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第202話 大乱心のソーヤン
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ウィンザートの大掃除第二弾は無事に終結。
戦力過剰で押し潰せば敵さんも為す術無し。一般への被害も皆無で楽勝だったそう。
生き残りの捕虜の収監と後始末はライザーに任せ。帰って来た嫁さんらと深夜の会合。
メレスのみお隣へ帰宅。
「ペラニウム入りの念話具が3個見付かっただけで後は大した道具や装備は無かった。全部殿下に丸投げ。それよりスタンは大丈夫なの?」
「久々に泣き叫んだわ。背中の方が死ぬ程痛くて。今はルーナが完全に塞いでくれたからもう平気。熱も下がった」
ロイドが恥ずかしそうに。
「私の胸に縋り付いてわんわん泣いて。あれは態とではないですか」
「態とだよ?全力で」包み隠さず。
「え…」半分呆れ。
「いいじゃん。少し位甘えさせてよ。俺に完璧を求めるのは間違いだ。紳士なんて糞食らえ!」
フィーネに額を突っ込まれた。
「開き直るな。で、明日はどうするの?」
「身代わり人形の有効性を再認識したから午前にスフィンスラーの10層再突破。夕方にハーメリンのエリュライズにメリリーとロイドとグーニャ置いて3人+クワンでソーヤンを突撃訪問」
「昼過ぎの空き時間にウィンザートの事後確認して来る。大半牢屋にぶち込んだけど殿下はあっちに居るから」
ウィンザート組に御握りと若芽と茸のスープを提供。
ソプランが御握りをムシャムシャしながら。
「お嬢がそこまでゴリゴリ頑張る必要はねえさ。アローマ分の転移具も手に入ったしよ」
「そうですよ。ゆっくり身体を休めて下さい。多少の残務はこちらで対処致しますから」
「ある程度見届けないと気持ちが悪いのよ。運搬だけだから大丈夫。アローマは帰りに練習ね」
「畏まりました」
ソプランたちに本棟への警戒引き下げを依頼して。
「俺もちょっと気怠いし。今日はさっさと寝よう…。レイル黙ってるけどまだ何か有ったりする?」
「いや…。国内に変化は無い。無いのじゃが今度はクワンジア方面でこちらよりも早く動き出して居る者が一匹」
「えー。ちゃんと回収したのに。念話具回収直前で使われたのかな」
「まあ1匹程度ならまだ。勘の良いブーリとかウィンキー辺りが独自で察知してるかもな。慌てて追い掛けても追い付くのは難しい。道具を退避させてるとしても行き先は限られる。明日じっくりソーヤンに聞こうじゃないの」
試しに世界地図を広げソーヤンとウィンキーとブーリの位置をコンパスで探ると皆クワンジアの同一位置に固まって居た。クワンジアの王都ザッハークに。
「ウィンキーだな。明日警戒されてもどうせ眠らせてゴリ押すんだから放置する」
素知らぬ振りして接近しないと。
「ホースキとナーナーが深く関わってませんようにと祈るばかりね」
「だなぁ。幾つか危険な情報も教えてるから。それが上に伝わってないなら無関係と判断は出来るかな」
信じると言うよりも期待だ。
「身代わり人形も出るか解らないけど。肝心の合成品がギリングスに貸し出し中なら今直ぐは作れないわね」
「おーそうやね。12層はもう何も出ないし返したくないとか言われそう」
レイルが半分呆れて。
「複製筺を忘れておるぞ。機能は多少複雑じゃが単一金属の合成品。手持ちを全部入れてみれば良かろう」
「お!忘れてた。流石はレイルさん。考える事が大胆」
即採用し筺の蓋をパカッとな。
中には更に一回り小さくなった円盤が付随。複製品の複製も成功した。
限界を知るよりも先に対呪詛遠距離防御の方が先決。
ギリングスに貸し出した2個。ニーナにプレゼントした1個を除いた7個の指輪を全投入。明日のお昼が楽しみ。
「配布前で良かったね」
「複製し過ぎて落としちゃうのも考えもんだけどな」
取扱注意品ではある。
アローマが挙手。
「お預かりした古竜の泪はお嬢様に返却すれば宜しいのでしょうか」
「そうね。そうしよか。てかもう1個欲しいな」
欲張り序でにルーナにお願い。
「泣けと言われて泣けるものか。珍しいからこその希少品。泣き虫だった上位種は白竜位だ」
甘くは有りませんでした。
「俺が老衰で死んだ時を想像するとか」
「主の崩御で我も消え去る。寧ろ望む所」
「大量の山葵を摂取してみるとか」
「どうなっても知らんぞ。試すなら明日の迷宮内だな」
怖くて出来ませんよと。
とりま少量で試してみようと結審。今宵の打ち合わせを解散した。
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前回は6名で挑戦して身代わり人形が1個。操り人形の上位版の扱いだと思われる。
今回も同様で1個しか出なかった。
スフィンスラー迷宮残りチャレンジ回数。
1~5層…3回
6層…✕
7~9層…2回
10層…1回
11層…2回
12~14層…✕
15~16層…2回
17層…1回
18~19層…✕
最下層…推定1回
見た目木彫りの人形なので15層の古代樹素材で作れそうな気もする。世界樹の木片を合成するとか。
操縦のタクト、意志の毛糸玉は7個出たので色々な面で使えそう。ベースのメタル君で練習してみないといけないが纏まった時間が今は無い。
鑑定会を実施した12層まで徒歩で下り。ルーナの摺下ろし山葵試食会を行った。嫌嫌。
慟哭の20倍ルーナが流した泪は2粒。と暫く絶叫しながら七転八倒。豪快に火炎を吹いて漸く落ち着いた。
「もう二度と食わぬ!例え主の命でもな」
「ごめんて。でも全部食えって意味で出したんじゃなかったんだよ」
「紛らわしい!」
痛くご立腹で腕の中へと帰った。
以降半日程右腕が異常に熱かったが古竜の泪は2つもゲット出来た。
自宅で昼食を食べ。複製筺のご開帳。
複製は出来ていた。性能も変わらず名前が複製品と付いた。しかしシュルツが詳しく鑑定すると複製を重ねると耐久性が半減していると判明。
第一段階で破壊不能が困難。第二段階では困難が消えると言った具合に。
アンテナと違い対呪詛指輪は大きさ自体は変わらなかった。
質量なのか容量なのか。密度的な物が抜けるらしい。
謎は多いが永遠に複製は出来ないのは解った。手堅くオリジナルを1回複製に留めた方が良いようだ。
複製筺の呪いを解くのに劣化させたのだから当然と言えば当然の結果。
ここ数日工房に籠り切りだったシュルツの新作パンツが完成していた。
「一本一本調整するのは難しいので雷帝パンツの裾にブーツカットを入れ。裏地に大狼様の期間限定毛皮を縫い付け伸縮性を持たせました。
とは言えレイル様用では相性が悪く。上も同系色で新しく作らなければ為らず今は保留としました。
特殊なボンテージ衣装の替えはやはり御自分で作られた方が早いですし納得も行くのではないかと思います」
「ほじゃのぉ。妾の想像をスターレンが読めば絵にも出来るしの。ゆっくり考えるかえ」
どうなっても知らんからな!とは言わない。
皮素材は上位から下位まで豊富な品揃え。略一発縫いになるのでしっかり細部まで採寸して描かなければ。
対呪詛指輪はもう一度オリジナル品で複製してみることで決まった。配布はそれから。
防具でなく所持するだけなら耐久性は低くても構わない。
新しい古竜の泪はアローマとグーニャの小袋の中へ。
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リバイブ処理した新作パンツはこちら。紺色の綿パンにも見え…なくはない。
名前:雷帝のパンツ・改
性能:防御力6200
乾燥状態でも静電気が発生しない
外圧・打撃・帯電・電撃無効
一定保温・防汚・防水
吸湿性無し
主要属性:聖雷風
特徴:極寒の地でも安心
下半身暖かなのにオールシーズン快適
デザイン的な観点から俺たち夫婦はさて置き。ロイドや他の人も珍しい濃紺パンツを履いたんじゃ目立つ目立つ。
仲間ですと公表して歩くような物。結局はプレドラと俺たちで2本ずつ手持ちとした。
プレドラにはバッグとブーツも支給された。のだがノーパンで雷帝を履き晒した挙句。
「主に股間がむず痒いです!」
「下着を履かんか!」
主に怒られても尚、熱いからと言う理由で拒否。暫くそのままで過ごして慣らすのだそう。
ロイドのパンツスタイル(戦闘用)はまだ遠い。
プレドラが引っ込みメリリーを迎え。ラメル君に挨拶後、夕方前にタイラントを出発。ハーメリンの朝。
エリュライズのラウンジでモーニング(夕食)を食べようと真っ先にチェックイン。
フロントに居たサンメイルに謝罪。
「ごめんね。無断で1日ずらして」
「いえ、こちらはお迎えするのが仕事。勿体なきお言葉痛み入ります。スターレン様は遠方からのお客様です故。多少の前後は想定して居ります。
お夕食も不要との事でロスも御座いませんし。謝罪は過分です。それよりもこちらを」
応対しながらカウンター奥の戸棚から1通の手紙を取り差し出した。
差出人は無記名?
