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第235話 最果ての町

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突発黒竜様のご降臨イベント発生の翌早朝。

散乱したコテージ内と外の潰れた木々や地面の清掃整頓から始めた。

ダイニングは倒れた巨峰ワインやグラスが砕けてやや酸っぱ甘い香りが漂う。

片付け後。コテージを西の川辺に移設。
洗濯器を回しながら質素な朝食を。
プレマーレは水。

「生きて今日を迎えられた事に。感謝を」
「感謝を」
それぞれ応答。お茶と水で乾杯。

「色々有りましたが。皆それぞれご忠告とご助言は胸に刻んで貰って。今日明日は何をしますか?」
フィーネが挙手。
「タイラントの無人島で祈りを試したい。海辺に近い場所で捧げるのが合ってる気がして」
「ロイドは魔力削れてる?」
「5歩程度は」

「じゃあこっちの夜に。付き添いはロイドとアローマとクワンで。試しが終わったら浄化布をシュルツにお届け。
ピーカーが居ると変わるかもだから俺のバッグ」
「うん。おけ」

「それまでフィーネは合成と浄化。クワンとグーニャで最果ての町手前まで探索。
黒竜様へのご挨拶済んじゃったからもうデスパレイドも中央分岐街道も地下道も全部無視して転移で最果てに行っちゃいます。
ロイドに早く行けって言ってたし」
「はい。その方が有り難いです」
フィーネは無言で頷いた。

「行くのは明後日。ロイドたちの報告をマスカレイドで済ませて昇級してから。
町に入るのはプレマーレとグーニャ以外全員。2人はコテージを南湖畔に移してお留守番。湖畔近くにレイルの兎眷属が固まってるから一緒に建築とかお勧め。レイルも建築嫌いじゃないし」
「先輩眷属にご挨拶しませんと」
「ハイニャ!」

「今日明日はフィーネとペッツ以外完全オフ。身体動かしたい人は迷宮は止めて掲示板にあった地上の討伐対象を倒してみたり。
俺は今心がフワフワしてるからお散歩程度に留める」
解体用の金角をテーブルに置き。
「私も一緒に。スタンの傍に居させて」
「勿論ですとも」

「金角はこの前久々に出た物だから。討伐に行く人で相談して持って行って」

ソプランが肩を回し。
「心を落ち着けるのも大切だ。平常心なのはロイド様だけだが今はプレマーレと迷宮探索中の身。ギルドの掲示板見に行くと辻褄が合わない。
俺たちも散歩かなぁ」
「そうしましょう」

物思いに耽るプレマーレ。
「私も羽を休め。ゴロゴロしながらレイルダール様とのお話に興じます」

平常運行のロイド。
「洗濯物が乾いたら取り込んで昼食を作りましょう。作ってみたかった午後のデザートにも挑戦してみます」
ロイドの手料理は珍しいし楽しみだ。




--------------

本格手料理はフワトロオムライス。
午後のおめざはティラミスだった。

俺を通して元世界を覗き見していた時から気になっていたそうで。

甘酸っぱい物とフワフワ系が好みなのが解った。
女子ですねぇ。

巫女の祈りの内容は大体俺の予測通り。

空間浄化は聖水風が固定。範囲は可変で拡大すると消費魔力が増加。
領域治癒は聖水地。聖属性はオンオフ可で水場が近くに在れば何処でも使える。効果範囲は浄化と同様。
聖属性を付与すると解毒と解呪が可能。
クワンが毒茸を拾って無害な食材に変えたり。呪われた魔道具を遠方に置いて粉にしたり。ストックした汚れた布を洗浄浄化してみたり。
アローマが腕に擦り傷を作って何度も試したり…。だったらソプラン送ったのに。

傷跡の再生は直接触れて聖属性を付けないと不可。
部位損壊復元は勿論試せない。一案としては労災事故で手指を損傷してしまった人で試すとか。

矢で射られたアローマの太腿の跡が綺麗に消えました。

魔力供与は聖水地風。これも聖のオンオフ可。
聖付与で効果上昇。
範囲・遠隔は数百。直接触れても自身の残存1割までが上限値。
近距離転移で魔力を減らしたアローマとクワンが実験台。

前に俺がフィーネに首で持ち上げられても何も異常が無かったのはこの治癒と魔力供与を併発していたからだと判明した。道理で…。

あのシュルツに唇キス事件の頃から上位スキルの片鱗を見せていた訳だ。
あれも無駄ではなかったと強引に納得。御免為さい。

供与の使い方は魔力枯渇寸前で気絶を防ぐ等の緊急回避的な用途に向いている。

連発供与も可能だが蓄積疲労の負担が大きく。枯渇するような切迫した状況下でのんびりなんてしてられない。


2度目の透明化を目指した反射盾。
こちらは理想通りの淡く輝く縁取りと持ち手と手首に固定化する装具を残して完全透明化のタワー型となった。

重量も軽く、構えを少し低くするだけで地に着け足元まですっぽり覆える形。

黒竜様の有り難いお言葉。足元に気を付けろを実践する為アローマとソプランで持ち替えや前後入替えフォーメーションの練習をした。


そして迎えた2月󠄃最終週。

コテージを南湖畔へ移し兎眷属たちに挨拶した後。
マスカレイドの冒険者ギルドへ赴くと意外な人物に遭遇。

ヤーチェ隊の副隊長バリン。クワンジア闘技大会男子準優勝者である。

「よぉ大将。フィーネ様は相変わらずお綺麗で」
「久し振り~」
「いえいえ~」

ソプランとアローマとは一度だけ面識を持つ。が追加された美女2人に驚き、予想通りプレマーレに食い付いた。

「ソプラン以外美女ばっか。世界の美女を集めてハーレム作ってる、て噂は本当だったな」
「嫁さんとアローマ以外は皆嫁友達だってば」
「どうだか。だったら…。プレマーレさん」
「何でしょう」
「俺と今晩付き合ってくれねえか」
「…お断りです。私はスターレン様の愛人候補ですから」
「にゃ?」

