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第187話 シルビィの突発お見合い

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本棟にマルカルが到着後。フィーネとアローマでシルビィを呼びに行った。

おめかしして出掛ける孫娘を見送る優しいお婆ちゃんは偶には夜更かしして来なさい。朝帰りでもいいから。寧ろそうしなさいと送り出したそうな。

即断即決が叫ばれるこの世界。
これまで俺たちが引き合わせて破断になった縁は無い。

今回も上手く行ってしまうのだろうか。

マルカルはと言うとカッチリとした役人正装に身を包んでいた。ブレザーに形が似ている物。

「気合い入れ過ぎでしょ」
「いえいえ。スターレン様の知人に失礼が有ってはいけません。結果はどうであれ。御婦人をお持て成しするのは男の務め」
人間性は最高だが遣り過ぎ感は否めない。

「男は先行こう。女性陣も直ぐに来る。何処で飲むかは」
「さっき伝えた」
「まさかあの店の特別室を普通の酒席に使われる方が現われようとは。店の経営には詳しくはないですが恐らく初の試みでしょうね」
「ブルームも。え?なんで家で?て驚いてたわ」
「それ言ったら夫婦で入店する客も滅多に居ないっしょ」
「「確かに」」

クインザが居た頃には考えられなかっただろうな。

店に着くなり上へ通された。
「ごめんね急に無理言って。次は前以て予約するから許して」
「何を仰いますやら。何度でもお使い下さい。二度と来られないかと落胆して居りましたし。喜んでお受けします。
しかしながら偶にはキャストも同席で。ソプラン様をお見掛けしてしまった何人かが。本日は不要と伝えると泣いてしまいまして」
「そ、そんなに?泣かなくてもいいんじゃ」
「稼げてないのか?」
「いえそうではなく…。スターレン様やフィーネ様とお話出来るチャンスなんて平民には無いんですよ。縁も所縁も無い人間には物凄く憧れなんです」
小声で教えてくれた。
「そう言う意味ね」
普通は逆なんだけどな…。

部屋に入るとマルカルがおぉと驚いた。
「ここが特別室。初めて入りましたが豪華ですね。広い、連結ソファー、トイレ付き。壁紙も落ち着いた色合」

そう壁紙は派手なオレンジ色から普通の薄ベージュに変更されていたのだ。

室内の説明。
「スターレン様が壁紙に不満を漏らされていたのを聞き及び変更致しました。本日はキャストが居りませんので追加注文の際は中央テーブルのベルを指で叩いて下さい。
下の控え室と連動しています。奥様とお連れ様が御来店されましたら最初にお勧めをお運びします」
連動ベル…いいな。今度教えて貰おう。
「今回からは通常料金払うからちゃんとお会計してね。役職付いてから厳しいんだ」
「…賄賂に当たると?」
「ご明察。マルカルも同じだろ」
「ですね」

「心苦しいですが。承知致しました。本日から通常料金にてサービスをば」
「最初に水とグラスもお願い。飲む前に自前で食べたい物が有るから」
「畏まりました。因みにそれはいったい…」
「ロロシュ財団で近々販売するとある植物の種の胚。肝臓の分解力を高める効果が有って。飲み過ぎても翌日お酒が残らない。発売したら店でも試してみて」
「それは良い事を聞きました!無理に飲ませてキャストを持ち帰ろうとするヒエリンドのクソ野郎も居ますし。待ち遠しいです」

ソプランが青い顔で。
「あっぶねぇ…」と呟いた。

「何なら試供品の素揚げ少し置いてくよ」
「宜しいのですか?」
「何となく。ヒエリンドは無関係ではないから謝罪的な」
「非常に助かります。正規品が発売されたらご一報頂けませんでしょうか」

「あぁそれは俺から伝える。謝罪的な感じで…」
「あの方もお酒さえ飲まなければ真面目な良客なんですがねぇ。一度お酒が入ると途端にドスケベに。仕事上の秘密は漏らしませんが。嫌がるキャストの身体をベタベタ触り出して。財団幹部の権力を振り翳していい迷惑です」
「今度来たら最初に試供品食べさせてみてよ。結構変わる筈だから」
「そうですね。色々試してみたいと。ではご緩りと。お絞りとお水は直ぐにお持ちします」

女子が来るまで軽く雑談。

「先程お話されていた胚は私も頂けるのですか?」
「もち皆で食べよう。食事は済ませて来た?」
「有り難う御座います。何時も夕食は軽めですので助かります」
「食細い方なんだ」
「何方かと言うと」
「なら特別な木の実のパンケーキも出すよ。普通に美味しいし内臓にも良いから。それも皆で」
マルカルやシルビィの緊張も解れるだろう。


女性陣が来店してド緊張のシルビィからご挨拶。
「ほ、ほほほ本日は。こ、この様な場にお招き頂き。
誠に!有り難う御座います。シルビィと申します」
初々しい。こんなシルビィ初めて見た。
「これはシルビィ様。城の仕入れを担当して居りますマルカルと申します。この部屋は上級クラスの方しか入れませんので私も緊張しています。取り敢えず座りましょう。
まずは女性と男性に別れて」
マルカルが少し上擦りながらも一歩リード。