「東町のティンダー様。そうお伝えすればお解りになると」
「おぉティンダーか。もう動いてたんだ」
まだハーメリンに居るのかな。
部屋は空いてますとのことでスウィートに集まりモーニングを発注。からの手紙を開封。
「大至急お伝えしたき事有り。クワンジアに関する内容。エリュライズからも近いアーモンテの宿にて」
と簡潔に書かれていた。
「大至急?」
「ティンダーさんがクワンジア?直接繋がらないけど」
ホテルのガイドマップでアーモンテの場所は直ぐに解ったがさてどうしよう。
「モーニング食べたら俺とフィーネで行って来るよ。他は近場で買い物するも良し。ここか下で寛ぐも良し。但しこの部屋のお風呂は誰が入ってても俺突入するからそこんとこ宜しくね!」
「え~」と不満顔のメリリー。
「大丈夫よ。そんな事はさせないから」
「冗談ですがね。クワンジアの件が終わればちゃんと部屋をローテーションするからお待ちなさい」
「良かったです」
「ロイドさん。悪いけどサンメイル氏と一緒に本部行ってブートのベッドと椅子ご披露して来て」
「承知。効率アップですね」
「妾たちは買い物でも行くかえ」
「はい。モーランゼアもハーメリンも生まれて初めてなんでドキドキです。今の内からお土産選びを」
ペッツはロイドと一緒に。それぞれ別れて行動。各自特別変装せずにフードを被るのみ。
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割と大きな中級宿アーモンテの受付でティンダーの在室確認を取ると非常に驚かれた。
「ほ、本物!?てっきりティンダー様のご冗談かと…。
在室ですが昨晩もお仲間さんと飲み歩かれていたのでまだ寝ているかも知れません」
「へぇー」
仲間見付けたのか。早かったな。意外でもない、これで普通だと思う。
部屋は1階最奥の左手。
強めにノックして声を掛けるとあっさり開いた。
目の下にデッカい隈を拵えたティンダーが目が合った瞬間に両膝を床に着いた。
「間に合って、良かった…」
「体調悪いのか?何が有った」
「いや…一昨日から寝れてないだけさ。入ってくれ。二人共居るなら話が早い」
「そか」
「お邪魔します」
荷物も装備品も最低限。酒瓶とグラスと小皿がテーブルに置かれているだけだった。
何気に綺麗好きなのか。
向こう時間の昼過ぎに作った温かいシナモンティーを並べて話を聞いた。
有り難いと飲み干して、リュックを1つテーブルの隅に起きた。
「これはウィンキーから奪った大きな収納鞄だ」
「「は?」」
ウィンキーから…奪った?
他にも指輪やネックレスやセットグラスを並べて。
初めから聞き正すと驚くべき内容だった。
サルサイスを出てハーメリンへ来る途中でフリメニー工房の逃亡者を捕獲。その心を読んで工房とウィンキーが繋がっていると認識。
ハーメリンでも西側に逃亡者が流れたと聞き。クワンジアから来ていた若手4人組冒険者と協力してナノスモアまで追跡。港入り直前で積荷諸共砦と憲兵隊が没収。
ナノスモアからメレディスに向かう船の情報を集めた所。積み込む予定だったのは捕えたフリメニー工房が持ち込もうとしていた物品だった。
ウィンキーの恨みを買っているとは露知らず。ハーメリンに戻って打上げをしていると、終わり際にウィンキーから声を掛けられた。
その時は確信が持てなかったが賭け勝負を挑まれ運良く返り討ち。気絶したのを良い事に部屋へ連れ込み身包み剥いだ。
「変な事はしてない。俺はノーマルだ」
「安心した」
「激しく同意」
道具使用の反動で絶対服従状態になったウィンキーは自分からペラペラと繋がりを喋り倒し。俺を罠に嵌めてメレディスで殺す気満々。
制限時間(1日)も有り、危険だと考えたティンダーがウィンキーに指示してメレディス内の拠点を壊滅させた。
「実際どうなってるのかは解らない。全てウィンキーの証言だからな。心の中では再起不能にしてやったぜ、て喜んでた」
口約通りに死臭塗れで戻ったウィンキーと更なる賭けをしてこれに勝利。
二度目の服従でソーヤンから転移系の道具を奪って何処か誰も知らない場所で自分の記憶を消せと命じた。
「何処に向かったかは聞いてない。昨日の夕方に術は解けてる筈だ。寝首を掻かれるんじゃねえかって悪酔いしても寝られなかったぜ。
念の為転移具と記憶消去の道具の名称は控えて有る。旦那なら探せるんじゃないかってな」
「凄いな。正直ティンダーがここまで出来る人間だとは思ってなかった」
「何かお礼しないと」
「謝礼はいいさ。俺を町から出してくれた恩返しの積もりだったからな。逃亡犯の捕獲報酬でたんまり稼げた。
若手と一緒にタイラントに行ったら誰か独身女紹介してくれよ」
「タイラントは女性比高いし身近にも独身結構居るから多分大丈夫」
ここで居ないなんて野暮は言えない。
「ちょっとガメツイとこも有るけど。真面目で安定収入が有れば大人気よ」
「世知辛いな。序でに仕事も貰えるなら万々歳だ」
リュックの所有権を俺に移行。
ティンダーが心底安心した表情を浮べた。
「これでやっとゆっくり寝られるぜ。若手も紹介したい。ドが付く程純朴な奴らでな。ちゃんと教育したやらないと色々と危うい。帰国する前にもう一度寄ってくれ」
「オッケー」
若手冒険者の教官か…。悪くない。
「俺が死んだらウィンキーが犯人だと思えばいい。鞄の中身はさっぱり解らん。鑑定具も無しに判別してたようだからあいつ素でスキル持ってたのかもな」
「ふむ。有り得るね。陽気な感じで振舞ってたけど目の奥は本心で笑ってなかった」
「今思い返すと確かに胡散臭かったね」
「そういやクワンジアの闇バザーで旦那からパクった金もウィンキーが預かってたから返金させといた。九割近く戻ってると思うぜ」
「おぉ!それは嬉しい。ティンダーも取れば良かったのに」
「あんな大金持てるかよ。一瞬で身が滅ぶ。慎ましく生きるのが俺のポリシーだ。ちょっと苦労する位が人生丁度良いのさ」
良い言葉だな。持ち過ぎるのは宜しくない。何処かで還元して行かないと。
金のネックレスと指輪を鑑定すると何と!ゴルスラ君が排出した運気上昇アイテムだった。フリメニー工房とウィンキーが繋がっていた何よりの証拠。
対呪詛指輪(複製品)と一緒にティンダーに返却。
「これはティンダーが命懸けで取った戦利品だ。持ってて害は一切無いから引き取って。2つの指輪は道具袋に入れとくだけで効果を発揮する」
「ありがてえが。一つ聞いてもいいか」
「何?」
セットグラスを指差して。
「勝負には勝ったがどうも俺の運勢だけで勝てたとは思えない。別の何かが働いてた気がしてな」
「あぁそれな」
グラスを鑑定。
名前:愚者の杯
性能:自分よりも運気に恵まれない人物を従属する
(対となる杯を差し合った者同士)
効果時間:飲み干してから24時間
注いだ者が敗北すると絶対服従状態に陥る
主要属性:闇水
特徴:竹篦返しは痛いが一か八か
悪用するギャンブラーには適さない
手持ちの金の十字架を取り出して。
「これは俺の知人に降り注ぐ呪いや厄災を弾き返せる道具でさ。ウィンキーよりもティンダーの方が人間的に信用度が高かったから意趣返し出来たんだと思う」
答えを聞いて得心した様子。
「それでかぁ。旦那と知り合って二度も救われてたんだな」
「恩に着る必要は無いさ。タイラントのある事件で関わった情報屋からウィンキーの悪事の一部を聞いて一気に信用が地に落ちた。多分その所為」
