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第231話 ラザーリア載冠式典・了
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幕開けも幕引きも。決して綺麗とは呼べなかった式典。
弟スタルフと妃たちの門出の被害は最小限に留まり。北部砦と外門の兵員たちには箝口令が敷かれ。新作の傷薬や消毒液を配給して人的被害も零。
公表上は突発臨時演習で決着。
延期日昼から一般の演目が第三会場で開催。最好評を博したロイドの楽団はアルアンドレフ議長とマルセンド外相の承認の元移民権限をタイラント勢。メルシャンを代表に全買いするに至った。
帰りは俺(これも建前)の転移で一斉に帰国する。
「当国で買い取れなかったのは残念だが。何時の日かここラザーリアで新しい演目を披露してくれる事を願う」
スタルフの言葉に楽団全員感涙。
翌午前。ロルーゼ組を国境前まで転移輸送。
「今回は特別。静観して頂けたお礼です。
マルセンド卿。中立で高みの見物も良いですが後輩や後任の育成を怠ると何時か酷い目を見ますよ」
「心痛に染みるお言葉」
「アルアンドレフ議長。お話は身綺麗にしてからお望みを。どうでも良いロルーゼの尻拭いなど御免被りたい」
「…結果で証明して見せようとも」
「カレリナ様。道具に頼る前に素の度胸と演技を磨かれた方が良いかと私は思います」
「本物であれ偽物であれ。下手糞過ぎですよ」
「猛省致します…。次の機会は胸を張って素のお話を」
カルティエンと王子王女よりも早い帰国。対抗策を練り上げられる時間をプレゼント。
これで駄目ならロルーゼとは真の意味でお別れ。フラジミゼールを丸ごとタイラントで買収して終結だ。
午後に一般組(楽団代表者ロイド以外)を退城させ。アッテンハイム組を立ち会い人として身内式。
ソプランとアローマが居ないのは残念だが城外にレイルをプレマーレと二人切りで置きっぱも何かと危ない。
周囲の人間が。
中空庭園の奥の一角で小さな婚礼式。
ケイブラハム卿が神父役。何て贅沢な。
お色直しも一度だけの最少限度の式。
身内ダンスパートに入る前に俺たち夫婦で父上に呼び出され。ここで初めてソプランに何を調べさせていたかを聞いた…。
「どうして…教えてくれなかったんですか!」
怒りに震える俺の胸倉を掴み。
「そうやって癇癪を起こすと思っていたからな。お前が殺して回ってはスタルフの名に傷が付く。堪えろ。
被害は誰も居ない。出る前に潰し切れた。これから監視も強化する。私を信じろ」
「スタン。落ち着いて。何となく解ってたでしょ」
「…はい。どうせ動けなかったですから。これからもお願いします。父上とスタルフを信じて」
地下施設の呪縛なんてもううんざりだ。
今直ぐ地下の変態勇者の頭を潰しに行きたい気持ちを綺麗な庭園の花々で癒した。
ダンスパートでは俺が主要女性陣と踊り。フィーネはスタルフと父上と。他の勇気ある猛者はメイザーとゼノンとラーランが名乗りを挙げたが。
「嫌です!」
「「「えぇ…」」」
堂々と皆の前で断り。何故かメルシャンとペリーニャとクルシュとレレミィとのダンスを披露した。
我が嫁ながら線引きがハッキリし過ぎ。
宮廷楽隊を下げ身内式の夕食会。
これ以上のハプニングは起きないと思ったら大間違い。
何とスタルフが慣れないワインで酔っ払って素の子供っぽさを丸出し。
「兄上ぇ…。ヒック…。タイラントに飽きたらぁ。こっちに戻って来るんですよねぇ。ヒック…」
「弱いなぁ。木の実も食ってまだ2杯目だろ。水飲め水。
帰って来なくていいって言ったのはお前だぞ」
周り。父上以外見て見ぬ振りを。
「の、飲み慣れていないのだ。気にしないでやってくれ」
「全然、酔ってませんよぉ。父上も隅に置けないっすね。
こんな美人さんを隣に侍らして。あれ…二人…三人に見えるぅ。再婚相手さんが一気に三人も!」
「な、何を言っている。その様な話は一つも進んで居らん」
「まあ。ローレン様は私とは遊びの関係だと」
ロイドの煽りに狼狽える父。
「断じて違う!今は混乱させてくれるな」
サンの膝上に頭を乗せてムニャムニャ言い出す始末。
「子供に戻られたみたいですね」
優しげな眼差しでスタルフの髪を撫でた。
「酔い潰れるとこうなるのですね。明日は私ですよ」
「はい。交互に、参りましょう」
羨ましい!
「色々有ったし。気が緩んだのかな。ま、今夜の事は気にしないで」
護衛隊席では4国の隊長たちを中心に各国の防備体制に付いて盛り上がっていた。
話せる範囲での情報交換。この中に裏切り者が居たら偉いこっちゃだが今日位は無礼講。
暫くの後。大欠伸で起き上がったスタルフは。
「頭が少し重いな…。さあ食べよう。お酒はもういいや。
明日から質素な料理になるんだし」
「庶民の味に親しむと言え」
「はーい」
父の説教に完全な子供になった。
主賓テーブルでは各国の郷土料理の話題で持ち切りに。
エンバミル氏に珍しい北海産の魚情報を聞いたり。
「クエが揚がるんですか?行き掛けの魚市では見掛けませんでしたけど」
「君らに買い占められると困るのでな。と言うのは冗談だが漁獲量は南海よりも少ない。日持ちしない深海魚なども殆ど港町で消費されてしまう。当国も冷凍庫が手に入れば流通も変わるのだろうが」
「タイラント土産に是非ご購入を」
「うむ」
元帥の即決に帝国の姫たちが喜んだ。
アッテンハイムでは東部の南町から冷蔵庫の普及が始まり1月の送り迎えの時に教皇邸用のも新調増設した。
「スターレン様。大変申し上げ難いのですが…」
ペリーニャが言い辛そうに。
「あれ?足りてなかった?」
「本館は増設されて充分なのですが。弟が冷凍庫に嫉妬しまして…」
あらまぁ。
「別館分かぁ」
「手持ちがもう無いの。一旦帰ってから届けるわ。中型でいいのよね」
「はい。宜しくお願いします」
ケイブラハム卿がヒッソリと。
「お、お代の方は」
「ペリーニャには別件で色々お世話になってるからその報酬代で相殺ですよ」
「助かります。お小遣いが限られるので」
「良かった。あぁ良かった」
聖都では余り贅沢はしていない模様。
信者からのお布施は何処に消えてるの?と聞くのは野暮ってもんだ。
宴会後は王宮内の父上の私室にお邪魔して地下の書庫に付いてお伺い。
「禁書庫か…」
「何か見たら拙い物でも」
「いや。お前たちなら問題は無い。しかし二年前の陥落後に調べると大半がごっそり抜かれていた。
旧派の屋敷を捜索する時に序でに調べさせたが同士討ち死体以外何も出なかった。
ランディスの刑の執行を早めたのが拙かったのかも知れん。恐らく地下施設に関する概要書だと思う」
「それは宜しくないですね」
教団組織が持ち去ったのは間違いない。
「とっくに国外に出ているだろう。国内で怪しいと言えば前王族最後の生き残り第三王女のユリテーヌの屋敷だ。
だが高価な私財は差し押さえた後。この上で罪を犯してもいない者は裁けない」
「そうっすねぇ」
「そのユリテーヌってどんな人?」
「フレゼリカの家系の中では一番真面な人。まあ短気なのは血筋かな。その性格の所為で40越えた今でも独身。ですよね?」
「ああ。今は西部のテナリアに居るな」
「忍び込んじゃう?」
フィーネさんの悪いお顔。
「責めて私が居ない場所で話してくれないか」
「済みません。ちょっと調子に乗りました」
父に睨まれ頭を掻いて舌を出した。
「盗賊までするかは別にして。書籍名称とかの記録は」
「無いな。有ればお前に頼んでいる」
「ですよねー」
ナノモイ氏が覚えていたら行方が掴めるかも。
--------------
メイザー夫妻とエンバミル氏の和平協議中にアッテンハイム組の帰国。
嫁はラザーリアに残ってシュルツと遣り取りし。パージェント城の受け入れ状況を確認。
転移で直接戻れないから毎回外門前の砦付近に着地。贅沢に慣れ過ぎて地味に辛い。
人間は歩いてなんぼ。散歩しないと頭も惚ける。
などと心で言い訳。俺たちの代名詞クワンを肩に悠然と西門を潜った。
ペットまで偽装出来るもんならやってみな!