「座りましょ。落ち着いて。帰るなんて言わないで」
「帰るって言ったの?」

「行き成り人を紹介するって言ったら帰りたいって」

「いえ!別にマルカル様が嫌とかそう言うのではなく。緊張しいなので。失礼が有ってはいけないと…」
「私も同じですよ。今でも胸がバクバク鳴って鎮まりません」
サラリと言えてしまう肉食系男子。

商人としても優秀だ。

着席して取り皿でパンケーキと胚酢漬けを食し。
「「美味しい…」」
両サイドの2人が略同時に感想を漏らした。

リゼルモンドの効果でかなり落ち着いた様子のシルビィ。
「豊潤で甘くて。少し切ない良い香りです」
隣のフィーネが。
「落ち着いた?」
「はい。かなり」
「良し。良い子良い子。悪い人は居ないよぉ」
頭を撫で撫で。

マルカルが登場しなかったらヤバかったんですが。もう忘れてしまおう。

席の配置を変え。主役は奥のL字コーナーへ。半対面状態で座らせた。

入れて貰ったシャンパンで乾杯。

「ん~。こんなに美味しいお酒初めてです。シュワシュワで喉越しが良いですね」
「滅多に出されない上物ですね。私も余り経験が無い」
「マルカル様はお城勤めなのに庶民派なんですね。平民の私が言うとあれですが。親近感が湧きます」
「有り難いお褒めを。でも私も今も昔も平民です。孤児から養父に拾われ兵役を経て文官へ。商才をノイツェ様に認められ。運良くお抱えとなっただけの何の取り柄も無い凡人です。
シルビィ様は書籍のお店を経営されているとか。貴女の方が立派ですよ」
「まあ孤児でしたの。私も両親は早くに亡くし。今はお婆ちゃんと二人で暮らしています。お店は元々お婆ちゃんの物でそれを引き継いだだけなんです。一から立ち上げた訳では有りません。立派だなんて此れっぽっちも」

シルビィの言葉が全く乱れていない。

2人から距離を置いて4人で固まり顔を寄せ。
「全然普通じゃん。胚酢漬けってそんな効くの?」
「そういやちょくちょく食べるようになってから酔った事ねえな」
「私もです」
「スタンと私じゃ解らないもんねぇ。何気に実験台にしちゃってる?」
「まあいいっしょ。結果オーライ。上手く噛み合ってるみたいだし」

時折笑い声も聞こえるようになった。

お摘まみは一口サンドイッチ。アーモンドクッキー。カシューナッツとピスタチオ。

シャンパンと水割りを6人分追加オーダー。

こちらも席順を入替え。端からアローマ、ソプラン、俺、フィーネの順。

「そういやこの4人で王都内で出掛けるのってどれ位振りだっけ」
「あーカジノで遊んだ時以来じゃない?何時もペットたち連れてたし」
「だな」
「懐かしいですね。それ程昔でもないのに」
「展開早くて密度が濃い仕事ばっかだからな。こいつらと出会ってからよ。俺らののんびりを返せ」
「返せませーん」

もう直ぐ2年。色々有ったなぁ。

「2人を送って時間有ったらカジノ行ってみない?」
「カーライルはとっくに改装終わって営業してるけど。メルフィスの店の方は来月やね」
「まだだったかぁ」
「それに幸運グッズ置いて来てからだ。店破産すんぞ」
「「そだね…」」

「今日の迷宮の成果はどれ位有ったのですか?」
「良い物出過ぎて整理仕切れてない。武装も道具も。未解放の層は後5層」
「でもその5層の魔物が一番危ないのよねぇ。注意して進まないと」
「だねぇ。特にデビルアイの進化版は」
装備を入念に調えて挑まないと。
「デビルアイ!ありゃ空想上の魔物じゃないのか」
「空想が現実になるのが人工迷宮だしょ」
「まあそうだけどよ…」
「どれ程危険なのですか?」
「目を見ただけで石化。目が合うと即死」
「え…」
アローマさん絶句。
「防御する道具や装備は持ってるからちゃんと整えれば大丈夫さ。東の最宮でも出るならそっから防具を出してかないとソプランたちが危ない」
「目を閉じて隠れてね」
「そうする」
「そうします」

「来月は演劇。スフィンスラー。鑑定。ローレライ再訪問。試作時計持ってモーランゼア。大狼様のお伺い。ペカトーレに見積もり確認とピーカーへの岩塩配達」
「真に年末って感じのハードスケジュールね。年末年始はゆっくりして。スタンとソプランが装備打ってる間に私たちで他の雑事を片付けましょう。ペリーニャも一度は呼ばないといけないし」
「はい」

「打つのは二週目でいいのか?他のメンバーの予定押さえねえと。後キッチョムさんとこで鍍金処理も」
「それは明日のギレムの反応見て決めるよ」
「そか」
「報告を聞く限りは余っ程大丈夫だとは思うけど」