「タイミングギリギリだったね」
「何にせよ胸がスッとしたぜ。安心したら急に眠くなって来た。悪いが出掛けに水頼んでくんねえか」
「了解。ゆっくり休め」
「これからソーヤン叩きに行く所だったし。もしもウィンキーが再起しても手遅れよ」
「上手く行くといいな」
リュックとメモを引き取り、お礼を兼ねてリゼル木の実小袋を渡した。
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エリュライズでロイドの報告を聞いて世界地図を開いた。
「寝具も椅子も大好評でしたよ。真似しようとしてもあれは無理だとお墨付きを得ました。時間が有ったので精肉店で馬肉の発注を済ませ明後日の午前に受け取れます」
「完璧っす。フィ…。秘書官ぽい」
「私よりも、て言い掛けましたねスタンさん!事実だけれども」
「気の所為です。ソラリマ。そろそろレイル呼んで」
『御意。…もう戻る途中の様だ』
望郷コンパスで捜索するのは
ウィンキー本人、忘却の額冠、転弦の指輪、亜月󠄃の小剣の4種。
記憶を消してしまった所為か隠せる道具を持っているのかウィンキー本人の反応は消えた。
改名して雲隠れの線も有り得る。
残り3種の行方。
「ここって…」
「サークレットはカカンカ村の近くよね」
ウィンキーが最後に選んだと思われる場所は南東大陸のペイルロンド王国北部の村。メイズの実家が在る村でお米をよく買いに行く場所だ。
転弦の指輪と小剣は同じく南東大陸のキリータルニア王国に。大陸南東部の端の小国。暇を持て余したレイルが超高速で海峡を越え、行商として忍び込んで買い物をした場所。内陸寄りの山岳地帯。
ティンダーの命を忠実に守った気配がする。
「クワン。両方共動きは無い。忘却は集落の北側にプラチナ色の頭飾りが落ちてる気がする。転移の指輪2つは山間の何処かに埋まってるか谷間に捨ててあるかも。
忘却は誰かに拾われると危険だ。そっちだけでも回収して欲しい。行けるか?」
「クワッ!」
「合点承知!ニャ」
クワンは場所と地形を繁々と頭に入れてから消えた。
レイルたちが戻った時点で説明して飛ぼうとしていたが忘却冠に興味を示した。
「忘却の方が使い易そうじゃな。最後の仕上げに消し込む記憶を限定出来る。
それに…小剣にも聞き覚えが有るな。本物なら西大陸でも通用する武具じゃ。慌てても然程変わらぬ。一時間位なら待っても良いのではないか」
レイルが気にする程の武器。
「俺も気になるな」
「待ってみようか。どんな剣なの?」
「ラインジットの対じゃな。全てを終結させる剣。総マウデリンで魔族時代のベルが拵えた偶然の産物。打った本人でさえ未来が見えぬと言っていた」
「へぇ…」
ぶっ壊れ品が偶然に、か。
「誰にも渡せず。何処にも捨てられず。もしか潜水艇を造ったのはそれを古代遺跡に納めたかったからなのかも知れぬの」
「怖いわね」
フィーネと同じく背筋が寒くなった。
ラインジットの対。ふと合成したみたらどうなるんだろうと考えた俺に上から苦言。
「今想像した事は止めなさいと。上からかなり強めに呈されましたが、いったい何を」
「いや。それを口にするのは止めとくよ。ベルさんもやっちゃ駄目て言ってる気がするし」
終わりと始まりの結合。何が起きるか神でさえ予測不能な現象が起きる。真にパンドラの筺だ。
1人話題に付いて行けないメリリーは序盤から寝室で仮眠中。自分たちも眠いが夜はまだまだこれから。
クワンはきっかり1時間後に戻って来た。他の武装と小型の収納バッグも一緒に。
「クワッ」
「頭飾りと指輪は岩場の隙間に。転弦と武装と鞄は樹海の土の中。木の葉に紛れていたのでもう少し遅かったら発見は厳しかったかも知れないですニャ。
近くに人間らしい目印が大木に打ち込まれて。後で取りに来る積もりだった様子でした」
諦めが悪いぜウィンキー。
「頭飾りから離れた場所をウロウロ歩き回る男が一人。恐らく元ウィンキーではないかと思われるニャン」
「服従しながらも再起の道筋を残したか。その根性は大したもんだな」
「大人しく農村生活してくれるといいけどね」
どうでしょうなぁ。
レイルに忘却を渡して。
「元老院の議塔は王宮に接近してる。けどもう面倒だからレイルも一緒に。もし結界装置が壊れたら知らぬ存ぜぬで押し通そう」
「外の茶店で待つのも手間じゃしの。さっさと終わらせてこっちで祝杯じゃ」
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バザーにも参加した3人の突然の来訪にソーヤンは目を剥いて驚いていた。
そげなこと知ったこっちゃない。
王宮内の結界装置も無事なようで特に騒ぎにはならなかった。元老院塔を暗に除外した節が垣間見えた。
ピエールは策士だなと見直す。
ソーヤンに取っては最悪のタイミング。俺としては2度目の商談。不自然さは抱かせず執務室内にはソーヤン単独となった。
何時もの苦茶で落ち着きを取り戻したソーヤン。
「それで本日の用向きは」
「態々悪いね。今日はクワンジアでお店を開こうと…」
徐ろに隣のフィーネがハープを取り出し一撫で。
昏睡したのはソーヤンだけではなかった。
誰も居なかった筈の部屋の片隅で誰かが倒れる物音。
透明化と無臭。気配を完全にロストさせたブーリがそこに居た。
念入りにフィーネが奏で続けている間に俺がペタペタ探りながら発見。
パン1姿まで剥き、腕輪を外してやると漸く姿を現わした。
身体検査を施し武装以外の衣服を着せてお縄で御用。
腕輪を収納しようとすると2人に肩を掴まれ。
「解ってるよね?」
「お主には永遠に早いぞよ」
一生かよ。
「解ってます…」
試させてもくれませんでした。男の夢は儚く霧散。
索敵と双眼鏡スキャンで隣室や遠方(オシオイス)でも数人倒れていたが気にせずソーヤンの身体検査を実施。
防御系の装飾品が多数。中でも金の差し歯が長寿の歯。抜歯すると老衰で天に召される恐れが有る為、それだけは断念。
欲しいな長寿。人間に戻ったフィーネと何時までも若々しくと望むのはきっと欲張りなのだろう。
「妾に任せよ。最後の最後で自ら抜かせてやるわ」
悪いお顔が聖母に見えた。
急遽グーニャ隊員を招待して盗聴器の回収に派遣。ブーリが居た奥の壁は隣室に繋がる透かしギミック。これも面白いなと丸っと回収決定。
グーニャが各所で拾い集めて来た盗聴器を沈黙箱に納め第一段階で隣室含め全員の記憶から盗聴器と抜け壁の記憶を抹消。オシオイスの部屋は放置。
主に記憶が無ければどうと言う事は無い。下が騒いでも後の祭。盛大に喧嘩してくれ。
ソーヤンを金椅子の上で起こしスラスラと白状させた。
ティマーンの家族の行方。
南東大陸。レンブラント公国首都フィオグラの拠点屋敷にて軟禁中。ローレライが襲撃する前に回収したい。
ロルーゼの名無しに付いて。
本名はトロイヤ・ランバート。家族をティマーン一家と同じ所に拉致。オマケにトロイヤから詳細の記憶を忘却ティアラで消した。愚劣極まりない非道にお手上げ。仕事が増えたが序でに回収。
闇商での立ち位置。
何と前総代表者その人だった。ローレライが倒そうとしている当人だと判明。
西大陸のシトルリンとの関係性。
前代からの親友で邪神教創設に協力した。物資の援助は俺の動向を探りながら今でも継続。念話具はこの執務室の本棚。女神の彫像の裏に安置されていた。