ラザーリア城での昼食後。タイラントへ帰国する段階で父上に念を押された。
「忘れてはいまいな」
「忘れてませんよ。でも今は状況的に父上も彼も外に出難いですし。責めてロルーゼが正常化しない事には」
「…転移で城に直接戻れないからな。解った。その時が来るのを心待ちにしていると伝えてくれ」
「はい。慎んでお伝えを」
南正門前に集合。
楽団全員とのご挨拶。
「俺が王族なのは既に過去。気にせず気楽にと言いたい所ですが今はタイラントの役人。これからパージェント城内に直接転移しますので最大限の礼節を保って。
移民手続きが完了するまで数日は城内待機が続きます。
ロルーゼに置いた私物や荷物は諦めて欲しい所。それでもやっぱり取りに行きたい。親類や残された家族に会いたいと言う希望者の方は正直に挙手を」
楽団の男女10名が手を挙げた。
「意外に少ないな…。えーっと責任者のルーファスさんでしたか。楽団メンバーの方って」
「はい。挙手をした者以外は独り身で家族と呼べる者は居りません」
それを狙われたのか。
メルシャンに目配せ。バトンタッチ。
「私が王太子妃のメルシャンです。皆の統括を担う者との認識で構いません。手続き完了後は城下の家臣の屋敷へ移します。
後日タイラント側で遠征団を編成するか。ロルーゼ側で移民団を組ませるかは別途協議を重ねます。
何方も時が必要。先ずは手紙で先方の様子を窺い移民の希望を尋ね為さい。
手紙は全て検閲が入るので不用意な暗文は使わないよう配慮を。
宜しいですね」
「はい!」
元気が良い!
帝国の客人を待たせ切りなので早速転移。
初見一同がパージェント城内の豪華さに驚く。
図体はラザーリア城より小さくても見栄えだけなら世界一金が掛かってる。
レイルは半分演技だろう。
「目の前で見ると趣有るお城ね」
と呟いた。
ソプランたちは衛兵に連れられここで南門から退城。
俺たちよりも早く自宅に帰った。自宅とは…。
楽団とも途中で別れ帝国御一行を歓待室まで案内。
陛下と終結報告を兼ねた昼食会。その後後宮のダリアに会いに行った。
「やっぱり俺も違うと思う。疑惑だらけで鑑定もしなかった。本名は聞いてるから探せなくはない。どうする?」
「今は…大丈夫です。ロルーゼが平定した後でお願いするかも知れません」
フィーネがお小言。
「ダリア。無闇に力使っちゃ駄目って言ったでしょ。使わない。発動させない努力をするって約束忘れたの?」
「御免なさい…。勝手に見えてしまうんです」
「求める本心が反映してるのよ。今はまだ力が弱いから混乱してないみたいだけど。その内に虚構と現実と願望がごちゃ混ぜになるわ。心を強く持ってね」
「はい」
辛そうなダリアを優しくハグ。絵になるなぁ。
て言うてる場合やない。
「対呪詛指輪である程度軽減されてる気もする。だけどそれで何処まで持つかは解らない。これからスキル軽減か精神安定の道具探すからのんびり待ってな。焦らずに」
「有り難う御座います」
「フィーネ。使わなかった西国人形渡そうか。緊急避難的な意味で」
「あぁー…。その場凌ぎには成りそうね」
「人形?とは何ですか?」
西国人形を出して説明。
「何か怖ーい物見た時に使ってみて」
「こちらのお人形の方が怖いのですが。見た目はこんなに可愛らしいのに…」
「枕元に飾って置きなさい。効果は保険よ保険」
「はい…。飾らせて頂きます。でも御姉様がフィーネ様からの贈り物だと知ったら怒りそうな気が」
「む~。メルにも何か贈るか。今年の誕生月祝いに」
そっちも難しい案件。
お茶をしながらメルシャンの戻りを待ったが上層会談が長引き今日の所は帰宅。
自宅に帰ると遠征女性陣がお風呂中。リビングではソプランとシュルツとプリタがお待ち兼ね。
「お帰り為さいませ」
「お勤めお疲れ様でっす!」
「「只今~」」
やっと帰って来た感じ。まだ2週間も経ってないのに。
「お風呂逃しちゃったかぁ」
「後でゆっくり入ろう。ソプランは?」
「俺は宿舎でいい。お嬢の裸ガン見してもいいなら入ってくが」
「させるか!」
「嫌よ」
5人でまったりティータイム。夕食は本棟で決まり。女性陣が長風呂から上がって来た。
先頭のレイルが。
「ん~~。足が伸ばせる風呂はええのぉ~」
「お疲れレイル。今回も色々助かった。ありがと」
「報酬は弾め。鰻か鱧も付けよ」
「鱧は予定外だなぁ。クワンジアは季節外れぽいし。鰻で勘弁して」
「うむ」
レイルの後ろのプレマーレはちゃんと私服を着込んでる。ヒッソリとうっかりを期待していたがちょい残念。
風呂上がり組はアイスティー。
シュルツが先陣を。
「私は聞かない方が良いお話も有りそうですし。先に扇子をお渡しします」
俺たちの帰りに合わせきっちり仕上げて来たらしい。
並べてくれた4本の扇子。2本はレイルのピンク羽。もう2本は何も無し。
「丁度二本分出来ましたのでメリリーさんとプレマーレ様で宜しいかと」
「気が利くのぉ。ほれ」
1本をプレマーレに手渡し2人して扇いだ。
「有り難う御座います。これなら何時でもレイルダール様をお側に感じられて幸福を得られそう。軽く扇いだだけでも涼しいですね」
「そうじゃろうそうじゃろう」
広げると銀鍍金のレリーフが繋がり白薔薇の一枚絵に。
「図柄まで凝ってる。流石は天才」
「それほどでもぉ」
「でもピンクの羽は目立つわね。クリップで隠蔽するにしても。東で使うとヤーチェ隊が飛び付きそう…」
「なっ!?」
「それは困りますね…。いっそ殺しましょうか」
「まてーい。早まるな」
「と言うのを想定して。タイラント東部に生息する紅鳥の羽毛を遇った物を一般販売する事にしました。
特別な効果を省き。花柄も多種多様に。効果付きの白薔薇はこの四本限定です。複数お持ちになればまず詮索される事は無いかと」
「賢いのぉ。それで良いぞ。使い道の有る駒を簡単に殺すでない」
「留意致します」
「後の2本は?」
「そこで少しご相談なのですが」
何故か視線がロイドに向いた。
「私ですか?」
「はい。ロイド様の銀翼の柔毛を使えないかと」
「特殊な効果は何も無いと思いますが」
「いいえ。それが有ったのです」
「え?」
翼を持つ本人が知らない新事実。
「レイル様の羽毛を扇子に織り込んでいる最中にふと思い立ち。以前に頂いたロイド様の羽根を改めて鑑定すると強力な抑鬱効果が備わっていると出ました」
「抑鬱…」
「今後のダリア様に打って付けだと」
「「お!」」
「成程。名案ですね。自分の翼なのに…全く知りませんでした」
「更に。環境変化やスキルを無効化してしまうピーカー君の柔毛少々と同様の抗鬱作用を持つ水竜様の鱗の欠片を合成すれば完璧です!
