威が去ったと言うのも全てではない。分裂した西の派閥がちらほらと各地に居る今は。

「来年のロルーゼに期待するとして。ペリルさん。
城下や地下で変わった動きは無いでしょうか。ローレン様から指示された訳ではないですが私で調べられるような事など有れば」
「私の口からは何とも」
「スターレンの指示だと言っても?」
「むぅ…。叱責を覚悟で言うならば。解体させた旧派閥の四家屋敷の地下からここの地下施設跡まで繋げようとした痕跡が見付かりました。かなり接近する所まで深く。
しかし。その測量具と掘削具が発見されていない。家の者を残らず取り調べても知らない。本屋敷や旧派の捜索でも同様に。
式典中に何者かが収納袋で持ち去ったのでは。発見した穴は塞ぎましたが他にも掘られてはいないかと」
ふむふむ。

「それは一大事。スターレンに告げては激怒する事受合いです故。私が城下を散策しながら調べましょう。
心配はご無用。誰の目にも触れない速さで動き。足音を消す装備品も持っています。
ローレン様には買い物に出掛けたとお伝えを」
「畏まりました。お前たちも口を閉じるのだぞ」
「勿論ですわ」
「たった今忘れました」

グーニャ。私たちの出番が巡って来ましたよ。
ハイニャ~。




--------------

ロイドたちには悪いなと念話を送るとそれなりに忙しいとのお返事。

気兼ね無くこちらに専念。

サンタギーナは明日。本日午前はスフィンスラー。

泣いても吐いても本日で最後の1617層。
他の最終では特に何も無かった。ベルさんが何か残してくれたのではと期待するのは間違いかも知れない。しかし期待せずには居られない!

プレマーレが16層の中央に立ち。右手を地面に叩き付けたその瞬間。出た。

アレイゴーレム。
これまでの土色ゴーレムとは全く違う黄土色。耐久性俊敏性攻撃力何れを取っても上位版。

外装を剥いでも直ぐに修復。壁を建ててもぶち破る。
在ろう事か土壁を吸収して更に体躯が大きく強固に。

序盤でソプランは大地の叫びの使用を取り止め。アローマの反射盾で受け流し後退。

後衛2人が吹き飛ばされた時にカタリデを緊急抜剣。
飛行可能な者は宙へ飛び。中央で囲まれ動けないプレマーレと後衛を救いに行く班に分離。

何とアレイは天井付近飛び上がり。闇だろうが聖だろうが無視して高速乱打。闇トップのレイルが地面にめり込み。聖一番の俺が天井に突き刺さった。

全身複雑骨折を初体験。再生も初体験で2重の喜び。

レイルのダメス。俺のオーラとルーナを引っ張り出しても数の暴力で押し切られ。竜が大口を開けばそこへ飛び込み穴を塞がれブレスは困難。

翼を広げれば纏わり付かれ。蔦もロープも千切られた。

壁際で固まる後衛2人の前に残り全員並んで防衛陣。

「な、なんじゃこれは!防御も攻撃も桁違いではないか」
「やっぱ残してたよベルさん。そんな甘くは無いって」

前衛全員血塗れ。

「アローマ!無理だと思ったら転移で上でも何処でも迷わず逃げろ」
「はい!」
「くっそ硬すぎるんだよ!」

「前衛何でもいい。迷宮ぶっ壊す勢いでやっちまえ!」
「今までは全部油断させるフェイクね。面白いじゃない!」

「プレマーレ。再生は間に合ったか」
「行けます!」

「多少の誘爆は覚悟!気合いで堪えろ!各員散開!!」

クワンの突貫は白羽取り。レイルとオーラの簡易結界での圧縮は全スルー。俺の空刃は弾き返され自己被弾。フィーネの水陣は水浴び程度。ダメスの分身は牙が折れ。
小型化オーラとルーナの高速飛翔は叩き落とされ2重ブレスも反射で多方に拡散。アレイ同士で拡散を繰り返し。
アローマの反射で前から背中から味方全被弾。

後衛2人の前に再布陣。

「はぁ…はぁ…。遠距離分散無し!自滅する。金属案山子を思い出せ。繋ぎ目は有る。物理攻撃でその隙間と結合点を切り崩せ!」
「血が滾るのぉぉぉ」
「ハンマーでぶっ叩く!」ハンマーに持ち替え。
「飛竜の爪と牙を見くびるな」
「本気を出すのは久々だ。オーラ殿」
竜は人型よりも一回り大きく。
「クワッ!!」クワンはソラリマを拡張。
「爪磨ぎににしてやるでやんす」