迷わず回収。室内と隣室周辺の道具も吐かせ全没収。
塔内にはもう何も無いのを確認して道具に関する記憶を消去。
ホースキとナーナーの認知度。
裏の顔は一切知らせず。闇商の案内役を遣らせていただけのクワンジア内限定秘書官。大変に僥倖。
シトルリンに関する事象。
西大陸内には関与無し。結局レイルの娘アモンが誰に監禁されているのかは不明のまま。
シトルリン関連の記憶を登録抹消した上で教団との繋がりを経済面での協力関係に書き換えた。
アホの子に生まれ変わったブーリが身に着けていた転移具をソーヤンに持たせ共にフィオグラに送還。
向こうの組織を即時解体。保管中の道具や武装をローレライに送る様仕向け。肉体寿命を理由に引退を宣言。持て余した金銀財宝を部下にバラ撒き、国内外の人質たちも全解放。
ティマーンとトロイヤの家族を引き取り帰還。
怯える5名に事情を説明して説得。
ティマーンの嫁と娘。トロイヤの嫁と娘2人。フィーネが綺麗な衣服を提供。分配された財宝を袋詰めにティマーンの仮家に届けた。
深酒でボロボロのティマーンとの感動の再会も一入。
「詳しく説明してる暇は無い。主要な部分は奥さんに説明したから聞いてくれ。
見知らぬ3人がロルーゼから来る名無し、トロイヤの家族だからここで預かって引き合わせろ。
ティマーンとトロイヤの記憶はソーヤンから消した。これからは堂々と表を歩けるぞ」
「有り難う…。本当に、有り難う」
「泣くのは早い。トロイヤは家族に関する記憶を一部消されてる。逃げないように説明してやるのがお前の最初の仕事だ。解ったか」
「承知した。必ず伝える。何となくだが娘の顔は覚えてる様子だった。それに賭けよう」
言われて見ると長女の方がミーシャの面影とダブる。それで一時期付き纏っていたのかも知れない。
ならば記憶が甦る可能性も。
トロイヤの奥さんの頭を撫で。
「直ぐには思い出せないかも知れないからショックを受けないように」
「はい…。掴んだら離しません」
彼のスキルを熟知してる故の自信。
「ティマーンの胸の道具の連動具も引き取った。後日に取り出す手術を行う。出血量が多くなるから酒は控えろ」
「あぁ待ち遠しいな。酒なんてもう要らない」
手持ちのサンドイッチとお茶入りの水筒。木の実と新品の歯ブラシセットと現金を少量置いて。
「3人は近くに宿を取るといい。町の案内はティマーンにして貰う。現金は派手に使うな。財宝の換金も5人の入国処理を済ませてからだ。
明日俺の従者2人をここへ派遣するから指示に従って」
「「はい!」」
奥さん2人は元気になった。子供たちはまだ混乱中
サンドイッチを食べ始めた隙に撤退。
ハーメリンの執務室からアローマに通話。
「俺の座標見てた?」
「はい。志かと」
「その借屋にティマーンと家族が居る。特別ゲストも3人居るから明日ソプランと訪ねて入国手続きを直接城へお願い」
「畏まりました。こちらはお任せを」
金椅子に座り直したソーヤンの対面に座ってすっかり衰えてしまった顔を眺めた。
テーブルを指で叩き。
「さてと。どうやって落とし前を付けさせるか…。ウィンキーの記憶を消すとターマインで真面目に働いてた傘下の人との整合性が取れなくなる。それは温存。
取り敢えずモーランゼア、メレディス、帝国、ロルーゼ内の直接の裏関係者を全部書け」
「それが終わったらその他の国も全部よ」
「はい…」
目が虚ろで機械のように書き上げられたリストの中にはマッハリアの改革派の数人やロルーゼの偽王とロールデンマンの名前まで有った。
メレディスのモンターニュ王と闘技大会を視察に来た外務大臣のメーチャホ。
タイラントと帝国は綺麗に粛正されて居ない。
モーランゼアとアッテンハイムは女神様の影響が強すぎて直接介入は無理だった。
内陸小国群は純粋な山神教で話が通じない。
南東大陸はついさっき切り離したからもう居ない。
南西に関わるとプレドラに感知される懸念が有り置いてない。東大陸も同様の理由。
かなり絞れて来た。
「ロールデンマンがお前の犬だったとは。てっきりフレゼリカの飼い犬だと思ってた」
「あの男は欲望の赴くまま。その場の長者に平気で尻尾を振り乱すタイプです。邪魔になる前に実害の少ないロルーゼに追い遣った形が近いかと」
あの逃げ足の速さなら納得。
「ふむ。まずメーチャホ、ロールデンマン、マッハリアの改革派の記憶全部消して」
「ええじゃろ。王は残すのかえ?」
「仮にも王だから自分で動けば必ず足が付くよ」
「ほぅか」
手早く簡単あらビックリ。
「クワンジア内はオシオイスだけだな」
「はい」
仕上げとばかりにソーヤンをオシオイスの執務室に飛ばして遠隔で同じ記憶を消した。
戻した爺さんの記憶を改竄。
俺たちとの遣り取りをブルーダイヤの商談に擦り替え。ウィンキーはメレディスに行かせ行方知れず。南東は管理が面倒になって自分で見限った。と
再就寝のソーヤンを起こす前に隣室通路を大きく切り取りフィーネのリバイブとクリアで縁取りを自然に偽装。今やガラ空きの通路と化した。
最後に今朝衝動的に模様替えしたと植え付けて起こした。
「おぉ…商談中に居眠りとは済まない。何処まで話していたかな」
「急に寝るからビックリしましたよ。純度の高い青ダイヤが見付かったら最優先で譲って下さいと」
「お身体が辛いなら後人に道を譲るのも華ですよ」
「面目ない。確かに働き過ぎた。引退も視野に入れるとするか」
透明化したグーニャを頭に乗せ。一路ハーメリンへ帰宿。
クワンジアで取り逃してた邪神教団幹部を無傷で捕獲。洗い浚い喋らせるとメレディスは完全に孤立化。残党は帝国内には皆無。マッハリアとロルーゼの中央政府周辺にチラリと異分子が残る。そいつらは来年の式典前後で叩き潰すからもう心配無いよ。
懸念としてはメレディス内で大きな内戦が勃発。それよりも前に出港した組織関係者が北大陸と東大陸に二百前後ずつ駐留していて。東西の警戒レベルは解除せず引き下げに留めた方が良い。
とアストラ氏に速報で伝えた。
配達は勿論我らのクワンちゃん。
帰りと同時に祝勝会を開催。激しい眠気も何のその。
今回メレディス以外は完全無血決着に酔い痴れた。
戦力過剰で押し潰せば敵さんも為す術無し。一般への被害も皆無で楽勝だったそう。
生き残りの捕虜の収監と後始末はライザーに任せ。帰って来た嫁さんらと深夜の会合。
メレスのみお隣へ帰宅。
「ペラニウム入りの念話具が3個見付かっただけで後は大した道具や装備は無かった。全部殿下に丸投げ。それよりスタンは大丈夫なの?」
「久々に泣き叫んだわ。背中の方が死ぬ程痛くて。今はルーナが完全に塞いでくれたからもう平気。熱も下がった」
ロイドが恥ずかしそうに。
「私の胸に縋り付いてわんわん泣いて。あれは態とではないですか」
「態とだよ?全力で」包み隠さず。
「え…」半分呆れ。
「いいじゃん。少し位甘えさせてよ。俺に完璧を求めるのは間違いだ。紳士なんて糞食らえ!」
フィーネに額を突っ込まれた。
「開き直るな。で、明日はどうするの?」
「身代わり人形の有効性を再認識したから午前にスフィンスラーの10層再突破。夕方にハーメリンのエリュライズにメリリーとロイドとグーニャ置いて3人+クワンでソーヤンを突撃訪問」
「昼過ぎの空き時間にウィンザートの事後確認して来る。大半牢屋にぶち込んだけど殿下はあっちに居るから」
ウィンザート組に御握りと若芽と茸のスープを提供。