奥の2人が盛り上がってる所で俺とフィーネは帰ろうかと相談していた時。コンコンと扉をノックされた。

「あれ?呼んだっけ」
「呼んでないよ」

失礼致しますとブルームが入って来た。
「もう閉店?」
「いえお店の時間は問題有りません。営業時間は日の出までなので」
逆に長くない?
「何か?」
「大変申し訳ないのですが。キャストの一人がどうしてもスターレン様に会わせて欲しいと懇願していて。夕方の受付で泣いていた子で。少しお邪魔させて頂いても宜しいでしょうか」
何か話が有る子?ファン?俺にも遂に熱狂的なファンが。
「あーいいよ。序でに水割りとナッツと一口サンドイッチ追加で」
「畏まりました。直ぐにご用意を」

「誰かしらね」
「さあ。俺に話?フィーネじゃなく?怪しい気配はせんけども」

お酒の後で入って来た女の子は。何と5区のアクセショップで働いていたミーシャだった。
「ミーシャ?」

奥のシルビィも異変に気付き。
「ミーシャじゃない。あなたここで働いてたの?」
お友達?あぁお店が直ぐ近所だった。
「お客人ってシルビィだったのね。羨ましい…」
羨ましいとは何故に?
「でも気にしないで。スターレン様にお話するだけだから」

ミーシャはテーブルを挟んで俺の前方に土下座を敢行。
「フィーネ様。お許しを」
「何?どうしたの?」
「スターレン様!どうか、私を。買って下さい!」
「ほぁ?」
買うとはなんぞ?

「ちょっと意味が解らんぞ。身売りなんて嫁さんが許す訳がないだろ。俺に雇って欲しいならまだ解る。取り敢えずフィーネの横に座ってその訳を話せ」
「落ち着いて。まだ怒ってないから」
「はい…」

ポロポロと泣きながら話してくれた内容は。驚きは有ったが状況的にはフラーメに似ていた。

違うのは両親と弟が現在も人質に取られている事。

ロルーゼの王都ベルエイガに。

借金の総額は現在で金貨3500弱。元の借入金は500前後。約3年前に両親が高利貸し詐欺に遭い。実家と出稼ぎに来ていたミーシャで利息を返していたが。現政権衰退や迷走の余波で金融市場も破綻。規制も緩み利率がフリーに。3割だった物が毎月1割ずつ上乗せ。

破産申請も通らず。無理に通すならロルーゼで奴隷落ちが確定。

「カラトビラのどっかの馬鹿が挙兵なんてしなければこんな事には。それまではギリギリでしたが元金も返せていたんです。アクセサリー店もお二人のお陰で順調に。そこのお給金だけでも。
挙兵後に再通知が来た後も自分で何とかしようと幾つもの仕事を掛け持ちして頑張って来ましたがもう…限界です」

「借金有ったから上乗せ弾めって強請ってたのか」
「はい…。あの時は済みませんでした」

「どうしてもっと早く相談してくれなかったの?ミーシャなら知り合いなんだから家にも来れたじゃない」
「何度も…。何度もロロシュ様の邸門が見える所に行きました。でも最後の一歩が踏み出せなかった。
お二人に見限られるのが怖くて。折角お知り合いになれたのに全部壊れてしまう気がして」
どうしたもんか。

「マルカル何か知ってる?あっちの経済状態」
「一番詳しいのはノイツェ様です。知る限りでは。正常なのはフラジミゼールのみと言って間違いないです。後、北部の町は金融とは無縁の自給自足が成り立っています。
王都は…火の車でしょうね」
「うーん。一括で返さんと借金は膨らむ一方。逃げると家族が殺される。帰れば奴隷落ちか」

「あっちで奴隷になるなんて絶対に嫌です。タイラントの奴隷なら喜んでなったのに。
この国に、生まれたかった…。どの道もう無理なら責めてこの身を買って頂けないかと」
「諦めるの早くない?」
「え…?」

「色々な苦労や経験を重ねて来たんだからさ。金3500で雇ってと売り込みに来るのが先じゃないか?」
「で、でも。それに見合う仕事なんて…」
「俺の生徒やってたから解るだろ。この国は子供の数に対して教育者が圧倒的に足りてない。将来の国の担い手が育たない。奴隷層、平民、富裕層。格差は開いたまま一向に縮まらない。格差は開き続けて何時か破綻する。

俺とフィーネは奴隷区が解放された後で。身分無関係で誰でも自由に勉学に励める学校って教育機関を作ろうとしている」
「がっこう…」
「そこの先生になってみない?得意分野で」
「…」

「はい、て言ってくれたら借金チャラにするよ」
「…は、はい!でも。借用書も契約書も元締めが握っていてどうやって返せ…。つ、通知書があれば」
「正解。やっぱ土壇場でも頭回るじゃん。今まで届いた督促通知全部有るだけ持って来て。明日の午前にギルドへ行こう。局長とは俺だけで会うから待たせるけど」
「お会い出来るんですか?普通の商人では会えない…」