「やっぱそうじゃねえのぉ。酷いぜ大将」
「初耳でござ」
後ろからプレマーレに口を塞がれた。
「奥様には許可を得てますし。照れ屋なので」

フィーネさん朗らかに冷笑。
そう言うのは事前に言って欲しいぜ。

「いいなぁ。羨ましいなぁ。まぁ俺みたいな金だけ醜男には縁無きこって。
大将とフィーネ様。ちょっとだけ外で話せないか?」
「プレマーレの事?」
「違う違う。全然別件。北の話だよ」

最宮の事が聞けるとあって手続きはソプランたちに任せて3人で外へ出た。

人気の無い沿道のベンチに座り。
「今俺たちが何処に居るかは」
「最宮前で順番待ちしてるって聞いた」
「ソプランたちが助けた冒険者さんが偶々知ってて」

「だったら話は早い。順番は三つ前の隊が粘ってるから順調に行って再来週には回って来る。そのまま大将たちに順番譲りたいんだが来れそうか?」
「「え!?」」
「それ逃すとまた最低二ヶ月待ちだぜ」
「いいの?」
「お金以外報酬は何も出せないよ?」

「クワンジアで優勝準優勝譲ってくれた礼だ。隊長はモチ他の隊員も了承済み。どうだ」
「助かるよ。4月に用事があって人残して順番待ちさせようと思ってたんだ」
「3月中に入れるなら大助かり。一度は前まで行ってるから再来週までには飛べる」
マジで助かるぅ。

「買い出しに来て良かったぜ。四日前に来てるって職員に聞いて待ってたんだよ」
「あぁそれで中に居たんだ」
「そうそ。んじゃ荷物は先に送ってるから北に戻る。必ず来いよ」
「「絶対行きます!」」
固い握手をガッチリ交わして見送った。

「ええ人たちやん」
「なんで豹変しちゃうんだろうねぇ」
永遠の謎の1つ。


でもプレマーレを見た時の目は一瞬ヤバかったねとコソコソ喋りながらギルドに戻ると人集りが…。

表札プレートを掲げるロイドに見せて見せてと。

「うっそだろ。サンタネからそんなもん出るなんて…」
「初めて見た」
「めっちゃ欲しい」
「ヤーチェ隊に装備借りられねぇかなぁ」
「俺たちそんな伝手持ってないだろ」

やっぱり表札も激レア品だった模様。

「これは渡す人が決まってますのでー」
「自分たちで頑張ってー」
美女2人の応援に男女問わず沸いた。

表札は迷わずレイルの自宅に決定してる。王都とを頻繁に往き来してメリリーが1人で帰る事も稀に有るので。

複製も成功。
機能は変わらないが少し薄型プレートになった。

この後原本をクワンがレイルの元までお届け。
人間が帰るより圧倒的に目立たない。


湖畔コテージでクワンの帰りを待ち。バリンから齎された吉報を伝えると。
「殺さなくて良かった」
プレマーレが呟いた。

「ラッキーだな。頼んでもないのに」
ソプランとガッチリ握手。
「人も道具も使いよう。役目はそれぞれってね」
良い事1つも言ってない。
「理由も無く殺して回ったら冒険者では居られなくなるよ」
「そうでした。私はもう中級冒険者」
新品の銀プレートをロイドと出し合った。

2人以外で拍手を送った。

「でも…。プレマーレが俺の愛人候補って何?」
フィーネが返答。
「これだけ美人が一杯居て皆私の友達、てのもそろそろ厳しいでしょ。何人もじゃイライラするけど1人位は居た方が自然かなって考え方変えた。
私の評判が悪くなるのも長い目で見るとねぇ」
「まあプレマーレなら安心か」
「お察しの通り。私はレイルダール様の影。表を歩く為にもスターレン様の看板を利用させて頂こうと」

「ふーん。でも嫁公認って名乗るのは良くない。黙認にしないと」
「どう…違うのですか?」
「人前で。俺に抱き締められたりキスされても良いの?」
「も、黙認で!」

「だしょ。フィーネが居る場面では余所余所しく。居ない場面では少しだけ距離を詰める。それ位の距離感と演技をしなくちゃな」
「勉強に成ります」

「ではでは。待ちに待たせた聖剣さんへのご挨拶と参りましょう!」
「起きてるかなぁ」
「起きていると良いですね」
「2人と勇者の俺が居れば嫌でも飛び起きるって」

ロイドとフィーネ。2人と聖剣カタリデとの関係性はフィーネから何となく聞いている。

前世で別の異世界に居た3人。カタリデもフィーネも地球の日本から飛ばされたと。

世界、世代、種を超えて再び集う親友。

もしも男だったら許さなかったが今は性別不明で元女神の聖剣さんなのだから広ーい心で見守ろう。

羨む反面。元世界の俺は…完全ボッチだったからな!
元から無かったならどうでもええわ!!




--------------

「「おぉ~」」
毎回語彙力が低下するが俺とフィーネの感嘆句。

「いやはや何とも」
「圧巻ですね」
ソプランとアローマの方が真面。

「懐かしいですねぇ」
ロイドには思い出の地。
「クワッ」
案内役のクワンは2度目。

西側の遠距離から見ても。
高い壁、厚い壁、黒曜石と多様な魔石を組み合わせた要塞都市。

それはもう町ではない。無駄を根刮ぎ捨て去った城塞都に見える。

誰か格好いい名前付けよーよ。
最果ての町でもいいけどさ。その癖人類の希望だの最後の砦だのとか言うんだぜ。多分絶対。

ピーカー君は黒竜様と会ってから精神面を鍛える為に瞑想状態を繰り返し口数が減った。

無が行き着く先は虚無。何も無い世界に自ら飛び込まない方法を探る為。日々ママさんたちと交信している。

知らない人が多い場所では喋れないので良い機会だと。

時々静か過ぎてバッグから落としたんじゃないかと不安にもなったがクワンとグーニャとは直ぐに念で繋がれるので安心安全。

忘れ物は無い。さあ行こう。


西外門壁上から鏡光が照らされ各自のギルドカードを掲げた。

見せろの合図。

数分後に外門が開かれ。門内から3人の冒険者が走って来た。

「ようこそ。人類最後の希望、最果ての町へ」
当ったぁ!