現状これ以上の物は考え付きません」
天才工作師様が降臨為された。
「「おぉ~」」
シュルツが神々しく見える。
水竜様の鱗の隠し効果も大変驚きですが。
あぁ、だからフィーネに仮面が渡ったのか。
「発想力は既にベルを凌駕しておるのぉ。更なる精進に励めよ」
「頑張ります!」
レイルが人間を褒めた。明日は雪でも降るのかな。
「1本はダリア用として。もう1本は」
「私に。と言いたい所ですがメルシャン様に進呈を。ダリア様ばかり優遇すると嫉妬されるので。今も公私共に多くのストレスを抱えられて居ますし…ね」
意味深。
「有り難うシュルツ。丁度誕生月祝い探してたの。ご褒美は何がいい?」
「…久々に添い寝を…」
急に子供らしさが。
「全然オーケーよ。新作ベッドで熟睡しましょう。その様子だと夜更かしばかりしてるんじゃない?」
「お察しの通りです…」
プリタが溜息。
「最近のお嬢様は濃い目の珈琲で無理矢理起きている事が多くて困ります」
「それは駄目よ」
「発育にも悪いし胃が荒れちゃうぞ」
「解ってはいるのですが。楽しさが勝ってしまって」
ワーカホリックの片鱗まで見せる少女。
「ソプランや。ホテルは取れたのかえ」
「抜かり無く。ポム工房のベッドが入ってる部屋を取り敢えず一週間押さえたぜ、姐さん」
姐さん?は新鮮だ。
「大義で有った。今夜はメリーを可愛がってやろうかのぉ」
堂々とピンク発言。
プレマーレは平然としている。許容値が広大だ。
浮かれるレイルを無視して必要品の準備。
久々にロイドの銀翼姿を見たプリタが拍手。照れながらシュルツに毟り処を吟味されるシュールな光景。
「クリップが2個しか無いわね。今から水没行こうかグーニャ」
「ハイニャ!」
そこでピーカーがバッグの端から首をひょっこり。
「僕の毛を合成するなら隠蔽クリップは不要ですよ。と言うか最後のクリップの合成を弾いてしまいます」
「あ、そっか。でも今後も色々使うし剣魚の角も欲しいからちゃちゃっと行くわ」
「じゃあソプランと一緒に鰻釣りに行くよ。積もる話はまた夜か明日にでも」
「おう。何となく途中からそんな気がしてたぜ」
「では私も」
アローマも立候補。
「アローマはゆっくりしとけ。姐さんの相手と楽団の世話で疲れてるだろ。あっつい珈琲でも淹れといてくれ」
「…解りました」渋々。
お風呂も入っちゃったしな。
「妾たちも行くかの。自分の分は自分で釣りに」
「お供致します」
「風呂入ったのに?」
「タイラントの寒さなぞ温いわ」
「入り直せば良いのです」
「あらそう」
工作班。待機班。釣り班。迷宮班に分かれて出発。
寒空の下。小1時間耐久の結果。
俺だけ坊主。ソプラン4匹。クワン7匹。
レイルとプレマーレが3匹ずつ…。何でや!!
お話は明日に持ち越し。自宅風呂は女性陣に再び占拠されたのでソプランと本棟の大浴場を借りた。
ソプランの背中を流している時。
「何この赤い点々」
「レイルの蝙蝠にぶっ刺された痕だよ!痛くねえから磨いてくれ」
大変だなぁ。
湯船に浸かり。
「何か悩んでる?調査の件は父上から聞いてるよ」
「あぁまあな。俺は調査だけだから大した事はしてねえ。それよかロルーゼの衣装屋の三人の内。男二人が騙され易い女のジョゼって奴を利用してな…。今頃あの世だ。
そんでいい男紹介してやるって連れて来ちまった」
「そりゃ酷えな。男の宛は有るの?」
「それを悩んでんだよ」
「あぁ…なるほろ」
「近場の奴は全員捌けちまったしな。誰か居ねえかなぁ」
ある意味道具探しよりもムズい。
「楽団も丸っとカエザール家に入るから…。ルーミルの記憶が綺麗に飛んだガラード君なんてどうよ。同じ異性に痛い目見た者同士。年下彼氏になるけど」
「…悪くねえな!後は俺らの正体何時バラすか」
裸の背中に紅葉が誕生。
「普通にいってえ。屋敷に移った時にネタバラしすれば?