「今の俺、この国の外交官ですけど?」
「普通じゃなかったですね。失礼しました。午前に必ずお伺いします」

出入り口扉の脇に立っていた人物に声を掛けた。
「て流れになっちゃった。ごめん、ブルーム」
盛大に溜息を吐いて。
「スターレン様がお越しになる度にキャストが減って行くのは何故でしょうねぇ。もう一般営業の店にしようかな…」
「ごめんって。来る回数増やすからさ」

「解りました。ミーシャさんは本日で卒業です。早く帰って寝て下さい。給与は今月分満額で振り込みます。後の二日分は僅かばかりの気持ちで」
「有り難う御座います。短い間でしたがお世話になりました!」
深々とお辞儀してドレスの裾を掴んで階段を駆け下りて行った。

「じゃ。一番高いボトルとシャンパン入れて。飲み直してお開きに。2人はご自由にどぞー」

照れ臭そうに笑い合う。良い感じじゃない。

「私たちも。いえ。僕らも振るまいに預かって。今日の所は解散しましょうか」
「そうですね。そうしましょう…」
「それと明日。ご自宅にお伺いしても宜しいでしょうか。お婆様を交えてお食事でも」
「ええ。喜んで」

良い感じを軽々通り過ぎていた。




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演劇本番を明後日に控え。フィーネとロイドとペッツは割は早くにお出掛け。

ミーシャが来るまでの間。プリタ博士の収穫作業を手伝った。

本日ミランダはお休み。ソプランは本棟で勉強しながら待機中。アローマもあちら。代わりにシュルツと侍女長のフギンさんが手伝いに来ていた。

「態々済みません。シュルツもありがとな」
「これも仕事の内です。私も偶には運動をしないと鈍ってしまうので」
綺麗な所作で木の実拾いも優雅だ。

「時計の前面部はヤンさんにお任せですので。自走車の方も区切りが付いて少し間を空けて休養を設けました。気にしないで下さい、お兄様」
ピレリと会いたいだろうに我慢しちゃって。

集計を終えた博士が。
「むむ!スターレン様、朝の収穫は減少傾向です。僅か十粒程度ですが」
「ピークは4日前後か。ちょっと安心したな。プリタも明日はしっかりエガーとデート楽しめよ」
「やですわ。一部分はお仕事です」
相変わらず正直者。


皆でリゼルオイル入りの紅茶で和んでいる頃にアローマとソプランがミーシャを連れて登場。

「凄い…。ここがお二人の愛の巣」
色々な物をキョロキョロ見回して感想を述べた。ちょっと照れ臭い表現で。

ミーシャにもリゼル紅茶を振舞って。
「落ち着いたか」
「ええとても。華やかで繊細で。落ち着く香りです。座ったままで不躾ですが。初めまして、シュルツお嬢様。五区の雑貨屋に従事するミーシャと申します」
「お気に為さらず。ここはお兄様とお姉様の家ですから。このシュシュもお姉様とお揃いで大変気に入ってます」
今ではポニテがすっかり定番になった。

「裁定を変えた新作も出ていますので。一度お試しを。手土産にするには少々高い物で。お許し下さい」
「いえいえ。今度買いに行きますね」
「是非とも」


ミーシャから督促状の束を受け取り拝見…。記載されている元締めの名前に怒りが込み上げる。
「ローデンマン…だと…」
「ご存じでしたか?」
「おい、どうした」
「お兄様。お顔が怖いですよ…」

心配そうに見詰めるシュルツの目を見て落ち着いた。
「すまんすまん。あんまし怒るとフィーネまで帰って来ちゃうもんな。この男。俺が知る人物と同一人物なら。俺の親戚だ」
「え…?」
そう漏らしたのはシュルツ以外にも。

「父方の三親等の分家。11年前にマッハリアから家を捨てて姿を消した男だ。こいつがマッハリアに留まっていれば母上は死なずに済んだ可能性が高い」
「そう、なのですか」
シュルツの頭を撫でながら。
「命惜しさに逃げたなら恨むのは筋違いだ。だがロルーゼで能能と高利貸しをやってると聞くと、途轍もなく気分が悪いな」
自分の紅茶を飲み干して心を整えた。

「昔から金に汚い男だった。…ミーシャ。非常に言い難いんだが」
「はい?」
「ご両親もグルかも知れない。正確に言えば今は大丈夫。俺の名前が伝わった途端にローデンマンは必ずご両親や弟を利用する。俺と接触させる為に」
「寝返る…かも知れませんね。簡単な詐欺に掛かるような両親なんで」

シュルツからの提案。
「私が肩代わりして返済するのは」
「駄目だよ。もう俺たちとシュルツが親密なのは中央で知らない商人は殆ど居ない。簡単に俺に結び付く。
今回はペカトーレの時と違って実名を公表しないと捻じ伏せられない。国の役人の誰かの名義を借りても同じだ」
「残念ですね…」