「名乗りは代表だけ?それとも不要?」
「不要ですスターレン殿。貴方とフィーネ嬢の名と顔を知らぬのは精々中級冒険者まででしょう。
ここの一般住民以外正規所属は全員上級。中には兼業商人やら行商が出入してますがそれは追々に。
私が町の案内と護衛…。護衛は不要でも外部警備長のフロワードと申します」
行き成り幹部クラスの登場。

向かい右手の若手男性。
「宿の手配をする内務副長のトータムと」
向かい左手の若手女性。
「主に商店などを担当します。内務副長補佐のエナグランセと申します。エナでもグランでもお好きにどうぞ。
内務長は後程ご案内する主席館に詰めて居ります故我らが出迎えをば」

「3人共宜しく。
総長のアボラストさんはタイラントで手紙を受け取ってから随分時間掛かっちゃったけど怒ってない?」
笑いながらフロワード。
「滅相も無い。勝手に招いて催促するだなんて。そんな事したら総長の椅子から蹴落とされますよ」
エナも半笑いで。
「タイラントの高官で在られるお二人に迎えも送らず東部魔境を越えて来いと挑発したような物ですからね」

「それは良かった。分岐路とか地下道とかは東部魔境って言うんだね。初めて知ったよ」
後ろのソプランも。
「俺も初耳だな」
「何か強い魔物居たのかな」
「居たんですかね」
「居たんでしょうね」
嫁もアローマもロイドも首を捻る。

案内3人目が点。フロワードが自我を戻す。
「地竜とかハイエナとか黒馬とか大型蜘蛛の魔物と魔獣が居た筈ですが…。そう言えば…巨大化する赤猫の姿が見えませんが」
「へぇ、そんなの居たんだ。猫は珍獣なのに魔獣扱いされたら嫌だから自宅に置いて来たよ?」

「馬車も無しに…徒歩でこちらへ?」
あれ?何か噛み合わないな。

西の街道の先を指差し。
「鳩に座標覚えさせてマスカレイドの南から直接転移でそこまで来たんだけど?拙かった?」
「まず…くは…な…。いやちょっと待って下さい。三人で相談します」
「どうぞ?」

少し離れて3人で相談タイム。

「転移…あかんかったのか」
「駄目っぽいな」
「え?嘘、やり直し?」
「その様なルールが有るのですかね」
「目の前まで来ているのに面倒な…」
温厚なロイドさんが苛立つ。
「クワァ~」
クワンが呆れて頭上を旋回。

相談を終えたフロワードが再び前へ。
「大変申し訳ないですが。ギルド本部の通過儀礼として魔境を越えられる者のみの入場可。と言う古い仕来りのような物が有りまして」
「えー。招待されて来たのに門前払い?」
「デスパレイドから往復しろって言いたいの?」

「いえ戻れなどとは口が裂けても言えません。
ですが代わりに町内の手練れ五人とここで模擬戦をやって頂きたいのです。
一人は私とスターレン殿。他は中から連れて来ます」
「だったら良かった」
「帰れって言われるよりは」

ソプランのブチ切れ演技。
「客を待たせるな!さっさと連れて来い。その前にルールを言え!」
「防具自由。但し盾は無し。長型の木剣のみの力比べで飛び道具も無し。外壁上と周辺に野次馬が出て来るのは勘弁願いたい」
「全員男でいいからさっさとしろや!」
中級が上級に噛み付く謎。

走り出す3人を見送り。タープや椅子と机。トイレも設置後暫しのティーブレイク。

「強いかな」
「上級しか居ねえしな」
「絵に描いたような大男が来る予感」
「力比べとはどの様な」
「円を描いて出たら負け。参ったと言わせるか気絶させるでしたっけ」
「それだな。要は木剣に乗せて投げれば終わる。拳や打撃はブーイングの嵐だ。盾無し形式だから相手が掴んで来たら何でも有り。こっちから先行しなければいい」
「単純ですが。招かれているのに釈然としませんね」
「秒殺すればいいのさ」
「そうそう」
「この上粗末な宿なら怒りましょうか」
「まあまあ抑えてロイドさん」
「クワッ!」
クワンもご立腹。

見る見る内に出るわ出るわ。上も地上も数百人の野次馬。

「暇だなぁ」
「敵襲が無ければやる事無いんだろ」
ソプラン的確。

時短の為か太縄で5個の直径30mサークルが置かれ中央はおいら。

間隔は20mの横並びで広々土俵の出来上がり。

右端からロイド、フィーネ、飛んでソプラン、アローマの順で並んだ。

審判員のトータムとエナに風マイクを貸してレクチャー。

トータムの挨拶。
「あーあー。良いですねこれ!?」
周りもザワザワ。

「マッハリアの実家で買った物なんでー。定価で3個位なら後で売りまーす」
こちらは地声叫び。

「後でご相談を。では。実力は兎も角。スターレン隊の人員は全員中級。通常なら一勝。今回は臨時の模擬戦なので三勝はして頂きたいと思います」
全勝じゃなくていいんだ。

木剣が配られ。順に対戦相手がサークルに入った。

フィーネさんの予感的中。
推定185のフロワード以外2m越えの大男が4人。

女子3人の前に立つ男はちょいエロい目をしていた。
涎を垂らす程の野蛮人は1人も居ないが。

見渡す野次馬の比率も女性が3割程度。圧倒的に少なければこうなるよな。

各サークル双方身構え。

「始め!」

ここまで引っ張って申し訳無いが…見所は何処にも無く。

全サークル1閃1撃必勝の胴打ちで場外に吹き飛ばして。

「しゅ…終了!!スターレン隊の全勝です!!」

相手5人は自身の重量を倍化する道具を着けていたがお構い無しの完全勝利。

野次馬たちがサーッと退いて行く。
健全に賭け事はしていなかった様子。

転がるフロワードに手を差し伸べ。
「俺たち暇人じゃないんだ。1日だって無駄にしたくない。これで入れるよね?」
手を取り打たれた脇腹を押さえながら立ち上がる。
「大変な失礼を。片付けて中へご案内します」