ソプランが御握りをムシャムシャしながら。
「お嬢がそこまでゴリゴリ頑張る必要はねえさ。アローマ分の転移具も手に入ったしよ」
「そうですよ。ゆっくり身体を休めて下さい。多少の残務はこちらで対処致しますから」
「ある程度見届けないと気持ちが悪いのよ。運搬だけだから大丈夫。アローマは帰りに練習ね」
「畏まりました」
ソプランたちに本棟への警戒引き下げを依頼して。
「俺もちょっと気怠いし。今日はさっさと寝よう…。レイル黙ってるけどまだ何か有ったりする?」
「いや…。国内に変化は無い。無いのじゃが今度はクワンジア方面でこちらよりも早く動き出して居る者が一匹」
「えー。ちゃんと回収したのに。念話具回収直前で使われたのかな」
「まあ1匹程度ならまだ。勘の良いブーリとかウィンキー辺りが独自で察知してるかもな。慌てて追い掛けても追い付くのは難しい。道具を退避させてるとしても行き先は限られる。明日じっくりソーヤンに聞こうじゃないの」
試しに世界地図を広げソーヤンとウィンキーとブーリの位置をコンパスで探ると皆クワンジアの同一位置に固まって居た。クワンジアの王都ザッハークに。
「ウィンキーだな。明日警戒されてもどうせ眠らせてゴリ押すんだから放置する」
素知らぬ振りして接近しないと。
「ホースキとナーナーが深く関わってませんようにと祈るばかりね」
「だなぁ。幾つか危険な情報も教えてるから。それが上に伝わってないなら無関係と判断は出来るかな」
信じると言うよりも期待だ。
「身代わり人形も出るか解らないけど。肝心の合成品がギリングスに貸し出し中なら今直ぐは作れないわね」
「おーそうやね。12層はもう何も出ないし返したくないとか言われそう」
レイルが半分呆れて。
「複製筺を忘れておるぞ。機能は多少複雑じゃが単一金属の合成品。手持ちを全部入れてみれば良かろう」
「お!忘れてた。流石はレイルさん。考える事が大胆」
即採用し筺の蓋をパカッとな。
中には更に一回り小さくなった円盤が付随。複製品の複製も成功した。
限界を知るよりも先に対呪詛遠距離防御の方が先決。
ギリングスに貸し出した2個。ニーナにプレゼントした1個を除いた7個の指輪を全投入。明日のお昼が楽しみ。
「配布前で良かったね」
「複製し過ぎて落としちゃうのも考えもんだけどな」
取扱注意品ではある。
アローマが挙手。
「お預かりした古竜の泪はお嬢様に返却すれば宜しいのでしょうか」
「そうね。そうしよか。てかもう1個欲しいな」
欲張り序でにルーナにお願い。
「泣けと言われて泣けるものか。珍しいからこその希少品。泣き虫だった上位種は白竜位だ」
甘くは有りませんでした。
「俺が老衰で死んだ時を想像するとか」
「主の崩御で我も消え去る。寧ろ望む所」
「大量の山葵を摂取してみるとか」
「どうなっても知らんぞ。試すなら明日の迷宮内だな」
怖くて出来ませんよと。
とりま少量で試してみようと結審。今宵の打ち合わせを解散した。
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前回は6名で挑戦して身代わり人形が1個。操り人形の上位版の扱いだと思われる。
今回も同様で1個しか出なかった。
スフィンスラー迷宮残りチャレンジ回数。
1~5層…3回
6層…✕
7~9層…2回
10層…1回
11層…2回
12~14層…✕
15~16層…2回
17層…1回
18~19層…✕
最下層…推定1回
見た目木彫りの人形なので15層の古代樹素材で作れそうな気もする。世界樹の木片を合成するとか。
操縦のタクト、意志の毛糸玉は7個出たので色々な面で使えそう。ベースのメタル君で練習してみないといけないが纏まった時間が今は無い。
鑑定会を実施した12層まで徒歩で下り。ルーナの摺下ろし山葵試食会を行った。嫌嫌。
慟哭の20倍ルーナが流した泪は2粒。と暫く絶叫しながら七転八倒。豪快に火炎を吹いて漸く落ち着いた。
「もう二度と食わぬ!例え主の命でもな」
「ごめんて。でも全部食えって意味で出したんじゃなかったんだよ」
「紛らわしい!」
痛くご立腹で腕の中へと帰った。
以降半日程右腕が異常に熱かったが古竜の泪は2つもゲット出来た。
自宅で昼食を食べ。複製筺のご開帳。
複製は出来ていた。性能も変わらず名前が複製品と付いた。しかしシュルツが詳しく鑑定すると複製を重ねると耐久性が半減していると判明。
第一段階で破壊不能が困難。第二段階では困難が消えると言った具合に。
アンテナと違い対呪詛指輪は大きさ自体は変わらなかった。
質量なのか容量なのか。密度的な物が抜けるらしい。
謎は多いが永遠に複製は出来ないのは解った。手堅くオリジナルを1回複製に留めた方が良いようだ。
複製筺の呪いを解くのに劣化させたのだから当然と言えば当然の結果。
ここ数日工房に籠り切りだったシュルツの新作パンツが完成していた。
「一本一本調整するのは難しいので雷帝パンツの裾にブーツカットを入れ。裏地に大狼様の期間限定毛皮を縫い付け伸縮性を持たせました。
とは言えレイル様用では相性が悪く。上も同系色で新しく作らなければ為らず今は保留としました。
特殊なボンテージ衣装の替えはやはり御自分で作られた方が早いですし納得も行くのではないかと思います」
「ほじゃのぉ。妾の想像をスターレンが読めば絵にも出来るしの。ゆっくり考えるかえ」
どうなっても知らんからな!とは言わない。
皮素材は上位から下位まで豊富な品揃え。略一発縫いになるのでしっかり細部まで採寸して描かなければ。
対呪詛指輪はもう一度オリジナル品で複製してみることで決まった。配布はそれから。
防具でなく所持するだけなら耐久性は低くても構わない。
新しい古竜の泪はアローマとグーニャの小袋の中へ。
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リバイブ処理した新作パンツはこちら。紺色の綿パンにも見え…なくはない。
名前:雷帝のパンツ・改
性能:防御力6200
乾燥状態でも静電気が発生しない
外圧・打撃・帯電・電撃無効
一定保温・防汚・防水
吸湿性無し
主要属性:聖雷風
特徴:極寒の地でも安心
下半身暖かなのにオールシーズン快適
デザイン的な観点から俺たち夫婦はさて置き。ロイドや他の人も珍しい濃紺パンツを履いたんじゃ目立つ目立つ。
仲間ですと公表して歩くような物。結局はプレドラと俺たちで2本ずつ手持ちとした。
プレドラにはバッグとブーツも支給された。のだがノーパンで雷帝を履き晒した挙句。
「主に股間がむず痒いです!」
「下着を履かんか!」
主に怒られても尚、熱いからと言う理由で拒否。暫くそのままで過ごして慣らすのだそう。
ロイドのパンツスタイル(戦闘用)はまだ遠い。
プレドラが引っ込みメリリーを迎え。ラメル君に挨拶後、夕方前にタイラントを出発。ハーメリンの朝。
エリュライズのラウンジでモーニング(夕食)を食べようと真っ先にチェックイン。
フロントに居たサンメイルに謝罪。
「ごめんね。無断で1日ずらして」
「いえ、こちらはお迎えするのが仕事。勿体なきお言葉痛み入ります。スターレン様は遠方からのお客様です故。多少の前後は想定して居ります。
お夕食も不要との事でロスも御座いませんし。謝罪は過分です。それよりもこちらを」
応対しながらカウンター奥の戸棚から1通の手紙を取り差し出した。
差出人は無記名?