最新の督促状の振込期限は明日の月末。

督促状を前にトントンと指でテーブルを叩いた。

ミーシャとの関係性は知られていない。知っていたらもっと大胆に動く。

喉から手が出る程、金を欲している今なら。

王国解体後に首相の座を狙ってるのか…。あんな腰抜けに金を与えるのも馬鹿らしくなる。

「…最悪。両親と弟を斬り捨てます」
「それじゃミーシャが今まで何の為に苦労したのか解んないだろ。そんな選択はしなくていい。
ご両親は何の商売してたの?」

「中流の服飾店です。才能も無いのに上位に食い込もうと融資話に乗ったのが事の発端です」
「服屋か…悪くない。丸ごと買収してタイラントに引っ張りローデンマンとの関係を断ち切ろう」

「隠者を忍ばせる危険性が」
「その時はその時だ。面と向かって今の俺に喧嘩売る度胸が有るなら面白い。受けて立ってやる。ミーシャも家族や知り合いと平和に暮らしたいだろ?」
「…はい。我が儘と甘えを重ねるならば」

「決まりだな。因みに昨日。シルビィを見てなんで羨ましいって言ったの?」
「そんなの…。お二人に殿方を紹介されるなんて。女なら誰だって羨みますよ!エドワンドでも他でも。何組成立させてると思ってるんですか!」
怒っちゃったよ!

「怒らなくても。そう言うのは自分で見付けるもんだ。ゆっくり探せよ。借金返した後で。ミーシャなら見付かるって」
「私にも誰か紹介して下さいよ!」
「らしくなって来たじゃん。良い奴居たらな」
ポンポンと頭を撫でてギルドへ出発。

作戦なんて何も無い。出たとこ勝負。何時も通りだ。


執務室の扉を開けるのも久々だな。クインザを放り込んだ時以来か。

相も変わらず書類と格闘中のムートンの区切りを応接席でのんびり待ち。運ばれた紅茶とクッキーをポリポリ。

お、レーズンとオレンジの皮のシロップ漬けが入ってる。疲れた時に良さそう。

ムートンもこちらに座って一服。

「メルフィスのカジノならもう少しだ。今日は何用かな」
「実は…」

下の商談室で待つミーシャの督促状を見せて俺が仲裁で一括払いしたい旨と。ローデンマンがマッハリア時代に夜逃げした親戚筋である可能性を話した。

「この微妙な時に…。また余計な物を掘り当てるな君は。トラブルを掘り起こす天才なのか」
「じっとしてても向こうから来るんだからしょーがないじゃん。俺だって好きでやってる訳じゃない。で、買収までやりたいんだけど出来そう?」

「うーん…。金銭なら君に取っては木の葉の様な物だが悪徳業者と解っている者に金を掴ませるのもな。悪いなりに落ち着きつつあるロルーゼがまた揺らぐ。その火種の懸念が有ると解っていても君は遣ると言うのかね」
「王政解体が早まるだけさ。当然泣きを見るのは平民だけど。何れ味わう痛みならいっそ短期で終わらせた方が傷も浅いし治りも早い」

再び唸り。
「そのミーシャを当家で預かるのはどうだ」
「これは俺の私怨も含まれます。それにミーシャは家で雇うと決めたからそれは容認出来ない」
「君が気に入った人間を手放さないのは知っている。飽くまで形式上の話だ。表向き私はギルドの局長でもなければ君とも仕事上の付き合い以上の物は持っていない。
しかもメルシャンは王女だ。メルシャンがミーシャを気に入り。借金の訳を聞き。当家で雇う為に負債を拭う。筋書きとしては悪くはないと思うがね」

今度は俺が唸った。確かに悪い話じゃない。立場が上のメルシャンが矢面に立てば俺たちも隠れ易い。

「そこまで甘えても良いんですか?しかもムートン卿の秘匿をミーシャに…あ、言わなきゃいいのか」
「雑作も無い。表は陳情と言う形でメルシャンとミーシャを一度引き合わせれば全て隠せる。どんな金持ち商人だろうと他国の頂点に刃向かう者など居ない。賢い者なら噛み付けば自滅すると解っているからな。
国力が弱まったロルーゼ内なら尚のこと。手向かうような馬鹿なら押し潰してやれば良い。
心配だから関係者全員を無事に送れ、と付ければ丸く収まり。こちらが動く必要は一切無い」

「成程ね。やっぱムートンさんは侮れないな」
「そう褒めるな。ミーシャは兎も角として。その服飾店はモヘッドに振ってくれ。丁度マリーシャが舞台衣装を一括で揃えられる工房を探している。そちらから君の存在には繋がらない。
建前としては完璧じゃないか」
「完璧っす」
頭回るなぁ。経験値の差かな。