--------------

西側外壁からはコンパクトな印象を持っていたが門を潜ると東海岸まで連なる広大な面積。

弓なりの海岸線と合わせ上空から見ると超大型弩弓が西大陸を指す形。

町から北側の大平原では作物畑。南側の区画は牛豚鶏の家畜エリア。海岸には漁港と軍港が仕切られ緩やかな下りで見通しスッキリ。

高い建物や監視塔上部にはバリスタ配備。

前言の城塞都を撤回し要塞小国と名付けよう。

「帝国の帝都真っ青な軍備と自給自足の設備だね」
「そうでしょうとも。人類最強を謳う町なので」

「西外壁はやっぱり魔物除け?」
「稀に地下から溢れた魔獣が走って来ますからね。対空設備は竜の谷から仲間外れの飛竜が少々。
東西海洋は世界一広大で直線距離真ん中までは大型海獣も出ませんし。船に乗って沖に出た方が安全です」

「手当しなくて大丈夫?」
「なんの。肋の骨折位は日常茶飯事。ここの人間はさっきの飛竜の肉を少量食べているんで軽傷なら数分放置で治りますよ」
「便利ぃ」
俺たちも似たようなもんです。

こっちは獄炎竜の血肉食べてますから。それも沢山。
他にも色々。

先頭を歩くフロワードが北を指差し。
「あの平原手前の一番高い建物が主席館です。その奥の例の場所は総長と側近数名しか入室許可が無いんで。
今の状態を私に聞かれても困ります」
先手打たれた。
「丁度聞きたいと思ってたとこ」
ロイドとフィーネが後ろで溜息。

「ここ最近は空を飛んでないので中には居ます。
そちらは後のお楽しみとして先に南部の宿の方へ。
ここからトータムとエナに任せ私は総長にスターレン隊の到着報告上げて来ます」
「あ、フロワードさん。ちょっと南東沖にも用事有るから魔導船1隻借りられるか序でに聞いて。
駄目ならタイラントから持って来るから」

「…了解です、と言いたい所ですが今の時期あちら方面は大時化で切立った岩場ばかりですよ」
「あぁ持って来ようかな…。まあ一応聞くだけ聞いて。出港許可も」
「解りました」
脇腹をグリグリしながら手を振って控えのお供と共に北へ向かった。

完全独立自治区だけあって町民のノリが総じて軽い。

露店を開いているおじさんおばさんが素振りの仕草で。
「強いねぇ、英雄隊は」
「また後で寄っとくれー」
等々元気なお声を多く頂いた。

「中は全然陽気で明るいな」
「門前払いの嫌な気分が吹き飛んだわ」
そんな感想を述べる俺たちに案内役の2人は。
「強さが物を言う東大陸ですからね」
「確かめずには居られないんです。お許しを」

「忘れよう。ソプランも」
「全然忘れた」


南部の一番豪華な白塗り宿「月光」シンプル!
の前にトータムが立ち。

「この月光は次世代の勇者様の可能性を秘めるお客様をお迎えする為だけに建てられた宿です」
すんません。もう既に勇者なんです。
「なのでスターレン隊の皆様で丸々貸し切りで…」
慌ただしく準備をしている中を振り返り。
「全く間に合ってませんね。
エリュダー商団やタイラントの施設に比べれば底辺ですがここでは最上。三階構造で上から四四の八部屋。全部屋ツインで洗面所とトイレ付き。
一階が食堂と複数ではやや狭い男女浴場。時間を区切れば自炊もご自由に。食事は明日の朝食からのご提供。
厨房使用と食事の要否は都度料理人か私かエナに要望を申し付け下さい」

「しっかりしてる」
「頑張ってる感がヒシヒシと。カルも納得?」
「ええ。文句を言ったら罰が当ります」
ロイドは穏やかが一番だ。

「警備は建物周辺の巡回のみ。料理人二名と食材運びが一名が玄関を出入します。中からしか開かない非常用の裏口が玄関の真反対に一箇所。
部屋鍵は後程私からお渡し。
アメニティーはトイレ紙以外綺麗に空っぽなので雑貨屋で購入されるか自前の品で御用意を」

「好みが有るからね」
「割り切ってるぅ」

「魔物の襲撃や飛竜が飛んでも外の連中で対処しますので鐘が鳴っても気にせず耳栓でもして寝て下さい。
バリスタの射角は宿を外した設計ですが。たまーに矢で射られた飛竜が落ちて来ます。
宿を潰す程大型の物は滅多に出ませんので…まあまあご安心を」

「ちょっと曖昧になった」
「逆に面白そうね」
「耳栓するかはギャンブルだな」
「私はしないで寝てみます」
「同じく」
「クワッ」
クワンとピーカーが居れば何も怖く無い。
(黒竜様は除く)

「長期も可能ですが食材の用立ても有るのでざっくりどの程度のご滞在でしょうか」
「大体1週間予定」
余裕持って最宮行きたいから。折角のチャンスを逃したら大損。

「解りました。細かい退出日取りは決まり次第ご連絡を。
部屋の掃除は要望を頂いてから。
部屋の合鍵と玄関鍵はエナが一括管理を」
「夕食後の夜間と料理人が入る早朝に玄関の施錠と解錠に参ります。外出の際は何方かお一人は宿内にお残り願います」

「中にここの人誰も居ないもんね」
「最低2人は残しますか」

「まだかな…」
一度トータムが中に入り。
「掃除がまだだばっきゃろー」
と小さく奥から聞こえた。

「のようなので。先に雑貨屋と主立った飲食店をご紹介して適当な店で昼食でも如何でしょうか」
「そやね」
「立ちっぱもあれだし」

戻ったトータムが。
「係がさっきの野次馬に混じったようで遅れてます」
「今先に他を回って昼食をと了解を得ました」
「でしたか。ではその合間に先程の音声道具の商談をさせて下さい。宿は総長との顔合わせを済ませた後で」
「おけ」