「東町のティンダー様。そうお伝えすればお解りになると」
「おぉティンダーか。もう動いてたんだ」
まだハーメリンに居るのかな。
部屋は空いてますとのことでスウィートに集まりモーニングを発注。からの手紙を開封。
「大至急お伝えしたき事有り。クワンジアに関する内容。エリュライズからも近いアーモンテの宿にて」
と簡潔に書かれていた。
「大至急?」
「ティンダーさんがクワンジア?直接繋がらないけど」
ホテルのガイドマップでアーモンテの場所は直ぐに解ったがさてどうしよう。
「モーニング食べたら俺とフィーネで行って来るよ。他は近場で買い物するも良し。ここか下で寛ぐも良し。但しこの部屋のお風呂は誰が入ってても俺突入するからそこんとこ宜しくね!」
「え~」と不満顔のメリリー。
「大丈夫よ。そんな事はさせないから」
「冗談ですがね。クワンジアの件が終わればちゃんと部屋をローテーションするからお待ちなさい」
「良かったです」
「ロイドさん。悪いけどサンメイル氏と一緒に本部行ってブートのベッドと椅子ご披露して来て」
「承知。効率アップですね」
「妾たちは買い物でも行くかえ」
「はい。モーランゼアもハーメリンも生まれて初めてなんでドキドキです。今の内からお土産選びを」
ペッツはロイドと一緒に。それぞれ別れて行動。各自特別変装せずにフードを被るのみ。
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割と大きな中級宿アーモンテの受付でティンダーの在室確認を取ると非常に驚かれた。
「ほ、本物!?てっきりティンダー様のご冗談かと…。
在室ですが昨晩もお仲間さんと飲み歩かれていたのでまだ寝ているかも知れません」
「へぇー」
仲間見付けたのか。早かったな。意外でもない、これで普通だと思う。
部屋は1階最奥の左手。
強めにノックして声を掛けるとあっさり開いた。
目の下にデッカい隈を拵えたティンダーが目が合った瞬間に両膝を床に着いた。
「間に合って、良かった…」
「体調悪いのか?何が有った」
「いや…一昨日から寝れてないだけさ。入ってくれ。二人共居るなら話が早い」
「そか」
「お邪魔します」
荷物も装備品も最低限。酒瓶とグラスと小皿がテーブルに置かれているだけだった。
何気に綺麗好きなのか。
向こう時間の昼過ぎに作った温かいシナモンティーを並べて話を聞いた。
有り難いと飲み干して、リュックを1つテーブルの隅に起きた。
「これはウィンキーから奪った大きな収納鞄だ」
「「は?」」
ウィンキーから…奪った?
他にも指輪やネックレスやセットグラスを並べて。
初めから聞き正すと驚くべき内容だった。
サルサイスを出てハーメリンへ来る途中でフリメニー工房の逃亡者を捕獲。その心を読んで工房とウィンキーが繋がっていると認識。
ハーメリンでも西側に逃亡者が流れたと聞き。クワンジアから来ていた若手4人組冒険者と協力してナノスモアまで追跡。港入り直前で積荷諸共砦と憲兵隊が没収。
ナノスモアからメレディスに向かう船の情報を集めた所。積み込む予定だったのは捕えたフリメニー工房が持ち込もうとしていた物品だった。
ウィンキーの恨みを買っているとは露知らず。ハーメリンに戻って打上げをしていると、終わり際にウィンキーから声を掛けられた。
その時は確信が持てなかったが賭け勝負を挑まれ運良く返り討ち。気絶したのを良い事に部屋へ連れ込み身包み剥いだ。
「変な事はしてない。俺はノーマルだ」
「安心した」
「激しく同意」
道具使用の反動で絶対服従状態になったウィンキーは自分からペラペラと繋がりを喋り倒し。俺を罠に嵌めてメレディスで殺す気満々。
制限時間(1日)も有り、危険だと考えたティンダーがウィンキーに指示してメレディス内の拠点を壊滅させた。
「実際どうなってるのかは解らない。全てウィンキーの証言だからな。心の中では再起不能にしてやったぜ、て喜んでた」
口約通りに死臭塗れで戻ったウィンキーと更なる賭けをしてこれに勝利。
二度目の服従でソーヤンから転移系の道具を奪って何処か誰も知らない場所で自分の記憶を消せと命じた。
「何処に向かったかは聞いてない。昨日の夕方に術は解けてる筈だ。寝首を掻かれるんじゃねえかって悪酔いしても寝られなかったぜ。
念の為転移具と記憶消去の道具の名称は控えて有る。旦那なら探せるんじゃないかってな」
「凄いな。正直ティンダーがここまで出来る人間だとは思ってなかった」
「何かお礼しないと」
「謝礼はいいさ。俺を町から出してくれた恩返しの積もりだったからな。逃亡犯の捕獲報酬でたんまり稼げた。
若手と一緒にタイラントに行ったら誰か独身女紹介してくれよ」
「タイラントは女性比高いし身近にも独身結構居るから多分大丈夫」
ここで居ないなんて野暮は言えない。
「ちょっとガメツイとこも有るけど。真面目で安定収入が有れば大人気よ」
「世知辛いな。序でに仕事も貰えるなら万々歳だ」
リュックの所有権を俺に移行。
ティンダーが心底安心した表情を浮べた。
「これでやっとゆっくり寝られるぜ。若手も紹介したい。ドが付く程純朴な奴らでな。ちゃんと教育したやらないと色々と危うい。帰国する前にもう一度寄ってくれ」
「オッケー」
若手冒険者の教官か…。悪くない。
「俺が死んだらウィンキーが犯人だと思えばいい。鞄の中身はさっぱり解らん。鑑定具も無しに判別してたようだからあいつ素でスキル持ってたのかもな」
「ふむ。有り得るね。陽気な感じで振舞ってたけど目の奥は本心で笑ってなかった」
「今思い返すと確かに胡散臭かったね」
「そういやクワンジアの闇バザーで旦那からパクった金もウィンキーが預かってたから返金させといた。九割近く戻ってると思うぜ」
「おぉ!それは嬉しい。ティンダーも取れば良かったのに」
「あんな大金持てるかよ。一瞬で身が滅ぶ。慎ましく生きるのが俺のポリシーだ。ちょっと苦労する位が人生丁度良いのさ」
良い言葉だな。持ち過ぎるのは宜しくない。何処かで還元して行かないと。
金のネックレスと指輪を鑑定すると何と!ゴルスラ君が排出した運気上昇アイテムだった。フリメニー工房とウィンキーが繋がっていた何よりの証拠。
対呪詛指輪(複製品)と一緒にティンダーに返却。
「これはティンダーが命懸けで取った戦利品だ。持ってて害は一切無いから引き取って。2つの指輪は道具袋に入れとくだけで効果を発揮する」
「ありがてえが。一つ聞いてもいいか」
「何?」
セットグラスを指差して。
「勝負には勝ったがどうも俺の運勢だけで勝てたとは思えない。別の何かが働いてた気がしてな」
「あぁそれな」
グラスを鑑定。
名前:愚者の杯
性能:自分よりも運気に恵まれない人物を従属する
(対となる杯を差し合った者同士)
効果時間:飲み干してから24時間
注いだ者が敗北すると絶対服従状態に陥る
主要属性:闇水
特徴:竹篦返しは痛いが一か八か
悪用するギャンブラーには適さない
手持ちの金の十字架を取り出して。