「今月分は本人に支払わせ。君は明後日のお披露目会にミーシャを連れて来る。根回しはこちらで済ます。後は私に任せて貰えるかね」
「宜しく頼みます!」

最後にムートンが呟くように言った。
「マルカルに引き会わせたのがミーシャだったら譲りはしなかったのにな」
「お?マルカルの養父って…ムートンさん?」
「運命とは紙一重だな。只、私は彼の才能に気付いてやれなかった。ノイツェが発掘していなかったら彼は一介の兵士のままだった。己の限界も知れると言うものだ」
「マルカルなら自力で伸し上がってましたよ。若しくは俺が拾っていたりして」
笑い合い紅茶で乾杯。

督促状の主要内容を別紙に添え、一礼して退出。

下に降りてミーシャに現金渡しで即支払い帰宅。

昼食を自宅で食べながら気が気では無いミーシャに結果を伝えた。

「そんな訳で。明後日お城の夕食会に連れて行く。ちゃんとしたドレス持ってる?」
「は?はぁぁ??」

「王女と全く面識無かったら辻褄合わんだろ」
「そ、そうですが!私のような平民風情が王女様と面会だなんて。場に見合うドレスも…持ってません」
「軽くお茶して下席に座るだけさ。俺たちと隣卓だから心配すんなって。ドレスは…」
アローマが挙手。
「私のドレスをお譲りします。お城では全く袖を通す機会が御座いません故。ミーシャさんには少し大きめですが明日調整致しましょう。
ご自宅にお邪魔しても宜しいでしょうか」

「は、はい…。それは喜んで。でも礼儀作法とか…」
「それも序でに私がお教えします。色々な見識をお持ちなら難しくはないですよ」
「お願いしますアローマさん」

「明日は休暇だったのに悪いね」
「いえ。友人のドレスを仕立て直すと思えばお休みと同義です」
明るく笑いミーシャと手を取り合った。

良い友達に成れるに違い無い。

「2人の王女への贈答用に新作のシュシュを。黒色と濃紺が有れば入れて。無ければ基本色を2つずつ。購入金はアローマに持たせる」
「必ず!ですが…ダリア様ともお茶会を?」
「当然。安心しろ。メルシャン様と違って実は平民出身だったりするから話もし易いと思うぞ」
「そうだったのですか。知らなかったぁ」

「超極秘事項だから誰かに喋れば俺が処罰する。覚悟しとけよ」
「はい!墓場まで持ち込みます!」

少しゆっくりしてからミーシャを自宅前まで送り届けギレム工房へ足を運んだ。




---------------

広い工房の商談室でギレムと面会。

抱いていたイメージとは違って少々戸惑ったが存外に話も通る人物で一安心。

「お前がギレムか。この王都で俺の周辺を嗅ぎ回るとは良い度胸だな」
「私や弟子。従業者の生活が懸かって居りました故、お許し下さい。直接ご訪問するにはロロシュ様の敷居は高過ぎて如何ともし難く」
ギャリーたちやミーシャと同じく一般人には入り辛いもんなんだな。

ソプランたちが見たと言うご自慢の品々を拝見。

いやはや何とも。外観からして振り切ってる。

俺が持ち込まなくても中二色が満開だった。

短剣と長剣を席を離れて抜き振ってみた。
「刀身まで金鍍金か」
思わず笑ってしまった。

装飾との重心バランスを考慮してか単なる見栄えか。

「他との差別化で。遊び心も踏まえつつ。趣向品の意味合いも込めまして」
「まあ悪くはない。商売は競争だからな。悪くはないが長剣の重心が僅かに外寄りだ。俺の品には入れるなよ」
「心得て精進致します」

女性陣とペッツが選んでくれた6枚と三日月ダガーの図面を並べて。

「装飾に凝る時間は無いとデニーロやキッチョムに断られた品々だ。あちらには一般構造の最高品質の物を依頼してある。お前なら出来ると聞いて来たんだが。
2月までにやれそうか」
「成程。これは面白い…。総力を注いでお作りします」

「三日月ダガーを金銀で2本。この2本だけは特別な想いを込めている。女性向けだと言えば解るな」
「…承知致しました」
ギレムの目がキラリと光った。通じたようで何より。

「他の材質と配色は適当に任せる。但し仕込みブーツは軽い素材で整えろ。飛び出し量は短くていい。暗器にもなるがこれを発展させれば登山用の靴にも転用出来る」
「ほほぅ」

「主眼はダガーだ。その他はそれを隠す為の物と言ってもいい。もしも同じダガーが外に出回っていたら俺がお前の息の根を止めてやる。良いな」
「はい。慎んでお受けします」

「では多目に見積もりを出せ。半分を前金で払う。半分は2月までの出来高。未完分は以降で商品と引換に」
「はい!」

秘書役と会計役が加わりその場で算盤を弾いた。

お茶を飲んだりソプランたちと中庭で自慢の4本を試して暇潰し。

「これはこれで中々」
「面白えな」
格好いい物に心が躍ってしまうのは男の性やね。
「私には無駄に重いだけな気がしますが…」
女の子には解らんよなぁ。でもプリタなら格好いいて言いそう。個人の趣向か。


証文を取り交わし。結局4本共衝動買いして帰宅した。

マウデリンを打つのは1月の2週目で確定。ソプランをギークとデニーロ師匠とキッチョムさんの所に走らせた。




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夕方に稽古を終えて帰ったフィーネの肩を揉み揉み解しながら経過を報告。