エナお勧めの雑貨屋を数軒覗き。港寄りの定食屋で焼き魚定食をオーダー。

白米、赤魚の開き、魚醤の粗汁、岩海苔の粗煮、胡瓜と白菜の塩出汁浅漬け…。
そして箸とスプーンとフォーク。

「お米に漬物に箸って…」
「やはりご存じでしたか。初代勇者様から飛び飛びで先代のクソ勇者まで伝承の半数の勇者様がお箸を遣い。何処からか米の苗を運び。今ではここの主流なんです。
生産量が少ないので町外や西部には回ってません。お土産用にもちょっと厳しいです」

「へぇ。まあここに来て食べられるなら無理には持ち帰らないよ」
「うんうん。先代勇者ってクソだったの?お食事中に品が無いけど」
「失礼。馬鹿先代勇者の話は食事後に。冷めない内にどうぞどうぞ」

「俺らもそろそろ箸習得するか」
「ですね。不慣れで中々難しいですが」
ソプランとアローマも箸にトライ。慣れてない人にはペン2本持ち感覚がどうにも掴めないらしい。

俺たちも子供の頃はあんなだったなぁ。箸の使い方には煩かった元世界の母ちゃんに感謝。

俺たち夫婦とロイドの箸捌きを見てトータムとエナがフンフン言いながら感心していた。

見られながらの食事って緊張するよな。


食後の温かい烏竜茶を…。
「ウーロンここにあったのか…」
「香ばしくて懐かしい」
「懐かしい?」エナがキョトン顔。
「いえいえ。生まれ村のお茶と似てるなぁって。今は廃村になってしまって」
「そうでしたか。立ち入って済みません。烏竜茶は黒竜様に肖って。何時かの勇者様が持ち込まれました。詳細な記録が無いもので」

「この茶葉はお土産に出来る?」
「「少量」であれば問題無いかと」
少量を強調された。ここは余剰を作ってないんだな。

「節度を持ってね。差し支え無いなら先代勇者の話聞かせてよ」
「ええまあ…。女の私は余り口にしたくないのでトータムから」

「男の私でもやや…。五十数年前に突然現われた馬鹿勇者は女神教の教義も品性の欠片も失った相当な乱暴者だったそうで。
箸使いは汚く食事が不味いと床に打ち撒けたり。そこまでは許容だったのですが。
聖剣を抜いてから酷さが増して。当時の総長の奥様を強姦したり」
「うへ…」
「うわぁ…」

「それに飽きると娼館を作れと命じたり。若い女性冒険者に乱暴したり。真に遣りたい放題。
挙句有力な冒険者を幻術で操り中央大陸にまで引っ張り徒党を組み始め。準備も疎らに西大陸へ強行出兵。ギルド本部の意見など何一つ聞きもせず。
英雄ベルエイガ様が割り込まなかったら冒険者隊も全滅していただろうと」
「最悪だな」
「聞かなきゃ良かった…」

「帰った聖剣は何も話したくないと沈黙。西大陸内で起きた事の詳細は誇張改竄されたベルエイガ様の伝記や生き残りの冒険者の話を繋ぎ合わせて漸く知る始末。
その証言すらもどうやら怪しく。未だ真偽は闇の中。魔王と相打ちになって死んだと言う事実以外は何も。

なので久々に現われ。お美しい奥様をお持ちの英雄スターレン殿に我らは淡い希望を抱いているのです」
「二本目の聖剣を手に入れられた。かも知れないと聞いては余計に期待してしまいます」
「成程」
「大変良く解りました」

「今回はその二本目はお持ちで」
「後で総長の前で見せる。見せてと呼ばれて来たんで。
だけど2本目と言ったのはフレゼリカと前王家を倒す上での挙げ口上。
革命する側の俺が正義は我に在ると示したかったから」
「ではやはり偽物…」

「本物見た事ない俺がなんで聖剣ですって言えるの?」
「「あ…」」

「あれはフィーネの忘れ里で見付けた秘剣だよ。白い大剣で輝いたからまあ聖剣でもいいんじゃないかと」
「多分きっと私のお父さんの遺品かな。鍛冶屋だったし」
初期はレイルが遊びで造ったなんてとても言えない。

エナが胸に手を当て。
「なんだかホッとしました。総長が聖剣に二本目を発見したかもと知らせると。
有り得ない!を連呼して数日何処かに飛んで行った事が有りまして」
「「へぇ」」
「間違いであるなら安心です」

ソラリマはカタリデさんと相性悪いんかな…。

そして周りを囲むお耳の数々。

「この説明総長さんの前でするよ。2度も3度も同じ話したくない。…他のお客さんも。給仕や料理人まで出て来てるしさ」
「凄いねぇ。隠さないんだねぇ」
「盗んではいねえな。少なくとも」
「しっかり聞いてらっしゃいますね」
「潔し。純然たる興味…」
「クワ?」

「悪い人たちじゃないんですよ。真面目に仕事はしますし。この町の大半。好奇心が湧くと抑えられない性分で」
身近に性格良く似た妹が居ます。

血脈か、聖剣が傍に居るからか。まあ気質かな。

「主席館行こう。早めに挨拶して宿で休みたいから」
「はい。お手間様でした」
「ではご案内を。会計は私共で済ませます」




--------------

主席館の広い応接室に並ぶ対岸列席者たち。
末席がフロワードなので最奥がアボラストだと思う。

右眼に大きな抉り傷を負った渋いイケおじ。

トータムとエナは対岸後列席に並んで座った。

烏竜茶が運ばれ。アボラが喋り出す前に先手。
「従者や連れを下げろと言うのは無しで。どうせ後から全部話しますし。手間省きにご協力を。
拒否されるなら壁をぶっ壊してでも聖剣に挨拶して帰国しますので宜しくどーぞ」
「どーぞ御贔屓に」

隻眼アボラが笑いながら。
「言わない言わない。何処ぞの王様でも有るまいに。
総長は代表統括であっても王ではない。フロワードの報告を聞いてから聖剣を見に行き全員通して良しとの許可も得てる。気楽に座ってくれ給え」
「ちょっと恥ずかしいわ…」
「私たち先手打つの向いてないかも…」
言えてる。