「私は攻撃を鬼人で受けて返します」
「俺はその背後狙いの足を崩す!」

「各自突貫!!」
「激熱ねぇ」

………

小1時間。ここまで全力での打ち込みも初。
全員漏れなく満身創痍。

再生が出来ない2人。
「いってぇ。両手首折れたぜくっそ」
「右の脛が砕けました…」
「ふ…2人共その場に寝て。そこに行くから」
フィーネが2人の所まで這い這い。

渾身の再生と直接ヒール。ファントムを解いてアローマの隣に転がった。

ドロップは特殊白金10kgと特大宝石が5種。

「鑑定は後。17層は後日。上で休憩して。血が止まったら帰ろう」
「連戦は無謀ね…」
「じゃのぉ…」

スフィンスラー迷宮残りチャレンジ回数。

1~4層…3回
5層…2回
6層…✕
7~9層…2回
10層…✕
11層…1回?
12~14層…✕
15…1回
16層…✕
17層…1回
18~19層…✕
最下層…推定1回




--------------

スターレンたちが激戦を終えた頃のラザーリア。
参戦出来なかった歯痒さをグーニャと押し殺し。

昨日見付けた5本目の地下洞穴。フィーネの双眼鏡を借りていて良かった。

その5本目は。ドドッツの屋敷から延びていた。
穏健派でも旧派閥でもない保守派の中格が何故。
思い起こされるのはロルーゼのカルティエンとの繋がり。邪神教団とは別?

洞穴は地下施設5層。埋め立てた前勇者の墓場部屋に真っ直ぐ。北側の側壁まで接近。一刻の猶予も無し。

朝から香水と石鹸の香りを水で流し身支度。
衣服も水洗いしただけの物を着込んだ。

「香水を取ってまで何処へ行くのだ」
勘の鋭いローレン様に問われた。

疑うローレンを正面から抱き締め。
「あなたは背負い過ぎです。スターレンと一緒。やはり親子なのですね。人1人で背負うには重い責任。
あなたの荷物は私が背負う。任せなさい。私にだけは甘えて良いのです」
「…済まない。ロディ」
強く抱き締め返された。私は彼の背中を擦る。

互いの温もりを確かめ。離れ。無言で出掛けた。

王城東門から出て城下北東部地区を目指す。狭い路地裏を繋ぎ徒歩最高速移動。擦れ違う住人たちには微風が通り抜けた程度に感じただろう。

ドドッツの屋敷の裏手へ回り込み。従者従業者の出入を待ち門と裏口が開いた瞬間に滑り込んだ。

透明化の道具は使わず外装はフード付きコートを纏う。
下調べして置いた裏口ルートを辿り。地下階段下の隙間に滑り込んだ。

グーニャ。突き当たり奥の部屋の床下。洞穴は1本道。
通気口から侵入。付近の気配が消えたら中から蓋と扉を開いて。
ハイニャ。腕が鳴りますニャ~。脚かニャ?

冗談を言いながら胸元から飛び出し最少化。扉の隙間から入室。

程無く扉が開かれ中へ。音を殺して締め直し下穴へ。
蓋も中から閉じ直し洞穴を暗視と索敵で進んだ。

やがて見えた複数のランタン照明。静かに回る掘削具。
鋭い刃が何本も付けられた横軸ローラー。平面には集積装置。

人員は3人。1人は飛び出しゴーグルを着け残り2人に指示を出している。指揮者で間違い無い。

グーニャの背中に指先で触れ。
3人共蔦で宙吊りに。全員目隠し。ゴーグル以外は口も塞いで。
ニャニャ~。

背後から忍び寄り近距離で釣り上げた。

リーダーの男に問う。
「ここで何をやっているの?」
「なっ、なっ…」
溝内に軽く裏手。
「ゴホォ」
「何をやっているの?」
「お、俺たちは依頼を受けて掘ってるだけだ」
「誰の指示?ドドッツ?」
もう一発。
「グフッ。依頼はドドッツ。大元はロ、ロルーゼの、ルイドミルだ」
やはりバーミンガム家当主。
「この先に何が有るかお解り?」
「く、詳しくは知らない。大金積まれて。この先の小部屋に在る箱。その中の生首をロルーゼに持ち帰れと」
「転移具は誰が持ってるの?」
「ドドッツが、持ってる」
嘘を言っている気配は無いが怪しい。