ロイドの話だと服飾工房の人と面識有りそうだし」
「いいな。明日の打ち合わせで女子の意見貰うか」
「間違いない」
女子の意見は外せません。
--------------
午前。シュルツが工房に籠り元気一杯鰻にバスタブ行水をさせた後。
遠征組を全員を集め。
窓の外をふと見ると雪が降り出した…。
「あれまぁ。珍しい」
予感的中。
「ラザーリアでも降らなかったのにね」
「タープテント張っとくか」
裏庭の焼き台の上に張り張り。珈琲や紅茶をそれぞれの好みに合わせ並べた。
「行きそびれたモルセンナとか。その他挨拶回りを済ませて下旬にいよいよ東大陸に遠征予定です。各自しっかり身体を休めて万全で挑みましょう。
レイルは行か」
「行かん。次にヤーチェに会ったら殺してしまいそうじゃ」
「はい。昨日と正反対の答えが聞こえました。気にせずメリリーやラメル君と遊んでて下さい。
プレマーレ殿」
「はい」
「旧派の屋敷に忍び込んだ時。何か書籍が沢山詰め込まれた書庫みたいなとこは見て」
「無いですね」
「無いかぁ。回収した魔道具は何処で使う?」
「最宮以外の迷宮で試そうかと」
「どっかの迷宮主が可哀想。ロイドとの共闘では喧嘩しないでね」
「本気を出されたら消滅するのでしませんよ」
「他に何か言ってない事とか」
「そうじゃ。フレゼリカが襲撃に来た後。カルティエンとテッヘランがラザーリアに向けて走り出したから魔人兵の幻影を見せてビビらせてやった。
上も下も漏らして泣きながら逃げおった。あれは傑作じゃったのぉ。腹を抱えて笑ったのは何時振りじゃろか」
「あーそれ俺も見たかった」
「城内に居たから無理よ。私はランディス踏んでたし」
他は特に無し。
「続きまして。俺とフィーネは良く知らない傷心中のジョゼって人の彼氏問題に付いて。
このまま行くとソプラン君の愛人に名乗りを挙げそうなので是非とも見付けてあげたい所」
「おいおい」
「絶対に嫌です!絶対に!」
「怒るな。しねーから」
「段々フィーネに似て来たな…。お勧めは同じロルーゼ出身のガラード君なんてどう?」
レイルが唸った。
「あの小僧か…。妾はお勧めではないな」
「と言うと」
「同種の匂いじゃ。傷を舐め合うだけの負け犬根性。共に依存体質で互いを縛り合う。己で金を稼げるようになったら双方浮気し放題。女神教徒でも長くは持たんと思うぞよ」
「「マジかぁ…」」
千年以上生きた人の意見には逆らえん。
「昨日一昨日見た感じ。楽団内は良い雰囲気で人数比も悪くない。責任者や引率の人は既婚者。ジョゼだけが浮いてる印象」
「じゃな」
「困った。邸内には独身者がもう居ない。隣はアルシェさんが最優先で頼み辛い。今から真面目な兵士君を募集してる時間は無い」
「身内は小さな子供ばっかだし。女子多目の」
「放置してると変な奴に直ぐ騙されるしな」
「詰んだ…」
彼女が初の失敗例に成るのかも知れない。
「妾が見てやろうかの」
救いの女神が目の前に居た。
「いいんすか。任せても」
「メリーの友達作りの一環じゃ。ここに残るのも妾だけじゃし。暇潰しになる」
「ふざけた奴でも殺さない?」
「それは解らんのぉ」
やっぱ危険だ。危険しか感じない。
「まあ時間切れになるまで探そうか」
「そうね。地道に」
きっと見付かるでしょう。
だがその考えは甘かった。
昼。ラメル君が本棟で焼いたスコーンとチキン照り焼き。
昼食後にフィーネが冷蔵冷凍庫の配達。ペリーニャが遊びに来て夕食の鰻の蒲焼きをご一緒。
翌日。帝国御一行様を城下案内。その後ラフドッグ観光。
津々と雪が降る中でも穏やかな南海を見てクルシュとレレミィが。
「温かいですねぇ」
「南国はやはり違いますぅ」
ちょっと何言ってるか解らなかった。
運搬用の収納袋にお土産を沢山詰め込み。王都で小型と中型冷蔵冷凍庫を複数御購入。それはガイド役の私めが運んで帝国へ送還。
俺たちが出掛けてる間に本棟と合同で豚骨&鶏ガラベース作りを開始。
その明くる日。朝から中太麺を打ち上げ。昼も夜もラーメン三昧。冬野菜タップリ餡掛け風豆板醤炒めを添えて。
更にその翌日。
移民組のカエザール家への移動と先住ロルーゼ移民との顔合わせ。とコッソリネタバラし。
テッテテー
ええそうです。お相手を探してる暇なんて微塵も有りませんでしたー。
涙目のジョゼ。
「ソフ…。ソプランさんまで私を騙してたんですか」
「人聞き悪い事言うな。気付いてなかったのはお前位なもんだぞ」
ルーファス氏が。
「何となーく。ラザーリア城に入る辺りから。ロディさんやソフテルさんへの対応が別格だったので…。てっきり気付いているものと」
他の楽団員も頷いた。
「え…」
「大体城の門前で暴れておいてお咎め無しなんてねーだろ普通。騙してたんじゃない。ロディさんが話を持って来た時からの内定調査だ。信用出来るか否か。ロルーゼの隠者が紛れてないか。
移民に値する人物たちかどうかのな」
「そんな…私だけ…」
フィーネが優しく肩を撫で。
「ここまで来られたなら信用を勝ち取ったも同然よ。忘れるのは難しくても過去は振り返らず。前向きに新しい恋見付けましょう。この平和なタイラントで」
「フィーネ様…」
「まあ仲直りの握手って事で。俺が鑑定してあげよう。未来の旦那が見えるかも知れないし」
超適当。
恐る恐る差し出された手を取って。
名前:ジョゼ・ベネチア
性別:女
年齢:23歳(誕生月5月下旬)
特徴:人に騙され易い
夫候補(モメットが最有力)
ソプラン・ベネチアの実妹
「モ…。嘘だろ」
「何が見えたの?」
「有り得ない人物が浮かんだ…。それよりも…。ソプランの妹だって」
「はぁ!?」
「へ…?」
「ほぉ」
レイルは妙に納得。
「いやいや無いでしょ」
再鑑定しても結果は変わらず。試しにソプランを鑑定すると今まで出なかった家名が登場。ベネチアと…。
「ベネチア家って何?ウィンザートに有ったっけ?」
「俺が知るかよ。物心付く頃にはスラムに捨てられてたんだぞ」
ご尤も。
「ジョゼの両親は今」
「十年位前に揃って他界しました。それからは両親と仲が良かった隣の子無し家に居候で。ベネチアなんて家名は知りません。過去の話はしたがらなかったので…」
「せ、世間は狭いねぇ」
「狭いねぇじゃねえよ。それより誰か出たのか」
「モメットが最有力候補って」
彼を知る身内全員お口をあんぐり。レイルも目をパチパチして実にキュート。
「モメット様とは」
「無い無い。だってその人お」
ソプランに寸手で口を塞がれた。
「余計な事言うな。まずは会わせてみようぜ。何かの間違いで激変するかも知れねえだろ」
「お兄ちゃん…」
「お前は受け入れるのが早いんだよ!」
「だって。私の裸見てもキスしても何も感じないって」
「裸!そしてキスまで!」
アローマさん発狂寸前。
「ややこしいわ!こいつが勝手にやったんだ。何も無かったし何も起きてねえ」
「とーりあえず一旦落ち着こうか。これからカエザール家のご厚意で親睦会を。その後ジョゼを引き取りまーす」
「屋敷と部屋の割り振りは追って当館の使用人の方から案内されまーす」
国の役人がツアコンしててええんやろか。
親睦会の最中にもソプランとジョゼを並べてみたり立たせてみたり。
「似てる…と言えば似てるかなぁ」
「面影は…。目元とか睫毛とか。女性平均よりは身長が高い所とか」
大勢居ますな。
「義理の妹…になるのですね」
「そうですね。アローマ姉様」
「新鮮です。でも順応が早過ぎます」
「だろ。人を信用する所から入るのは悪くはねえが長所で短所だな」
「褒めないでお兄ちゃん」
「一個も褒めてねーよ。お兄ちゃん止めろ」
「じゃあ兄様で」
「ちげ…。いやどうせならそっちでいい」
ジョゼはニッコニコ。突き抜けた脳天気。良く言えばズバ抜けた超ポジティブ思考。
「悪いけど俺たち来週から準備して長期出張なんだ。4月に一度は戻る。その時にさっきの人招く予定だったから会ってみる?」
「是非。そこまで聞いてはどんな人なのか気になります」
「あんま期待しないで。レリアことレイルは王都かマッサラに居るから自力で良い人見付けたら審査して貰って」