お茶を飲み飲み。双方の自己紹介をしてからソラリマをテーブルの上に置きご説明。

大半トータムとエナに話した内容と同じ。
「私が偽証した事で誤解を招き聖剣がお怒りなら後で謝罪します。ですがご説明する前に伝えてしまったのはそちらの責任だと私は思います」
「いやまあその通りだが。私も喜ばれると思ってした早とちり。裏目だとはな。
君らが何度かこの大陸に入る内に聖剣の誤解も解けたらしく今は何とも思っていない様子。
物分りは良い。ちゃんと向き合えば話を聞いてくれる。
反面気分屋でもある。求められたら求められた者が謝れば良い」
気分屋なんだ。

「まあ良いでしょう。過去をうじうじ掘り返すのは不毛な時間。何も質問が無ければこの話を終えますが」

アボラストの隣。室内で唯一1人だけ眼鏡を掛けた内務長のポータランが挙手。総長の側近の1人だ。
「この眼鏡は鑑定具ですがこの剣は何も見えない。貴方方全員。白鳩さえも…。
何か阻害品をお持ちのようで。してこの剣が本当にラザーリアで使われた物なのですか?」
疑われてるぅ。

「偽証だったと認めたのに嘘を重ねる意味が何処に有るんですか?」
ザ質問返し。
「装備された状態を見たいなと」
この人も好奇心が抑えられない人。

「はぁ…。解りました。それは町中の広場で明日の昼にお披露目しましょう。他の冒険者や住民の方も多く見たがっている様子なので。
まず!今日は!聖剣にご挨拶をさ・せ・て貰いまして!

明日以降。沖に出ても良い日時。使って良い船。
又は可否。その他希望、要望、ご意見。
私にやって欲しい事。個人的にを乱立するのは無しで。
等々計画を順序良く練り。明日午前までに書面に起こして宿に届けて下さい。

これらは全て!内務部部長である貴方の仕事ですよポータラン殿」
「いや…済みません。早急にアボラスト以下と相談して練り上げます」
「済まないな。管理不足で」
アボラも陳謝。

「ここは国ではない。この大陸には国が無い。それは誰もが知る所。で・す・が。
仕来りや内部ルール。ギルド内規定を各々が遵守する気構えと気位が有るのですから。ダラダラせずに。ある程度の規律を正す方策を打って然るべき。
緩々過ぎです!アボラスト殿」
「う、うむ…」

「このままでは。私たちがタイラントへ帰った後。
冒険者ギルド本部には脳筋しか居ませんでしたと当国の王に伝えなくては為りません。
皆様で頑張って下さい。出来ればそれを帰るまでには見せて頂きたい。

それでは。トイレ休憩を挟んでご挨拶へと参りましょう!」
対岸全員ションボリ頷いた。

モヘッドが言ってた通りな人ばかり。
脳筋、嘘じゃなかった。




--------------

途中から我慢していたトイレを済ませ。
お手々を綺麗に洗って拭き拭きと…。
あれ…今日聖剣抜くんだっけな…。いやいや違う。
最宮クリアしてからやん。

手洗いは身嗜みのマナーです。

トイレから出て応接室方面へ戻ると。隣の会議室から威勢の良い声と机を叩く音が漏れ聞こえた。

廊下にはアボラストが1人ぼっちでポツンと。
「何やってるんですか?」
「今戻ると出られなくなる。案内が先だ。計画書の最後の承認者は私だからな」
「成程」

トイレ方向を振り返ると女子3人とクワン。少し遅れてソプランが戻って来た。

「案内は私一人で充分。理由は解らないが君らだけ残して出て行けと言われているから。挨拶が終わったらそこの会議室に来て欲しい」
聖剣もフィーネたちに気付いてるな。て当たり前。


長い廊下を奥へグルリと回り込み建物裏の出入り口へ。
そこからまた長ーい渡り廊下。その先にもう1棟。
聖剣が鎮座する正室が在る。

他は白壁で正室の建物だけ薄いベージュ色。これもシュルツが好む色だ。

何でも勘でも結び付けるのは良くないが。悪い事ではないので許して貰おう。


先頭のアボラストは石標に鍵を差し1回転させてから徐に扉を開けて入らずに声を掛けた。
「カタリデ様ー。スターレン隊をお連れしましたー。私は退場しまーす」
何もかもが緩々です!

一切表情を変えない豪胆さ。
「一声掛けてから入れば大丈夫だ。どの道今日は徹夜だろう。何時でも構わないから最後の一人が出る時に声を掛けてくれ。
鍵はカタリデ様が自分で閉める」
超便利!

自分で動ける聖剣…。不思議が一杯だ。


こんちはーやらお邪魔しまーすやらクワァ~やらを口にして入室。

元日本人でも土禁ではなかった。

正室内も外壁と同じ色合の壁。聖剣が突き刺さる台座だけが純白だった。

高い天井を見上げると最上部の四方にスリット部が備わっている。あれが自由な出入りの理由。

動体感知式の照明が点灯し遂に聖剣のお姿がお目見え。

余計な装飾は何も無い。オーソドックスな純白大剣。
何も無ければインテリアの飾りかなと思える程のシンプルさだ。これはソラリマを並べて何も知らない人に選ばせたらソラリマを選びそう。特に男子は。

デザインとは裏腹に神々しい聖属性のオーラを放つ。雪原に佇む白剣。きっと鞘の中の剣身も真っ白なのだろう。

「やっと来てくれた…」
前情報のイメージとは丸で違う穏やかな声。気持ちの良い高音が石壁に反響して子守歌のようだった。

最初の声は誰に対してか。それは俺ではない。ロイドとフィーネに対してだ。

時間が勿体無いかと思い問う。
「カタリデ様。発言しても宜しいでしょうか」
「…何かしら」

「ロイドとフィーネを残して退場しても良いですか?
俺と他のメンバーは抜いた後にじっくりと話せると思いまして」
「…どうして今抜かないの?」

「抜く前に最宮の踏破を先にしようと。上手く行けば来月上旬に入れるんで」
「…迷宮の難度が変わるから?」

「そうっすね。最低難度を狙ってるんで」
「…私が居ればメンバーの力量も上がるのよ?」

「一緒に入る仲間の中には受け付けない人も居るんで。
もう少し待って貰えません?3月途中まででも年内には踏破出来ます。
今日の所は2人と積もる話をしてもろて」
「…気遣いは素直に嬉しい。でも…ビビってるの?
日和ってんの?チキンなの?臆病者なの?」
唐突に辛辣!気分屋の気分を害してしまったらしい。