「これは俺の知人に降り注ぐ呪いや厄災を弾き返せる道具でさ。ウィンキーよりもティンダーの方が人間的に信用度が高かったから意趣返し出来たんだと思う」
答えを聞いて得心した様子。
「それでかぁ。旦那と知り合って二度も救われてたんだな」
「恩に着る必要は無いさ。タイラントのある事件で関わった情報屋からウィンキーの悪事の一部を聞いて一気に信用が地に落ちた。多分その所為」
「タイミングギリギリだったね」
「何にせよ胸がスッとしたぜ。安心したら急に眠くなって来た。悪いが出掛けに水頼んでくんねえか」
「了解。ゆっくり休め」
「これからソーヤン叩きに行く所だったし。もしもウィンキーが再起しても手遅れよ」
「上手く行くといいな」
リュックとメモを引き取り、お礼を兼ねてリゼル木の実小袋を渡した。
---------------
エリュライズでロイドの報告を聞いて世界地図を開いた。
「寝具も椅子も大好評でしたよ。真似しようとしてもあれは無理だとお墨付きを得ました。時間が有ったので精肉店で馬肉の発注を済ませ明後日の午前に受け取れます」
「完璧っす。フィ…。秘書官ぽい」
「私よりも、て言い掛けましたねスタンさん!事実だけれども」
「気の所為です。ソラリマ。そろそろレイル呼んで」
『御意。…もう戻る途中の様だ』
望郷コンパスで捜索するのは
ウィンキー本人、忘却の額冠、転弦の指輪、亜月󠄃の小剣の4種。
記憶を消してしまった所為か隠せる道具を持っているのかウィンキー本人の反応は消えた。
改名して雲隠れの線も有り得る。
残り3種の行方。
「ここって…」
「サークレットはカカンカ村の近くよね」
ウィンキーが最後に選んだと思われる場所は南東大陸のペイルロンド王国北部の村。メイズの実家が在る村でお米をよく買いに行く場所だ。
転弦の指輪と小剣は同じく南東大陸のキリータルニア王国に。大陸南東部の端の小国。暇を持て余したレイルが超高速で海峡を越え、行商として忍び込んで買い物をした場所。内陸寄りの山岳地帯。
ティンダーの命を忠実に守った気配がする。
「クワン。両方共動きは無い。忘却は集落の北側にプラチナ色の頭飾りが落ちてる気がする。転移の指輪2つは山間の何処かに埋まってるか谷間に捨ててあるかも。
忘却は誰かに拾われると危険だ。そっちだけでも回収して欲しい。行けるか?」
「クワッ!」
「合点承知!ニャ」
クワンは場所と地形を繁々と頭に入れてから消えた。
レイルたちが戻った時点で説明して飛ぼうとしていたが忘却冠に興味を示した。
「忘却の方が使い易そうじゃな。最後の仕上げに消し込む記憶を限定出来る。
それに…小剣にも聞き覚えが有るな。本物なら西大陸でも通用する武具じゃ。慌てても然程変わらぬ。一時間位なら待っても良いのではないか」
レイルが気にする程の武器。
「俺も気になるな」
「待ってみようか。どんな剣なの?」
「ラインジットの対じゃな。全てを終結させる剣。総マウデリンで魔族時代のベルが拵えた偶然の産物。打った本人でさえ未来が見えぬと言っていた」
「へぇ…」
ぶっ壊れ品が偶然に、か。
「誰にも渡せず。何処にも捨てられず。もしか潜水艇を造ったのはそれを古代遺跡に納めたかったからなのかも知れぬの」
「怖いわね」
フィーネと同じく背筋が寒くなった。
ラインジットの対。ふと合成したみたらどうなるんだろうと考えた俺に上から苦言。
「今想像した事は止めなさいと。上からかなり強めに呈されましたが、いったい何を」
「いや。それを口にするのは止めとくよ。ベルさんもやっちゃ駄目て言ってる気がするし」
終わりと始まりの結合。何が起きるか神でさえ予測不能な現象が起きる。真にパンドラの筺だ。
1人話題に付いて行けないメリリーは序盤から寝室で仮眠中。自分たちも眠いが夜はまだまだこれから。
クワンはきっかり1時間後に戻って来た。他の武装と小型の収納バッグも一緒に。
「クワッ」
「頭飾りと指輪は岩場の隙間に。転弦と武装と鞄は樹海の土の中。木の葉に紛れていたのでもう少し遅かったら発見は厳しかったかも知れないですニャ。
近くに人間らしい目印が大木に打ち込まれて。後で取りに来る積もりだった様子でした」
諦めが悪いぜウィンキー。
「頭飾りから離れた場所をウロウロ歩き回る男が一人。恐らく元ウィンキーではないかと思われるニャン」
「服従しながらも再起の道筋を残したか。その根性は大したもんだな」
「大人しく農村生活してくれるといいけどね」
どうでしょうなぁ。
レイルに忘却を渡して。
「元老院の議塔は王宮に接近してる。けどもう面倒だからレイルも一緒に。もし結界装置が壊れたら知らぬ存ぜぬで押し通そう」
「外の茶店で待つのも手間じゃしの。さっさと終わらせてこっちで祝杯じゃ」
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バザーにも参加した3人の突然の来訪にソーヤンは目を剥いて驚いていた。
そげなこと知ったこっちゃない。
王宮内の結界装置も無事なようで特に騒ぎにはならなかった。元老院塔を暗に除外した節が垣間見えた。
ピエールは策士だなと見直す。
ソーヤンに取っては最悪のタイミング。俺としては2度目の商談。不自然さは抱かせず執務室内にはソーヤン単独となった。
何時もの苦茶で落ち着きを取り戻したソーヤン。
「それで本日の用向きは」
「態々悪いね。今日はクワンジアでお店を開こうと…」
徐ろに隣のフィーネがハープを取り出し一撫で。
昏睡したのはソーヤンだけではなかった。
誰も居なかった筈の部屋の片隅で誰かが倒れる物音。
透明化と無臭。気配を完全にロストさせたブーリがそこに居た。
念入りにフィーネが奏で続けている間に俺がペタペタ探りながら発見。
パン1姿まで剥き、腕輪を外してやると漸く姿を現わした。
身体検査を施し武装以外の衣服を着せてお縄で御用。
腕輪を収納しようとすると2人に肩を掴まれ。
「解ってるよね?」
「お主には永遠に早いぞよ」
一生かよ。
「解ってます…」
試させてもくれませんでした。男の夢は儚く霧散。
索敵と双眼鏡スキャンで隣室や遠方(オシオイス)でも数人倒れていたが気にせずソーヤンの身体検査を実施。
防御系の装飾品が多数。中でも金の差し歯が長寿の歯。抜歯すると老衰で天に召される恐れが有る為、それだけは断念。
欲しいな長寿。人間に戻ったフィーネと何時までも若々しくと望むのはきっと欲張りなのだろう。
「妾に任せよ。最後の最後で自ら抜かせてやるわ」
悪いお顔が聖母に見えた。
急遽グーニャ隊員を招待して盗聴器の回収に派遣。ブーリが居た奥の壁は隣室に繋がる透かしギミック。これも面白いなと丸っと回収決定。
グーニャが各所で拾い集めて来た盗聴器を沈黙箱に納め第一段階で隣室含め全員の記憶から盗聴器と抜け壁の記憶を抹消。オシオイスの部屋は放置。
主に記憶が無ければどうと言う事は無い。下が騒いでも後の祭。盛大に喧嘩してくれ。
ソーヤンを金椅子の上で起こしスラスラと白状させた。