「気楽にな。普段はこんな喋り方じゃ。隣のメリーと仲良くしてやってくれ」
「メリリーです。私はしょっちゅう仕事で王都に来てますのでロロシュ邸かカメノス邸までお訪ねを。解らない事が有れば何でも聞いて下さい」
「宜しくお願いします!」
縁が縁を呼び実となり花となる。偶然から彗星の如く現われたジョゼ。彼女が巻き起こす物事は吉兆か悪夢か。
弟スタルフと妃たちの門出の被害は最小限に留まり。北部砦と外門の兵員たちには箝口令が敷かれ。新作の傷薬や消毒液を配給して人的被害も零。
公表上は突発臨時演習で決着。
延期日昼から一般の演目が第三会場で開催。最好評を博したロイドの楽団はアルアンドレフ議長とマルセンド外相の承認の元移民権限をタイラント勢。メルシャンを代表に全買いするに至った。
帰りは俺(これも建前)の転移で一斉に帰国する。
「当国で買い取れなかったのは残念だが。何時の日かここラザーリアで新しい演目を披露してくれる事を願う」
スタルフの言葉に楽団全員感涙。
翌午前。ロルーゼ組を国境前まで転移輸送。
「今回は特別。静観して頂けたお礼です。
マルセンド卿。中立で高みの見物も良いですが後輩や後任の育成を怠ると何時か酷い目を見ますよ」
「心痛に染みるお言葉」
「アルアンドレフ議長。お話は身綺麗にしてからお望みを。どうでも良いロルーゼの尻拭いなど御免被りたい」
「…結果で証明して見せようとも」
「カレリナ様。道具に頼る前に素の度胸と演技を磨かれた方が良いかと私は思います」
「本物であれ偽物であれ。下手糞過ぎですよ」
「猛省致します…。次の機会は胸を張って素のお話を」
カルティエンと王子王女よりも早い帰国。対抗策を練り上げられる時間をプレゼント。
これで駄目ならロルーゼとは真の意味でお別れ。フラジミゼールを丸ごとタイラントで買収して終結だ。
午後に一般組(楽団代表者ロイド以外)を退城させ。アッテンハイム組を立ち会い人として身内式。
ソプランとアローマが居ないのは残念だが城外にレイルをプレマーレと二人切りで置きっぱも何かと危ない。
周囲の人間が。
中空庭園の奥の一角で小さな婚礼式。
ケイブラハム卿が神父役。何て贅沢な。
お色直しも一度だけの最少限度の式。
身内ダンスパートに入る前に俺たち夫婦で父上に呼び出され。ここで初めてソプランに何を調べさせていたかを聞いた…。
「どうして…教えてくれなかったんですか!」
怒りに震える俺の胸倉を掴み。
「そうやって癇癪を起こすと思っていたからな。お前が殺して回ってはスタルフの名に傷が付く。堪えろ。
被害は誰も居ない。出る前に潰し切れた。これから監視も強化する。私を信じろ」
「スタン。落ち着いて。何となく解ってたでしょ」
「…はい。どうせ動けなかったですから。これからもお願いします。父上とスタルフを信じて」
地下施設の呪縛なんてもううんざりだ。
今直ぐ地下の変態勇者の頭を潰しに行きたい気持ちを綺麗な庭園の花々で癒した。
ダンスパートでは俺が主要女性陣と踊り。フィーネはスタルフと父上と。他の勇気ある猛者はメイザーとゼノンとラーランが名乗りを挙げたが。
「嫌です!」
「「「えぇ…」」」
堂々と皆の前で断り。何故かメルシャンとペリーニャとクルシュとレレミィとのダンスを披露した。
我が嫁ながら線引きがハッキリし過ぎ。
宮廷楽隊を下げ身内式の夕食会。
これ以上のハプニングは起きないと思ったら大間違い。
何とスタルフが慣れないワインで酔っ払って素の子供っぽさを丸出し。
「兄上ぇ…。ヒック…。タイラントに飽きたらぁ。こっちに戻って来るんですよねぇ。ヒック…」
「弱いなぁ。木の実も食ってまだ2杯目だろ。水飲め水。
帰って来なくていいって言ったのはお前だぞ」
周り。父上以外見て見ぬ振りを。
「の、飲み慣れていないのだ。気にしないでやってくれ」
「全然、酔ってませんよぉ。父上も隅に置けないっすね。
こんな美人さんを隣に侍らして。あれ…二人…三人に見えるぅ。再婚相手さんが一気に三人も!」
「な、何を言っている。その様な話は一つも進んで居らん」
「まあ。ローレン様は私とは遊びの関係だと」
ロイドの煽りに狼狽える父。
「断じて違う!今は混乱させてくれるな」
サンの膝上に頭を乗せてムニャムニャ言い出す始末。
「子供に戻られたみたいですね」
優しげな眼差しでスタルフの髪を撫でた。
「酔い潰れるとこうなるのですね。明日は私ですよ」
「はい。交互に、参りましょう」
羨ましい!
「色々有ったし。気が緩んだのかな。ま、今夜の事は気にしないで」
護衛隊席では4国の隊長たちを中心に各国の防備体制に付いて盛り上がっていた。
話せる範囲での情報交換。この中に裏切り者が居たら偉いこっちゃだが今日位は無礼講。
暫くの後。大欠伸で起き上がったスタルフは。
「頭が少し重いな…。さあ食べよう。お酒はもういいや。
明日から質素な料理になるんだし」
「庶民の味に親しむと言え」
「はーい」
父の説教に完全な子供になった。
主賓テーブルでは各国の郷土料理の話題で持ち切りに。
エンバミル氏に珍しい北海産の魚情報を聞いたり。
「クエが揚がるんですか?行き掛けの魚市では見掛けませんでしたけど」
「君らに買い占められると困るのでな。と言うのは冗談だが漁獲量は南海よりも少ない。日持ちしない深海魚なども殆ど港町で消費されてしまう。当国も冷凍庫が手に入れば流通も変わるのだろうが」
「タイラント土産に是非ご購入を」
「うむ」
元帥の即決に帝国の姫たちが喜んだ。
アッテンハイムでは東部の南町から冷蔵庫の普及が始まり1月の送り迎えの時に教皇邸用のも新調増設した。
「スターレン様。大変申し上げ難いのですが…」
ペリーニャが言い辛そうに。
「あれ?足りてなかった?」
「本館は増設されて充分なのですが。弟が冷凍庫に嫉妬しまして…」
あらまぁ。
「別館分かぁ」
「手持ちがもう無いの。一旦帰ってから届けるわ。中型でいいのよね」
「はい。宜しくお願いします」
ケイブラハム卿がヒッソリと。
「お、お代の方は」
「ペリーニャには別件で色々お世話になってるからその報酬代で相殺ですよ」
「助かります。お小遣いが限られるので」
「良かった。あぁ良かった」
聖都では余り贅沢はしていない模様。
信者からのお布施は何処に消えてるの?と聞くのは野暮ってもんだ。
宴会後は王宮内の父上の私室にお邪魔して地下の書庫に付いてお伺い。
「禁書庫か…」
「何か見たら拙い物でも」
「いや。お前たちなら問題は無い。しかし二年前の陥落後に調べると大半がごっそり抜かれていた。
旧派の屋敷を捜索する時に序でに調べさせたが同士討ち死体以外何も出なかった。
ランディスの刑の執行を早めたのが拙かったのかも知れん。恐らく地下施設に関する概要書だと思う」
「それは宜しくないですね」
教団組織が持ち去ったのは間違いない。
「とっくに国外に出ているだろう。国内で怪しいと言えば前王族最後の生き残り第三王女のユリテーヌの屋敷だ。
だが高価な私財は差し押さえた後。この上で罪を犯してもいない者は裁けない」
「そうっすねぇ」
「そのユリテーヌってどんな人?」
「フレゼリカの家系の中では一番真面な人。まあ短気なのは血筋かな。その性格の所為で40越えた今でも独身。ですよね?」
「ああ。今は西部のテナリアに居るな」
「忍び込んじゃう?」
フィーネさんの悪いお顔。
「責めて私が居ない場所で話してくれないか」
「済みません。ちょっと調子に乗りました」
父に睨まれ頭を掻いて舌を出した。
「盗賊までするかは別にして。書籍名称とかの記録は」
「無いな。有ればお前に頼んでいる」
「ですよねー」
ナノモイ氏が覚えていたら行方が掴めるかも。
--------------
メイザー夫妻とエンバミル氏の和平協議中にアッテンハイム組の帰国。
嫁はラザーリアに残ってシュルツと遣り取りし。パージェント城の受け入れ状況を確認。
転移で直接戻れないから毎回外門前の砦付近に着地。贅沢に慣れ過ぎて地味に辛い。
人間は歩いてなんぼ。散歩しないと頭も惚ける。
などと心で言い訳。俺たちの代名詞クワンを肩に悠然と西門を潜った。
ペットまで偽装出来るもんならやってみな!