「うーん。全部っすね」
「…そんな臆病者が踏破出来るのかしら」

「まあ踏破しなくても最下層付近の隠し部屋さえ見付けられればいいんで。目的はベルさんの本だし。多分迷宮主とは関係無い場所に隠してる。と予想してます」
「…最高難度じゃないと開かないとしても?」
うっそーん。

「尚更この目で一度は見ないと。駄目ならカタリデさん担いでメンバー入替えて最下層直前でカタリデさん外に出して。それでも駄目なら諦めて最高難度で完全制覇。最低3周になるのかな。そんな感じで」
「…随分のんびりしてるのね。西の因子持ちを放置していたらどんどん力が増強して手が付けられなくなるわよ?」
マジか…。と言いつつ予想通りです。

「それは掘り起こしたシトルリンに責任取らせんと。放置して奪い合って因子集めて。最終的に神格化して魔の神に成るんだろうけども」
「…え?」
「女神様が何と言おうと断じて俺の所為じゃない!先代腐れ外道勇者を転生させた女神様の完全な失態だ!!」
「…」
カタリデさんも他も絶句。

「蠅だった頃の記憶有るもん。大体因子が何処に埋まってるかも知ってるし。3つか4つは蠅の体内に在る。
ベルさんが態々俺に蠅を先に倒すなって忠告したのは蠅で残りも回収させて1発で仕留めろって事。
魔神が発生するよりも。異界から破壊神を呼ばれるよりも早く。
蠅を最大限眠らせたままなら他で潰し合わせて集めさせた方が断然有利。空に逃げる天空竜の対策だけが浮かんでないけど。多分勝ち残るのもそいつ。

蠅に一時的に乗り移って倒しに行くとか。

途中で割り込んで追い掛け回すなんて無駄の極み。俺は終盤で漁夫の利を狙いに行く。例えどんなに強大に成ろうと聖剣握った勇者なら届く。因子抜いた魔王様と共闘するのも対策案の1つ。

天空竜が次元を越えたら天馬の笛で追い掛ける。まあその時は完全ぼっちになるけど。

魔王の因子は大昔に滅びた魔神のコアが砕けた破片。シトルリン原本が今必死こいて残りの因子探してる。多分自分か複製体に埋め込もうとしてる。

破壊神を呼びたいのは魔神復活がズレて失敗した時の追加策。

どっちでもこの地上世界は滅びるし。あいつは念願叶ってハッピーなまま異世界に逃亡で一人勝ち。

結論!今は慌てる時間じゃない。狙い目は我慢出来なくなったシトルリン原本が西以外で動き出した後。その時必ず俺の前に現われる。どーーーしても邪魔だから。

カタリデさんを抜くのはそれからでも良いと考えてる。
どう?俺の読み。悪くないでしょ」
「…そこまで…予測済みだったなんて…」

「大体駄目っすよ。どの神様か知らないけど。魔神と相打ちしたならしたで。破片回収まで別の神に託さないと。
魔王様と勇者造って後追い掃除させようだなんて。虫が良いにも程が有る。無責任!だと俺は思う。

カタリデさんも人間や魔族が便利な掃除屋だと考えてる口ならちょっと合わないなぁ」
「…いいえ。私も元人間ですから人間寄りです。別の話で挑発しようとしていましたが。遙か先まで読まれていたならもう無意味」

「ではごゆっくり。3月の最宮低難度踏破。ベルさんなら必ず抜け道を用意してる。
スフィンスラーで修練と素材集めは充分。同じ事を最宮でも繰り返させる。そんな時間の無駄は絶対にさせない。
俺が抜け道を見逃しさえしなければ本は必ず貰える。
後少しここでのんびりしてて下さいね。逆に外で暴れられると俺の予定が狂う。相談外の邪魔は控えて頂きたい。

貴女はもう神様ではないのだから」
「…解りました。素直に待ちましょう」

「じゃあフィーネ。ロイド。時間足りなかったら明日もたっぷり話せるから。宿で夕食何か作って待ってるよ」
「うん…。ちゃんと帰るから」
「暫しのお待ちを」

「浜辺散策と食材探しに行こー」
「おぅ…。後半さっぱりだったから。その時が来たら説明してくれよ」
「受け入れられなかったが正解です」
「クワァ~???」
「大丈夫!今年はまだ動かない。動きようが無い。レイルとプレマーレが近くに居る状態だとね」
さてさてシトルリン原本さん。ぼっちのお前と強力な助っ人盛り盛りの俺たち。

どうやって崩せるのか楽しみにしてるぜ。




--------------

正室内に残された2人と1本。

「アビ…貴女の旦那さん…。どうしてあんなに先が読めるのよ。未来予知持ってないのに」
「解んないよぉ。我が夫ながら。それからアビは止めて。今はフィーネなの。友達呼びでフィーでもいいわ。
アビって呼ばれると狭間に居た記憶が蘇りそうで怖いの」
「解った。私の事はフウでお願い。3人で旅した楽しい記憶を残したいから」
「私はカルで良いですよ。今も昔も名前に入ってるので」
「良いなぁ。私の人間時代の名付け親…恨むぞ」