ティマーンの家族の行方。
南東大陸。レンブラント公国首都フィオグラの拠点屋敷にて軟禁中。ローレライが襲撃する前に回収したい。
ロルーゼの名無しに付いて。
本名はトロイヤ・ランバート。家族をティマーン一家と同じ所に拉致。オマケにトロイヤから詳細の記憶を忘却ティアラで消した。愚劣極まりない非道にお手上げ。仕事が増えたが序でに回収。
闇商での立ち位置。
何と前総代表者その人だった。ローレライが倒そうとしている当人だと判明。
西大陸のシトルリンとの関係性。
前代からの親友で邪神教創設に協力した。物資の援助は俺の動向を探りながら今でも継続。念話具はこの執務室の本棚。女神の彫像の裏に安置されていた。
迷わず回収。室内と隣室周辺の道具も吐かせ全没収。
塔内にはもう何も無いのを確認して道具に関する記憶を消去。
ホースキとナーナーの認知度。
裏の顔は一切知らせず。闇商の案内役を遣らせていただけのクワンジア内限定秘書官。大変に僥倖。
シトルリンに関する事象。
西大陸内には関与無し。結局レイルの娘アモンが誰に監禁されているのかは不明のまま。
シトルリン関連の記憶を登録抹消した上で教団との繋がりを経済面での協力関係に書き換えた。
アホの子に生まれ変わったブーリが身に着けていた転移具をソーヤンに持たせ共にフィオグラに送還。
向こうの組織を即時解体。保管中の道具や武装をローレライに送る様仕向け。肉体寿命を理由に引退を宣言。持て余した金銀財宝を部下にバラ撒き、国内外の人質たちも全解放。
ティマーンとトロイヤの家族を引き取り帰還。
怯える5名に事情を説明して説得。
ティマーンの嫁と娘。トロイヤの嫁と娘2人。フィーネが綺麗な衣服を提供。分配された財宝を袋詰めにティマーンの仮家に届けた。
深酒でボロボロのティマーンとの感動の再会も一入。
「詳しく説明してる暇は無い。主要な部分は奥さんに説明したから聞いてくれ。
見知らぬ3人がロルーゼから来る名無し、トロイヤの家族だからここで預かって引き合わせろ。
ティマーンとトロイヤの記憶はソーヤンから消した。これからは堂々と表を歩けるぞ」
「有り難う…。本当に、有り難う」
「泣くのは早い。トロイヤは家族に関する記憶を一部消されてる。逃げないように説明してやるのがお前の最初の仕事だ。解ったか」
「承知した。必ず伝える。何となくだが娘の顔は覚えてる様子だった。それに賭けよう」
言われて見ると長女の方がミーシャの面影とダブる。それで一時期付き纏っていたのかも知れない。
ならば記憶が甦る可能性も。
トロイヤの奥さんの頭を撫で。
「直ぐには思い出せないかも知れないからショックを受けないように」
「はい…。掴んだら離しません」
彼のスキルを熟知してる故の自信。
「ティマーンの胸の道具の連動具も引き取った。後日に取り出す手術を行う。出血量が多くなるから酒は控えろ」
「あぁ待ち遠しいな。酒なんてもう要らない」
手持ちのサンドイッチとお茶入りの水筒。木の実と新品の歯ブラシセットと現金を少量置いて。
「3人は近くに宿を取るといい。町の案内はティマーンにして貰う。現金は派手に使うな。財宝の換金も5人の入国処理を済ませてからだ。
明日俺の従者2人をここへ派遣するから指示に従って」
「「はい!」」
奥さん2人は元気になった。子供たちはまだ混乱中
サンドイッチを食べ始めた隙に撤退。
ハーメリンの執務室からアローマに通話。
「俺の座標見てた?」
「はい。志かと」
「その借屋にティマーンと家族が居る。特別ゲストも3人居るから明日ソプランと訪ねて入国手続きを直接城へお願い」
「畏まりました。こちらはお任せを」
金椅子に座り直したソーヤンの対面に座ってすっかり衰えてしまった顔を眺めた。
テーブルを指で叩き。
「さてと。どうやって落とし前を付けさせるか…。ウィンキーの記憶を消すとターマインで真面目に働いてた傘下の人との整合性が取れなくなる。それは温存。
取り敢えずモーランゼア、メレディス、帝国、ロルーゼ内の直接の裏関係者を全部書け」
「それが終わったらその他の国も全部よ」
「はい…」
目が虚ろで機械のように書き上げられたリストの中にはマッハリアの改革派の数人やロルーゼの偽王とロールデンマンの名前まで有った。
メレディスのモンターニュ王と闘技大会を視察に来た外務大臣のメーチャホ。
タイラントと帝国は綺麗に粛正されて居ない。
モーランゼアとアッテンハイムは女神様の影響が強すぎて直接介入は無理だった。
内陸小国群は純粋な山神教で話が通じない。
南東大陸はついさっき切り離したからもう居ない。
南西に関わるとプレドラに感知される懸念が有り置いてない。東大陸も同様の理由。
かなり絞れて来た。
「ロールデンマンがお前の犬だったとは。てっきりフレゼリカの飼い犬だと思ってた」
「あの男は欲望の赴くまま。その場の長者に平気で尻尾を振り乱すタイプです。邪魔になる前に実害の少ないロルーゼに追い遣った形が近いかと」
あの逃げ足の速さなら納得。
「ふむ。まずメーチャホ、ロールデンマン、マッハリアの改革派の記憶全部消して」
「ええじゃろ。王は残すのかえ?」
「仮にも王だから自分で動けば必ず足が付くよ」
「ほぅか」
手早く簡単あらビックリ。
「クワンジア内はオシオイスだけだな」
「はい」
仕上げとばかりにソーヤンをオシオイスの執務室に飛ばして遠隔で同じ記憶を消した。
戻した爺さんの記憶を改竄。
俺たちとの遣り取りをブルーダイヤの商談に擦り替え。ウィンキーはメレディスに行かせ行方知れず。南東は管理が面倒になって自分で見限った。と
再就寝のソーヤンを起こす前に隣室通路を大きく切り取りフィーネのリバイブとクリアで縁取りを自然に偽装。今やガラ空きの通路と化した。
最後に今朝衝動的に模様替えしたと植え付けて起こした。
「おぉ…商談中に居眠りとは済まない。何処まで話していたかな」
「急に寝るからビックリしましたよ。純度の高い青ダイヤが見付かったら最優先で譲って下さいと」
「お身体が辛いなら後人に道を譲るのも華ですよ」
「面目ない。確かに働き過ぎた。引退も視野に入れるとするか」
透明化したグーニャを頭に乗せ。一路ハーメリンへ帰宿。
クワンジアで取り逃してた邪神教団幹部を無傷で捕獲。洗い浚い喋らせるとメレディスは完全に孤立化。残党は帝国内には皆無。マッハリアとロルーゼの中央政府周辺にチラリと異分子が残る。そいつらは来年の式典前後で叩き潰すからもう心配無いよ。
懸念としてはメレディス内で大きな内戦が勃発。それよりも前に出港した組織関係者が北大陸と東大陸に二百前後ずつ駐留していて。東西の警戒レベルは解除せず引き下げに留めた方が良い。
とアストラ氏に速報で伝えた。
配達は勿論我らのクワンちゃん。
帰りと同時に祝勝会を開催。激しい眠気も何のその。
今回メレディス以外は完全無血決着に酔い痴れた。
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