ラザーリア城での昼食後。タイラントへ帰国する段階で父上に念を押された。
「忘れてはいまいな」
「忘れてませんよ。でも今は状況的に父上も彼も外に出難いですし。責めてロルーゼが正常化しない事には」
「…転移で城に直接戻れないからな。解った。その時が来るのを心待ちにしていると伝えてくれ」
「はい。慎んでお伝えを」
南正門前に集合。
楽団全員とのご挨拶。
「俺が王族なのは既に過去。気にせず気楽にと言いたい所ですが今はタイラントの役人。これからパージェント城内に直接転移しますので最大限の礼節を保って。
移民手続きが完了するまで数日は城内待機が続きます。
ロルーゼに置いた私物や荷物は諦めて欲しい所。それでもやっぱり取りに行きたい。親類や残された家族に会いたいと言う希望者の方は正直に挙手を」
楽団の男女10名が手を挙げた。
「意外に少ないな…。えーっと責任者のルーファスさんでしたか。楽団メンバーの方って」
「はい。挙手をした者以外は独り身で家族と呼べる者は居りません」
それを狙われたのか。
メルシャンに目配せ。バトンタッチ。
「私が王太子妃のメルシャンです。皆の統括を担う者との認識で構いません。手続き完了後は城下の家臣の屋敷へ移します。
後日タイラント側で遠征団を編成するか。ロルーゼ側で移民団を組ませるかは別途協議を重ねます。
何方も時が必要。先ずは手紙で先方の様子を窺い移民の希望を尋ね為さい。
手紙は全て検閲が入るので不用意な暗文は使わないよう配慮を。
宜しいですね」
「はい!」
元気が良い!
帝国の客人を待たせ切りなので早速転移。
初見一同がパージェント城内の豪華さに驚く。
図体はラザーリア城より小さくても見栄えだけなら世界一金が掛かってる。
レイルは半分演技だろう。
「目の前で見ると趣有るお城ね」
と呟いた。
ソプランたちは衛兵に連れられここで南門から退城。
俺たちよりも早く自宅に帰った。自宅とは…。
楽団とも途中で別れ帝国御一行を歓待室まで案内。
陛下と終結報告を兼ねた昼食会。その後後宮のダリアに会いに行った。
「やっぱり俺も違うと思う。疑惑だらけで鑑定もしなかった。本名は聞いてるから探せなくはない。どうする?」
「今は…大丈夫です。ロルーゼが平定した後でお願いするかも知れません」
フィーネがお小言。
「ダリア。無闇に力使っちゃ駄目って言ったでしょ。使わない。発動させない努力をするって約束忘れたの?」
「御免なさい…。勝手に見えてしまうんです」
「求める本心が反映してるのよ。今はまだ力が弱いから混乱してないみたいだけど。その内に虚構と現実と願望がごちゃ混ぜになるわ。心を強く持ってね」
「はい」
辛そうなダリアを優しくハグ。絵になるなぁ。
て言うてる場合やない。
「対呪詛指輪である程度軽減されてる気もする。だけどそれで何処まで持つかは解らない。これからスキル軽減か精神安定の道具探すからのんびり待ってな。焦らずに」
「有り難う御座います」
「フィーネ。使わなかった西国人形渡そうか。緊急避難的な意味で」
「あぁー…。その場凌ぎには成りそうね」
「人形?とは何ですか?」
西国人形を出して説明。
「何か怖ーい物見た時に使ってみて」
「こちらのお人形の方が怖いのですが。見た目はこんなに可愛らしいのに…」
「枕元に飾って置きなさい。効果は保険よ保険」
「はい…。飾らせて頂きます。でも御姉様がフィーネ様からの贈り物だと知ったら怒りそうな気が」
「む~。メルにも何か贈るか。今年の誕生月祝いに」
そっちも難しい案件。
お茶をしながらメルシャンの戻りを待ったが上層会談が長引き今日の所は帰宅。
自宅に帰ると遠征女性陣がお風呂中。リビングではソプランとシュルツとプリタがお待ち兼ね。
「お帰り為さいませ」
「お勤めお疲れ様でっす!」
「「只今~」」
やっと帰って来た感じ。まだ2週間も経ってないのに。
「お風呂逃しちゃったかぁ」
「後でゆっくり入ろう。ソプランは?」
「俺は宿舎でいい。お嬢の裸ガン見してもいいなら入ってくが」
「させるか!」
「嫌よ」
5人でまったりティータイム。夕食は本棟で決まり。女性陣が長風呂から上がって来た。
先頭のレイルが。
「ん~~。足が伸ばせる風呂はええのぉ~」
「お疲れレイル。今回も色々助かった。ありがと」
「報酬は弾め。鰻か鱧も付けよ」
「鱧は予定外だなぁ。クワンジアは季節外れぽいし。鰻で勘弁して」
「うむ」
レイルの後ろのプレマーレはちゃんと私服を着込んでる。ヒッソリとうっかりを期待していたがちょい残念。
風呂上がり組はアイスティー。
シュルツが先陣を。
「私は聞かない方が良いお話も有りそうですし。先に扇子をお渡しします」
俺たちの帰りに合わせきっちり仕上げて来たらしい。
並べてくれた4本の扇子。2本はレイルのピンク羽。もう2本は何も無し。
「丁度二本分出来ましたのでメリリーさんとプレマーレ様で宜しいかと」
「気が利くのぉ。ほれ」
1本をプレマーレに手渡し2人して扇いだ。
「有り難う御座います。これなら何時でもレイルダール様をお側に感じられて幸福を得られそう。軽く扇いだだけでも涼しいですね」
「そうじゃろうそうじゃろう」
広げると銀鍍金のレリーフが繋がり白薔薇の一枚絵に。
「図柄まで凝ってる。流石は天才」
「それほどでもぉ」
「でもピンクの羽は目立つわね。クリップで隠蔽するにしても。東で使うとヤーチェ隊が飛び付きそう…」
「なっ!?」
「それは困りますね…。いっそ殺しましょうか」
「まてーい。早まるな」
「と言うのを想定して。タイラント東部に生息する紅鳥の羽毛を遇った物を一般販売する事にしました。
特別な効果を省き。花柄も多種多様に。効果付きの白薔薇はこの四本限定です。複数お持ちになればまず詮索される事は無いかと」
「賢いのぉ。それで良いぞ。使い道の有る駒を簡単に殺すでない」
「留意致します」
「後の2本は?」
「そこで少しご相談なのですが」
何故か視線がロイドに向いた。
「私ですか?」
「はい。ロイド様の銀翼の柔毛を使えないかと」
「特殊な効果は何も無いと思いますが」
「いいえ。それが有ったのです」
「え?」
翼を持つ本人が知らない新事実。
「レイル様の羽毛を扇子に織り込んでいる最中にふと思い立ち。以前に頂いたロイド様の羽根を改めて鑑定すると強力な抑鬱効果が備わっていると出ました」
「抑鬱…」
「今後のダリア様に打って付けだと」
「「お!」」
「成程。名案ですね。自分の翼なのに…全く知りませんでした」
「更に。環境変化やスキルを無効化してしまうピーカー君の柔毛少々と同様の抗鬱作用を持つ水竜様の鱗の欠片を合成すれば完璧です!