「ねえ。どうして…私の為に。アーガイアでも幸せに成れそうだったのに。捨てなくても…」
「カル1人に世界の責任を擦り付けたのがどうしても許せなくて。嫌気がね。それに国王の妃なんて無理よ。
私は平凡な創作士で居たかった。片道の転移具作って平和そうなこの世界に飛んだのに…。
辿り着いたら全然違って。がっかりだった」
「今はゴリゴリ平和に向かってるよ。家の暴れん坊がグイグイ引っ張って」
「幸せそうね。私も人間で頑張れば良かったなぁ」
「もう生まれ変わるしか無いですね」
「どうやったらフウの使命終わるの?」
「多分因子を消化し切ったら。この聖剣が役目を終えて消え去る時が使命の終わり。
それはフィーネたちの使命と同じ。イコールカルの使命も終わりを迎える。皆一緒ね」
「そっかぁ。フウも消えずに人間に成れたら良いのにね」
「無理よ。そこまで都合良くない。もしも人間に成れたら旦那さん襲うわよ」
「そ、それは困る。今の私嫉妬心が制御出来ないの。誰でも構わず殺してしまいそう…」
「フィーネも完全な人間になるんだから。嫉妬心薄くなるかもよ」
「そんなに苛めないで。御父様なら空いてます。フウの好みの渋ーいミドルですよ。見た目も中身も格好良くて」
「それいい!是非紹介して。フィーネと私の和平の為に」
「そうしましょう。心の平安の為に」

スターレンのハーレムは近付いたようで。
永遠に来ない。
そんな異世界由来のお話。

「あ、そうそうカル」
「ん?」
「私の鞘に触れて。柄は絶対駄目。念話が出来て緊急時には単独で飛んで行ける。今はまだこの大陸の地上限定だけど。
黒竜とバトルするなら私は使わないで。相性最悪」
「はい」
「ねえ私は?」
「フィーネ…。学習しようよ。3人分の意識切り分けられる程器用じゃないでしょ」
「もしも天竜と繋がったらスターレンの予定が大幅に狂って流れが敵に傾きますよ」
「ごめん…無謀だった…」




--------------

帰宿した2人の風呂上がりに合わせ魚肉ソーセージとマカロニ簡単グラタンとオニオンレタスサラダ。魚介オニオンスープとタイラントから持ち込んだ堅焼きパンと赤ワインで乾杯ディナー。

「どうだった?明日も話したい?」
「沢山お話したからもう大丈夫」
「これから幾らでも時間が作れますし。明日から山のようなメニューを持って来られそうだなと」

「全部やる必要は無いよ。こっち都合で切って早めに最宮に向かう。タイラントの船も零時過ぎに取りに行く。
潜水艇を待ち焦がれてる婆ちゃん居るしさ。出来れば今回で持ち帰りたい。
どれ位の大きさか解らないから実物見て誰のバッグに入れるか決めよう」

海岸線を歩き。双眼鏡で調べた結果とアルカンレディアの本の記述と略図から起こした南東海図を壁に貼る。

「記述に因るとあの小島が3個固まってる真ん中。三角州の底に沈んでる。若しくは陸続きで渡れる場所。
本を書いた百年以上前にフィーネの潜水能力を予見していたなんて有り得ないと思ってるけど…。一応潜る心の準備しといて」
「うん。絶対見付けよう。ギミックが有るなら最宮のギミックにも関係してる気がする」

「冴えてますねぇ。俺も無関係じゃないと思う。ベルさん何となく3の数字好きっぽいからギミックも三層構造位じゃないかって」
「三つの島に三角州。おぉ確かにそんな気がするな」
「不謹慎ですがワクワクします」

「アローマも冒険者らしくなって来たねぇ。戦うだけが能じゃ無い。こう言う仕掛けやギミックやトラップを解いて行くのも醍醐味の1つだ。
仕掛け人との知恵比べ、みたいな」
「台詞取られたな。何でも勘でも不謹慎って言ってたら冒険者何も出来ねえよ。トラップじゃないなら素直に楽しめばいいんだ」
「はい。減り張りですね」

ピーカー君がテーブルの端にちょこんとお座り。
「僕が居れば大抵のギミックは解ける気が…」
「それは猾だよ」
「楽しさ激減だぜ」
「私たちが大幅に間違えそうだったらヒント頂戴」
「危険を感じた時だとか」
「ピーカー君たちはベルエイガがスルーした唯一の存在ですからね」

「最宮ではピーカーとの勝負に成りそうな予感」
「クワッ」
「あたしも負けませんよ、と。僕も負けませんよ」
勝負に成らない気がする。

「クワンは上空からだな」
「近距離なら共有視も楽勝だしね」
「クワ」

何だか楽しくなってきた。これぞ冒険者隊。




--------------

留守番中のコテージの屋根の上。

膝にグーニャを乗せ撫でながら輝く夜空を眺めた。

「常々凄い洞察力…。推理力ですね。貴方の勇者主人は」
「基本的に謎解きが好きなのニャ」
「謎解きを遙かに越えてますよ。ヒントはベルエイガしか与えていないのに」
「レイル様も小出しにしてますニャ」

「でしたね。忘れてました」
「忘れんぼニャ~」

流れ星が一つ。通り過ぎた。

「忘れる…。もしも私が過去を忘れたいと願っていたのだとしたら。記憶を取り戻した時。私は情に流される…」
「我輩が止めますニャ。何度でも」

昼間に色々な場所で手合わせしたが全戦全敗。

「お願いします。本気の私を止められるのはレイルダール様とグーニャと…沢山居ますね」
「心配要らないニャ。西大陸の本場の魔素を浴びれば我輩は急上昇。聖剣で皆爆上がり。
レイル様は殆ど変わらず。プレマーレだけちょっぴりで上げ止まり。負ける要素が全く何処にも無いニャン」

「絶望的…」

悲しい気分。と同時に。
「でも気が楽に成りました。有り難うグーニャ」
「決は出ています!」
「え?」
「黒竜様とレイル様に誓って置いて。裏切れるのですかニャ~。お馬鹿ですニャ~。善処しますで良かったニャ~。
死ぬより怖い罰が下るニャ」
「グーニャ…」
「ハイニャ?」
「泣いても良いですか?」
「ここには我輩以外誰も居ないニャ」

グーニャを抱きながら色々な意味で号泣した。
星降る夜空の下で一晩中。
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