ゴーグルを引き千切り掘削中の壁を覗いた。
向こう側は5層の小部屋。同時に深度、方位、掘削に適した地層まで浮かんだ。

3人の身体検査を入念に。施設の略図を隠し持っていた男がネックレス式の転移具も持っていた。

「嘘吐き」
ゴーグル男の手の指を1本逆折り。
「ぎゃぁぁぁ」
「嘘吐き」
中指に手を掛けた。
「しゃ、喋る!何でも。だからこれ以上はや」
よいしょと逆折り。
「いぎゃぁぁぁ。ゆ、許してくれぇぇ」
「嘘吐き」
薬指に手を掛けた。
「ル、ルイドミルが受け取った!女神様の御告げだぁ!!」
あのクソ女!思わず指を折ってしまった。
「ぎゃぁぁぁ。この先!と、囚われている生首を!解放しろとぉ」
「それは偽物よ。誰も聞いた事が無いのにどうして信じられるの?」
「お、俺が知るかよ!!」
知りもしないで請け負ったのか。

男たちが持っていたナイフを抜き。ゴーグル男の目隠し蔦を開き見せ付け。股間に押し付けた。
「もう隠し事は無いかしら。白状しないと去勢しますよ」
「無い!ち、誓う!断じて無い!!」

失禁した股間からナイフを離して鞘に戻した。
「そう。お前たちは大切な証人。城へ突き出します。
ルイドミルが選挙戦を降りるまでは生きられる。正直に答えて居ればね」
「わ、解った…」

グーニャに触れ。
ドドッツは後でも良いわ。道具類を回収後。
この3人を城の東門前に連れて転移。直後に蔦を解除。
門前で私が抑えます。
ハイニャ!

道具類をバッグに収納。3人の首を普通の縄で縛って繋ぎランタンも全て回収。グーニャで転移した。




--------------

コテージの外で回復待ちの虹玉水着混浴。

「いやぁ。こんなに流血したの初めてだわ。再生も初体験出来た」
「本物のゴーレムってあんな硬いのね。ハンマーで手が痺れたの何時振りかなぁ」
まだフィーネの手がプルプル。

「あれは異常じゃ。西の地の王に匹敵する硬度。加えて反射盾と同等の防御性能。ベルめ…。妾の苦手部類の上位版を拵えるとは。遣りおる」
「あんな狭い隙間…。カットランス以外では届きませんでした」
「絶対相手にしたくねえ。俺ら十五十七は辞退するぜ」
「足手纏いです。観戦する以前に」

「飛翔中に捕まったのは初めてですぅ」
「翼もブレスも物理的に封じられるとは…」
「本に…」
「爪も牙もボロボロになったでやす。泣きそう」

カタリデはんが。
「ベルの忠告よ。迷宮を嘗めるなって」
「ホントそれ。上位武装で調子に乗ってた」
「今回はスタン以外も皆ね」

大変勉強になった16層最終。

「たっぷり焼肉と焼野菜食べて帰ろう。鑑定は自宅で仮眠した後でします」
「スタンさん、食べさせて」
「喜んで。余裕有る人でボチボチ準備しよ」

竜血剤は使わず。回復薬とレイルとダメス以外は竜肉も少々。竜たちは早々に腕に戻った。


人型全員俺たちの自宅で仮眠。夕暮れ時に鑑定会。

特殊白金。
物理魔法耐性上昇。質量反転。物理法則湾曲の呪詛が予め練り込まれているプラチナ素材。

ブルーダイヤ…領域内自軍の反射性能を上昇。
ブラックオパール…領域内自軍の物理耐性を上昇。
グリーンサファイヤ…領域内自軍の魔法耐性を上昇。
レッドダイヤ…領域内自軍のスタミナ・駆動効率を上昇。
アメジスト…領域内自軍の連携能力を上昇。

「成程ねぇ。全部の組み合わせであの異常能力叩き出してたんだ」
「何れも加工は無理じゃの。そのまま持つのが良い」
「カッティングして小さくしたら上昇値も下がるね」
「1個だけでもどっかの国が買えそうな価値が有るわ」

「誰がも…」
全員俺を指差した。
「じゃあ俺預かりで。特殊プラチナはじっくり考えよう。マウデリンと合わせれば強力な武装や道具が作れる。
レイルたちはここ泊まってく?ホテル行く?」
「ホテルじゃな。夕食はこっち」

「一っ走り行って来る。何人分だ姐さん」
「三人分じゃ」
「おっけ」

ソプランが出掛けた後。
「ちょいロイドに最終確認」

ロイドさん明日はホント行かない?
「レイルさんが行くなら過剰です。こちらでゆっくり骨休めをします」
じゃあ休暇楽しんで。
「はい」

「行かないって。まあレイルに楯突く死霊が居たら楽しみやね」
「今日みたいに居るかも知れんのぉ」
フフリと笑った。

「アローマ。本棟で食べられるか聞いて来て。無ければ今から何か作る」
「畏まりました」

両者共OK。
本棟で出された夕食は何と!
シーフードカレーライスでした。かなり感動。

自宅で少しお茶をして解散。
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