現状これ以上の物は考え付きません」
天才工作師様が降臨為された。
「「おぉ~」」
シュルツが神々しく見える。
水竜様の鱗の隠し効果も大変驚きですが。
あぁ、だからフィーネに仮面が渡ったのか。
「発想力は既にベルを凌駕しておるのぉ。更なる精進に励めよ」
「頑張ります!」
レイルが人間を褒めた。明日は雪でも降るのかな。
「1本はダリア用として。もう1本は」
「私に。と言いたい所ですがメルシャン様に進呈を。ダリア様ばかり優遇すると嫉妬されるので。今も公私共に多くのストレスを抱えられて居ますし…ね」
意味深。
「有り難うシュルツ。丁度誕生月祝い探してたの。ご褒美は何がいい?」
「…久々に添い寝を…」
急に子供らしさが。
「全然オーケーよ。新作ベッドで熟睡しましょう。その様子だと夜更かしばかりしてるんじゃない?」
「お察しの通りです…」
プリタが溜息。
「最近のお嬢様は濃い目の珈琲で無理矢理起きている事が多くて困ります」
「それは駄目よ」
「発育にも悪いし胃が荒れちゃうぞ」
「解ってはいるのですが。楽しさが勝ってしまって」
ワーカホリックの片鱗まで見せる少女。
「ソプランや。ホテルは取れたのかえ」
「抜かり無く。ポム工房のベッドが入ってる部屋を取り敢えず一週間押さえたぜ、姐さん」
姐さん?は新鮮だ。
「大義で有った。今夜はメリーを可愛がってやろうかのぉ」
堂々とピンク発言。
プレマーレは平然としている。許容値が広大だ。
浮かれるレイルを無視して必要品の準備。
久々にロイドの銀翼姿を見たプリタが拍手。照れながらシュルツに毟り処を吟味されるシュールな光景。
「クリップが2個しか無いわね。今から水没行こうかグーニャ」
「ハイニャ!」
そこでピーカーがバッグの端から首をひょっこり。
「僕の毛を合成するなら隠蔽クリップは不要ですよ。と言うか最後のクリップの合成を弾いてしまいます」
「あ、そっか。でも今後も色々使うし剣魚の角も欲しいからちゃちゃっと行くわ」
「じゃあソプランと一緒に鰻釣りに行くよ。積もる話はまた夜か明日にでも」
「おう。何となく途中からそんな気がしてたぜ」
「では私も」
アローマも立候補。
「アローマはゆっくりしとけ。姐さんの相手と楽団の世話で疲れてるだろ。あっつい珈琲でも淹れといてくれ」
「…解りました」渋々。
お風呂も入っちゃったしな。
「妾たちも行くかの。自分の分は自分で釣りに」
「お供致します」
「風呂入ったのに?」
「タイラントの寒さなぞ温いわ」
「入り直せば良いのです」
「あらそう」
工作班。待機班。釣り班。迷宮班に分かれて出発。
寒空の下。小1時間耐久の結果。
俺だけ坊主。ソプラン4匹。クワン7匹。
レイルとプレマーレが3匹ずつ…。何でや!!
お話は明日に持ち越し。自宅風呂は女性陣に再び占拠されたのでソプランと本棟の大浴場を借りた。
ソプランの背中を流している時。
「何この赤い点々」
「レイルの蝙蝠にぶっ刺された痕だよ!痛くねえから磨いてくれ」
大変だなぁ。
湯船に浸かり。
「何か悩んでる?調査の件は父上から聞いてるよ」
「あぁまあな。俺は調査だけだから大した事はしてねえ。それよかロルーゼの衣装屋の三人の内。男二人が騙され易い女のジョゼって奴を利用してな…。今頃あの世だ。
そんでいい男紹介してやるって連れて来ちまった」
「そりゃ酷えな。男の宛は有るの?」
「それを悩んでんだよ」
「あぁ…なるほろ」
「近場の奴は全員捌けちまったしな。誰か居ねえかなぁ」
ある意味道具探しよりもムズい。
「楽団も丸っとカエザール家に入るから…。ルーミルの記憶が綺麗に飛んだガラード君なんてどうよ。同じ異性に痛い目見た者同士。年下彼氏になるけど」
「…悪くねえな!後は俺らの正体何時バラすか」
裸の背中に紅葉が誕生。
「普通にいってえ。屋敷に移った時にネタバラしすれば?