「色々有るもんだね。でも結果丸く収まって仕事は増えんかった」
「だねぇ。私全然疲れてない筈なんだけど。あーそこ気持ちいい」
「ここかね」
延髄の境目辺りを親指の腹で揉み解し。
「やだ♡スタン上手すぎ」
「凝ってるとこも見えるからな。自分のは良く解らんけど。ロイドとアローマもやったろか」

「け、結構で御座います」
「私はグーニャにお任せです」
「人の嫁を誘惑すんなや。で明日は俺もオフでいいのか」
「人聞きの悪い。そやね。ソプランも休みで。フィーネも打城でち合わせだけだし。俺ものんびりする」
「おう。アローマ送ったら町でもブラ付くわ」

「私もメルとダリアにミーシャの予告して来るから遅くなるかも。てかなる。プールの話も有るし」
「宜しく。ロイドは実家行く?」
「お伺いするのは早いですよ。今は心穏やかに。以前にも増して執務に邁進されて居られるようです。お邪魔をする訳には行きません」
「ほう。本気の父上が動いてるなら出番無いな」

ロイドの膝上で丸くなっていたグーニャが首を擡げ。
「ご連絡来たニャ!」
「やべ今か。まだお土産用意してないぞ」
「土産は後で良いから。掃除と荒らされたお花畑を直してやってくれ。だそうですニャ~」
「あいつらあれを荒らしたのか」
「そら怒るわ。デリカシー無いね」
クルシュたちとの思い出だもん。怒りを鎮めてくれて何より良かった。

「そっちは俺とロイドとグーニャで行くよ。大勢で行っても目立つし」
「大半逃げただろうけど気を付けてね。勝手に極点目指したら怒るよ」
「行かない。てよりも1日じゃ無理。索敵しなくても大狼様が来いて言ってるなら敵は周囲に居ないさ」
「それもそか」


ソプランとアローマを上がらせ、レイルたちを迎えてトワイライトへ入店。


本日は何時ものキルケルではない高身長の優男が接客を担当。

「ご来店有り難う御座います。スターレン様とフィーネ様とお連れ様方。キルケルの兄のメルケルと申します。何卒お見知り置きをとお寛ぎをば」
「へぇ、キルケルのお兄さんか」
「格好良くてモテそうね。キルケルさんは体調でも?」

「お褒め頂き光栄です。妹は生憎昼勤で本日は休暇中。無理にでも出ると言っていた所を私が強引に割って入りました。好い加減に誉れ高い仕事を譲ってくれと」
「誉れ高い?」

「今の王都でお二人とお話が適う機会など滅多に無い誉れです故に」
「な、成程」
「照れちゃうね」

「では本日のお勧めのご紹介を。
メインの黒毛牛のシャトーブリアンとサーロイン。両方ですと各百gから。追加はそれぞれ四百まで。
前菜は以前スターレン様よりご教授頂けたハーツのお刺身と葉物野菜のカルパッチョ。新しく導入致しました馬レバーのお刺身の大蒜醤油添え。
スープは舌の上で蕩けるタンシチューとレバーシチューの二種を別皿でのご提供。
メイン以外はお代わりの制限は御座いません。最大は在庫が途切れるまで。
ドリンクは入荷し立てのフレッシュな赤ワインと葡萄ジュース。となって居ります」
遂に来たレバ刺しとハツ刺し!
「遂に来たか」
「認可が下りたんですね」
「漸く念願叶いまして。王宮のご許可を得られました」

「ちょっと隣の客人が苛ついて来たんで。全員メインは両方。焼き具合もお勧めでお代わりからは指定で。ドリンクもその2つ。ジュースは1人分とペットの分は深皿でお願いします」
「畏まりました。急ぎ目で前菜よりお運び致します。もう暫くお待ち下さい」
レイルに睨まれても胸を押さえる素振りを見せただけで取り乱したりはしなかった。

やるじゃないメルケル。あれは聞く迄も無く彼女居そう。でも気になる。後でちょっと聞いてみるか。

「駄目じゃんレイル。無実の店員睨むなんて。二度と連れて来ないぞ」
「そうよ。淑女らしく振舞ってくれないと。私たちの評判もガタ落ちなんだから」
「済まぬ。聞いている内にそこはかとない怒りが」
「だから何か入れましょうと言ったのにぃ。レイル様お昼を抜かれてしまったんですよ」
「僕も強く勧めれば良かったです」

「何やってんだか」
「うぅ…」

前菜とドリンクが運ばれて来てからは終始ご満悦で和やかに進んだ。

何十年振りの生レバーとハツ刺しに感動の嵐と雨霰。立ち上がって拍手を送りたい気分になった。せんけど。
「「蕩けるぅ」」
「生肉が食べられるとは。良い時代に生まれましたね」
「ほうほう。トロトロじゃのぉ」
全ては冷蔵庫のお陰。全員満面に笑み。