ロイドの話だと服飾工房の人と面識有りそうだし」
「いいな。明日の打ち合わせで女子の意見貰うか」
「間違いない」
女子の意見は外せません。
--------------
午前。シュルツが工房に籠り元気一杯鰻にバスタブ行水をさせた後。
遠征組を全員を集め。
窓の外をふと見ると雪が降り出した…。
「あれまぁ。珍しい」
予感的中。
「ラザーリアでも降らなかったのにね」
「タープテント張っとくか」
裏庭の焼き台の上に張り張り。珈琲や紅茶をそれぞれの好みに合わせ並べた。
「行きそびれたモルセンナとか。その他挨拶回りを済ませて下旬にいよいよ東大陸に遠征予定です。各自しっかり身体を休めて万全で挑みましょう。
レイルは行か」
「行かん。次にヤーチェに会ったら殺してしまいそうじゃ」
「はい。昨日と正反対の答えが聞こえました。気にせずメリリーやラメル君と遊んでて下さい。
プレマーレ殿」
「はい」
「旧派の屋敷に忍び込んだ時。何か書籍が沢山詰め込まれた書庫みたいなとこは見て」
「無いですね」
「無いかぁ。回収した魔道具は何処で使う?」
「最宮以外の迷宮で試そうかと」
「どっかの迷宮主が可哀想。ロイドとの共闘では喧嘩しないでね」
「本気を出されたら消滅するのでしませんよ」
「他に何か言ってない事とか」
「そうじゃ。フレゼリカが襲撃に来た後。カルティエンとテッヘランがラザーリアに向けて走り出したから魔人兵の幻影を見せてビビらせてやった。
上も下も漏らして泣きながら逃げおった。あれは傑作じゃったのぉ。腹を抱えて笑ったのは何時振りじゃろか」
「あーそれ俺も見たかった」
「城内に居たから無理よ。私はランディス踏んでたし」
他は特に無し。
「続きまして。俺とフィーネは良く知らない傷心中のジョゼって人の彼氏問題に付いて。
このまま行くとソプラン君の愛人に名乗りを挙げそうなので是非とも見付けてあげたい所」
「おいおい」
「絶対に嫌です!絶対に!」
「怒るな。しねーから」
「段々フィーネに似て来たな…。お勧めは同じロルーゼ出身のガラード君なんてどう?」
レイルが唸った。
「あの小僧か…。妾はお勧めではないな」
「と言うと」
「同種の匂いじゃ。傷を舐め合うだけの負け犬根性。共に依存体質で互いを縛り合う。己で金を稼げるようになったら双方浮気し放題。女神教徒でも長くは持たんと思うぞよ」
「「マジかぁ…」」
千年以上生きた人の意見には逆らえん。
「昨日一昨日見た感じ。楽団内は良い雰囲気で人数比も悪くない。責任者や引率の人は既婚者。ジョゼだけが浮いてる印象」
「じゃな」
「困った。邸内には独身者がもう居ない。隣はアルシェさんが最優先で頼み辛い。今から真面目な兵士君を募集してる時間は無い」
「身内は小さな子供ばっかだし。女子多目の」
「放置してると変な奴に直ぐ騙されるしな」
「詰んだ…」
彼女が初の失敗例に成るのかも知れない。
「妾が見てやろうかの」
救いの女神が目の前に居た。
「いいんすか。任せても」
「メリーの友達作りの一環じゃ。ここに残るのも妾だけじゃし。暇潰しになる」
「ふざけた奴でも殺さない?」
「それは解らんのぉ」
やっぱ危険だ。危険しか感じない。
「まあ時間切れになるまで探そうか」
「そうね。地道に」
きっと見付かるでしょう。
だがその考えは甘かった。
昼。ラメル君が本棟で焼いたスコーンとチキン照り焼き。
昼食後にフィーネが冷蔵冷凍庫の配達。ペリーニャが遊びに来て夕食の鰻の蒲焼きをご一緒。
翌日。帝国御一行様を城下案内。その後ラフドッグ観光。
津々と雪が降る中でも穏やかな南海を見てクルシュとレレミィが。
「温かいですねぇ」
「南国はやはり違いますぅ」
ちょっと何言ってるか解らなかった。
運搬用の収納袋にお土産を沢山詰め込み。王都で小型と中型冷蔵冷凍庫を複数御購入。それはガイド役の私めが運んで帝国へ送還。
俺たちが出掛けてる間に本棟と合同で豚骨&鶏ガラベース作りを開始。
その明くる日。朝から中太麺を打ち上げ。昼も夜もラーメン三昧。冬野菜タップリ餡掛け風豆板醤炒めを添えて。
更にその翌日。
移民組のカエザール家への移動と先住ロルーゼ移民との顔合わせ。とコッソリネタバラし。
テッテテー
ええそうです。お相手を探してる暇なんて微塵も有りませんでしたー。
涙目のジョゼ。
「ソフ…。ソプランさんまで私を騙してたんですか」
「人聞き悪い事言うな。気付いてなかったのはお前位なもんだぞ」
ルーファス氏が。
「何となーく。ラザーリア城に入る辺りから。ロディさんやソフテルさんへの対応が別格だったので…。てっきり気付いているものと」
他の楽団員も頷いた。
「え…」
「大体城の門前で暴れておいてお咎め無しなんてねーだろ普通。騙してたんじゃない。ロディさんが話を持って来た時からの内定調査だ。信用出来るか否か。ロルーゼの隠者が紛れてないか。
移民に値する人物たちかどうかのな」
「そんな…私だけ…」
フィーネが優しく肩を撫で。
「ここまで来られたなら信用を勝ち取ったも同然よ。忘れるのは難しくても過去は振り返らず。前向きに新しい恋見付けましょう。この平和なタイラントで」
「フィーネ様…」
「まあ仲直りの握手って事で。俺が鑑定してあげよう。未来の旦那が見えるかも知れないし」
超適当。
恐る恐る差し出された手を取って。
名前:ジョゼ・ベネチア
性別:女
年齢:23歳(誕生月5月下旬)
特徴:人に騙され易い
夫候補(モメットが最有力)
ソプラン・ベネチアの実妹
「モ…。嘘だろ」
「何が見えたの?」
「有り得ない人物が浮かんだ…。それよりも…。ソプランの妹だって」
「はぁ!?」
「へ…?」
「ほぉ」
レイルは妙に納得。
「いやいや無いでしょ」
再鑑定しても結果は変わらず。試しにソプランを鑑定すると今まで出なかった家名が登場。ベネチアと…。
「ベネチア家って何?ウィンザートに有ったっけ?」
「俺が知るかよ。物心付く頃にはスラムに捨てられてたんだぞ」
ご尤も。
「ジョゼの両親は今」
「十年位前に揃って他界しました。それからは両親と仲が良かった隣の子無し家に居候で。ベネチアなんて家名は知りません。過去の話はしたがらなかったので…」
「せ、世間は狭いねぇ」
「狭いねぇじゃねえよ。それより誰か出たのか」
「モメットが最有力候補って」
彼を知る身内全員お口をあんぐり。レイルも目をパチパチして実にキュート。
「モメット様とは」
「無い無い。だってその人お」
ソプランに寸手で口を塞がれた。
「余計な事言うな。まずは会わせてみようぜ。何かの間違いで激変するかも知れねえだろ」
「お兄ちゃん…」
「お前は受け入れるのが早いんだよ!」
「だって。私の裸見てもキスしても何も感じないって」
「裸!そしてキスまで!」
アローマさん発狂寸前。
「ややこしいわ!こいつが勝手にやったんだ。何も無かったし何も起きてねえ」
「とーりあえず一旦落ち着こうか。これからカエザール家のご厚意で親睦会を。その後ジョゼを引き取りまーす」
「屋敷と部屋の割り振りは追って当館の使用人の方から案内されまーす」
国の役人がツアコンしててええんやろか。
親睦会の最中にもソプランとジョゼを並べてみたり立たせてみたり。
「似てる…と言えば似てるかなぁ」
「面影は…。目元とか睫毛とか。女性平均よりは身長が高い所とか」
大勢居ますな。
「義理の妹…になるのですね」
「そうですね。アローマ姉様」
「新鮮です。でも順応が早過ぎます」
「だろ。人を信用する所から入るのは悪くはねえが長所で短所だな」
「褒めないでお兄ちゃん」
「一個も褒めてねーよ。お兄ちゃん止めろ」
「じゃあ兄様で」
「ちげ…。いやどうせならそっちでいい」
ジョゼはニッコニコ。突き抜けた脳天気。良く言えばズバ抜けた超ポジティブ思考。
「悪いけど俺たち来週から準備して長期出張なんだ。4月に一度は戻る。その時にさっきの人招く予定だったから会ってみる?」
「是非。そこまで聞いてはどんな人なのか気になります」
「あんま期待しないで。レリアことレイルは王都かマッサラに居るから自力で良い人見付けたら審査して貰って」
「気楽にな。普段はこんな喋り方じゃ。隣のメリーと仲良くしてやってくれ」
「メリリーです。私はしょっちゅう仕事で王都に来てますのでロロシュ邸かカメノス邸までお訪ねを。解らない事が有れば何でも聞いて下さい」
「宜しくお願いします!」
縁が縁を呼び実となり花となる。偶然から彗星の如く現われたジョゼ。彼女が巻き起こす物事は吉兆か悪夢か。
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