クワンとグーニャの分の料理は間口の広い小鉢で提供され。それを下げに来たメルケルが大層驚いていた。
「妹から聞いてはいましたが。これ程お行儀良く綺麗に食べられるペット様を見るのは初めてです」
「この子たちは特別知能が高い子なんで」
「でしょうねぇ。そうでなければ可笑しいです。他のお客様のお連れ様だと盛大に床を汚されます故」

スープ類が過ぎ。メインが運ばれる前にメルケルから嬉しいお知らせが。

「来年開業予定の国営図書館の近くに。その開業に合わせこちらでは扱わないお肉をご提供する、価格帯を下げた焼肉店を開く予定です」
「お、いいねえ」
「いいわね」

「そこでご相談なのですが。お二人とお連れ様の特別室を設けるか設けまいかオーナーが悩んで居りまして…」
「それは却下で。もう止めようよそう言うの。折角価格帯を下げたなら庶民の皆様呼んで回転率上げないと」
「収益も直ぐに下がって。私たちも嫌な目で見られてしまいます。止めて下さい。ここだけで充分です」

「畏まりました。明日にでもオーナーに伝えます」
「前から気になってたけど。オーナーさんって誰なの?」「私も知りたい」

「それは秘密です。ヒントは…フィーネ様が最近良くお話されている御婦人。と言えばお解りになるかと。私から告げたとは本人にはご内密に」
「「あ…」」
マリーシャだったのか。彼女もまた遣り手だ。

「聞かなかった事にするよ」
「明日うっかり聞いちゃいそう」
「お止め下さい。私の首が飛びます。新店の店長候補なので今クビになるのはちょっと…」
「御免なさい。自重します」

「宜しくお願い申し上げます。ではメインを直ぐに」

運ばれて来たステーキに舌鼓。薬味はフライドガーリックと黒粒胡椒。

隣卓でレイルが。
「ラメルならどう焼くのじゃ」
「僕なら…レアですね。お肉の熟成度と脂の品質が最良ですし。レイル様のお好みですから」
「ほうかほうか。次はレアにするかの」
「狡ーい。ラメルばっかり」
「姉さん。日頃からレイル様と居られるんだから少し位我慢してよ」
「もぅ…」

それが聞こえてみんなレアを追加してしまった。

大満足でデザートタイム。今夜もメロン入りのさっぱりシャーベット。毎度口直しに良い。

お口がさっぱりした所で窓からの夜景を静かに楽しむ。

何気無くレイルが呟く。
「ここはええのぉ。地脈が交わり天が交差する場所じゃ。実際の距離では測れぬ。共感覚、とでも言うか。胸の奥に迫る物を感じる」
「空と大地の脈か…。その観点では見てなかったな」

「良い場所。良い時の流れ。恵まれた地は早々無い。東の古城から見上げる空は常に殺風景じゃった。
誰も居ぬ。誰も来ず。誰も留まらない。比べれば、それこそ天地の差じゃて」
「今は幸せですか?」
隣のメリリーがそう尋ねた。

「幸せがどう言う物かは今一解らぬが。今はメリーとラメルが居るしの。良い遊び相手も居るし。楽しいの」
遊び相手は…俺たちか!

「帰ろっか。それぞれの我が家へ」
「そうね。また来ましょ、皆で」


席会計でお土産を受け取る時にこっそりメルケルにインタビュー。
「メルケルって彼女居る?」
「…居りませんね。仕事が忙しく長続きしなくて。仕事と自分の何方が大切なのかを問われてウンザリです」
溜息を漏らすメルケル。

超意外!優良物件見付けたぜ。

「色々な仕事に理解の有る苦労人の20代前半女性を紹介すると言ったら?」
「…ご冗談では」
「ないよ。本気で」

一旦胸を押さえて。
「是非。私などで宜しければ」と大きく頷いた。
「次のお休みは何時?」
「五日後に二日休みです。昼夜を交代しますので」
丁度良い。
「じゃあ6日後の夜空けといて。相手の予定聞いて前日の夕方に連絡させるから」
「はい。承りました」

「やったぜ」
「やったね。ホントに縁結びの神様になっちゃいそう」
それは困ります。


自宅に戻ってからレイルとラメルのお別れ。

辛そうな目を浮べるラメル君を見てレイルの方からキスをした。
「今宵の気分じゃ。また来週会えるではないか。その様な目をするでない」
「…はい。頑張ります」

レイルと背を向けるメリリーをフィーネが送り届け。俺はラメルを宿舎まで送った。

「辛いよな」
「辛いですね。姉さんが羨ましいです」
「数年後にはマッサラと王都を短時間で繋ぐ専用車を設ける予定だ。それまでの辛抱だぞ」
「待ち遠しいです。その前にマッサラでお店を開いてしまいそうですが」
「おー。今度は俺たちが通う番だな」
「お待ちして居ります」
と笑って宿舎に入って行った。

強い子だ。俺なら気が狂いそうだぜ。


色々な出会いと別れが交差する王都の夜更け。
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